身寄りのない高齢者、どうするべき?問題点や解決策、入居できる施設を解説

「身寄りのない高齢者」が生活するうえで、さまざまな困難や弊害が生じており、社会問題になっています。頼れる親族がなく、この先ひとりで暮らしていく不安を少しでも小さくするには、元気に動けるうちに自ら将来へ備えた対処をしておくことが肝要です。

身寄りのない高齢者の生活に潜むリスクと、それを最小化する対策、そして安心して入居できる施設について詳しく解説します。

そもそも「身寄りがない」とはどういう状態?

身寄りがないとは、「子どもや兄弟姉妹など、いざというときに頼れる親族がいない」状態を指します。民法において“親族”と定義される関係の身内が存在したとしても、その人と連絡が取れなかったり、助け合う関係になかったりする場合は、「身寄りがない」と表現されるのが一般的です。

本記事でも、「親族の有無に関わらず、現時点で頼れる身内がいない」状態を「身寄りがない」と定義し、その問題点や対処法をお伝えします。

出典:厚生労働省「「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」に基づく事例集」(PDF)

身寄りのない高齢者はどれくらいいる?

国立社会保障・人口問題研究所が2024年に公表した「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」によると、2020年現在、65歳以上の独居世帯のうち、未婚の割合は、男性が33.7%、女性が11.9%となっています。つまり、65歳以上の一人暮らし世帯の約1~3割が、離れて暮らす子や孫もいない「身寄りのない高齢者」の可能性があるのです。

さらにこの推計では、2050年には65歳以上の独居世帯の未婚率が男性で59.7%、女性は30.2%にまで上昇すると見込まれています。身寄りのない高齢者が増え続ける今、私たち一人ひとりが、自身の持つリスクにしっかりと対処していかなければなりません。

出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)-令和 6(2024)年推計-」(PDF)

身寄りのない高齢者の問題点

身寄りのない高齢者が生活していくうえで、特に問題になりやすい点が次の5つです。

保証人がいない

身寄りのない高齢者が生活していくうえで直面しやすい問題のひとつが、「保証人がいない」ことです。保証人とは、緊急時の連絡先として、いざというとき本人に代わり金銭的な保証や意思決定、身柄の引き受けなどの対応を行う人のことを指します。

賃貸借契約や施設・病院等への入居・入院といった場面でこの保証人になれる身寄りがいないために、手続きが進められないケースは少なくありません。

契約の同意などが困難になる

認知症などにより意思疎通が困難になってしまった際には、賃貸借契約や施設入居、病院への入退院等に関わる契約そのものが、自分だけでは難しくなるという問題もあります。民法3条の2において、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と定められているためです。

代わりに契約などを任せられる親族がいない場合、生活や今後に必要な契約を自身で行ったとしても、意思能力を有しないと判断されれば、その契約が無効となる恐れがあります。

出典:民法第二章第二節 意思能力

金銭管理ができない

加齢に伴い判断能力が落ちたり、認知症を発症したりすることによって、自身の金銭管理がうまく行えなくなる点も、身寄りのない高齢者が抱える問題のひとつと言えます。

「計画性が低下して年金を支給と同時にすべて使ってしまう」「預貯金の出し入れや請求書の支払いが行えない」などのトラブルは、一般的によく聞かれる例です。また、身近に相談先がないことで、高齢者を狙った悪徳商法や特殊詐欺などの被害に遭うリスクも高まります。

没後の対応を行ってくれる人がいない

自身の没後、死後事務や遺品整理、葬儀などを担う人がいないという点も、身寄りのない多くの高齢者が不安に感じる問題です。遠い親戚などに迷惑をかけたくない、という想いを持たれている方もいらっしゃるでしょう。

また、信頼できる身寄りがいないと、自身の財産が意図しない形で承継される恐れもあります。死後事務について望む形がある場合、それを実現するための対策をあらかじめとっておかなければなりません。

他者との交流機会がない

身寄りがない高齢者は、人や地域との関係性が希薄になりやすいという問題もあります。他者との交流機会が減ることによって、具体的には次のようなデメリットが生じがちです。これらの問題を避けるためには、元気なうちから、できる限り人との関わりを保つ生活環境を準備しておく必要があるでしょう。

交流機会の減少によって生じるデメリット例

  • 頼れる人がおらず、精神的に不安や孤独を感じる
  • 認知症など病気の発見が遅れる
  • 孤独死のリスクが高まる

身寄りのない高齢者はどうするべき?

