【高齢期の安定収入】マイホーム借り上げ制度の特徴
今回は、高齢期の資産活用術の1つの方法として、一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)の「マイホーム借り上げ制度」を取り上げます。
その特徴や利用できる人や物件の詳細、メリットや注意点。また、リバースモーゲージやリースバックとの違いや、この制度がどんな人に向くのかなどを見ておきましょう。
この制度の特徴
自宅を活用した老後資金・介護資金作りの1つの方法として、一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)の「マイホーム借り上げ制度」があります。
高齢期の資産活用法としても注目
この制度を利用すると、50歳以上の人のマイホームをJTIが借上げて、子育て世帯等に貸出します。国の基金によるサポートがあり、安定した家賃収入が保証される仕組みです。
JTIは、協賛企業等からの基金や所定の収益により運営されていますが、万が一の場合に備え、国の予算で高齢者住宅財団に債務保証基金が設定されていて、基金の登録事業者になっています。
これにより、自宅を売却することなく、得られる家賃収入を住みかえや老後資金・介護資金として活用することができます。
空室でも一定額の保障賃料を受け取れる
JTIが借上げて貸出すしくみのため、オーナーが入居者と直接関わることはありません。家賃の未払いなど、入居者とのトラブルの心配もありません。
しかも、1人目が入居した後は、空室が発生しても規定の家賃が保証されます。
住宅が賃貸可能な状態である限り、借上げは継続されます。空室時保証賃料は原則として毎年見直され、変更があった場合は書面でオーナーに通知されます。
ちなみに、この制度は定期借家契約のため、入居者が居座ったり、立ち退き料を請求するようなことはありません。定期借家契約終了時には、マイホームに戻ることも、売却することも可能です。
また、必要があれば、賃料収入で返済するJTI提携ローンを利用することも可能です。
退職後であっても、賃料収入を担保にJTI協賛金融機関の提携ローンを利用できます。
住み替えるための住宅購入資金に充てたり、最低家賃保証型を利用する場合は用途が自由なフリーローンとして利用できます。
マイホーム借り上げ制度を利用できる人
この制度を利用できるのは、日本に居住する50歳以上の人(原則、国籍問わず)や、海外に居住する50歳以上の日本人と、それぞれの「共同生活者」1人までです。
「共同生活者」は、オーナーの配偶者や内縁関係、契約時に「特定同居人」として指定した人です。
配偶者等の年齢は50歳以下でも問題はありませんが、オーナーが亡くなった時点で50歳未満の場合は、50歳に達するまで家賃保証を受けられないことがあります。
なお、下記の場合は、50歳未満でもマイホーム借上げ制度を利用できます。
急な減収で住宅ローンの返済に困っている、住宅が定期借地に建てられているなど、特例に該当する場合
新築購入時にJTIから「かせるストック」(移住・住みかえ支援適合住宅)の認定を受けた住宅(耐久・耐震性基準を満たし、長期にわたるメンテナンス体制を備えた新築住宅)
気になるメリット・デメリット
ここで、「マイホーム借り上げ制度」のメリット・デメリットを整理します。
まずはメリットですが、次のような項目を挙げることができます。
メリット
- 空室が発生しても賃料が保証され、終身の家賃収入が見込める
- 3年ごとに解約の機会がある
- オーナーは入居者と直接かかわることがなく、家賃の未払いなどトラブルの心配がない
- オーナーは家や土地を売却せずに収入を得られる
- 収入減などで住宅ローンの返済が一時的に厳しくなった人が利用する場合、年齢制限(50歳以上)は問われない
デメリット
- 賃料は近隣相場よりも低くなることがある
- 耐震基準を満たさない場合は補強工事を行い、別途工事費がかかる場合がある
- 入居者による一定のリフォームを認める必要がある
このように、利用を検討する際には、制度についてしっかり把握しておく必要があります。
自己所有の戸建て住宅・マンションが対象
対象となる住宅は、一戸建て・マンションとも可能で、現在居住しいるかどうかは問われません。
オーナーが単独所有または共同所有する日本国内にある住宅であり、下記の条件を満たす必要があります。
- 共同所有の場合は、全員が制度利用を承諾し契約の際に当事者になること
- 土地について所有権または借地権、長期の定期借地権などがあること
- 現在、オーナー以外が住んでいる場合、制度利用を申し込む時点で明け渡しが完了していること
- JTIが指定する業者の建物診断をオーナーの負担で受けること(1981年6月の新耐震基準以前の住宅は「耐震診断」も受ける)
- 建物が事業用でないこと(住宅の一部が店舗や事務所である場合や、賃貸アパートや賃貸併用住宅の場合、賃貸部分は原則、借り上げの対象とはならない)
- 建物が建築基準法や建築基準関係規定に違反していないこと
なお、電気・ガス・水道が独立していて、専用の入口・トイレ・風呂など居住に必要な設備があれば、二世帯住宅の一世帯分だけを貸すということも可能です。
家賃は協賛会社やハウジングプランナーの査定で決定
賃料は、地域の賃貸相場や建物の状況等から判断して、JTI協賛会社あるいはハウジングライフプランナーが査定、JTIが承認し決定します。
