嫌がる親を施設に入れるには?そもそも本人の同意は必要?親の本音から見る説得方法

「親の介護をプロに頼りたくても、肝心の親御さんご本人が施設への入居を拒否し、結果的に在宅で介護せざるを得ない」というのは、介護業界でよく聞かれるケースです。在宅介護が長期化するとご家族の心身にも大きな負担がかかるため、どう親を説得していくか、お悩みの方は少なくありません。ご家族、そして親御さんご本人にとってよりよい生活環境を作るために、介護施設への入居を嫌がる方への説得方法や、考え方のポイントを具体的に解説します。

そもそも老人ホームの入居に親の同意は必要?

親御さんを老人ホームに入居させる際、ご本人の同意が必要かどうかは、判断能力の有無によって考え方が変わります。仮に認知症などでご自身による判断が難しい場合、生命の危険が及ぶ恐れがあります。そうした場合は例外的にご家族が代わりに施設を探し、入居契約を行うことも不可能ではありません。

一方、判断能力が十分に残っている場合は、原則としてご本人の同意を得ることが求められます。憲法により「自分の生活について自分で決める権利(自己決定権)」がすべての人に対して保障されており、同意のない施設入居は「自己決定権の侵害」にあたる恐れがあるためです。加えて、ご本人の意思に反して施設入居を強行すると、精神的な負担から健康状態が悪化するなどのリスクが生じることも考えられます。

ただ現実問題として、「無理やり入居させられて訴訟に発展した」のような話はあまり見聞きしないのが実際のところです。これは、高齢者本人がさまざまな事情を考慮した結果、最終的には施設入居を了承することになるケースが非常に多いことを意味します。

大切なのはご本人の気持ちを尊重し、納得いくまで丁寧に説明することです。介護が必要になるよりも早い段階でご家族みなさんで話し合い、ご本人の尊厳を大切にしましょう。安心して老後を送れるようにサポートする姿勢を根気強く見せることが重要です。

施設入居を嫌がる親の説得方法

・親の言い分や不安を聞き解消する
・親と一緒に施設を探す
・ショートステイを利用し生活をイメージしてもらう
・専門家に説得してもらう

施設への入居は、親御さんにとっても大きな決断です。ご本人の気持ちを尊重しながら無理のない介護を行っていくために、次のような方法で少しずつ不安や抵抗感を払拭できるよう試みましょう。

親の言い分や不安を聞き解消する

はじめに、実際に施設入居のどのような点がネックになり同意しかねるのか、ご本人の具体的な意思をじっくり聞き出しましょう。理由が明確にわかれば、それに対して不安や抵抗感を払拭するような行動へとつなげられます。

「新しい環境に慣れるか不安?」「今の家で趣味を続けたい?」など、漠然とした不安の中からご本人も気付いていない懸念点を洗い出せるよう、具体例を挙げながら問いかけるのも有効です。例えば、施設入居前の準備として在宅サービスを利用し、実際に介護のプロから支援を受けてみるのもよいでしょう。

まずはひとつひとつの不安へ丁寧に寄り添い、共感の姿勢を示すよう心掛けてください。,

意識すべきポイント

・相手を尊重する態度で、無理強いするつもりはないことを示す

・どんな生活を送りたいのか、理想についても具体的に聞き出す

親と一緒に施設を探す

ご家族だけの都合で入居先を決めてしまわずに、ご本人と一緒に施設探しから行うと不安の解消につながります。実際に施設見学へ行ったり体験入居を利用したりするのはもちろん、最初はパンフレットを眺めてもらうだけでも構いません。施設の雰囲気などが分かり具体的なイメージがわかれば、入居後の生活に希望が持てるケースも多いためです。

ご家族が一緒に情報をチェックすることで、入居に際して気になる点や、重視したい条件などがより明確になり、前向きに施設を探すきっかけが生まれる可能性もあります。

意識すべきポイント

・複数の施設候補を提示し、親御さん自身に選択肢を与える

・ご本人の意見を随時聞き取り、できる限り尊重する

ショートステイを利用し生活をイメージしてもらう

施設によっては、短期的に施設へ入居し介護などのサービスが受けられる「ショートステイ」を実施していることがあります。介護認定期間の半数、連続して30日までの利用が可能なので、入居後の生活をよりリアルにイメージするため段階的に活用してみるのもよいでしょう。スタッフとの関係を築き、施設の雰囲気に慣れることで、入居への不安をより小さくできるはずです。

