- 質問
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要介護3の母(80)の老人ホームを探しています。特養のような公的施設だけでなく、異業種からの介護に参入している民間企業が多いと聞きます。
民間企業の参入にどんな特徴があるのでしょうか?また、選ぶ際に注意点などありますか?
- 回答
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介護保険制度施行以降、外食産業、建設業、保険業、警備会社、家電メーカーなど、多くの民間企業が介護分野に参入しています。
介護は医療ではなく「暮らし」です。一見接点のないように思える企業も、実は私たちの生活に大きくかかわっています。現在では介護事業所の買収や合併も盛んに行われ、介護プラスαとして、それぞれ個性的な老人ホームづくりを行っています。
民間企業の参入状況と、得意分野を活かした運営を行っている企業を紹介します。その特徴を知ることでホーム選びの参考にしていただきたいと思います。
- 【目次】
1.民間企業参入のプロセス
介護保険制度施行以降、規制緩和による民間企業の参入が活発になりました。
それ以前の老人福祉施設の運営は、社会福祉法人のみに許され、「措置費」という公金が投入され、税制なども優遇されるなど公共性が保たれていました。
しかし、その一方で競争の原理が働かず、画一的な対応であることが長年にわたり指摘されていました。介護保険制度導入にあたって国はこの問題に着目。
民間企業参入による「競争原理」を導入し、これまでの老人福祉が「介護サービス」として商品化されたのです。
2.民間企業の参入状況
厚生労働省がまとめた、「2013年度 の全国の社会福祉施設事業者数や利用人数の調査」によると、サービス付き高齢者向け住宅を含まない有料老人ホームの数は、前年比で983施設増加の8502施設、入居定員は35,756人増加の350,990人でした。
施設の経営主体の構成を見ると、有料老人ホームでは全施設中、民間による運営が83.2%と急速な伸びを見せています。この中には従来から介護サービスを展開している企業だけでなく、様々な業種から新規参入した企業が多く含まれています。
いくつかの企業を表にしました。
親会社 | 業種 | 内容 |
---|---|---|
イオン | 小売 | リハビリのための運動などが日帰りでできるデイサービス(通所介護)施設を総合スーパー内に首都圏を中心として2020年度までに50カ所設ける。 |
ソニー | 製造 | 介護事業としてソニー・ライフケアを設立。首都圏を中心とした介護付き有料老人ホームを運営する。 |
パナソニック | 製造 | 介護事業としてパナソニック・エイジフリー、パナソニック・コムハート、パナソニック・エイジフリーライフテック、パナソニック・エイジフリーショップスを設立。それぞれ老人ホーム運営、介護付き高齢者住宅運営、介護用品製造・販売、介護ショップのフランチャイズ事業を行う。 |
NTTコミュニケーションズ | 通信 | 介護事業としてテルウェルを設立。主要都市部を中心に介護事業を展開。 |
損保ジャパン日本興亜ホールディングス | 保険 | ワタミの子会社であったワタミの介護の株式を210億円で買い取り完全子会社化。現在は「SOMPOケア」と社名を改めて再スタート |
「なんでこの会社が?」と思う企業もあったのではないでしょうか。次ではいくつかの企業を例に、その特徴やメリット・デメリットについてお伝えします。
3.外食産業の参入
ファミリーレストランの「すかいらーく」や「小僧寿し」など、大手の外食産業が介護事業に参入しています。2014年には「すき家」でお馴染みのゼンショーHDが北海道の介護事業所を買収・合併することにより参入。話題となりました。
外食産業参入による入居者へのメリットは“おいしい“
外食産業参入のメリットは、なんといっても食の充実です。牛丼チェーン「すき家」などを展開する(株)ゼンショーホールディングスは札幌の(有)介護サービス輝(かがやきの全株を取得し子会社化しました。
ゼンショーHDは、「すき家」だけでなく、回転ずし、ハンバーグ&ステーキレストラン、焼肉屋、カフェなど数々の飲食店を展開しており、施設の食事にもそのノウハウを生かしています。
