【はじめての方へ】糖尿病のインスリン注射器の使い方と副作用の対処法
インスリンの自己注射は糖尿病の治療法のひとつです。糖尿病では血糖を下げるホルモン「インスリン」が身体の中で不足してしまうため、1日に数回、患者さんや家族が注射をして補います。
管理や接種の方法を正しく理解していれば、自己注射はそれほど難しくありません。
ここではインスリン注射の種類や打ち方、気を付けたい副作用、自己注射が難しい場合の対応についてお伝えします。
インスリン療法のしくみ
インスリンの自己注射を行うのは、1型糖尿病の人、または2型糖尿病のうち内服治療が難しい人です。
不足したインスリンを注射で補うことで、健康な人のインスリン分泌に近づけます。
健康な人のインスリン分泌には、24時間分泌されて常に血糖値を調整する「基礎分泌」と、食事によって上昇する血糖値を調整する「追加分泌」の2種類があります。
インスリンの自己注射では効果が長時間持続するインスリン製剤を1日に1,2回と、即効性のあるものを毎食前に打つなどして、この2つの分泌を再現します。
どのインスリン製剤を使うか、どのタイミングで注射するかは体格や生活様式、運動量などに合わせて調整します。
種類 | 注射のタイミング | 特徴 |
---|---|---|
超速攻型インスリン製剤 | 食事に合わせて打つ | 注射後すぐに効き始め、作用時間が最も短い。 |
速攻型インスリン製剤 | 食事に合わせて打つ | 注射後30分程度で効き始め、超速攻型と比べてゆっくりと効く。 |
中間型インスリン製剤 | 1日のうち決まった時間に打つ | 注射後ゆっくりと効き始め、ほぼ1日効果がある。 |
持続型溶解インスリン製剤 | 1日のうち決まった時間に打つ | 効き目のピークがほとんどなく、ほぼ1日安定して効果が持続する。 |
混合型インスリン製剤 | 食事に合わせて打つ | 超速攻型や速攻型と、中間型の混合製剤。 |
配合溶解インスリン製剤 | 食事に合わせて打つ | 超速攻型と持続型の配合製剤。 |
インスリン注射の方法
インスリン注射を行う前に、自分で血糖値を測定する血糖自己測定を行うことがあります。
なぜなら日々の血糖値を記録することで、血糖コントロールを良好に行えるから。また直前に測定することで、「血糖値が低いにも関わらず自己注射を行い、さらに低血糖になる」といったことを防ぐことができます。
血糖値は自己管理ノートに記録し、受診時にはノートを持参しましょう。
血糖自己測定・インスリン注射のタイミングや回数は、医師の指示に従います。
血糖自己測定の準備・方法
- ① 血糖測定器、測定用チップ、消毒用アルコール綿、穿刺(せんし)器、穿刺針、自己管理ノート、針捨て容器(専用が望ましいがなければビン)を準備し、手を洗います。
- ② 血糖測定器に測定用チップを、穿刺器に針をセットします。
- ③ 指先などを消毒。針を消毒した場所に押し当て、穿刺器のボタンを押して針を刺します。
- ④ 血液を測定用チップに染み込ませて、血糖値を測定します。
- ⑤ 残った血液を拭き取り、血糖値を自己管理ノートに記録します。
インスリン注射の準備・方法
- ① 開封前のインスリン製剤は冷蔵庫で、使用中のものは常温で保存。冷蔵庫保存の場合は凍結しないように注意します。
- ② インスリン製剤、注射針、消毒用アルコール綿を準備し、手を洗います。インスリン製剤が濁っている場合は、均一になるように振ります。
- ③ インスリン製剤に注射針をセット。針が曲がらないよう、まっすぐ刺します。
- ④ インスリン製剤の空打ちをして、針先まで薬液を満たします。
- ⑤ ダイヤルを回転させて、注射する単位数を医師の指示した値にセットします。
- ⑥ 注射する部位を消毒。皮膚を軽くつまんで、直角に注射針を刺します。
- ⑦ ダイヤルが0になるまで、しっかりと薬液を注入。10秒程度数え、注入ボタンを押したままで針を抜きます。
- ⑧ 針はキャップをかぶせてから取り外します。
注射する場所はお腹、太もも、おしり、腕です。それぞれ薬の吸収速度が異なるため、注射部位を医師から指示される場合があります。また、同じところに針を刺し続けると皮膚が硬くなり、痛みの原因になったり、薬の効きが悪くなります。毎回2〜3cmずらすようにしましょう。
注射の針はとても細く、ほとんど痛みを感じません。また、迷わず素早く針を刺す、注入ボタンはゆっくりと押すなどの工夫で、痛みをさらに軽減することができます。
穿刺針・注射針の廃棄方法
血糖自己測定やインスリン注射で使用した針は、一般ゴミとしては捨てられません。専用容器やビンなどの硬い容器に入れ、受診時に持参して廃棄してもらいましょう。
インスリン注射の副作用、低血糖に注意!
