いままで当たり前だったことができなくなる。そんな経験はありますか?
歩くこと、ものを食べること、自分ひとりでトイレに行くこと。そうした日常動作ができなくなるのは辛く悲しいものです。ショックから気力を失ってしまう人も少なくないでしょう。
けれども、リハビリのメソッドや機械は日々進歩を遂げています。寝たきりの状態だった人も、適切な指導を受ければ歩けるようになる可能性がある時代です。
東京都世田谷区にある、介護付き有料老人ホーム『ウェルケアガーデン馬事公苑』に入居する作曲家の間宮芳生さんもそのひとり。同老人ホーム に入居した後、“要介護5”の状態から“自立”へと、驚異的な回復を遂げ、現在は80歳を超えて現役の作曲家として活躍しています。
「立つのもやっと」の状態から、仕事を再開するまでに回復。決め手は施設選び
——間宮さんは、何年前にこちらの施設 に入居されたんですか?
間宮さん:ここがオープンしたのは3年前の3月だったと思いますが、私が入ったのはその年の6月でした。いまでは80数人入居されていますが、当時はまだ入居者が全部で10人程度だったんですよ。私が先で、家内が1ヶ月後に入居しました。
——なぜここを選ばれたのでしょうか。
間宮さん:当時、私は相当具合が悪くて、やっと立てるか立てないかの状態でした。それで、介護付きの施設を娘が調べてくれました。
——今はとてもお元気そうに見えますが……。
間宮さん:2010年のお正月に突然具合が悪くなって、病院行ったら大腸がんだと言われました。手術をして脇腹に人工肛門を開けて、その間に検査をしたら胃にも小さながんが見つかり、また手術をしたんです。手術跡を休ませてから人工肛門を閉じ、退院しました。
それから6年、転移もなければ再発もないので、そろそろ卒業かな、という状態ですね。
——大きな手術を乗り越えられたのですね。
間宮さん:実は最初の病院を出てから別の病院へ移りましたが、そこのリハビリが自分に合わなかったんです。リハビリの内容がとても厳しくて。自分の足で立つこと、歩くこと。そこから全部やらなくちゃいけなかったものですから。
2つの病院を経てウェルケアガーデン馬事公苑に入りましたが、ここはリハビリのスタイルがとても良かったんです。何が違うかというと、現状維持ではなく自立を助けてくれるプログラムだということ。
マシンを使って運動するんですが、負担も軽いので何時間でもできるんですよ。はじめは週に3回3時間ずつリハビリをしていました。動いたら水分を取る、動いたら水分を取る、の繰り返しで、多いときは3時間で800cc の水分を摂取していました。
【身体への負荷が少ない最新のリハビリ設備で楽しく元気に】
間宮さん:実は、今年になって家内も骨折を機に車椅子状態になってしまったんですよ。けれども、こちらで運動機能回復のためのプログラムを組んでいただいて、最近は歩行器のたすけで少し歩けるようになりました。
——間宮さんは、胃から栄養を摂取する「胃ろう」もされたそうですね。
間宮さん:それは家内の方です。家内は車椅子になったはじめの頃、食がどんどん細くなって痩せていくので、病院に相談して胃ろうの手術をしました。胃ろうでしっかりと栄養をとることで、みるみるうちに体力が回復しまして。
ありがたかったのが、ここのホームでは「元気になったら口から食べる」という方針だったこと。胃ろうはそのままにして、いまでは3食、それにオヤツも口から食べています。
——間宮さんは作曲家だと伺いました。どんな曲を作ってこられたんですか?
間宮さん:高畑 勲監督とは色々と仕事をしまして、アニメ映画「火垂るの墓」や「太陽の王子ホルスの大冒険」など多数の作曲を担当しましてね。大河ドラマ「 竜馬がゆく」の音楽も手がけました。
他にも、むしろこちらの方が重要ですが、オーケストラの曲、合唱曲、室内楽曲、ピアノ曲、オペラなどさまざまあります。
——現在も作曲は続けてらっしゃるんですか?
間宮さん:仕事が来るものだから、現在も続けていますよ。(病状が)ひどいときはほとんどつくれなかったけど。
最近では、琴の弾き語りの曲を初めてつくりました。これは難しかったなぁ。私自身はピアノを弾きながら歌うということが全くできないんです。そのため、「これ位のテンポなら大丈夫だろうか」と想像しながら作曲しました。
——87歳にして初めてのことに挑戦されているとは驚きです。入居当初は立つのがやっとだったなんて、とても思えません。
間宮さん:入居時は要介護5だったのが、今は自立(介護度ゼロ=介護認定非該当)まで回復しましたからね(笑)。家内の付き添いで以前の病院へ行ったら、看護師が僕のことを覚えていて、私が歩いていることにびっくりしていました(笑)。
当時の医者も「助からないかと思っていました」ってね。「家内も元気になってますよ」と言ったら、「それは入居されたホームがすばらしいんだ、そんな老人ホームは中々ないよ」とおっしゃっていました。
【『合唱のためのコンポジション』シリーズなどの代表作を持つ間宮さん】
——病気をすると、「もう前のように歩けないかも」と気弱になってしまう方も多いと思いますが、間宮さんのような前例があると、「リハビリを頑張ればまた歩けるようになるんだ」と励みになりそうですね。
間宮さん:そうあってほしいですね。大事なのは諦めないことです。介護度のあるみなさんにも、頑張って元気になってほしいな、と思っています。
ウェルケアガーデン馬事公苑の取材を終えて
誰もが知る名曲を生み出してきた間宮さん。音楽について語るときの表情は明るくいきいきしていました。一時は要介護5に認定されたとは思えません。「回復したい」という気持ちに、的確なリハビリが加われば、周囲が驚くような変化が起こるのですね。
再び作曲に携われるようになったことは、ご本人だけでなく関係者やファンにとっても嬉しいことだったに違いありません。年を重ねても、自分の能力を活かして人に喜ばれる仕事をする。理想的な老後だと思いませんか?
(記事中の内容や施設に関する情報は2016年12月時点の情報です)