老人ホーム探しの体験談―岡崎さんが、見学の時に必ず聞いた5つのこと

いざという時に慌ててしまうことも多い親の老人ホーム探し。急に探さないといけないことも多く、入居してから「こんなはずではなかった」と後悔することも。

そこで今回は、父親の老人ホーム探しをした経験をもつライターの岡崎杏里さんに実体験をお聞きしました。見学で質問すべきことや入居の決め手、必ずチェックすべきポイントなどを教えていただきました。

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老人ホームを探す前の状態

53歳で若年性認知症になった父親の介護とがんを患った母親の看病をすることになったのは、私が23歳の時でした。そして、2013年に長男を出産してからは、両親の介護と息子の育児を担うトリプルケアラーになりました。

老人ホームを探し始めたきっかけ

母と協力して父の介護をしてきましたが、母が体調を崩してしまったことが老人ホームを探し始めたきっかけです。

ある日、母は父の定期健診に付き添って病院を訪れました。父の主治医が、急激に衰弱した母を見て「このまま在宅介護を続けるのは無理では?」と話し、父に老人ホームに入ってもらうことを考え始めました。

入居に反対していた母が賛成した理由とは?

母は最初、父が老人ホームへ入ることに抵抗があり、まだ自分が父の介護を在宅で続けられると考えていたようです。しかし日に日に母自身の体調が悪化し、私の説得や、ケアマネジャーさんとの話し合いの結果、入居の方向に気持ちが傾いていったようです。

母が老人ホームに抵抗を持っていたのは、寝たきりの方が多い昔ながらのイメージを持っていたからでした。また、父が若年性認知症でまだ年齢的に若いこともあって、なかなか踏み切れなかったようです。

見学で気持ちに変化が

母が入居に賛成する気持ちに変わったのは、実際に老人ホームに見学へ行き、イメージが変わったからです。9か所の特別養護老人ホームへ見学に行き、私もかなりイメージが変わりました。

入居している方が「ここはすごく良い所よ」とニコニコしながら母に話しかけてくれ、そのことがかなり印象的だったようです。

選ぶ際の条件は?

私が選ぶ際に条件にしたのは以下の5つです。

  • 費用
  • 通いやすさ
  • 面会
  • 食事
  • 生活の自由度

条件1…費用

父はまだ70代。おそらく長い年月、入居することになるでしょう。そこで、月額の利用料を抑えられる特別養護老人ホームの中から入居先を選んだ方が良いと考えました。

条件2…通いやすさについて

私の家には車がないので、公共交通機関で面会に行きやすい場所が条件でした。決めた老人ホームは私の家からバスで30分かからないくらいのところですね。

条件3…面会について

入居後に、どのように面会ができるかについても確認しました。感染症が流行する冬の時季の面会対応は、春になるまでNG、子どもは面会不可など老人ホームによって決まりが違うので、見学の時に確認することをお勧めします。私が見学をしていた時季には、インフルエンザの予防を理由に冬は3ヶ月間も面会できないところもありました。

特に、新型コロナウイルスの感染症対策によりどれほど面会が制限されるのかは、重点的に確認をしておいた方がいいと思います。

父が入居した老人ホームは、感染拡大の時季は、ビデオ通話での面会ができました。父のそばに職員がついてくれていて、顔を見ながら話すことができ、ありがたかったです。

感染者数が減ってくると月に1回、15~30分の時間制限つきの面会が許されていました。対面の制限は徐々に緩和され、最初は中庭まで入り、部屋の中にいる父と窓越しで面会をすることができました。感染者数が1桁になったときは、広間の真ん中に机を置いて、1メートル以上離れて話す面会が許されました。

条件4…食事について

父は食べることが大好きなので、食事の面にはかなり注目して選びました。入居者さんが食べている様子を離れた所から見せていただく、あるいは料理の写真を見せていただきました。

食事の中身も重要ですが、食事中の雰囲気も大事ですね。父が入居した老人ホームは、10人以下の決まった入居者と固定スタッフで形成されるユニット空間ごとにキッチンがあり、そこでご飯を炊き、みそ汁も温め直して提供してくれます。

さらに、「自宅で使っている瀬戸物のご飯茶碗を持ってきてください」とお願いされました。そうすると、本当に自宅で食べているような雰囲気になります。プラスチックの器ではなく、瀬戸物のご飯茶碗を使わせてくれるのはうれしいですよね。

条件5…生活の自由度

老人ホームに入居したことで、自宅での自由な暮らしと180度変わってしまうことは避けたいなと考えていました。

父は糖尿病のため、食べ物の制限がありました。

でも、見学時に「人生の最期にあれもダメ、これもダメではすごく辛いでしょう。1日に1個だけ好きなお菓子を食べさせてあげたい」と職員が言うのです。「そんなことまで気遣ってくれるのか…」と、最終的にはその老人ホームに入居を決めました。

今は毎月、父からリクエストされたひと月分のお菓子を届けにいっており、喜んでもらっています。

見学で確認したこと

入居できるまでには時間がかかりましたが、実際に見学をして検討した期間は約1カ月間でした。そのため、1日に2か所の見学に行った日もありました。見学には必ず行った方がいいですね。コロナ禍で難しいかもしれませんが、パンフレットだけでは分からない職員の対応や雰囲気がわかります。

