【ケアマネが解説】父を介護する娘|最初につまずくこと3つ
同居する父親が、病気やケガをきっかけに要介護状態になってしまう場合があります。
そんな時、娘として介護するうえで、どのようなことに直面し、失敗しやすいのか。その対処法や注意点を3つのポイントに絞り解説します。
父親のプライドを尊重する
娘が父親の介護で注意すること1つ目は、プライドを傷つけないことです。
高齢の父親は、一家の大黒柱として長年仕事に打ち込み、家族を守り生活してきました。
そのため、プライドや責任感が強い方もおり、その気持ちを最大限に尊重することが介護するうえで大切になります。
介護は介護拒否に発展することも
介護が必要になった場合、そうしたプライドがある父親に対して、介護サービスを利用するためにどのような話をしますか?
父親の思いとしては、介護されることが、「恥ずかしいことである」と思っているかもしれません。その思いを無視して介護を強要してしまうと、介護拒否へと繋がり必要な介護ができず困ってしまいます。
父親に介護を受け入れてもらうコツ
父親はプライドを持って今まで生活してきました。まずは父親の思いを大切にすることがコツになります。
もし、娘が介護することを受け入れてくれてくれなかったり、介護サービスを拒否することがあれば、まずは父親が介護を必要と思ってくれるのを見守り待つことです。
それができない場合には次の方法を試してみてください。
父親は「家族が困っている」としたら、「家族を守らないと」と思うものです。
娘が「お父さんに介護を受け入れてもらえないと、心配で私が寝られない」など、父親を心配して困っていることを話すと、父親は「娘には迷惑をかけられない」と介護を受け入れてくれるかもしれません。
介護する側の健康管理にも注意
娘が父親の介護で注意すること2つ目は、介護者(娘)自身の健康状態を管理するということです。
なぜかというと、身体的・精神的な負担が介護する側にかかってくるからです。
例えば、オムツを交換するときに腰を曲げることになりますが、このときに、介護する側が腰や膝などに持病がある場合、その痛みが悪化する可能性も考えられます。
痛みがある状態で介護を無理に続けると、持病の悪化や新たな病気・ケガを引き起こすこともあります。介護する側の負担も考えて行うことが大切なのです。
また、男性は女性と比べて体格差があります。それも十分理解した上で介護にあたらないと、思わぬケガにも繋がります。
身体介護が必要になったときに、失敗すること
父親の介護をする上で、介護する側の体の負担を考える必要があることは、お分かりいただけたと思います。
ここで「親の介護を頑張りすぎた娘」の失敗エピソードをご紹介します。
~脳梗塞で、退院してきた父親(74歳)を介護する娘Aさん~
Aさんは父が退院する前に、オムツ交換や車いすへの乗り移り方を病院の看護師に教わりました。
自宅に帰ってきた父親を、病院で教わった方法で介護する生活が始まります。退院して間もない頃は、教わったやり方で問題なく介護出来ていました。
ところが、退院から1か月経ったある日のこと、父親をベッドから車いすへ移乗しているときに、突然Aさんの腰を激しい痛みが襲ったのです。
しかし、Aさんは、その後も腰痛を我慢しながら介護を続けました。
そして、最初の痛みから1か月が経った頃のことです。いつものように、オムツ交換を行っているとAさんは再び腰の激痛に襲われます。
痛みをこらえながらなんとか病院へ向かうAさん。そこで医師より、急性腰痛症(ぎっくり腰)と診断され、「しばらく介護は控えるように」といわれてしまったのです。
痛みをガマンしながら介護を続けたことで、腰痛が悪化し父親を看ることができなくなってしまいます。結果的に父親は介護施設への入所を余儀なくされました。
父親を思うあまり、自分の体調を後回しにしてしまったため、このような結果を招いてしまったのです。
身体介護を上手に行うコツ
介護する側の体調に異変があった場合は、できるだけ早く病院で診てもらいましょう。
父親を介護することも大事ですが、介護する側の体を大切にすることが、長い介護生活には必要なことです。
また、介護する方法としては、さまざまな介護技術があります。最初は病院で教わった方法を行っていても、次第に「自己流」になっていくかもしれません。
「日頃の介護の仕方がこれでよいのか」
「もっと楽に介護する方法がないのか」
と思った場合には、訪問介護やデイサービスの介護福祉士から、父親の身体に合わせた介護の方法を教わることも1つです。
このようなことで困ったときは、ぜひケアマネジャーに相談してみましょう。
介護を一人で抱えこまない
娘が父親の介護で注意すること3つ目です。
介護する娘が結婚して家庭をもっていたり、仕事をしていたら、同居する父親を介護するということはとても大変なことです。
一人ではできることにも限界があるので、介護を自分一人で抱え込まないことが大切になります。
相談役をみつけておく
介護をしていると、誰しも不安や愚痴が出てくるもの。介護している人にしかわからない苦労も沢山あるでしょう。
これを一人で抱えることで疲労やストレスが溜まり、心身の負担となっていきます。
そのため、身近に相談できる方や、話を聞いてくれる人を見つけることが大切です。
もし身近に話せる人がいないようであれば「家族介護の会」に参加してみましょう。「家族介護の会」は介護している家族が集まり、日ごろの悩みや苦労話などを同じ立場の人に聞いてもらう場です。
困っていることについて、先輩介護者から良いアドバイスがもらえることもあります。
こうした会の名称は地域により異なりますので、市区町村役場や地域包括支援センターに聞いてみましょう。
地域包括支援センターについて、詳しくみる自分の家族にも、介護を理解してもらう
介護の苦労は、その経験のない人に対してなかなか伝わりづらいものです。例えば、日々の介護に携わらない夫へ父親の介護の大変さを伝えても、その苦労をすぐに理解してもらうのは難しいかもしれません。
しかし、夫が事情を知らないばかりに、もしかしたら「自分の父親の介護にばかり専念して、家事がおろそかになっていないか」などと理不尽なことを言われるかもしれません。
そうならないためにも、日々どんなことが起きたか、介護の現状をありのまま話すことをオススメします。
介護は家族みんなで行うもの
ここまで、娘がおこなう父親の介護について、失敗しやすいポイントをご紹介してきました。
娘という立場で、家族と介護との両立など、どちらもおろそかにできないという思いから、すべて自分で抱え込んでしまう方も多くいらっしゃいます。
まずは、困ったことを自分1人で抱えずに誰かに発信すること。そして、困る前に相談することを忘れないことが、解決につながる一歩です。
介護生活は長期間になることが多いので、家族や兄弟の協力は欠かせません。併せて介護サービスを上手に利用しながら、抱え込まない介護を意識してみてはいかがでしょうか。
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この記事の制作者
著者:森 裕司(介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、障がい支援専門員)
株式会社HOPE 代表取締役
医療ソーシャルワーカーとして10年以上経験した後、介護支援専門員(ケアマネジャー)に転身。介護の相談援助をする傍ら、医療機関でのソーシャルワーカーの教育、医療・介護関連の執筆・監修者としても活動。近年は新規事業やコンテンツ開発のミーティングパートナーとして、企業の医療・介護系アドバイザーとしても活動中。