意識すべきポイント

・家族も一緒に参加し、親御さんをサポートする

・「気に入らなかったら入居しなくてもいい」旨を伝える

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専門家に説得してもらう

ケアマネージャーやかかりつけの主治医など、信頼できる専門家から親御さんへ話をしてみてもらうのも一手です。家族以外の人から客観的な意見を聞くことにより、意外とあっさり納得してもらえるケースは少なくありません。また、入居先の候補にしている施設スタッフへ本人が乗り気でないことを伝え、アドバイスを求めるのもよいでしょう。プロの視点から説得のアイデアを得られるのはもちろん、親身に対応してくれるかどうかが施設選びの参考になるメリットもあります。

意識すべきポイント

・親御さんが信頼している専門家へ、事前に協力を仰ぐ

・健康状態や実際の生活で生じている問題など、客観的な事実に基づいて話し合う

嫌がる親の在宅介護を続けるリスク

施設入居に親御さんの同意が得られないとき、なかなか強行もできず、結果として自宅での介護を続けることになるケースは珍しくありません。しかし高齢者介護の現場では、ある日突然認知症や身体の状態が悪化するリスクもあります。今は問題ないように思えても、介護が長期化するにつれて、共倒れの危険性は高まってしまうでしょう。

また、心身の状態が悪くなると、新しい環境に馴染むのがより難しくなるという懸念もあります。元気なうちに一緒に施設選びをし、引っ越しなども済ませておくことが、親御さん本人のよりよい生活につながる行動だと考えてみてください。

施設入居に対する親の本音。後ろ向きながら今後には不安も?

LIFULL 介護が60歳以上の高齢者を対象に行った調査によると、住居の住み替えに積極的な方は全体のわずか2割以下で、半数以上の方が「新しい住居には住み替えたくない」と回答しています。また、住み替えの必要性は認識しつつ、具体的なプランは「病気や要介護状態になってから検討したい」と考えている方も多く、元気なうちから住み替えを検討する方はまだまだ少数派であると言えそうです。

半数以上が抱える、これからの生活への不安

一方で、「現在の住まいに住み続けるうえでの不安はあるか」という問いには、全体の約52%が「階段を上るのが面倒」「管理や清掃が行き届かない」などの不安を回答しています。多くの高齢者は慣れ親しんだ我が家で暮らし続けたいと考えていますが、現実問題として、「このまま暮らしていくには無理があるかもしれない」という懸念も同時に抱えているようです。

暮らし全体に対する不安も多大にあり

また、「現在の暮らしを続けるうえでの不安」という設問を見ると、高齢者は暮らし全体についてもさまざまな不安を抱えていることがわかります。特に、車の運転や食事作りを含む家事などが日常生活における負担になっていき、今の住まいで暮らし続けることへの課題になっているようです。施設への入居を嫌がる親御さんには、「車がなくても通院や買い物をサポートしてもらえる」「食事の提供をはじめ、生活全般の支援が受けられる」など、生活上の不安を解消できる具体的なメリットを伝えてみるのが有効かもしれません。

出典:LIFULL 介護「60歳以上の住み替え検討調査」

まとめ

高齢者の多くは、たとえ将来に不安を感じていても、慣れ親しんだ環境で現状を維持したい気持ちのほうが強い傾向にあります。そのため、ご家族が施設入居を勧めても反射的にNOと返事してしまうケースが珍しくありません。しかし同時に、心身の機能が低下するご自身についても理解しており、現在の暮らしに不安があるのも事実です。

親御さんの施設入居はご家族にとっても大きな決断です。より安全かつ快適な老後を送ってもらうためにも、ご本人の気持ちを尊重しつつ、施設入居の必要性やメリットをじっくり丁寧に伝えましょう。施設入所を検討するよりも早い段階から、日常的なことも含めて対話を重ねるのが望ましいです。

LIFULL 介護では、親御さんやご家族の希望に沿った、理想の住まい探しをお手伝いします。無料相談ではプロの視点から親御さんと話をさせていただくことも可能ですので、ぜひお気軽にご活用ください。

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この記事の制作者

山本 武尊

監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)

地域包括支援センター センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。

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