頭脳明晰、好奇心旺盛、おしゃべりが上手。オーシャンビュー湘南荒崎で、入居者の方々を明るくリードする、鈴木静江さん。人生最後の住まいになぜここを選んだのか、お話からさまざまな理由が浮かび上がってきました。
在宅での夫の介護に限界を感じて、夫婦そろってホームへ入居
――人生の最後の住まいを老人ホームで過ごそうと思ったきっかけを教えてください。
夫が認知症でして、在宅の老老介護に疲れ果てたのです。自宅にいた頃は、民生委員の方やケアマネジャーの方が私たちの生活支援をしてくださって、いつも感謝の気持ちでいっぱいでした。でも、夫をデイケアセンターや病院に連れていくとなると、一日に何回もいろんな方にお願いをするので、私もそれなりの準備をしなくてはいけません。
在宅介護は今、とても流行っていますが、これは自宅に24時間誰かがいて初めてできることです。そして、家族がいつも準備に追われてしまうことが問題です。夫の介護をしているうちに、今度は、私も体を悪くしてしまいました。そこで夫を介護老人保健施設にお願いしていたのですが、どうせならば、夫を受け入れてくれる施設に一緒に私も入れないかしらと考えるようになりました。
それで、自宅のある横須賀市内で5つの施設を見学しました。
――5つの施設の中から、どうしてオーシャンビュー湘南荒崎に決められたのですか?
以前から自分の終の棲家を決める時は、一緒に生活するスタッフの方の人柄が大事だなと思っていました。ここは初日から職員さんが明るくて、入居されている方たちも「いらっしゃいませ!」と挨拶してくださったんです。
あと私の名字が鈴木なのですが、こちらは鈴木姓の入居者さんが多いので、下の名前で呼んでいただけるんですね。私は静江さん、夫はケンゴさん。それまでは、奥さん、鈴木さんと呼ばれていたのに、静江さんと呼んでいただけたのはうれしかったですね。
あとは清潔感とロケーションですね。昔から富士山が見える施設に入りたいと思っていました。毎日富士山を見るには、熱海や伊豆半島の施設に入らないといけないのかしらと思っていましたら、家族が住む横須賀で実現できるんですから、こんなにありがたいことはないですね。
好きなことを続けたい……時には自らイベントを企画
――横須賀にお住まいでしたら、海との関わりは昔から深いですね。
横須賀に60年住んでいますが、自宅ですと海との関わりは、海水浴や潮干狩りぐらい。だから海の側の生活はここが初めてなんです。キレイですよ、海も空も富士山も。朝日は桃色で夕日はオレンジ色で。部屋の窓を目一杯開けて外を眺めたり、夕日の時は入居者の皆さんに「一緒に見ましょう!」と声をかけたりして。自然の中で暮らすのは本当に素晴らしいと思います。
――こちらに入居されてから、新たに始めたことはありますか。
入居者の方で俳句を教えていらっしゃる方がいらして、俳句の会に入っていました。あとは、入居者が自由参加する健康倶楽部と脳トレです。ここは本当に体も頭も元気な人が多いんですよ。
健康倶楽部は、週2回ですね。天井から赤いブランコのようなものを吊るして、全身を伸ばすスリングというのをやって体幹のバランスを鍛える運動をしています。あとは、頭の体操の脳トレですね。クロスワードパズルをしたり、ことわざや詩吟などもしたりしています。
月末には、リハビリ用のカレンダーを自分たちのデザインで作ったりします。ほかに週に1回、自転車のペダルこぎや、足踏み、足腰のストレッチをします。2階の認知症の方も3階のお体の悪い方も、健康倶楽部と脳トレでできる範囲のことをしていますね。あとは自分たちでやりたいことはスタッフさんにお願いしています。
――どんなことをスタッフの方にお願いするんですか。
私の持っている映画『第三の男』のDVDを皆さんに見せたかったのですが、リビングにDVDのデッキがなかったので、職員さんにお願いして買っていただきました。もともと第3木曜日に、坂本九さんとか昔のレコードを聞いて一緒に歌う会を私と仲の良い人たちでやっていたので、そこで映画も流すようになりました。
私は5階に住んでいるのですが、ほかの階の方たちもお見えになるんですよ。男性も女性もいらっしゃいます。みんなで歌を歌ったり、映画を観たりしてね。もう入居者同士、家族みたいですよ。
――静江さんは、自主イベントを企画されているんですね?
