厚生年金の受給額を把握しよう|計算方法や平均額などを一挙公開
厚生年金とは公的年金制度の1つで、20~60歳未満の国民が加入している国民年金に、上乗せされて受給できる年金です。しかし、具体的な受給額や計算方法をご存じない方が多いかもしれません。
本記事では厚生年金の計算方法、平均受給額、条件別のシミュレーションなどを紹介します。悠々自適な老後を目指せるよう、厚生年金を含め年金の受給額を頭に入れたうえで、年金以外の備えやライフプランを検討してみましょう。
本記事は2022年5月11日時点の情報です。
厚生年金についておさらいしよう
まずは、厚生年金についておさらいしましょう。どんな人が加入するのか、保険料はいくらか、受給するには何年支払うかなどを説明します。
厚生年金に加入する人は?
厚生年金は、事業所単位で適用される年金です。厚生年金保険に加入している工場や会社、商店などで働く70歳未満の方が対象となります。性別や国籍、年金受給の有無は問われません。パートタイマーやアルバイトの方も条件はありますが加入可能です。
ただし、日雇いの人や働く期間が2か月以内の方、季節的な業務のみ行う方など、短期間しか働く予定がない場合は被保険者にはなりません。また、事業所の所在地が一定でない職場で働く方も対象外となっています。
厚生年金の月々の保険料は?
厚生年金の保険料は、毎月の給与と賞与に保険料率(定率)をかけて計算されます。そのため、加入者全員が一律の保険料を支払うのではなく、個人差があります。
保険料率は徐々に引き上げられてきましたが、2017年9月に引き上げが終了し、18.3%に固定されました。保険料の計算方法は、以下の通りです。
保険料の種類 | 計算式 |
---|---|
月々の保険料 | 標準報酬月額×0.183(18.3%) |
賞与の保険料 | 標準賞与額×0.183(18.3%) |
なお、保険料は全額自己負担ではなく、事業主が半額負担しています。上記の計算で導き出せる金額は満額のため、実際にご自身で支払う(給与から控除される)のは半額になります。また、標準賞与額は1か月あたり150万円が上限です。
ちなみに、厚生年金加入者は国民年金にも自動的に加入しています。そのため、厚生年金とは別に国民年金を支払う必要はありません。
厚生年金を受け取るために何年払う?
厚生年金を受け取るには、最低10年以上の支払いが必要です。厚生年金を支払う期間を「資格期間」と呼びます。資格期間とは、次の4つを合算した期間のことを指します。
【資格期間】
- 国民年金の保険料を納付した期間
- 国民年金の保険料納付が免除された期間
- 厚生年金や共済組合などに加入している期間
- 合算対象期間(カラ期間)
合算対象期間とは、学生だった時や海外に住んでいた時など、年金制度に加入していなくても支払期間としてカウントされる期間です。ただし、年金額を算定する際には、反映されません。以前は25年以上の資格期間が必要でしたが、2017年8月に短縮され、10年間支払えば受け取れるようになりました。
厚生年金の支払い開始は何歳からでもかまいません。例えば、18歳で就職した場合、すぐに支払い始めることになります。一方、終了期間は上限があり、70歳未満に設定されています。
外部サイト:厚生労働省「年金を受け取るために必要な期間が10年になりました」厚生年金の受給開始年齢は?
厚生年金の受給開始年齢は65歳からですが、申請すれば65歳より前倒しで受け取る「繰り上げ受給」、65歳以降に後ろ倒しで受け取る「繰り下げ受給」が可能です。繰り上げ受給を申請した場合、最短で60歳から受け取れます。
注意したいのが、受給額の増減です。65歳での受給を基本に、繰り上げ受給は減額、繰り下げ受給は増額されます。いつから受給を始めるか、ご自身のライフスタイルや人生設計を加味し、しっかり検討する必要があるでしょう。
年金繰り下げ受給のメリットと注意点!得をするのはどんな人?厚生年金の受給額はいくら?計算方法は?
