年金の役割~自分らしく生きるために正しく理解する公的年金保険 第1回~

LIFULL人生設計のサイトをご覧いただき、ありがとうございます。ファイナンシャル・プランナーの高橋義憲と申します。

こちらの記事では、皆さまの老後の生活設計の土台となる公的年金について解説させていただきます。

公的年金に関しては、誤解を招くような情報がメディア、政治家、有識者、そして時には学者からも発信され、皆さんの老後の生活に対する不安を煽っていることが少なくありません。

かく言う私も、少し前までは公的年金について誤解していましたが、年金事務所の現場で仕事をしたことをきっかけに、制度についてよく調べ、学んでいくと、それまでの見方は一変しました。

公的年金制度は、私たちの生活におけるリスクに対して、社会全体の支え合いで備えることによって、私たちの将来に対する不安を取り除き、明るく、前向きに暮らしていくことができるようにしてくれる仕組みなのです。

これから3回にわたる記事の中で、公的年金制度について正しく理解し、老後の生活設計に活かしてもらえるようなお話をしていきたいと思いますので、楽しみにしてください。

公的年金は国民が互いに支え合う保険

それでは、まず公的年金の役割について確認しましょう。公的年金制度を定めているのは2つの法律で、「国民年金法」と「厚生年金保険法」です。

それぞれの法律において、制度の目的を表している最初の条文、「第1条」を見てみましょう。

厚生年金保険法 第一条
この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
国民年金法 第一条
国民年金制度は、日本国憲法第二十五条第二項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。

厚生年金保険法では、「労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い」とありますね。この中で、障害又は死亡についての保険給付は、イメージしやすいと思いますが、老齢はどうでしょう。老齢に対する保険給付とは、以下のように解釈できます。

  • 年老いて働けなくなり、収入が減ってしまうことに対する所得保障
  • 保障が一生続くことによる、長生きに対する備え

公的年金は、積み立ての金融商品ではなく、生活のリスクに対する「保障」や「備え」を提供する保険であるというところがポイントです。したがって、正確には「公的年金保険」と呼ぶべきですね。記事の中では、「公的年金」と表記しますが、「公的年金保険」であるということです。

公的年金は共助の仕組み

そして、保険であることのもう1つのポイントは、国民年金法にある「老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止」という部分に表されています。

公的年金は、国民が保険料を出し合って、それを困っている人に渡し助け合う、共助の仕組みです。国が何か施しをしてくれる公助とは区別されるものです。

公的年金をはじめとする社会保険は、「共助」によって貧困に陥ることを未然に防ぐ「防貧機能」を有するもので、生活保護は、「公助」によって貧困に陥ってしまった人を救う「救貧機能」を有するもの、と区別して理解できます。

私たちは、この社会の助け合いの仕組みを上手に活かして老後の生活設計をし、かつ、この仕組みを持続可能なものとして将来世代に引き継いでいく責任があるでしょう。

公的年金は2階建て

公的年金制度の理念について理解したら、次は基本的な仕組みを見ていきましょう。

下の図は、年金制度の体系を表したものです。公的年金は、国民年金と厚生年金の2階建てとなっていて、それに企業年金などの私的年金が上乗せされています。

私たちは、現役時代の就労の形態によって、以下のとおり、国民年金の第1号~第3号被保険者となり、それぞれの被保険者期間に納めた保険料に応じて、年金の給付額が計算される仕組みになっています。

第1号被保険者
国内に居住する20歳以上60歳未満の者で、第2号被保険者及び第3号被保険者のいずれにも該当しない者
第2号被保険者
厚生年金に加入している65歳未満の者
第3号被保険者
第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の者

図の中では、2020年3月末時点における第1号~第3号被保険者の数が示されていますが、通常は、現役時代の働き方によって各種別の間を移動することになります。そして、多くの方は、大なり小なり会社勤めで第2号被保険者の期間があるでしょうから、公的年金は2階建てということになります。

この記事は、これからのシニアライフに向けての生活設計を真剣に検討しようという方々を対象としてイメージしていますが、そんな方に関しては、次のようなアドバイスを差し上げたいと思います。

