静岡県浜松市にあるさまざまな高齢者施設で、介護や管理職の経験を豊富に積んできた赤堀紀久子さんは、2017年1月より介護付有料老人ホーム アンサンブル浜松尾野のホーム長に就きました。

新たな環境でチャレンジを始めた赤堀さんに、介護の仕事を始めたきっかけや、現在取り組んでいることについてお話を聞きました。



父親に導かれ歩み始めた介護の道

父親の死をきっかけに、介護の仕事を志したという赤堀さん

【父親の死をきっかけに、介護の仕事を志したという赤堀さん】


――赤堀さんが介護の道に入ったきっかけは?

思えば、肺がんを患っていた父親を自宅で看取りたいと思ったのが一番のきっかけでしょうか。

当時、家族で喀痰の措置(のどに詰まった痰の除去)ができれば、自宅に戻れると看護師さんから聞いたので、とにかく自分でやってみようと。残念ながら、実現する前に亡くなってしまいました。



――そこからすぐに介護士になられたのですか?

いえ、介護の道に入ったのは父の死から7年ほど過ぎた頃です。その間、介護に対する想いを育てていたように思います。ある日、コンビニで偶然見かけたご高齢の男性に、父親の姿を重ねて見たときがありました。お水などの重い日用品を買い込むのを見かけ、たまらずその方の家まで運ぶのを手伝ったことがあります。



――お父様のことが大好きだったのですね。転機はいつ訪れたのでしょうか。

しばらくして、出産で入院していた娘を見舞いに病院を訪れる機会がありました。その病院にはデイサービスが併設されており、気になってちょっと覗いてみたのがこの業界に入った直接のきっかけです。はじめは、ホームヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)の資格を取りに行きながら、デイサービスを手伝うといった形で働きました。



――お話を聞いていると、ご家族が導いてくれた道のように感じますね。

そうかもしれません。その後、職場が特別養護老人ホームに移るのですが、そこではじめて喀痰を学びました。「これさえ早く学んでいれば、父親を自宅で看取れたんだ」と胸がいっぱいになって……。本格的に介護の仕事にのめり込むようになったのは、そこからですね。



 

培った経験をまるっとつぎ込み、より居心地のいいホームを目指す

 様々な介護施設で積んだ経験を生かし、ホームの改善を進めているとのこと

【様々な介護施設で積んだ経験を生かし、ホームの改善を進めているとのこと】



――ホーム長になるまでの経緯を教えてください。

私は自分のスキルを上げるため、慣れた世界に留まらず、飛び出して広く経験を重ねたいと考えるタイプです。介護業界には沢山の業種がありますが、これまでデイサービスや特別養護老人ホームのほかに、グループホーム、訪問介護、小規模多機能型居宅介護の職員などあらゆる形で介護に携わってきました。

グループホーム時代から管理職として働き、2017年1月にこちらへ転職してホーム長となりました。


アンサンブル浜松尾野の求人を知ったのは、ちょうど小規模多機能型居宅介護の仕事を辞めようかなというタイミングでした。しかし、これまでは個別介護や、少人数のグループ単位で介護にあたるユニットケアの経験が中心でしたので、規模の大きい介護付有料老人ホームで働くことに最初は迷いがありました。


――転職の決め手は何だったのでしょうか。

最終面接で「入社するかどうかは君次第だよ」と言われたことです。そのとき「今までの経験を全部つぎ込んでみよう」と腹を決めチャレンジすることにしたのです。


――実際働いてみてどうでしたか?

やってみてやはり大変だな、と実感しましたね。アンサンブル浜松尾野は自立したお元気な方から看取り介護の必要な方まで、あらゆる状況にある高齢者をお迎えしています。さまざまな介護状況にあるご入居者を同時に、かつ個別に対応していくのに難しさを感じています。


――現状、どのような課題に直面していますか?

グループホームなどで行われる少人数のユニットケアのように、お一人おひとりの個性や介護状態に合わせて居住空間や担当スタッフを分けていない点を、どう補っていくかが今の課題です。

たとえば、このホームにユニットケアを導入したいと思っても、人が生活する場というのはそう簡単に変えることができません。こちらの都合でご入居者にお部屋を移っていただくわけにもいかないでしょう。

 和テイストの落ち着いた雰囲気のリビング

【和テイストの落ち着いた雰囲気のリビング】

――そういった課題があるなかで、ご自身の経験を生かしこれからどんな改善していこうとお考えでしょうか。

重点的に取り組んでいるのは介護技術の継承です。現状としては、技術習得の必要があるスタッフに経験を積んでもらう機会が少ないんです。要介護度の高いご入居者が少ないため、実践で学ぶことが難しい。

しかし、いずれはお元気な方のADL(※)も低下します。そのときを見越してスタッフを育てようという動きがちょうど始まったところです。実践の機会が少ないぶん、現場に教育を専門に担当するケアアドバイザーを配置することで、細やかな指導ができる環境を整えています。


※ADL:Activities of Daily Livingの略で、「食事をする」「歩行する」「排泄する」といった生活するうえでの基本的な行動を指します


生活の自由度を高め、息苦しさを感じさせないホームづくりを

 気分転換にこのベンチに座り、日光浴をされるご入居者もいらっしゃるそうです

【気分転換にこのベンチに座り、日光浴をされるご入居者もいらっしゃるそうです】

――今後の展望を教えてください。

介護の仕事をする上で、私が最も熱心に取り組んでいることは、ご入居者の自由度を増やすこと。ご自宅で生活しているときは、いつでも自由に外出ができますよね。ところが介護付き有料老人ホームでは安全が先に立つ。散歩するにもスタッフが付き添わなければできません。もちろん、自立している方は家族の同意があれば外出は可能ですが、介護度が高い方でもできるようになればいいなと考えています。


――過去のご経験で実際に改善したケースはありますか?

グループホームでホーム長をしていたときのことです。ずっと施錠しっぱなしだったホームの玄関を開放しました。鍵を外し暖簾を下ろして風通しをよくして、誰もが自由に出入りできるようにしたのです。万が一、ご入居者が外に出て行ってしまっても、スタッフがついていけばいい、そんな発想で運営していました。不思議なことに、開けることによって出て行く人がいなくなるんですよね。

スタッフも意欲的になって、ご入居者の記憶を辿って懐かしい場所を訪ねる日帰り外出を実行したり、楽しかったですよ。おかげさまで辞めるまでの9年間、満室を維持し続けました。


――アンサンブル浜松尾野で、具体的に構想していることはありますか。

それぞれのご入居者の状態に合わせながらも、ご自分の意思で自由に外出できる環境を整えることです。101歳のご入居者が、よく玄関を出られて敷地内のベンチにちょこんと座り、外をのんびり眺めています。ご入居者が自宅のようにその人らしい生活を送ることができるように、ご本人の希望に合わせて個別の希望や外出にもっと寄り添いたいと思っています。

そのためには、スタッフの柔軟な対応力と、連携強化が不可欠です。ご入居者が心地よく生活でき、スタッフも気持ちよく働けるように、どんなときでも助け合える雰囲気をより強固なものにしたいと考えています。それが、結果的にはご入居者が自宅にいるときのような自由度の高いホームづくりにつながると思うのです。

(記事中の内容や施設に関する情報は2017年10月時点の情報です)