厚生年金の受給額は、人によって金額が異なります。それぞれ給与額や加入期間に差があるため、保険料の支払額や資格期間によって左右されるのです。受給額の計算方法を知っておくと、実際にもらえる金額の目安になるでしょう。
ちなみに、厚生年金は「老齢厚生年金」として受給されます。なお、2021年度から法律の規定により、原則0.4%の引き下げとなりました。
それでは、厚生年金の受給額の計算式を紹介します。
【老齢厚生年金計算式】 ※基礎年金(国民年金)は含まない
受給額=報酬比例年金部分+経過的加算+加給年金額 |
「報酬比例年金部分」や「経過的加算」などは、なかなか聞き慣れないワードかもしれません。具体的な数値を割り出すには、それぞれ計算が必要です。ねんきん定期便が手元にある方は、用意していただくとわかりやすいです。
外部サイト:日本年金機構「ねんきん定期便」の様式と見方ガイド(令和4年度)報酬比例部分とは
報酬比例部分は、年金額を計算するうえで基礎となる金額を指します。厚生年金の加入期間や過去の報酬などによって決まる金額です。基本的に月収や賞与に定率をかけて計算するのですが、加入期間が2003年3月より前か後でかける比率が異なります。
報酬比例部分を求めるには、以下の計算式を用いてください。
【報酬比例部分の計算式】
平均標準報酬月額(平均月収とほぼ同額)×7.5/1000×加入月数(2003年3月以前) |
平均標準報酬額(賞与を含めた平均月収とほぼ同額)×5.769/1000×加入月数(2003年4月以降) |
生年月日が1946年4月1日以前の方は、報酬比例部分の乗率が異なります。また、2003年4月以降は、賞与額も加味した平均月収に定率を乗じます。平均標準報酬月額および平均標準報酬額は、ねんきん定期便に明記されているので、確認してみましょう。
経過的加算とは
経過的加算とは、「20歳未満に厚生年金に加入していた方」、または「60歳以降に厚生年金に加入していた方」を対象に加算されるお金です。
この条件に該当する方は、次の計算式で令和4年度は経過的加算額を割り出します。
【経過的加算の計算式】
経過的加算=1,621円×20歳未満および60歳以降の厚生年金加入月数 |
ただし、加入月数は合計480か月が上限となっています。また、老齢基礎年金(原則65歳以降に受け取れる国民年金)が満額の方は加算されません。
加給年金とは
加給年金は、厚生年金の加入期間が20年以上の人が65歳を迎えたとき、配偶者や原則18歳未満の子どもがいる場合に加算されます。加算するには、届け出が必要です。
ただし、届け出れば必ず加算されるとは限りません。配偶者には次の条件があります。
【加給年金受給するための配偶者の条件】
- 厚生年金の加入期間が20年に満たない
- 厚生年金の加入期間が20年以上だが、老齢厚生年金を受給していない
- 前年の収入額が850万円未満(所得の場合、655万5,000円未満)
- 年齢が65歳未満
- 障害年金を受給していない
など
これらの条件に該当する配偶者がいる方が、加算の対象となります。
厚生年金の平均年金月額
厚生年金の受給額は個人差があるといえど、平均的な受給額も気になるところではないでしょうか。厚生労働省年金局の2021年12月の報告によると、厚生年金(第1号)の平均年金月額は146,145円(2020年度末現在)です。ここ3年間の平均年金月額は、やや増加傾向にあります。
※平均年金月額には基礎年金月額(国民年金)の受給額も含まれています。
紹介した平均年金月額は総合的な平均のため、あくまで参考程度に留めておいてください。実際は、年代や性別によって平均年金月額が変わります。そのため、具体的にシミュレーションするとよりイメージしやすいでしょう。
生年金のしくみ|基礎から保険料、厚生年金基金までいくらもらえる?厚生年金の受給額をシミュレーション
ここからは、いくつかのパターンで試算した厚生年金の受給額を紹介します。厚生年金だけでなく、国民年金の受給額も併せてシミュレーションしました。ただし、あくまでシミュレーションとしての紹介になるので、参考程度に留めておいてください。