・図を見て分かるとおり、厚生年金に加入していると2階建ての年金を受け取れるので、老後の備えとしては有効です。国は、厚生年金の加入対象をパートやアルバイトの短時間労働者にも拡大していく予定なので、60歳以降も自分にあった働き方で、できるだけ長く厚生年金に加入することがお勧めです。

・60歳以降、厚生年金に加入しない場合は、年金額を増やすために国民年金に任意加入することができます。その際には、付加保険料を併せて納めることをお勧めします。

図の中で、赤字で表示された「代行部分」については、後ほど詳しく説明します。

老齢年金は何歳から受け取れるか

年金の受け取りが始まる原則の年齢を、「支給開始年齢」といいます。国民年金の支給開始年齢は 65 歳ですが、厚生年金の支給開始年齢は、元々は60歳でしたが、それを65歳に引き上げているところです。

支給開始年齢は、男女別に生年月日で定められていて、これから年金を受け取る方については、以下の図のようになっています。

ご覧のとおり、黄色の報酬比例部分は生年月日の若い方ほど支給開始年齢が引き上げられていて、男性では昭和36年4月2日以降、女性では昭和41年4月2日以降に生まれた方は、老齢基礎年金、老齢厚生年金共に65歳が支給開始年齢となります。

年金を受給するためには、保険料を納めた月数と保険料の免除を受けた月数の合計(受給資格期間)が、最低120ヶ月必要です。そして、65歳前の報酬比例部分を受給するためには、厚生年金の加入期間が12ヶ月以上必要です。受給資格期間等は、この後説明する「ねんきん定期便」で確認できます。

ちなみに、現在65歳に引き上げ中である支給開始年齢が、少子高齢化のためにさらに引き上げられる、という話をよく耳にしますが、支給開始年齢のさらなる引き上げはありません!

理由は、少子高齢化に対応するための給付水準を調整する仕組みとして、「マクロ経済スライド」が導入されているからです。詳しい話は、別の機会にしますが、「支給開始年齢が引き上げられるので 70 歳まで年金がもらえない」ということはありませんので、安心して下さい。

年金請求手続きの流れ

支給開始年齢を迎える3ヶ月前になると、日本年金機構(以下、機構)から請求手続きの案内が郵送されるので、それに従って請求の手続きを行います。まだ、働いていて、今すぐ年金が無くても生活できるという方でも、遅らせずに手続きをすることをお勧めします。

また、65歳前に支給される報酬比例部分については、受給開始を繰り下げて増額することはできないので、注意が必要です。

現在だと、65歳前の報酬比例部分の請求手続きをし、年金の受け取りを開始した方には、65歳の誕生月になると、また機構からの案内が郵送されます。

これは、65歳からの年金についての受け取り方、つまり、そのまま65歳から受け取るのか、繰り下げるために受け取りを待つのか、ということの意思確認をするためです。この点については、回を改めて詳しくお話をしたいと思います。

ねんきん定期便を確認しよう

ここまで、公的年金について制度の理念と、基本的なしくみについてお話してきましたが、皆さんの一番の関心事は、「自分の年金はいくらなのか?」ということだと思います。

皆さんそれぞれの年金額を確認するためには、毎年誕生月に機構から送られている「ねんきん定期便」(以下、定期便)をご覧になってください。

定期便は、通常ハガキで送られてきますが、節目の年齢(35歳、45歳、59歳)には封書で送られてきます。また、50歳未満と50歳以上で記載内容が異なります。

下は、50歳以上の方に送られる定期便の裏面です。記載内容について簡単に説明します。

【A】これまでの年金加入期間
先に説明したとおり、老齢年金を受け取るためには、太枠で囲まれた受給資格期間が120ヶ月以上必要です。加入期間に漏れや誤りがないか確認しましょう。例えば、結婚する前に少し会社に勤めていたけれど、厚生年金の加入期間がない、というような場合は、年金事務所で確認をされた方が良いかもしれません。
【B】老齢年金の種類と見込額
年金の見込額は、現在の加入条件が60歳まで継続すると仮定して計算されています。左側の3つの欄には「特別支給の老齢厚生年金」と記載されています。これは、先程説明した65歳前に支給される報酬比例部分の見込額です。

