みなさんは、「都市型軽費老人ホーム」をご存知ですか?都市型軽費老人ホームとは、主に家庭環境や経済的な理由により生活が困難な高齢者を対象とした高齢者向け施設です。
そのため、一般的な有料老人ホームとは違い、「収入や資産の少ない方」や「まだ介護は必要がないが独居生活が不安」といった高齢者が優先入居できるシステムとなっています。提供するサービスは食事、掃除、洗濯などの生活の援助や介護職員による見守りが中心です。介護サービスを提供する施設もありますが、一般的には在宅サービスを利用する必要があります。
今回取材した『ケアハウス大森東』は、東京都大田区で株式会社ソラストが運営する都市型軽費老人ホームです。入居者の水橋孝一さんに入居のきっかけを伺いました。
自分の死後、家族にかける迷惑を最小限にとどめたい
――『ケアハウス大森東』に住む前は、ひとり暮らしをされていたそうですね。
はい、ここに来る前の3年間はずっとマンションにひとりで生活していました。その前は娘と一緒に暮らしていたのですが、自分から家を出たんですよ。一人で生活するほうが気楽だから(笑)その後も、娘や妹から「一緒に住まないか」と言われるたびに、ずっと断り続けていました。
――その頃はどんな生活を送っていましたか?
家事は全部自分でやっていました。料理も掃除も洗濯もすべてです。特に料理が大好きで調理師の免許も持っています。でも作るのはいいけど、後片付けがめんどくさかったですね(笑)
――そんな水橋さんが『ケアハウス大森東』への入居を決めたきっかけはなんだったのでしょうか。
家族へ迷惑をかけないためです。ひとり暮らしは今も好きです。好きな時にパッと遊びに行ける自由があるのはいいものですよ。でもあるときから、夜になるといつも自分が倒れた時のことを想像しては不安を感じるようになりました。
――どんなことを想像していましたか?
もし誰もいないときに死んでしまったら、家族に与えるショックが大きくなるのでは、と想像していました。近所に暮らしていたので、家族はよく様子を見にきてくれましたが、忙しいと一ヶ月ほど会わないこともありました。その間に亡くなって発見が遅れたら後が大変だなと思うと心配でしたね。
――死後にご家族へ負担がかかるのが嫌だったのですね。
家族にまったく迷惑をかけずに死ぬということは不可能です。でも、最小限の迷惑に抑えることはできるとは思っています。好きで始めたひとり暮らしですが、そのせいで家族に大きな迷惑をかけるのは嫌でした。一度考え出したら心配で眠れない日が続くようになり、体調もだんだん悪くなってしまいました。
――それは大変でしたね。
そこである日娘に「どこか老人ホームを探してくれ」とお願いしたんです。誰かがそばで見守ってくれる生活なら、突然亡くなってもすぐに発見してもらえるじゃないですか。「あれ、おかしいね。いつも早起きの水橋さんが、今日は部屋から出てこないよ」って。
――毎日顔を合わせる人がいると安心ですよね。
万が一のことがあっても、すに家族へも連絡がついて、その後の段取りもすぐにできます。それは自分にとってこのままひとり暮らしを続けるよりも大きなメリットだなと思いました。
自由で不安なひとり暮らしから、自由で安心な『ケアハウス大森東』へ
【外出から戻ってきた水橋さん。食堂でくつろいでいた他の入居者と記念撮影】
――ご家族の反応はどうでした?
家族は最終的に決めるのはお父さんだからって言ってくれました。すぐにインターネットで候補を何件か探してくれたのですが、どの老人ホームも満室で入居を待っている人がとても多かったです。
――何が決め手でケアハウス大森を選んだのでしょうか。
ここが新築だったのと、入居の待機人数が少なかったのが理由です。それでも12〜13人ほど応募があったと聞いています。電話をしたらすぐに面談に来てくださいと言われ、ここの施設長と会いました。その後、入居審査が通り晴れて入居が決まりました。私は持病はあるけど生活には支障がないし、他の応募者と比較して元気なほうだったみたいですね。
――たくさんの人と暮らすのは大変ではなかったですか?
最初の一週間くらいは戸惑うこともありました。でも、人間誰でも適応能力を持っているものですよ(笑)いろいろな方がいますから、相性はあるとは思います。ただ、私は分け隔てなくお付き合いをしていこうという姿勢で生活しています。でも意外と、ほかの入居者の方と会う機会が少ないんですよ。
【昼食が終わった後の食堂の様子。テレビを視聴している入居者】
――そうなんですか?意外です。
食事の時間以外に顔を会わせることが少ないですね。同じフロアに住んでいる方とは挨拶したり話をしたりしますが、他の階の方とはなかなか打ち解ける機会はないものですよ。
――ふだんはどんな生活をしていますか?
生活のリズムはだいたい決まっています。8時に朝食を食べたあと洗濯をして、洗濯物を乾燥機にかけている2時間ほどの間に、病院に行くなどの用事を済ませます。昼食を終えたらカラオケに行ったり、映画を観に行ったりと3時頃までぶらぶら遊んで、その後風呂に入って6時に夕食。その後は少しテレビを見て、9時には眠るという生活です。
【4階に設置された乾燥機付き洗濯機。水橋さんは毎朝8時30分に洗濯を始めます】
――自由に外出ができるのですね。
そうですね。ここに来たら将来への心配がなくなって、生活の自由はなくならなかったです(笑)。食事の支度、居室の掃除、お風呂の準備もやってもらえますしね。心配ごとがなくなったのでよく眠れるようにもなりました。安心感が生まれたのは大きな変化です。
――カラオケは入居者の方と行くのですか?
ひとりで行きます。自分にとっては単独行動が一番性に合っているんですよ。誰かと一緒だと何をするにも時間がかかるし、気を使わなくていいですからね(笑)。それは若い頃からずっと変わらない性分です。
ケアハウス大森東:入居者インタビューを終えて
老後の不安は誰しも持っているものだと思います。自分がいつ倒れるか、それは誰にもわかりません。今は日常生活を送るのに支障がなくても、健康に不安を感じながらひとりで暮らしている高齢者は沢山いるのではないでしょうか。
今回紹介した都市型経費老人ホームは、そんな方にぜひ知ってほしい施設です。『ケアハウス大森東』は大田区民が入居対象なので、都内の方はご自身の住む自治体のウェブサイトから地域のホームを探してみるといいかもしれません。
(記事中の内容や施設に関する情報は2017年6月時点の情報です)