【ケアマネが解説】母を介護する息子が最初につまずくこと3つ
介護は突然やってきます。「母親にはいつまでも元気でいてほしい」と思っていても、病気やケガなどが原因で体調が変化します。すると、自分一人では日常生活を送ることが難しくなり、介護が必要となるのです。
そんな時、息子が介護するうえで知っておいたほうがよいこと。そして、どのようなことが待ち受けているのかご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
1.ジェンダー(男女差)の違いからくるつまずき
介護をする上では、ジェンダー(男女差)の違いからくる、戸惑いやつまずきに直面することになります。
女性は化粧、イヤリングなどの装飾品を身に着け、男性はスーツ、ネクタイなどと生活様式が異なることがほとんどです。身なりの整え方から違いがあるのですから、介護の場面についても、違いがあることを理解する必要があります。
では、母親と息子の介護において、その男女差からくるつまずきとは何か見ていきましょう。
母親が必要とするものを、どう選べばよいのかわからない
息子が、母親から「パジャマを買ってきて」といわれたとします。パッとどんな形状のものがよいのか、どんな柄や色がいいのか、そもそも女性用のパジャマについて、どのようなものあがあるのか想像できますか?
ほとんどの男性は、よくわからず、つまずくことが多い場面です。
写真などを見ながらどのようなものがほしいのかを母親に聞いて、息子は、買い物に出かけます。この後に、さらに戸惑うことが待っています。
それは、周りの目です。男性が一人で女性の婦人服売り場にいると「周りから変な目で見られているのではないか」という思いに襲われて、冷静に母親に似合う服を選ぶことができない状況になります。
さらに悩まされるのは、母親に「下着を買ってきて」といわれた場合です。服ですら周りの目が気になってしまう状況で、下着売り場に行くとなると、さらに周りからの目を気にせずにはいられないでしょう。
着替え・トイレ・入浴の手伝い
やっとの思いで、パジャマ・下着を買ってくることができました。
次は、買ってきたものに着替えるため、入浴を手伝うことにしました。「お母さん、お風呂に入るのを手伝うよ」と声をかける息子。
しかし、母親からは「自分でできるから大丈夫」と断られてしまいます。息子としては、母親一人で大丈夫か心配な気持ちに襲われます。
お風呂の外で聞き耳を立てて様子をうかがい、時に「お母さん、大丈夫?」と声をかけることしかできません。
こういったことは、着替えやトイレの介護の時にも多くみられます。
男性、そして息子に自分の身体の介護をさせるのは申し訳ない、恥ずかしいと母親は思っています。
そのため、無理に介護を手伝うのではなく、母親の思いを尊重する必要があります。そして、お風呂の外からの声掛けや背中を洗ってあげるといった部分から手伝うことで、少しずつ介護を任せてもらえるようになります。
ジェンダーの違いに役立つ介護のコツ~対処法~
- 母親の買い物に行くときに、どのようなものを選べばよいかわからない場合や、女性服売り場に行くのが恥ずかしいという場合には、店員に声をかけてみましょう。
事情を話し、必要なものを伝えることで、一緒に相談しながら服選びをすることができます。男性一人で婦人服売り場を見て歩くより、店員と一緒であれば気が楽になります。はじめての介護はわからないことだらけですので、人に聞くことも大事なことです。
2.介護する人の生活環境の変化によるつまずき
介護生活が始まると、「出勤して、仕事終わりに居酒屋へ飲みに行き、帰宅する」といったそれまでの生活から一変します。今まで自分のことだけすればよかった家事も、母親の代わりにしなければなりません。
具体的にどのようなことが待っているのでしょうか。
仕事と介護は両立できるのか
朝、母親の介護とともに出勤準備をします。母親の着替え、朝・昼の食事の準備などをしてから家を出ます。
日中は、デイサービスなどを利用することで母親を介護してくれます。この時間は安心して仕事にも集中できるでしょう。
ただ、デイサービスも、夕方4時ぐらいまでしか利用できないところが大半を占めています。そのため、あまり残業もできず定時には退社することとなり、帰宅するや否や今度は夕食の支度が待っています。
夕食後は、母親がベッドで横になるところまで介護をして、やっと自分の時間となるのです。
このように、考えただけでも目まぐるしい毎日だとご想像いただけたと思います。
そういった生活の中で、普段とは違うことが起きます。それは母親が風邪などをひいて体調を崩した場合です。
デイサービスなどの介護サービスでは治療はしてくれません。発熱があるときなどは利用が難しいデイサービスがほとんどです。
そうなると、急遽仕事を休み母親の看病にあたることになるでしょう。
仕事と介護を両立する介護のコツ~対処法~