記載する欄が3つあるのは、女性の場合、公務員共済と私学共済に係る年金の支給開始年齢が男性と同じなので、一般厚生年金と共済の両方に加入していた場合は、それぞれの支給開始年齢が異なるためだからです。

一番右側の欄には、65歳支給開始の老齢基礎年金と老齢厚生年金の見込額が記載されています。それぞれの年金額は、以下のようにして計算されています。

老齢基礎年金
20歳から60歳になるまでの間で、第1号被保険者として保険料を納付した月数と第2号、第3号被保険者であった月数に応じて計算される。最大で780,900円(令和3年度の額)
老齢厚生年金
厚生年金加入期間中の報酬額と加入月数によって計算される。

なお、定期便の見込額には、配偶者・子の加給年金や振替加算は含まれていません。

また、50歳未満の方に送られる定期便には、見込額ではなく、それまでの加入実績に応じた年金額が記載されています。年金額が少ないと驚かないでくださいね。

厚生年金基金の代行部分とは

見込額を記載した表の下に※の注釈がついていて、「一般厚生年金期間の報酬比例部分には、厚生年金基金の代行部分を含んでいます」(定期便見本に赤線で表示)と記載されています。これは、令和3年度分から変更された部分で、それまでは厚生年金基金の代行部分は含まれていませんでした。

厚生年金基金とは、企業年金の一形態で、国に納める厚生年金保険料の一部を独自に運用することによって、国の厚生年金(代行部分)にプラスアルファの上乗せをして加入者である従業員に支給することを目的として、職域単位で設立された制度です。

皆さんの中には、昔勤務していた会社で厚生年金基金に加入していた方は結構いらっしゃると思いますが、そのような方には、代行部分が企業年金連合会というところから支給される場合があります。

代行部分がある場合は、企業年金連合会に一度問合せて確認をしておくとよいでしょう。その理由は、以下のとおりです。

  • 連合会に登録されている住所が古いため、いざ代行部分の支給開始年齢になった時に手続きの案内が来ないことがある。
  • 基金によっては、代行部分にプラスアルファの上乗せの給付の可能性があるので、老後の生活設計のために事前に把握しておくとよい。

ただ、定期便の見込み額に代行部分が含まれるようになっても、その有無までは定期便では分かりません。そこで、代行部分の有無を確認するためには、「ねんきんネット」を利用する必要があります。

ねんきんネットにユーザー登録をしていない場合は、定期便に記載されているアクセスキーを使ってねんきんネットに登録すると、代行部分の有無を確認できます。

ねんきんネットは、代行部分を確認するだけでなく、様々な条件を入れてシミュレーションすることが可能です。

定期便は、60歳まで今と同じように就労する前提で見込み額を計算していますが、今は、60歳以降も就労を続ける方も多いので、そのような条件を入れた上で、年金の見込額を試算した方が、老後の生活設計のためには有効でしょう。

まとめ

「自分らしく生きるために正しく理解する公的年金保険」の第1回は、公的年金制度について、その理念と基本的な仕組み、支給開始年齢と年金の見込額について説明しました。主なポイントをまとめると以下のとおりです。

  • 公的年金は、私たち国民の支え合いによって生活のリスクに備える保険です。積立の金融商品とは異なるものなので、誤解なさらないようにしてください。
  • 老齢年金の支給開始年齢は、60歳から 65歳に引上げ中で、生年月日によって支給開始年齢が決められています。また、これから将来、支給開始年齢が65歳からさらに引き上げられることはありません。
  • 50歳以上の方は、ねんきん定期便で見込額を確認しましょう。さらに、ねんきんネットを利用して、60歳以降も働く場合の見込額や厚生年金基金の代行部分の有無について確認されることをお勧めします。

それでは、「自分らしく生きるために、正しく理解する公的年金保険」の第2回もお楽しみに!

この記事の制作者

高橋 義憲

著者:高橋 義憲(ファイナンシャルプランナー)

金融機関で25年間、主に内部管理業務に従事した後、ファイナンシャル・プランナー(FP)として独立。現在は、FPとしての活動と併せて、年金事務所での相談業務に従事。

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