「舞浜倶楽部 新浦安フォーラム」では、福祉先進国スウェーデンの介護の理念や手法を取り入れています。その手法の一つである「タクティール(R)ケア(※1)」は、入居者の1/3にあたる約30人の方のケアプランに、週1回組み込まれています。

※1 タクティール(R)ケア

認知症緩和ケアの手技の一つ。手を使って10分間程度、相手の背中や手足を「押す」のではなく、優しくなでるように触れていく。「安心と信頼のホルモン」と呼ばれる「オキシトシン」が分泌され、 不安や興奮を抑え、痛みを緩和する効果があるとされている。


入居者の方はタクティール(R)ケアについてどのように感じているのでしょうか? また、日々の暮らしにどんな楽しみがあるのでしょうか? 入居者の一人、茂住藤子さん(83歳)に聞きしました。

娘が探してきてくれた理想の施設

――茂住さんは、なぜ新浦安フォーラムで暮らそうと思ったのでしょうか?

以前は別の施設にいたのですが、ここができたときに娘が探してきてくれて、移ってきました。入居したのは76歳のときなので、2017年で丸7年になります。

――新浦安フォーラムの第一印象はどうでしたか?

まず、入り口でここが気に入りました。部屋からの眺めもいいし、やっと「我が意を得た住まい!」という感じで、「やったー!」って思いました。前の施設は線路の横にあって、電車が走る「ゴー!ゴトンゴトン」という音で目が覚めるような生活でしたから……。

――ここでの暮らし心地はいかがですか?

自分一人でできることも増えているし、ケアさん(介護スタッフ)たちも私の話を聞いてくださるし、お友達もいて、今の生活は最高です。お部屋からの眺めもいいでしょう。今年は(窓の)正面の桜がたくさん咲きました。今までで一番たくさん咲いたんですよ。

――スタッフの方から、仲の良い仲間や、尊敬する方もいるとお聞きしました。

私がここへ移ってきてから、前の施設で一緒だったお友達(カズコさん)もここへ移ってきたの。前の施設では、私は何も一人でできなかったから、私が困っているとカズコさんが誰かを呼んできてくれたりして、私の面倒を一生懸命見てくれたの。

二人して「良かった、会えて良かった。また同じ所に来れたねえ」って言って、ボロボロ泣いて、抱き合って喜びました。あとは、100歳になった方もいらしたんですよ。ここで100歳のお祝いをしました。身だしなみもきちんとされた方で、ご飯を召し上がっているときでも、いつでも背筋がシャンとしていらして、すごい先輩でしたの。

周りの人も全員が「最期はああなりたい」って言っていました。だから、翌年亡くなったときは悲しかった……。私は、その人をとても尊敬していたから、亡くなったときには、生きた心地がしなかったほど。「起きて起きて!」って泣いていたら、カズコさんから「静かに送ってあげましょう」と怒られちゃいました。

――交友関係が良好なんですね。入居してから新たに始めたとはありますか?

このホームで行われているブンネ楽器(※2)の教室に誘われて、ブンネ楽器の演奏を始めました。私は左手があまり使えないから、ケアさんが一緒に座ってレバーを動かしてくれます。でも(右手で)弦を弾くのは得意なの!

あと、今は絵画教室がものすごく楽しいです。絵は元から大好きで、ここに入ってからはずっと絵画教室に出ています。この頃やっと描く物の形が思ったように描けるようになってきたので、うれしくて仕方ありません。絵画の時間は、私にとっての至福のとき。描いた絵を部屋に飾って見返しては、先生がここにこう手を入れたのには、こういう意味があったのだと考えたりもしています。

タクティールケアを受けてから、よく眠れるように

――すごく元気な様子をお受けしますが、茂住さんは入居当初、お体の状態があまり良くなかったとお聞きしました。

ベッドから車椅子に移してもらうときに、ちょっと触られるだけでも「痛い!」って叫ぶほどだったのが、今は車椅子から一人でベッドに移って寝られます。トイレにも一人で行ってできるようになりました。 ※居室内にトイレがあります。

――どうしていろいろできるようになったのでしょうか?

ケアさんが「いろいろできるよ!藤子さんならできるんだからやってみて!」って励ましてくれました。私の座右の名は「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」だから、絶対にやってやるって決めたんです。

少しずつできることが増えてきた頃に娘の結婚が決まって、結婚式には、どうしても黒留袖が着たいと思って頑張りました。入居したときは、何もできなかったけれど、結婚式には立って着物を着せていただいて、足袋や草履まで履けました。娘からは、「普通は施設に入ると、具合が段々悪くなっていっちゃうこともあるって聞くのに、ママはどんどん元気になってるね」って言われたのよ(笑)。

――タクティールケアは受けられていますか?

タクティールをしてもらうのは大好きです。やってもらっていると、気持ち良くて眠ってしまいそうになります。以前は眠れないこともあったのですが、タクティールケをしてもらうようになってから、よく眠れるようになりました。よく眠れると身体が軽くなりますね。


――最後に、今のお気持ちを聞かせてください。

自分でできることが増えて、エライでしょう! ここでの暮らしは最高です。


(川野ヒロミ+ノオト)



※2 ブンネ楽器

スウェーデンの音楽療法士、ステン・ブンネ氏により開発された音楽療法の一つ。楽器は、笛やチャイム(ハンドベル)、ベースがあり、基本的には、左手でレバーを左右に倒して3つ和音を切り替え、右手で弦をつま弾く。初めての人でも認知症の人でも弾くことができる。

(記事中の内容や施設に関する情報は2017年6月時点の情報です)