15時からコーヒータイムなので、13時から映画を流すと、お茶もできてちょうどいいんです。私は、『慕情』や『哀愁』などの昔の映画が好きなので、皆さんで観ると思うと、張り合いがありますね。あと、施設の中で観るだけではなく、よこすか芸術劇場に皆さんと一緒にコンサートにも行きます。
――よこすか芸術劇場に何を観に行かれるんですか?
こちらの施設の方に車を出していただいて、7~8人でコーラスのFORESTAを聴きにいきましたね。あとはピアノの辻井伸行さん、横須賀出身のオペラ歌手の鈴木慶江さんも観に行きました。今度の6月には、N響も横須賀に来ます。音楽は好きですね、クラシックでもジャズでも何でも。好きなことを続けていたら、楽しい老後が待っていますよね。
最高の看取りがオーシャンビュー湘南荒崎でできた
――静江さんは音楽が好きでいらっしゃいますけど、ケンゴさんも音楽がお好きでしたか。
2階は認知症の方が入るフロアで主人も入っていました。その階にピアノがありまして、夫はピアノなんて今まで一度も弾いたこともなかったのに、音楽療法で『瀬戸の花嫁』を流していたら、突然、夫が音に合わせてピアノを弾き出したと聞きましてね。
今度は別の日に『昭和枯れすすき』を流したら、また夫がピアノで音を探しながら弾いていたと、別の階の方が報告してくださって。認知症でも、そんなことがあるんですね。
――ケンゴさんは随分こちらの施設になじんでいらっしゃったんですね。
こちらの施設の決め手でもあったのですが、本当に夫が何の違和感なくすっと皆さんに溶け込んだんですよ。職員さんたちにかわいがられるといってはなんですが、皆さんに「ケンゴさん、ケンゴさん」って言っていただけて。職員の方に「ケンゴさん、疲れた?」って聞かれると、もうかわいい子どもみたいな声で「疲れてないよー」と笑顔で答えていて。
でも昨年、亡くなったんです。大往生でしたが、不思議なことがありました。
――何があったんですか?
夫は、最後に脳梗塞になったんです。一時期、横須賀市民病院に入っていたのですが、こちらの施設は看取りをしていただけるので、退院して皆さんで見守っていました。退院後10日目ですか、夜中の1時に突然、私は目が覚めて。それで洋服を着替えて、2階の主人のフロアに降りたんです。夜勤者の方も私を見てビックリですよね。
夫の元に行くと、「あれ、お父さん、息をしていないわ……」って。30分前に夜勤の方がご覧になった時はまだ元気だったそうです。夫が「お母さん、そろそろ逝くよ……」って教えてくれたのかもしれないですね。
――すごいお話ですね……。こちらの施設に一緒に住まわれていないと、あり得なかった最期ですね。
ええ、60年も一緒に生きてきましたからね。最期まで穏やかな95歳でした。息子や娘を含め、施設の方も皆さん、温かく見送ってくださいました。主人にとっても私にとっても、ここで本当にいい老後を迎えたと思いましたね。
体が動けなくなっても、好奇心だけは失いたくない
――静江さんは今後、オーシャンビュー湘南荒崎でどのように暮らしていきたいですか?
体の動くうちは、よこすか芸術劇場にコンサートを聞きに行ったりしたいですね。今は手押し車を使っていますが、外への買い物も一人でできていますので、ずっと外出ができるように健康倶楽部のトレーニングを続けたいです。
私は「今日は雲がきれいよ~!」って、窓を叩きながら、仲の良い人を呼んだりするのですが、フロアの中には、自分の思いをなかなか表に出せない人もいるんです。だからそういう方には、できるだけこちらから気づいて、みんなの輪の中に引っ張ってあげるようにしています。ここにいる人はみんな家族だと思っているので、そういう気遣いは続けていきたいですね。私が動けなくなったら、その時は誰かのお世話になればいいのかなって。動けなくなったらなったで、ここの施設は脳トレとかいろいろやることありますから。
(横山由希路+ノオト)
(記事中の内容や施設に関する情報は2017年6月時点の情報です)