東京都には、都市型軽費老人ホームという老人福祉施設があります。独居老人の生活をサポートする目的で始まったこの老人ホームでは介護サービスを行なっていません。いったいどんな施設なのでしょうか?

2016年7月に都市型軽費老人ホームへ転職し、現在東京都大田区にある『ケアハウス大森東』でホーム長を務める鈴木大介さんにお話を聞きました。


 

ひとり暮らしをする高齢者の自立を支えるための老人ホーム

 『ケアハウス大森東』のホーム長である鈴木大介さん

【『ケアハウス大森東』ホーム長の鈴木大介さん】


――昨年の7月から『ケアハウス大森東』で働き始めたそうですね。きっかけを教えて下さい。

義理の父が亡くなったのをきっかけに義理の母がひとりで暮らすことになったのですが、家族のいない生活に不安があるというので老人ホームを探していました。そのときはじめて都市型軽費老人ホームの存在を知り、興味を持ったのがきっかけです。



――それまでも介護士として働いていたのですよね。

老人保健施設等で10年ほど勤務していました。ただ、入居者の移乗介護(ベッドから車いすなどへ移す動作)などで腰を痛め、今までと同じように働くのが難しくなってしまいました。そこで、都市型軽費老人ホームのような介護がない福祉施設であれば、経験を生かしながら働けると考え転職しました。



――以前の施設と比べてなにが大きく違いますか?

一番大きな違いは、やはり直接的な介護を行なわないことですね。介護施設ではご入居者の介助は当たり前ですが、ここは自立支援が目的の施設なので余計な手を出さないことが大切です。



――慣れない頃は戸惑われたりすることも…?

はじめの頃は入浴にしても、つい手伝ってしまいがちでした。今はおひとりで入浴きるのであれば、時間をかけてもご自身でやってもらうように促しています。「ゆっくりでいいですよ」と声をかけながらじっくり待つようにしていますね。



介護の世界に来て、コミュニケーションは言葉だけではないと気づいた 


落ち着いた物腰の鈴木さん。ご入居者のささいな変化を見逃さない感度の高さを感じました
【落ち着いた物腰の鈴木さん。ご入居者のささいな変化を見逃さない感度の高さを感じました】


――鈴木さんはなぜ介護の仕事に興味を持ったのでしょうか。

飲食店で働いていた時に、介護の仕事をしていた知り合いから「仕事が楽しい」と聞いて興味が湧きました。その方が「おばあちゃんって、結構かわいいよ」と楽しそうに話すので、「かわいいってどういうことだろう?」と思いました。失礼かもしれないのですが、実際に介護士として仕事を始めてみて、たしかにかわいいなと感じるところがありました。



――もともと人と接する仕事が好きだったのですか?

飲食店時代、自分ではサービス業にそれほど向いていないと思っていました。実はそんなに人と話すことが得意じゃないからです。ただ、介護の仕事を始めてしばらく経ってから、話す量がコミュニケーションの質を決めるわけではないと気がつきました。



――それはどういう意味なのでしょうか。

目と目を合わせる、にっこり笑う。距離感をはかる。そう言った言葉以外のコミュニケーションが、特に日常ではとても重要なのですよね。多くの入居者と接するなかで、話さなくても伝わることがたくさんあるのだな、と学びました。日々、その人自身を感じる大切さを実感しています。

 

いつまでも、健やかで自由に生活してもらうために


――定員20名に対して、スタッフの体制を教えてください。

日中は2、3名で運営しています。夜間の見回りに1名の体制です。主に掃除や食事のお世話が業務の中心になるため、スタッフは介護士の経験がない者も働いています。ただ基礎知識は必要なので、月に1回の事業所内研修で補ってもらっています。本社でも企画する研修でも合わせて学んでいただいています。



――ホーム長としてスタッフにどんな指導をしていますか?

直接的な介護がないぶん、ご入居者と接する機会が少ないです。逆に言えば、ひとりの方と向き合える時間は多いということでもあります。私たちは、日常の何気ないやりとりを通じてご入居者の変化を見守るのが仕事なので、こちらから積極的に関わってささいな違いに気がつけるようにしてくださいと伝えていますね。



――どんな老人ホームでも、完璧な施設はないと思います。ホーム長としてあえて課題に感じていることはありますか?

『ケアハウス大森東』は、一般的な介護施設と違ってご入居者がそれぞれの生活リズムを持って暮らしています。どれだけその日常生活を健康的に長く送っていけるか。この課題はご本人だけではなく、私たちにとっての課題でもあると捉えています。

 ご入居者と一緒に初詣に行ったときの様子(右から二人目が鈴木さん)

【ご入居者と一緒に初詣に行ったときの様子(右から二人目が鈴木さん)】



――課題解決に向けて何か取り組んでいますか?

介護予防への取り組みを強化しています。現在、週2回のレクリエーションを企画し、体力の低下予防には体操など身体を動かすもの、認知症の予防には脳トレなど頭を使うものを取り入れているところです。将来的には、スタッフを介さず、ご入居者が自主的に取り組めるようになれば理想ですね。 



ケアハウス大森東:ホーム長インタビューを終えて


老人ホームというと、一度入居したが最後、介護される身となって生活をガラッと変えなくてはいけないと思っている方がたくさんいるのではないでしょうか。しかし『ケアハウス大森東』のような都市型軽費老人ホームでは、できるだけ自宅での生活を変えずに過ごせる環境づくりを大事にし、同時に自立支援に取り組んでいるのだと知りました。

今回取材して感じたのは、高齢者の生活サポートの選択肢は、価格も自由度ももっと多様にあればいいなということでした。特にこのような自立支援の取り組みは、これからもっと増えてほしいと思います。