【はじめての方へ】気管切開の特徴|日常のケアと介護負担の軽減方法

気管切開は喉から気道までを切開し、呼吸をしやすくすることです。

多くの場合は穴が塞がらないように気管カニューレという管を入れ、必要な場合はそこに人工呼吸器を装着します。呼吸が楽になる一方、家族が医療的なケアを日常的に行う必要も。

ここでは気管切開のメリット・デメリットや、必要となる医療的ケア、介護負担を軽減する方法を解説していきます。

気管切開のメリット・デメリット

気管切開には、①挿管チューブがなくても人工呼吸器の装着を可能にする、②鼻や口を介さない呼吸を可能にする、③唾液が気管に流れ込むのを防ぐという3つの役割があります。

そのため、神経の病気によって長期的に人工呼吸器が必要な人、がんで喉の一部を切除した人、慢性的に気道が閉塞しやすかったり、空気が通りにくくなっている人などに行います。

気管切開の手術後、傷口や全身の状態が安定し、しっかりと栄養が摂れていれば自宅で過ごすことが可能です。患者さんの状態によっては、口から食事を摂ったり、呼吸状態が落ち着いたところで気管切開の穴を塞ぐこともできます。

ここでは気管切開のメリット・デメリットをみてみましょう。

メリット

  • 確実な気道確保によって呼吸できないリスクが減る
  • 楽に呼吸をすることができるようになる
  • しっかりとたんを出すことができるので、結果的に患者さんの呼吸トラブルや家族の負担が軽減する

デメリット

  • 呼吸で取り入れる空気の湿度、温度が保てない
  • 気管切開で開けた穴からホコリや菌が体内に入りやすい
  • 医療的ケアが必要で、患者さんや家族の精神的負担、介護負担がある
  • そのままでは声が出せない
  • 外観が気になる

ここまで、気管切開のメリット・デメリットをみてきました。つぎに、気管切開を行うと多くの場合で使用する気管カニューレについて、解説していきます。

気道を確保する気管カニューレ|その管理方法

気管切開で喉に作った穴は、そのままでは塞がってしまいます。そのため、「気管カニューレ」という管を挿入して塞がらないようにし、空気の通り道を確保します。

気管カニューレには構造や材質が異なるものなどさまざまな種類があり、患者さんの状態や生活スタイルに合ったものを選びます。飲み込む力が保たれている場合は、声を出すことができる「スピーチカニューレ」を使うこともあります。

一方、気管カニューレを使用することで起こりやすい事故やトラブルがあります。

起こりやすい事故やトラブル

  • 気管カニューレが抜けた、またはたんで詰まってしまって呼吸ができない
  • 気管カニューレや固定バンドで皮膚が荒れたり、潰瘍(かいよう)ができたりする
  • 吸い込む空気が鼻や喉で加温・加湿されないため、たんが硬くなったり、咳が出たりする
  • 肺炎を繰り返してしまう

このような事故やトラブルを防ぐためには、日々の気管カニューレ管理やケアが大切です。

毎日行う管理・ケア

毎日行う管理・ケア
唾液が気管に垂れ込むのを防ぐため、気管カニューレの体内に挿入する側の端にカフと呼ばれる風船が付いているものがあります。カフの空気は自然と抜けてしまい、また空気を入れすぎると皮膚のトラブルを招くことも。そのため、適量の空気が入っているかを確認します。
(※場合によってはカフのないカニューレを使用することもあります)
ガーゼ交換、バンドの調整、皮膚のケア
気管カニューレを固定するためのバンド。締め付けが弱いとカニューレが抜けやすく、強かったり皮膚が汚れていると皮膚トラブルの原因となります。1日に1度はバンドを外して皮膚が荒れていないかを確認し、清潔にしてからバンドを交換することで、トラブルを防ぎます。
口腔ケア
気管切開をしていない人と同様に、口の中が汚れていると細菌が繁殖し、肺炎を引き起こす原因に。口から食事を摂っていなくても、1日1回は歯を磨いたり、濡らしたガーゼで口の中を拭ってきれいにします。
加湿管理
気管カニューレに人工鼻という加湿フィルターを装着し、乾燥を防ぎます。

定期的に行う管理・ケア

 気管カニューレの交換:目安は2〜3週間に1回

汚れた気管カニューレを交換。汚れがひどいときや、たんで詰まりかけている場合にも行います。

原則として医師または研修を受けた看護師が交換しますが、気管カニューレが抜けてしまったときなどの緊急時には家族が行います。退院前にそのための練習を行うことも珍しくありませんが、在宅や施設に戻ってからも練習をしておきましょう。