・生活保護を受ける

・法定成年後見制度を利用する

・日常生活自立支援事業を利用する

・介護施設に入居する

出典:厚生労働省「身寄りのない方の支援と注意すべき観点 ~法的立場から~ 持続可能な権利擁護支援モデルの構築に向けて」(PDF)

では、身寄りのない高齢者は具体的にどのような対策を行っておくべきなのでしょうか。これからの生活を安心して送るために、活用できる制度やアイデアにはたとえば次のようなものがあります。

生活保護を受ける

生活保護とは、生活に困窮している人に対して、その困窮の程度に応じた必要な保護を行い、健康で文化的な生活を保障する制度です。自身の貯蓄や年金収入等だけでは生活が立ち行かず、頼れる身寄りもいない場合、安心して暮らしていくための基盤として、生活保護の受給を検討してみるのもよいでしょう。

実際に、身寄りのない高齢者のうち、老後の暮らしを生活保護に頼っている方は少なくありません。厚生労働省が公表している「被保護者調査(令和6年3月分概数)」によると、生活保護を受給している高齢者世帯の9割以上が単身世帯となっています。

出典:厚生労働省「生活保護の被保護者調査)」(PDF)

関連サイト生活保護を受給する高齢者の90%がおひとりさま。生活保護受給を見据えた新しい身元保証サービスとは

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法定成年後見制度を利用する

法定成年後見制度とは、認知症などにより判断能力が十分でない方が、自分らしく安心して暮らしていけるよう支援する制度です。具体的には、家庭裁判所によって選ばれた補助人や後見人等が、本人の利益や意思を尊重したうえで、本人に代わって契約などの法律行為を行います。

身寄りがない高齢者が活用するケースは多く、厚生労働省の調べによると支援者に選ばれているのは約8割が親族ではない第三者です。この制度を活用することにより、今後自分自身で契約が行えない状態になったとしても、部屋を借りる・施設へ入居するなどの手続きが可能になります。

成年後見制度には、ご自身での判断能力があるうちに任意の後見人と契約する「任意後見制度」というものも存在するため、お体の状態等によって利用する制度を検討するのがよいでしょう。

出典:厚生労働省「成年後見制度の現状」(PDF)

日常生活自立支援事業を利用する

日常生活自立支援事業とは、認知症などを患っている人のうち、判断能力が不十分な方に対して、本人との契約に基づき、契約・金銭管理に関わるさまざまな援助を行う制度です。

支援を必要とする人自身が地域の社会福祉協議会へ申請・契約することによって、支援者の定期的な訪問が生活の見守りにもつながるため、自宅で一人暮らしをする高齢者は積極的に活用するのがおすすめです。

日常生活自立支援事業のサポート例

  • 福祉サービスの利用援助(訪問介護の契約など)
  • 家のリフォームや賃貸借契約の援助
  • 住民票の届出など、行政手続きに関する援助
  • 生活上の消費契約(商品の購買契約など)に関する援助
  • 預金の預け入れ・払い戻しなど、日常生活費の管理

介護施設に入居する

今後の長い老後生活を考えるなら、まだ元気なうちに見守りや生活のサポートなどが受けられる介護施設等へ入居しておくのも一手です。施設選びに自身の希望を直接反映させながら、他者との交流機会やサポート体制がある生活環境を整えることができます。

施設への入居には身元保証人を立てることが求められるケースがほとんどなので、身寄りがない場合、「成年後見人・任意後見人を立てる」「身元保証会社と契約する」などの方法を活用します。

【専門家が回答】保証人がいなくても老人ホームへ入居できる?その方法は

身寄りのない高齢者でも入居できる施設

・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

・有料老人ホーム

身寄りのない高齢者でも、後見人制度や身元保証会社を利用すれば、次のような施設に入居できる可能性があります。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは、安否確認や生活相談などのサービスが受けられる、60歳以上を対象とした賃貸住宅です。バリアフリーのマンションにプロの相談員が常駐しており、一人暮らしの自由度は保ったまま、日常生活のサポートが受けられます。必要に応じて別途、訪問介護など外部の介護サービスを契約することも可能です。

関連記事サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは?費用や入居条件、他施設との違い

有料老人ホーム

有料老人ホームとは、食事や洗濯、清掃といった生活支援や介護、医療機関と提携した健康管理などのサービスが受けられる施設です。プロの手を借りて安心して生活できるのはもちろん、レクリエーションなどで入居者同士の交流が生まれる点も大きなメリットとなっています。

有料老人ホームには、要介護の方が対象になる「介護付き」や、自立した生活が可能な方も入居できる「住宅型」など複数のタイプがあるため、ご自身のお体の状態などを考慮して選択するのがよいでしょう。

有料老人ホームの種類とサービス

関連記事有料老人ホームとは?種類や定義、料金、人員基準など詳しく解説

まとめ

少子高齢化や未婚化が進む現在、身寄りのない高齢者はこれからも増加し続けると見込まれています。国や自治体の支援だけに頼るのではなく、自らが望む老後へ向けて、元気なうちに対策を立てておくことがより重要になってきているのです。特に、「老後の安定した生活費」と「身元保証人として頼れる第三者」、そして「人との交流が生まれる住環境」の3つは、最優先で確保しておくべきでしょう。

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この記事の制作者

山本 武尊

監修者:山本 武尊(主任介護支援専門員・社会福祉士)

地域包括支援センター 元センター長。介護現場の最前線で業務をすると共に、介護業界の低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため介護に特化した社会保険労務士として開業。
現在は介護関連の執筆・監修者、介護事業所向け採用・教育・育成や組織マネジメントなど介護経営コンサルタントとしても幅広く活躍中。

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