インスリン注射の副作用でもっとも注意しなければならないのは低血糖です。インスリンの効きすぎによって正常範囲を超えて血糖値が下がることで、放置すると死に至る可能性があります。
低血糖の症状には個人差があり、とくに高齢者は症状を自覚しにくいです。低血糖出現時の状況を管理ノートに記載し、どのようなときに、どのような症状として現れやすいかをご本人だけでなく家族も把握しておきましょう。
低血糖の症状
まずは副交感神経症状が現れ、重症化するにつれて交感神経症状、中枢神経症状が出現します。
- 副交感神経症状:空腹感、倦怠感、脱力感など
- 交感神経症状:発汗、手足の振え、動悸、顔面蒼白など
- 中枢神経症状:頭痛、目のかすみ、集中力の低下、生あくび、意識レベルの低下、異常行動、けいれんなど
低血糖症状が現れたときの対応方法
- ① すぐにブドウ糖10gまたはブドウ糖を含む飲料水を150〜200ml摂取します。砂糖の場合は20g摂ります。
- ② 15分経過しても改善しない場合は、もう一度ブドウ糖を摂取します。
- ③ その後も回復しない場合は医療機関を救急受診します。
※意識がない場合は救急車を手配するとともに、周囲の人がブドウ糖を歯肉などに塗り付けます。グルカゴンがあれば、家族が注射で投与します。
低血糖はいつ起こるかわかりません。ブドウ糖を常に持ち歩くとともに、家族や親しい人には事前に対処方法を共有することが大切です。
また外出中の低血糖に備え、日本糖尿病協会が発行する「糖尿病患者用IDカード」を携帯するようにしましょう。
血糖コントロールが難しい「シックデイ」の対応方法
糖尿病の治療中で、発熱や下痢、嘔吐、食欲不振によって食事ができない状態をシックデイといいます。血糖値が変動しやすく、高血糖になりやすいため注意が必要です。日頃からかかりつけ医と対応方法を相談しておきましょう。
ここでは一般的なシックデイの対応について紹介します。
シックデイの対応方法
- 安静と保温に努めます。
- スープなどで十分な水分を摂り、おかゆなどで炭水化物を摂取します。
- 自己判断でインスリン注射を中止してはいけません。
- こまめに血糖値を測ります。
また、次のような状態が続く場合はかかりつけ医に連絡し、指示を仰ぎましょう。
- 下痢・嘔吐が止まらない。
- 38℃以上の高熱が続く。
- 24時間、ほとんど食事が摂れていない。
- 血糖値が350mg/dL以上の状態が続く。
- 意識状態に変化がみられた。
ここまで、インスリン自己注射の方法やシックデイの対応について解説しました。ここからは災害時の備えや自己注射が難しい場合の対応についてみていきましょう。
災害時でもインスリン注射は継続する
災害時であっても、インスリン注射を自己判断で中止してはいけません。
インスリン製剤、注射針、アルコール消毒綿、測定用チップを予備として2週間分以上は常備しましょう。勤務先や親戚の家など、自宅以外の場所に予備のセットを保管しておくこともおすすめです。
万が一注射針がなくなってしまった場合は、新しい針が手に入るまで、同じ針を使用してインスリンを投与してください。
高齢で自己注射ができない場合は介護サービスの利用も
高齢や認知機能の低下によってインスリンの自己注射が難しい場合は、家族が注射することになります。
しかし1日に何度も行う場合も多く、とくに独居の場合は家族の介護負担が大きくなります。介護保険サービスなどを利用して、インスリン注射による治療を継続しながら上手に介護負担の軽減を図りましょう。
在宅の場合
独居の認知症高齢者など、自宅で暮らす高齢者で自己注射が難しい場合は、訪問看護の利用で対応することができます。
インスリン注射の回数などによっては訪問看護ではなく、定期巡回・随時対応型訪問介護看護など他のサービスを利用することもあります。まずはかかりつけ医やケアマネジャーと相談しましょう。
訪問看護のサービス内容と費用について詳しく見る 定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスについて詳しく見る介護施設入居の場合
インスリン注射は医療行為のため介護スタッフは行えず、看護師が実施します。ただし見守りや声かけ、少しのサポートで自己注射が可能な場合は看護師の指導を受けた介護スタッフがサポートを行うことは可能です。
また1日に複数回実施するため、看護師が24時間常駐する施設でないと対応できないことも多いです。施設を探す場合には現在のインスリン注射回数に対応できるかを必ず確認しましょう。
また、場合によってはインスリン製剤の種類の変更や内服薬の併用によって注射回数を減らすことができ、利用できる施設の幅が広がります。注射回数が施設利用の懸念点になっている場合は、回数を減らせないか医師と相談してみるとよいでしょう。
老人ホームで受けられる医療行為について インスリン注射に対応した全国の介護施設を探すイラスト:坂田優子
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:岩本 大希(WyL株式会社/ウィルグループ(株)代表取締役)
大学卒業後、北里大学病院救命救急センター従事。その後、ケアプロ(株)で訪問看護事業の立ち上げ・運営を行う。
2016年ウイル訪問看護ステーション江戸川を開設。東京・沖縄・岩手・福岡・埼玉で展開。
2019年在宅看護専門看護師を取得。(社)オマハシステムジャパン理事、(社)東京都訪問看護ステーション協会研修委員長