大阪府豊中市にある「北桜塚しんせい」。隣接する病院と連携し、サービス付き⾼齢者向け住宅として確かな介護サービスを提供してきた同施設。 2022年より医療依存度の高い方々を受け入れる専門ケア体制、いわゆる「住宅型ホスピス」として生まれ変わりました。
「住宅型ホスピス」とはどのようなものか、今後の取り組みも含め、施設長の金子摂得さんにお話を伺いました。
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医療依存度の高い方にも応えられる専門ケアを提供
―はじめに、金子さんが介護業界に入られたきっかけや、これまでのキャリアについて教えてください。
金子さん:学生時代に介護施設でボランティアとして働いて、介護の現実を目の当たりにしたのがきっかけです。人間の尊厳とは何か。人生の最後をどのように過ごせば幸福なのか。そのようなことを考え、自分も役に立てることはないかと新卒で介護関連の企業に入社しました。
その後、介護業界の中でさまざまな業種を経験しました。介護スタッフとして入居者さまの支援はもちろんのこと、スタッフを管理する仕事、施設を運営する仕事など多岐に渡ります。
「北桜塚しんせい」に来る直前は、富裕層向けの有料老人ホームでマネジャーをしていました。日本全国を見渡しても、最も高級な介護施設のひとつといえるようなところです。まさに至れり尽くせりで、何もかもが恵まれた施設でマネジメントをしていました。しかし、しばらくするうちに、ふと原点に戻りたいと思うようになりました。
そんなとき、HMS株式会社が「住居型ホスピスを導入するので責任者をやらないか」とお誘いをいただきました。非常にやりがいのある仕事であり、これまでの私の経験のすべてを活かせると思い、ぜひやってみたいとお引き受けしました。
―北桜塚しんせいのサービス内容について教えてください。
金子さん:がん末期や難病等により、日常的に医療的ケアの必要な方々を受け入れ、その人らしい生活が実現できるように介護サービスを提供しています。部屋数は26室で、一般的な介護施設に比べると小規模ですが、手厚いケアが受けられると自負しております。
スタッフは24時間体制で夜間も2名待機しています。また、介護スタッフよりも看護師の割合が多く、医療面におけるケアが充実している点も特徴です。看護師が常駐しているため、痰の吸引やインスリンの投与といった医療的ケアをいつでも行えます。さらには、訪問診療や地域の医療機関とも密に連携しているため、状況の変化にも素早い対応が可能です。
十分な数の看護師を確保するのは、どの介護施設も苦労していると思いますが、「北桜塚しんせい」には優秀なスタッフが揃っています。看護スタッフは施設専属ですので私も安心して任せることができています。
―「住宅型ホスピス」は今、介護業界でとても注目されていると聞きます。
金子さん:一般的な有料老人ホームや特別養護老人ホームでは24時間体制の医療対応が難しく、日常的に医療的ケアが必要な方々の入居を断られてしまうケースが多いと聞きます。その場合、どうしてもご家族が自宅で在宅医療を受けながら介護する選択肢にならざるを得ません。
しかし、自宅での介護は、ご本人にもご家族にも大きな負担をかけます。介護をするご家族が仕事と両立できずに介護離職してしまうケースもあります。そのような方たちを温かく迎え、かつ自分らしい生活を送れる場所であることは、超高齢化社会において重要な事業であると考えます。
意義を共有したスタッフで「その人らしい暮らし」を支える
―新しいサービスを始めるうえで、責任者としてのお仕事は多岐にわたったのではないでしょうか。
金子さん:おっしゃる通りです。まず、最初にスタッフ一人ひとりと個人面談をして、今から始めるサービスの意義や責任について、じっくりと話す場を設けました。末期がんの方や人工呼吸器等での呼吸管理が必要な方などを受け入れるわけですから、スタッフにもしっかりとした心構えが必要です。
私たちが行う「住宅型ホスピス」では、お部屋での飲食が自由だったり、ご家族の宿泊がOKだったりと、できる限り自宅に近い環境づくりを大切にしています。スタッフもその点を理解し、その人らしい時間を過ごせるようにケアを提供しています。現在は、サービスの意義を共有したスタッフ達が元気に働いてくれているので、頼もしい限りです。
また、市の福祉課や地域の医師会など、同じ地域で介護に携わる方々との連携も大切です。できる限りコミュニケーションを取り、顔を出せる機会かあればお話をして、私たちの新しいチャレンジの味方になっていただけるよう、尽力しています。
―玄関ホールにギターがありましたね。どなたが弾くのでしょうか。
金子さん:私です(笑)。若いときから音楽が好きで、介護の仕事を始めてからも、入居者さまと一緒に歌う機会をつくってきました。お正月やクリスマスのイベントでも演奏しています。
リクエストがあればお部屋に行って弾くこともあります。先日、別のお部屋のご家族が「隣の部屋からギターが聞こえてきて、すごく楽しそうだったから、ぜひこちらの部屋にも来て欲しい」と言われて、演奏しに行きました。
この施設を自分の家だと思ってくつろいで欲しいし、毎日を楽しんで欲しい。そんな思いでいますので、入居者さまが笑顔になれることが何よりも嬉しいのです。
「こうあるべき」という固定観念を捨て、入居者さまに寄り添う
―今後取り組んでいきたいことについて教えてください。
金子さん:事業がスタートしてまだ半年ほどですので、まずは入居者さまの日々の生活をより快適に過ごしていただくための取り組みを増やしていきたいと思っています。季節を感じられるイベントやレクリエーションなどもやりたいですね。
そして、長期的な面においては、豊中市に貢献できる施設にしたいと考えています。施設内には、「訪問介護ステーション まごころ」もあり、これまで地域にお住まいの高齢者の方々やそのご家族とも密接な関係を築いてきた歴史があります。
「北桜塚しんせい」の居室内は、地名の桜塚にちなんで桜の壁紙と白の壁紙のツートーンになっており、共用部は桜の葉をイメージした壁紙を使用しています。豊中市北桜塚という場所で、地域の人に愛され、地域の人に頼りにされる施設に育てていきたいと思っています。
―さいごに、金子さんにとって「理想の施設」とはどのようなものか聞かせてください。
金子さん:先日、ある入居者さまの最期をお見送りしました。お部屋では大好きなお酒を召し上がりになり、ご家族に囲まれて旅立たれました。「ここで最期を迎えられてよかった」という言葉をご家族からいただき、私たちも感謝の気持ちでいっぱいになりました。
入居者さまが生きてきた人生に心からの敬意を表し、その方がこの世に残されたものに思いを馳せる。そして私たちは、介護について、人生について「こうあるべき」という固定観念を捨て、あくまでも入居者さまのその人らしさに寄り添う。そんな施設が理想です。
これまで数十名の入居者さまを御看取りしてきましたが、死への拒絶や悲嘆、取引や無気力という心理変化を経て、さいごは全員が受容へと至っています。ここがこの施設の価値だと感じています。お一人おひとりのプロセスに寄り添い、終の棲家として心安らぐ場所を提供しながら理想を追求しつづけたいと思っています。
その実現に向けて私もスタッフも、もっともっと人間力を磨かないといけません。「ここを選んでよかった」「あなたに出会えて良かった」と言ってもらえるように、これからも努力し続けたいと思います。
(記事中のサービス内容や住宅に関する情報は2024年4月時点の情報です)