気管カニューレ使用時にはここで紹介した管理・ケアのほかに、1日に数回、たんの吸引を行う必要があります。ここからは吸引についてみていきましょう。

気管切開のケアにはたん吸引が必要

気管切開を行った患者さんは自力でたんを出せないことも多く、窒息を防ぐために1日に数回、定期的にたんを吸い出す「吸引」を行う必要があります。

気管切開の手術後に自宅へ帰る場合、家族は看護師から吸引の方法についてレクチャーを受けます。初めは緊張すると思いますが、焦らずに、ゆっくりと身につけていきましょう。

たん吸引に必要な物品

  • 吸引器
  • 吸引カテーテル
  • アルコール綿
  • 水の入ったコップ

 

吸引の手順

  • ①手を洗います
  • ②吸引器の電源を入れ、吸引カテーテルを接続します
  • ③吸引圧を-20〜40kPaに調整。吸引カテーテルを折り曲げると吸引圧が上がることで、圧がしっかりとかかっていることを確認します
  • ④アルコール綿でカテーテルを消毒。利き手で鉛筆を持つように吸引カテーテルを持ちます
  • ⑤患者さんに声をかけてから人工呼吸器や人工鼻をはずします
  • ⑥吸引カテーテルの根本を折り曲げて圧がかからないようにしてから、カテーテルを気管カニューレに挿入します
  • ⑦十分な長さまで挿入したらカテーテルの根本を解放して圧をかけます
  • ⑧くるくるとカテーテルを指でねじるように先端を回転させながらカテーテルを引き抜き、人工呼吸器や人工鼻を装着します。
  • ⑨同様に鼻と口の中を吸引します
  • ⑩カテーテルをアルコール綿で拭き、コップに入った水を吸わせてカテーテルの内部をきれいにします

吸引すると呼吸ができず息を止めている状態なので、酸素が不足しがちです。1回の吸引時間が長くならないように気をつけて、吸引中や直後はとくに、患者さんの顔色などをよく観察するようにします。痰が多くて1度に引き切れないときは複数回に分けて行いましょう。

また気管を傷つけないように、吸引の圧や医師から指示されたカテーテルの挿入の長さを守ることが大切です。
 

気管切開による介護負担を減らす方法

気管切開を行った場合、医療的なケアが毎日必要となり、家族の介護負担が大きくなります。介護保険サービスを上手に利用して、負担軽減を図りましょう

在宅の場合

介護保険サービスの訪問看護を利用して、体調チェックや気管カニューレのガーゼ交換、皮膚トラブルのケアを依頼することができます。

しかし訪問看護を利用しても、夜間も含めて1日に数回の吸引を家族が行うため、自宅での介護負担は大きくなりがちです。たん吸引に対応した医療・介護施設で、定期的なショートステイの利用を検討するのもよいでしょう。

医療型ショートステイについて詳しく見る

介護施設での受け入れ体制

気管カニューレ管理や吸引は看護師と法定研修を終了した介護福祉士でなければ行えません。

吸引回数は人によって異なりますが、早朝や夜間に吸引を必要とする人もいるため、かれらが24時間常駐している施設でなければ受け入れは難しいでしょう。またこのような施設は全体の1割ほどと少ないですが、以前と比べて対応施設は増えてきました。

また、訪問看護サービスを利用することで対応できる一部の老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅もあります。

入居を検討するのであれば、まずは主治医やケアマネジャーに相談したり、対応施設を検索してみるとよいでしょう。

老人ホームで受けられる医療行為について

イラスト:坂田優子

この記事の制作者

矢込 香織

著者:矢込 香織(看護師/ライター)

大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。

web矢込 香織

noteKaori Yagome*看護師

Twitter@KaoriYagome

岩本 大希

監修者:岩本 大希(WyL株式会社/ウィルグループ(株)代表取締役)

大学卒業後、北里大学病院救命救急センター従事。その後、ケアプロ(株)で訪問看護事業の立ち上げ・運営を行う。
2016年ウイル訪問看護ステーション江戸川を開設。東京・沖縄・岩手・福岡・埼玉で展開。
2019年在宅看護専門看護師を取得。(社)オマハシステムジャパン理事、(社)東京都訪問看護ステーション協会研修委員長

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