年収別
次の条件で年収別にシミュレーションした結果が、下記の表となります。
【設定条件】
- 50歳男性
- 22歳で就職(厚生年金に加入)
- 60歳で退職予定(厚生年金を脱退)
- 65歳から受給開始
- 老齢基礎年金は満額支給
なお、年収額は設定条件である50歳の男性の現時点での年収で試算しています。
年収 | 老齢厚生年金月額 | 老齢基礎年金月額 | 年金受給額(合計) |
---|---|---|---|
300万円 | 4.1万円 | 6.4万円 | 10.5万円 |
400万円 | 5.5万円 | 6.4万円 | 11.9万円 |
500万円 | 6.9万円 | 6.4万円 | 13.3万円 |
600万円 | 8.3万円 | 6.4万円 | 14.7万円 |
700万円 | 9.7万円 | 6.4万円 | 16.1万円 |
800万円 | 11万円 | 6.4万円 | 17.4万円 |
900万円 | 12.4万円 | 6.4万円 | 18.8万円 |
1,000万円 | 13.7万円 | 6.4万円 | 20.1万円 |
年代別
厚生労働省年金局の報告を元に、2020年度末の平均年金月額を年代別に紹介します。平均年金月額は、基礎年金月額も含めた金額です。
年齢 | 平均年金月額 |
---|---|
65~69歳 | 143,069円 |
70~74歳 | 145,705円 |
75~79歳 | 150,569円 |
80~84歳 | 159,529円 |
85~89歳 | 162,705円 |
90歳以上 | 161,506円 |
年齢が上がるにつれ、平均年金月額も増額していることがわかります。
会社員の夫婦の場合
会社員同士の夫婦で、年齢や就業年数、年収を次の通りに仮定しましょう。
- 夫
- ・50歳
・年収500万円
・22~60歳まで就業
・65歳から受給開始 - 妻
- ・50歳
・年収450万円
・20~60歳まで就業
・65歳から受給
これらの条件で、老齢年金月額と老齢基礎年金月額をシミュレーションしてみます。
老齢厚生年金月額 | 老齢基礎年金月額 | 年金受給額(合計) | |
---|---|---|---|
夫 | 6.9万円 | 6.4万円 | 13.3万円 |
妻 | 7万円 | 6.4万円 | 13.4万円 |
合計 | 13.9万円 | 12.8万円 | 26.7万円 |
つまり、夫婦ともに会社員の場合、年金の合計受給額はおよそ26.7万円となります。
自営業の夫婦の場合
自営業で厚生年金に加入していないケースでは、老齢厚生年金は受け取れません。ただし、老齢基礎年金は受け取れます。老齢基礎年金が満額(およそ6.4万円)支給される場合、夫婦2人分は以下の金額です。
【6.4万円+6.4万円=12.8万円】
厚生年金未加入である自営業の夫婦の場合、老齢厚生年金は0円ですが、老齢基礎年金の2人分(およそ12.8万円)が支給されます。
会社員×専業主婦(夫)の夫婦の場合
会社員で年収が500万円の場合、年金受給額は13.3万円です。専業主婦は厚生年金には加入していないので、老齢基礎年金のみが支給されます。老齢基礎年金が満額(およそ6.4万円)支給されると仮定して、シミュレーションしてみましょう。
【13.3万円+6.4万円=19.7万円】
会社員と専業主婦の夫婦では、およそ19.7円が支給されるという計算になります。
公的年金シミュレーターが開設
厚生年金の受給額の計算は、複雑です。年収や年齢、資格期間など考慮しなければならないことが多く、分かりにくいと感じてしまうかもしれません。そんなときは、年金を試算するシミュレーターを活用するのもひとつの手です。
2022年4月25日から、厚生労働省で公的年金シミュレーターが試験運用開始されました。ねんきん定期便があれば簡単に試算可能です。より詳しい受給額を把握したい方や計算が難しい方は、シミュレーターを活用してみてください。
外部リンク:厚生労働省 公的年金シミュレーター厚生年金以外に老後にもらえるお金は?
