- 質問
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母が老人ホームへ入居することになりました。先日、「老人ホームでも入居者同士の恋愛がある」と聞きました。これまで考えたこともなかったのですが、実際はどうなんでしょうか。
父に先立たれた母は一人暮らしが長かったので、きっと寂しい想いをしてきたと思います。ただ、もしも母に好きな人ができて恋愛関係に発展するとしたら、私としては複雑な気持ちです。家族はどんな気持ちで接すればいいのか教えてください。
- 回答
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老人ホームでも入居者同士の恋愛はあります。周囲に微笑ましく見守られているカップルもいれば、なかにはトラブルが起こることもあります。
ここでは、高齢者の恋愛について、恋愛がもたらす心身の活力・トラブルの事例、家族や周囲の注意点を解説します。ぜひ、老人ホームに入る際の家族の心構えのひとつとして参考にしてください。
高齢期も恋愛感情が芽生えるのは自然なこと
人は最期まで人であって、喜び、悲しみ、怒りなどの人としての感情は生涯持ち合わせているものです。それは恋愛感情においても例外ではありません。
老人ホームに入居されている方は、配偶者の方に先立たれていることも少なくなく、ご家族とも離れているので、「寂しさ」を抱えている人も多いです。そんな中で、趣味や話が合う方同士で「一緒にいたい」という感情が芽生えるのは、自然なことと言えるでしょう。
恋愛感情がもたらす元気になるチカラ
誰かを想うことは、脳の活性化を促し、気持ちが若返り、意欲向上につながります。そのため、恋愛感情がQOL(生活の質)の向上をもたらす力があると言えるでしょう。
これまで、多くの老人ホームに訪問してきましたが、その際にスタッフから入居者同士の恋愛についてお話を聞く機会もありました。その一例をご紹介します。
●「一緒に山を歩く!」新たな目標でリハビリに励むようになったAさん
脳梗塞で半身麻痺が残ってしまったAさん(男性)は、身体が思うように動かないことにイライラが募り、リハビリを拒否するようになっていました。
新しく入居してきたBさん(女性)も、脳梗塞で右足に麻痺がありましたが、とても前向きで明るい女性。食事の席が向い合せになり、いろんな話をする中で、2人とも山登りの趣味を持っていたことがわかりました。
同じ山を登頂した共通の経験もあり、「いつかもう一度山を歩きたい。一緒に行けたらいいですね。」と話す仲に。AさんはBさんと励まし合いながら、一緒に山登りをすることを目標に、リハビリを積極的に行うようになりました。
●塞ぎこんでいたCさんに、Dさんの熱意で笑顔が戻った!
施設で仲良くしていたお友達が亡くなられ、とてもショックを受け塞ぎこんでいたCさん(女性)。スタッフが声をかけても、レクリエーションにも参加せず、お部屋に引きこもるようになっていました。
前からCさんに好意を寄せていたDさん(男性)は心配をして、食事の時などにCさんのそばに行っては積極的に話しかけました。最初は心を閉ざしていたCさんですが、徐々にほぐれた表情が見られるように。
その様子を見ていたスタッフが、同じテーブルで食事できるように配慮し、今では一緒に施設の周りを散歩するまでになりました。Cさんは笑顔を取り戻し、レクリエーションにもDさんと一緒に参加しています。
●一目ぼれで、認知症の症状がなくなったEさん
認知症が少しずつ進んできたEさん(女性)は、何もかも面倒がるようになっていましたが、Fさん(男性)が入居した頃から変化が。あんなに嫌がっていた入浴をするようになり、着替えもお気に入りの洋服を指示するようになりました。
Eさんは、どうやらFさんに一目ぼれをし、身だしなみを気にするようになったのです。Fさんと話をしているときのEさんの表情は本当に嬉しそうで、話す内容や行動もしっかりし、認知症の症状がほとんど出なくなりました。
高齢者の恋愛トラブル
恋愛感情はプラスとして働く部分も多いのですが、一方でトラブルに発展することもあります。特に一方的な恋愛感情により、想いが通じなかった時に起こることが多く、これは高齢者においても同様です。
高齢者の場合は、下記の事例のように、その時に受ける心身のストレスで意欲やADL(日常生活動作)低下を招くことがあります。
●三角関係でケンカが絶えず離れ離れに。悲しさから意欲低下に。
Gさん(女性)とHさん(女性)は同じIさん(男性)を想うライバル同士。食事やレクリエーションの時に、どちらがIさんの隣に座るかでいつもケンカになっていました。だんだんエスカレートし、お互いに暴言を吐くように。
見かねた施設側が3人を別々のフロアにする部屋替えを家族に提案し、実行されました。顔を合わすこともケンカをすることもなくなりましたが、GさんもHさんもIさんと離れてしまったことであらゆる意欲が低下し、認知症になるのではないかと心配されています。
●想う気持ちが強まり、部屋に侵入という行為に発展
Jさん(女性)は優しくてよく気がつく、みんなの人気者。そんなJさんを想うKさん(男性)の気持ちは日に日に強くなっていきました。
ある日、Jさんがお昼寝している時に、Kさんは2人で話をしたくてJさんの部屋に入り込みました。びっくりしたJさんは悲鳴をあげて、スタッフが駆けつけました。
それ以来、JさんはKさんをひどく怖がり、施設を出たいと言い出し、Kさんは深く傷つき、塞ぎこんでしまいました。
高齢者の恋愛、家族が注意すべきこと
高齢者の恋愛については、入籍・相続などお互いの家族間での影響が出ない限りは、本人たちの人生の最後の彩となるように、周囲は見守りたいものです。
トラブルに発展しないように、家族ができること・注意すべきことがあります。確認しておきましょう。
・まずは、温かく受け入れる
特に親の恋愛については拒否感を覚えることもあると思いますが、そのおかげで本人は楽しい入居生活を送れるということを認識し、まずは温かく受け入れましょう。
・ 注意深く見守る
上で示したように、恋愛感情は時にトラブルに発展します。特に思い込みが強い、独りよがりなところがある方は、行き過ぎた行為に及ばないように注意深く見守る必要があります。施設に訪問するたびに、本人から話を聞いてみましょう。
・施設に報告・相談する
気になることがあれば、すぐに施設側に報告・相談しましょう。普段の生活でも気にかけてもらえるように依頼しておくことが大切です。
・相手の家族と連絡を取り合う
公認の仲になるようであれば、お相手のご家族とも話をしておくと良いでしょう。何か起こった時に協力しあえる関係を作っておくと安心です。施設側に間に入ってもらって、顔合わせをする機会を作ってもらいましょう。
まとめ
恋愛はウキウキわくわくする感情が芽生え、心身に活力が生まれます。逆に、想いが届かなかった時は心身の活力が失われます。高齢者の場合はストレス耐性も弱くなるので、その分ダメージも大きいです。
その時には、ご家族は責めることなく、気持ちに寄り添って支えたいものですね。そのためにも、「恋愛感情は年齢に関係ない」ということを改めて認識しておきましょう。
>関連リンク:老人ホームの人間関係トラブルはよくあるの?対処法は?