賃料が決定すると、そこから15%(5%は機構の物件を管理する協賛事業者への管理費用、10%は空室時の保証準備積立と機構の運営費)を差し引いた額がオーナーの手取りになります。
契約形態は「終身型」と「期間指定型」の2種類
「マイホーム借上げ制度」には、終身型と期間指定型という2つの契約形態があります。
「終身型」は、住宅が賃貸可能な状態である限り、オーナーと共同生活者の両方が亡くなるまで借上げを受けられます。
3年間の定期借家契約のため、自宅として再度居住したくなった場合は、期間満了時に入居者に退出してもらえば戻ることも可能です。
もう1つの「期間指定型」は、例えば、海外に住む予定の10年間だけなど、あらかじめオーナーが指定された期間での借上げを受けることができます。
この期間指定の場合、原則として期間中の中途解約はできません。
ハウジングライフプランナーが利用をサポート
制度利用にあたっては、ハウジングライフプランナーやJTI職員が制度について詳しい説明やカウンセリングを行います。
ハウジングライフプランナーとは、高齢者住宅財団が認める移住・住みかえに関連する様々な分野の講習を受講後、考査に合格し、移住・住みかえ支援機構に登録をした人です。
制度の説明だけに限らず、移住・住みかえ先の情報や、住みかえ先の住宅、生活資金のプランニング、公的支援についてのアドバイス、現在の家の修繕・リフォームについてなど、移住・住みかえ全般に対するカウンセリングを行います。
リバースモーゲージやリースバックとの違い
同じく持ち家を活用して老後資金を捻出する、リバースモーゲージやリースバックとの違いについて考えてみましょう。
リバースモーゲージやリースバックは、金融機関やリースバック会社によってサービスが異なる点にも注意が必要です。
主な違いを整理したものが下記表です。三者を比較すると所有権の違いが明確です。
リバースモーゲージとマイホーム借り上げ制度における不動産の所有者は本人である一方、リースバックでは自宅を売却するので、所有権もリースバック会社に移ります。
また、制度の対象となる年齢も、リバースモーゲージでは55歳、60歳、65歳以上など金融機関によって異なるのに対し、マイホーム借り上げ制度は50歳以上、リースバックでは特に年齢の制限はありません。
対象物件では、それぞれに条件がありますが、マイホーム借り上げ制度が比較的ゆるやかな印象です。
名称 | リバースモーゲージ(民間) | リースバック | マイホーム借り上げ制度 |
---|---|---|---|
サービス提供 | 金融機関 | リースバック会社 | 移住・住みかえ支援機構 |
仕組み |
自宅に住み続けながら、自宅を担保に一時金や月々の生活費を借りられる仕組み |
自宅をリースバック会社へ売却する一方、期間を設定してリース契約を結び、買主にリース料を支払って自宅に住み続ける | JTIが借上げて子育て世帯等に貸出す。国の基金によるサポートがあり、安定した家賃収入が保証される仕組み |
不動産の所有者 | 本人 | リースバック会社 | 本人 |
対象者の年齢 | 55歳・60歳・65歳以上など 金融機関により異なる |
特になし | 50歳以上 |
対象物件 | 金融機関で異なるが、土地評価が一定以上の戸建てが中心。要件が合えば、マンションが可能な場合もある | 物件の評価額が「500万円以上」や「4,000万円以上」など設定されている会社もある | 条件が合えば、戸建て・マンション ともに対象となる |
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マイホーム借り上げ制度はこんな人に向いている
では、マイホーム借り上げ制度はどのような人に向くでしょうか。具体的な例を想定してみましょう。
こんな人におすすめ
- 介護施設等に住み替える際にできるだけ自宅を売却したくない人
- 安定的な家賃収入を、住み替え資金や老後資金・介護資金に充てたい人
- もしかしたらまた自宅に住む可能性がある人(終身型は3年ごとに解約の機会がある)
- 家は子どもたちに贈与したい人
- 収入減で住宅ローンの返済が一時的に厳しくなった人
このほか、子育て世帯をサポートすることに賛同できる人であればなお向くといえそうです。
おわりに
マイホーム借り上げ制度は、相場より家賃収入は低めになるものの、専門知識がなくても賃貸事業ができ、しかも公的な保証があることで安定的に収入が得られるメリットがあります。
住み替えをするものの、自宅を手放したくない人には有効な選択肢の1つといえそうです。
新築購入時にJTIから「かせるストック」の認定を受けておけば、50歳未満でも制度を利用することもできます。このように、購入時から物件に付加価値を付けておくのも一法だと思います。
この記事の制作者
著者:豊田 眞弓(ファイナンシャルプランナー)
住宅ローンアドバイザー、相続診断士、ハッピーエンディングプランナー
FPラウンジ(http://happy-fp.com/)代表、小田原短期大学非常勤講師
マネー誌ライター等を経て、94年に独立。現在は個人相談のほか、研修講師、マネーコラムの寄稿を行う。6カ月かけて家計を見直す「家計ブートキャンプ」も好評。「50代・家計見直し術」(実務教育出版)など著書多数。座右の銘は「今日も未来もハッピーに!」