失語症・構音障害のリハビリと家族ができるサポート
失語症と構音障害は、脳血管疾患や脳にケガ(脳外傷)を負うことで生じる言葉の障害です。ご本人、ご家族ともコミュニケーションに大変苦労されると思いますが、適切な治療とリハビリにより症状は時間をかけて少しずつ改善していきます。
今回は、臨床現場でリハビリを行う専門職の立場から、失語症と構音障害に対する代表的なリハビリについて解説します。
失語症に対する代表的なリハビリ
まずは失語症に対するリハビリから。このリハビリの主な目的は以下の2点です。
- 1,コミュニケーション能力の回復
- 2,失語症があっても生きがいのある生活を送れるよう支援すること
適切な言葉をすらすら話すことを目指すだけではなく、たとえ不完全でも回復した言葉を使ってコミュニケーションが取れるようになることが大切です。
それでは、失語症に対する代表的なリハビリをご説明します。
言語の機能訓練
症状に応じた適切な刺激を与えて、聞く・話す・読む・書くといった言語の機能回復を促します。
まず、「スクリーニング検査」で大まかな症状を把握します。その後、「SLTA標準失語症検査」や「WAB失語症検査」という方法で詳しく調べ、この結果に基づいてまずは言語の機能訓練を行います。
訓練は、日常生活で必要性が高く、比較的簡単で、興味のある課題から行います。また、簡単な単語を聞いて理解する・話す・読む・書く→短い文→談話と段階的に進めていきます。
一般的に、文字よりもイラストの方が、ひらがなよりも漢字(漢字は意味を表わす文字)の方が理解しやすいという性質があるため、これも考慮していきます。
実用コミュニケーション訓練
これは失語症の症状そのものではなく、日常的なコミュニケーションに直接働きかける訓練です。主に失語症が中等度~重度と診断され、言語によるコミュニケーションが難しい場合に並行して行います。
日常生活でよくある場面を想定して、言語に加えて絵カードやジェスチャー、カレンダーの指さし、絵を描くことなどを練習することで、残された機能を生かして実用的なコミュニケーションができるようにしていきます。
このほか、レストランで注文したい料理の見本が陳列台に並んでいる場合はこれを写真に撮って見せることで注文したり、スマホでのメールのやり取りに絵文字を添えて理解しやすくしたりといった方法も有効な場合があります。
環境調整
家族や周囲の方々に症状とコミュニケーションの取り方を説明し、ご本人が過ごしやすい環境を整えます。
例えば、「1対1での、静かな環境」を作る(複数名が話すざわついた環境は理解が難しい)、「どういう方法だと理解する力、伝える力を発揮しやすいか」を知ってもらう、などがあります。
失語症が残っていても家庭や地域、職場に戻り、再び役割を担えるように、さまざまな調整やサポートを行います。
失語症・構音障害の原因と症状、コミュニケーションのポイント構音障害に対する代表的なリハビリ
ここからは構音障害のリハビリについて解説します。
発声発語訓練
標準ディサースリア検査※などの結果に基づいて、口の体操や発声・発語の練習を行います。
- ※構音障害の症状を詳しく調べるために構音、発話明瞭度などを確認するための検査。
構音障害に対する発声発語訓練
- 体幹機能の訓練:姿勢を安定させる
- ブローイング訓練:巻き笛やコップに差し入れたストローを吹く運動を通じて、呼気を強くする(息を吐く力を強くする)
- プッシング法:声帯の機能(開け閉めの力)の強化により、かすれ声の改善を図る
- 口腔運動機能訓練:構音の基礎となる口や舌の機能の強化を図る
- 構音練習:実際の構音を通じて構音の練習を行う。「単音→単語→短い文→談話」と段階的に進める
発話以外のコミュニケーションの練習
手話、書字、文字盤、コミュニケーションボード、コミュニケーション支援システムなど、症状に合わせたコミュニケーションの練習を行います。現在では、文字を音声化できるスマホアプリなどもあり、活用できる場合があります。
発病からの経過に応じた各リハビリの流れ
急性期
リハビリはできるだけ早い段階で始めることが望ましいとされています。しかし、急性期は全身状態が安定しない時期であり、その状態に合わせて慎重に進める必要があります。
この時期は、突然の言語障害に混乱している状態です。「自分はまともなことを話しているのに、なぜか周囲は分かってくれないのか」というように、病状を正しくとらえられていないことが多く見受けられます。
医師とリハビリ専門職からのアドバイスを通じて、ご家族が症状を理解すること、そして可能なコミュニケーション手段を一緒に考えていくことが大切です。
回復期
全身状態が安定し、座っていられる時間も長くなり、着実な回復が望める時期です。言語の機能訓練、実用コミュニケーション訓練、家庭・職場復帰に向けた環境調整などを集中的に行います。
生活期(生活適応期)
生活に即したコミュニケーション能力や活動・社会参加の拡大を図る時期です。
これまでの訓練で得られた機能が日常生活のコミュニケーションに活かされるよう、実用コミュニケーション訓練、周囲の人々への指導などを中心に行います。また、趣味活動を支援し、家庭や地域での役割を高め、社会参加の機会を増やせるように環境調整を行います。
失語症は長期間をかけて少しずつ改善する障害であり、年単位で継続されることが望ましいといわれています。あきらめずにリハビリを継続できることが大切になります。
ご家族ができるサポート―話を聞くときの3つのポイント
ご家族や周囲の方々には、「何とか言葉を取り戻せないものか」という想いがあるでしょう。しかし、身近な方々が訓練を行うことでかえってご本人を傷つけてしまうこともあります。そして、家族といるときまで言葉の訓練では、心が休まるときがありません。
訓練はリハビリ専門職に任せてください。そして、ご家族や周囲の方々には対処法を知ることで、コミュニケーションと日々の生活、リハビリを支えてあげていただきたいと思います。
最後に、ご家族ができるサポートとして、話を聞くときの3つのポイントをお伝えします。
- 1.言葉が出てくるまで、ゆっくり待つ
- 2.分かったふりはしない
- 3.言葉以外のジェスチャー、視線、表情、口調、声のトーンなどを大切にする
人生をともに過ごしてこられたご家族は、伝えたい言葉を少しずつ読み取れるようになってくるものです。これは、リハビリ専門職でもかなわないほど。実際に、そういうご家族をたくさんみてきました。
人はコミュニケーションをとるとき、受け取る情報の多くをジェスチャー、視線など“言葉以外の方法”から得ています。適切な言葉をすらすら話すことだけを目指すのではなく、たとえ不完全でも回復した言葉を使ってコミュニケーションが取れるようになることを目指して欲しいと思います。
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今回は失語症、構音障害に対する代表的なリハビリをご説明しました。失語症、構音障害は症状が多様で難解です。この記事を参考にしていただきながら、より詳しいことをお知りになりたいときは身近なリハビリ専門職に確認してみてください。
失語症・構音障害のリハビリが相談できる全国の介護施設イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:安藤 岳彦(介護老人保健施設ひまわりの里 リハビリテーション部長)
認定理学療法士(地域理学療法、健康増進・参加)、中級障がい者スポーツ指導員
1999年秋田大学医学部付属医療技術短期大学部理学療法学科を卒業。
医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院に勤務。介護老人保健施設ライフプラザ鶴巻、医療法人篠原湘南クリニッククローバーホスピタル、医療法人社団佑樹会・介護老人保健施設めぐみの里の開設を経て、現職。療養・生活に寄り添うリハビリ専門職として、日々の業務に従事しています。