ここまでは、厚生年金の計算方法や受給額について解説してきました。しかし、老後に受け取れるお金は厚生年金だけではありません。ほかにどのようなお金がもらえるのか、以下にピックアップしてみました。
【老後にもらえるお金の種類】
- 国民年金(公的年金)
- 共済年金(公的年金)
- 企業年金(私的年金)
- 国民年金基金(私的年金)
- 個人年金保険(私的年金)
- iDeco(私的年金)
公的年金は、国が管理・運営をしています。私的年金は、個人で積み立てて老後に備える年金です。
老後にいくらもらえるかは、厚生年金の受給額だけでなく、全体的な金額で把握しておきましょう。公的年金だけでは老後に不安がある方は、私的年金をうまく組み合わせると心強いですよ。
では、それぞれの年金の概要を説明します。
国民年金(公的年金)
国民年金は、日本国内在住の20~60歳のすべての人が加入する年金です。国民年金を支払うことで、老齢や障害、または死亡により基礎年金として受給できます。
前述しましたが、厚生年金に加入している方は自動的に国民年金にも加入しています。
国民年金とは|免除・追納・独自の制度共済年金(公的年金)
共済年金は、公務員や教員などが加盟する年金でしたが、2015年10月に厚生年金に一元化され、公務員や教員も厚生年金の被保険者となりました。
公務員や教員は2015年9月以前は共済年金に加入していましたが、2015年10月以降は厚生年金に加入することとなり、2015年10月以降は厚生年金の保険料率(18.3%)に統一されています。
企業年金(私的年金)
企業年金とは、公的年金の上乗せとして企業独自で設けている年金制度です。具体的な制度の内容は企業ごと異なり、「確定給付企業年金」や「企業型確定拠出年金」など、いくつか種類があります。
企業の規模の大きさに比例して、企業年金の実施率が高くなっています。
国民年金基金(私的年金)
国民年金基金とは、厚生年金に加入できない第1号の被保険者が任意で加入できる制度です。
シミュレーションでもお伝えしたように、自営業やフリーランスの方は厚生年金に加入できず、国民年金しか加入できません。したがって、厚生年金加入者と比べ、老後に受け取れる金額が少なくなってしまうのです。この差を埋めるために、国民年金基金が創設されました。
国民年金基金は加入口数や給付の型を選択でき、加入口数によって受給額が決まります。
個人年金保険(私的年金)
個人年金保険とは、保険会社が取り扱う商品のひとつで、個人が任意で加入します。公的年金だけでは不安がある場合、個人年金保険に入れば将来の備えとなるのです。
個人年金保険の特徴は、契約時に設定した年齢から受け取れるところにあります。貯蓄が苦手な方でも、個人年金保険なら計画的に貯められるでしょう。
iDeCo(私的年金)
個人型確定拠出年金のiDecoは、ご自身で設定した掛金を積み立て、投資信託や保険商品などで運用し、60歳以降に受け取れる年金です。掛金および運用で得た利益の合計が受給額となります。iDecoは、証券会社や銀行などで取り扱っているため、それぞれ手数料や取り扱っている運用商品が異なります。
注意したいのが、受給開始年齢です。原則的に、60歳に到達しないと受け取れません。また10年以上の加入期間も必要で、60歳の時点で10年に満たない場合は、支給開始年齢が後ろ倒しになります。
50代からの資産形成におすすめのiDeCo・NISAとは?まとめ
今回のコラムでは、厚生年金の受給額や計算方法をメインにお伝えしました。
厚生年金の受給額は、支払った保険料や資格期間などを考慮し、少し複雑な計算をしなければなりません。しかし、大体いくらもらえるのかを把握しておくと、老後にもらえるお金の見通しが立てやすいでしょう。厚生年金や国民年金だけでは不安な場合、私的年金に加入するのもひとつの方法です。
老後に備えるためにも、厚生年金をはじめ将来もらえるお金の知識を正しく持ち、家族や周りの人と話し合ってみましょう。
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この記事の制作者
監修者:武田 拓也(ファイナンシャルプランナー(AFP)、社会福祉士)
株式会社FAMORE代表取締役
有料老人ホームの管理者、外資系金融機関を経て、真にお客様のためになる提案をするため独立型FP事務所を開設。NPO理事として地域福祉の取り組みを実施している。
NPO法人あかし福祉士ネットワーク 事務局長
兵庫県社会福祉士会東播ブロック 理事長