- このような場合を考えると、仕事と介護の両立には、職場の理解・協力がとても大事になります。介護していることを職場に隠さずに、話しておくことも大事なポイントです。
「介護離職」が社会問題となっており、企業での取り組みを行っているところも増えてきました。以前に比べると、介護に対する企業の理解もされてきていますので、事情を会社に相談しておくことをオススメします。
3.介護の「頑張りすぎ」によるつまづき
男性の多くは、仕事を自らの生活の中心に置く方が多いのではないでしょうか。そのため、もしも仕事と介護が両立できなくなり、仕事を辞めざるを得なくなった場合、介護を次の仕事として生活の中心に置く方がいらっしゃいます。
このように介護を第2の仕事とした場合、どのようなことが待っているでしょうか。
母親の介護に苦心するAさん(55歳)の事例をご紹介します。
介護は頑張りすぎてはいけない
母親の介護がより必要になり、仕事を辞めざるをえなくなってしまった息子のAさん。
その代わりとして介護を一生懸命に行うようになっていきました。日々の介護の様子をパソコンに記録し、リハビリの様子や、皮膚が赤くなって治療が必要な様子をスマートフォンで動画や写真を撮り、様子を残すようになりました。
Aさんは次第に「完璧な介護」を求めるようになり、手を抜くことができなくなってしまったのです。その結果、どんなに眠くても、どんなに腰が痛くても、介護を優先するようになっていきます。
そんな時、次のようなことが起きます。
ある日母親は、このように言いました。「いつも同じようなものばかり着ているから、この服は着たくない」
息子が用意した服を着たくないと訴えたのです。
完璧な介護を続けてきたことで、心に余裕のなくなったAさん。母親の言動に憤り、感情のコントロールができず、ついに怒ってしまいます。
介護に「完璧」はない
Aさんは完璧な介護を追求するあまり、疲れがたまっていることにも気がつかなくなり、母親にイラっとすることも増えてきました。
そんな時、母親の言葉にまた怒りがこみあげ、思わず叩いてしまったのです。
初めて母親に手をあげてしまったAさんは、戸惑いと「なんてことをしてしまったんだ」と自分を責めるようになります。介護を始めるときに、まさか母親に手をあげてしまうなどとは、想像もつかなかったことでしょう。
虐待に占める息子の割合は最も多い
また、厚労省の調査(※)によると、高齢者虐待の続柄で最も多いのは「息子(39.9%)」です。次いで「夫(22.4%)」、「娘(17.8%)」の順になっています。
不慣れな家事や介護を行いながら、仕事との両立で苦悩し、誰にも相談できないという男性は多いのではないでしょうか。
そうした状況が長期化することで、心身共に追い込まれ虐待へ発展してしまうケースが考えられます。
※令和2年度:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果
頑張りすぎない介護のコツ~対処法~
- 介護に完璧はありません。完璧な介護とは何でしょうか。それは母親が幸せと感じることであり、介護の内容ではありません。
完璧な介護とは、介護している人がどう感じたかを表現しているように思います。もしかしたら介護している人の自己満足かもしれません。介護している母親が笑って過ごしていれば、もう充分、素敵な介護をしているとといえるのではないでしょうか。
また、介護は長期間になることがありますので、「良い加減にいいかげん」が一番です。手を抜くところは抜いて、しっかりやるところはしっかりやるといった、メリハリを上手に使いわけましょう。
介護のコツは「周囲の助けを借りること」
ここまで、母親を介護することになった息子がつまずく場面についてご紹介してきました。
もし、お一人で介護をしようと考えている方がいるとしたら、身体的・心理的など様々な負担が待っています。
一人で介護するのではなく、兄弟、配偶者などの協力者がいると助かることが多くあるのです。
たとえ母親の介護を兄弟、配偶者にお願いできなかったとしても、介護で疲れた愚痴を聞いてもらうだけでも、心強く感じるでしょう。
兄弟など、ご親戚がいない方は、地域の介護相談を聞いてくれてる地域包括支援センターやケアマネジャーに相談するなど、介護の相談窓口へ足を運んでみましょう。話をしっかり聞いてくださり、助言などもしていただけます。
初めての介護生活では、様々なことにつまずきます。介護サービスを上手に利用し、一人で抱え込まず、家族や地域の力も借りながら介護することを強くお勧めします。
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この記事の制作者
著者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)
株式会社HOPE 代表取締役
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。