私が見学の際に確認した4つのポイントをご紹介します。

  • 臭い
  • 離職率
  • 看取り
  • 費用

見学のポイント1…臭いについて

見学で気になったのは臭いですね。1時間ぐらいお話を聞いている最中、ずっと汚物の臭いが充満しているような老人ホームもありました。トイレの見学させてもらったら、汚物入れの蓋が開けっ放し。今は特に衛生管理に気をつけたいので、大丈夫なのかなと心配になってしまいました。やはり、見学して五感をフル活用することが必要です。

見学のポイント2…離職率について

インターネットで調べることができる施設(※)もありますが、見学に行った際に職員の離職率を直接聞いたこともありました。そこで生活にする父にとって、ケアをしてくれる人がコロコロと変わるのは良いとは思えないからです。はっきりした数字で答えが返ってこなくても「定着していますよ」と自信ありげだったり、顔が曇ったりするので分かります。ライターという職業柄、質問魔のように遠慮なく質問をしていました。

※厚生労働省「介護事業所・生活関連情報検索 介護サービス情報公表システム」で調べることができます。

介護事業所・生活関連情報検索

見学のポイント3…看取りについて

おそらく父が自宅に戻ることは難しいので、看取りの対応についても必ず質問しました。

やはり考え方がホームによって異なる部分です。家族の意向も伺ったうえで、最期まで施設で穏やかに過ごしてもらうための手助けをしてくれる施設もあれば、最期は救急車を呼ぶ施設もあり、考え方が聞けます。

また、これまで看取った方の経験談などを伺うと、その施設の考え方がわかりやすいように思いました。

見学のポイント4…費用について

お金のことも必ず質問しましょう。資料に書かれていること以外に、何にどのくらい必要なのか、最終的にはいくらぐらい払うのかをズバッと聞きました。

入居後の生活

老人ホームの職員が父の生活の様子を丁寧に教えてくれるので、楽しく過ごせていると安心しています。例えば、共用スペースのグランドピアノの生演奏でカラオケをしたり、好きなテレビを見たり、リハビリに取り組んだり。ハロウィンやお正月など月にほぼ1度はイベントをしていて、他の入居者との交流も楽しんでいるようです。

また、自宅で使っていたものを持ち込んで、できるだけ自宅にいたような空間を個室スペースに作ることが許されています。そこで、自宅で使っていた時計や小さなタンスなどを持ち込みました。

老人ホームとのコミュニケーション

父が入居して驚いたのは、老人ホームからの連絡が意外にも多かったことです。多い時は月に3、4回電話がかかってきます。

リハビリ内容や散髪の予約など毎月のルーティーン的な確認はもちろん、「入れ歯の洗浄剤がなくなったので買ってきてほしい」「ひげ剃りが錆びたので新しいものをお願いしたい」といった日用品の欠品などそうした細かい連絡が来ることに、正直驚きました。

父の様子を教えてくれるスタッフも

職員が老人ホームの様子を紹介するお手紙を作って、毎月送ってくれます。

必ず父のアップの写真も同封されているので様子がわかります。コロナでなかなか会うことができないのでとても有難いです。

また、面会がOKなときは対応してくれる職員が、父の日々の様子を教えてくれることもあります。何か変化(「今日、転んでお尻を打ってしまいました」など)があれば、すぐに電話で報告してくれるので、とても安心です。

このホームに入居できてよかったと思った出来事

父が入居した後、母が他界しました。コロナ禍のためルール上、外出はできなかったのですが、父がどうしても葬儀に出たいと言ったところ、「覚悟を決めました。しっかりお別れをさせてあげてください」と老人ホーム側が言ってくださいました。

多くの人と接することのない家族葬であるならば「ぜひ葬儀に行ってください」と送り出してくれたのです。

その対応だけでも、この老人ホームにして良かったなと思いました。2020年の12月だったので、かなりの覚悟が必要だったと思います。職員の皆さんで話し合いをして対策を考えてくださり、おかげで、父が喪主をして家族で母を送り出すことができました。

葬儀後、しばらくは父を他の入居者さんと接することがないようにしてくださったそうです。本当にありがたかったですね。

面会で父と会うといつも穏やかな顔をしています。勝手な思い込みかもしれませんが、その顔がこの老人ホームを選んだ答えだと思っています。

老人ホームを探す人へのアドバイス

入居する人が何を一番大事にしているかがポイントだと思います。父の場合は「食べる」でした。食事は毎日のことなのでしっかりと確認しました。

入居する本人が穏やかに暮らせる条件を満たしているかどうか、関係者とよく話し合うことが大事です。たとえば、昔のことを思い出し「お父さん、お母さんはこういうところだったらきっと喜ぶだろうな」と考えて探すといいのではないでしょうか。

この記事の制作者

岡崎杏里

著者:岡崎杏里(ライター&エッセイスト)

ダブルケアラー(介護と育児など複数のケアをする人)として、介護に関する記事やエッセイの執筆などを行っている。2013年に長男を出産。ホームヘルパー2級。著書に23歳から若年性認知症の父親の介護、ガンを患った母親の看病の日々を綴った『笑う介護。』や『みんなの認知症』(共に、漫画:松本ぷりっつ、成美堂出版)などがある。

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