日々の生活において食事は楽しみの一つ。三食工夫を凝らしたおいしい食事が食べられるのは十分なメリットと言えるでしょう。
4.建設業の参入
ミサワホームやパナホーム、住友林業、積水ハウスなど、多くの建設業が介護ビジネスへ参入しています。
これまでも住宅改修や施設建設など、建設業が介護サービスに関わることは少なくありませんでした。公共工事が減少している昨今、建設業者の介護ビジネス参入が活発になっています。
建設業参入による入居者へのメリットは“住みやすさ“
建設業参入のメリットは、なんといっても住みやすさの充実です。老人ホーム自体の住みやすさはもちろんのこと、「地域での住みやすさ」も重視されています。
たとえばこれまでは住んでいた住宅地一帯が高齢化し、住民たちが一戸建での生活が難しくなった場合、それぞれが住み慣れた地域を離れて老人ホームに入居しなければなりませんでした。
そこで、ある建設業者は「地域性」を重視し、その地域に老人ホームを建てることで、「住む家は変わっても住み慣れた地域で暮らす」ことを可能にしました。
2011年に施設建設トップの大和ハウスが高齢者住宅で介護事業に参入したことが話題となりました。大和ハウスは、1989年に業界に先駆けて介護・高齢者市場を研究するシルバーエイジ研究所を設置。満を持して老人ホームも経営しています。
その中の一つ「有料老人ホームもみの樹・渋谷本町」を見ると、ハイグレードな建物や食事などはもちろんのこと、介護スタッフは基準以上にゆとりを持たせて配置。
さらに大和ハウス工業株式会社が提案する介護用のロボットや機器を活用し、入居者にとって快適な環境を作るとともに、介護スタッフの負担を軽減しています。
入居費の高さはネックとなりますが、生活するうえで「住環境」は大切な要素です。暮らしやすさはかなりのメリットと言えるでしょう。
5.警備会社の参入
セコム、綜合警備保障(ALSOK)などの大手警備会社も介護ビジネスに参入しています。
これまでも施設警備を担っていましたが、探知機を介護靴メーカーと共同開発する、介護事業所を買収するなど、介護ビジネスへの参入が活発化しています。
警備会社参入による入居者へのメリットは“安全“
警備会社参入のメリットは、なんといっても安全性の向上です。 徘徊による事故や行方不明はあとを絶ちません。警備会社が守るのは、家屋や財産だけではなく生命も対象になっています。
ALSOKは、埼玉県内で介護事業を展開する「株式会社ウイズネット」を子会社化しました。これまで在宅での「見守りサービス」を利用していた高齢者が、要介護状態になることで同じ会社が経営する老人ホームに入居することは十分に考えられます。
徘徊による事故は本人の行動が把握されていないときに起こります。ALSOKは在宅でのサービス利用の段階から老人ホームでの暮らしまで一貫して一人一人の状態を把握することで、個々人に応じたセキュリティが確保できます。
もちろん施設のセキュリティも万全。不審者侵入にどの異常時には警備スタッフが素早く駆け付けます。これは大きなメリットと言えるでしょう。
6.異業種参入企業を選ぶ際の注意点
得意分野のメリットを生かして老人ホーム経営を行っている異業種企業ですが、初めて参入する企業の中には、見通しの甘さから早期に倒産するところもあります。
また考え方の違いから買収・合併した事業所とのコミュニケーションがうまくいかない企業も多いようです。介護は一朝一夕にはできません。すでに何年も介護事業を経営しているなど、ノウハウを蓄積している企業を選んでください。
まとめ:母体となる企業の特徴が生かされています
様々な業種を母体に持つ民間企業の参入により、これまでの社会福祉法人よりもバラエティに富んだ運営が行われてます。
中には母体となる会社の業績の悪化によって、介護部門を他の会社に売却する企業もありますが、ほとんどの企業は、これまでにないサービスを創設し、高い評価を得ています。
食事、住環境、安全、娯楽など重視したい点を絞って、それを得意とする老人ホームを選んでみてはいかがでしょうか。
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