ピック病とはどんな病気?原因や症状、受け入れ可能な施設についても解説

ここでは「ピック病」について解説していきます。どのような病気なのかはもちろん、起こり得る症状や病気との向き合い方、ピック病の方が介護施設を選ぶときのポイントなどをわかりやすくまとめました。

ピック病について知識を得たい方や身近にピック病の方がいて施設入居を考えている方は、ぜひご一読ください。

本記事は5月11日時点の情報です。

ピック病はどんな病気?

ピック病は、前頭側頭型認知症と呼ばれる認知症の一種です。

7~8割がピック病だと診断される前頭側頭型認知症は、大脳の前方にある前頭葉・側頭葉などの限局性萎縮が原因となって起こります。ピック病の大きな特徴は、70歳以上の発症もあるものの、40〜60代の比較的若い世代で発症が多く見られることです。

現在、ピック病の方は全国に1万2,000人程度いると推定されています。これは最も多いアルツハイマー型認知症、2番目に多い血管性認知症、3番目に多いレビー小体型認知症に次いで、4番目の数です。

後述しますが、ピック病に関する認知はあまり進んでいないという側面があるため、今後患者数が増える可能性もあります。

ほかの認知症とどう違う?

前述のとおり、ピック病は若年層の発症が多いことに加え、記憶に関する障害が起こりにくいとされる点が、ほかの認知症と異なると言えます。

アルツハイマー型認知症では、今まで問題なくできていたことができなくなる、記憶に関する障害が起こるというのが代表的な症状です。しかし、ピック病の方は人格や情緒に関する障害など感情面に関する症状が多くみられ、記憶は保たれていることが多いとされます。

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ピック病の初期~末期の症状は?

本人がピック病だという認識を持つのは難しいとされています。そのため、ピック病の症状を把握しておき、周囲が変化に気がつくことが重要なのです。それでは、具体的にどのような症状がみられるか見ていきましょう。

感情が乱れやすくなる

ピック病の初期症状として出やすいのが、喜怒哀楽の感情が乱れる、これまでと人格が変わるといった症状です。具体的には急に泣いたり機嫌が悪くなったりする、周囲の方への思いやりがなくなる、人が変わったように怒りっぽくなる、といった症状が見られます。

おかしな行動を指摘しても、「ああ言えばこう言う」というような言動が目立つケースもあるでしょう。

言語に障害がでる

言語に関する障害もピック病に起こり得る症状です。同じ言葉や意味のない言葉を何度も繰り返す「滞続言語」のほか、話しかけた言葉や聞こえた言葉をオウム返ししたりする「反響言語」などの症状がみられます。

行動がおかしくなる

これまでの本人であれば絶対にしない行動を取ってしまうこともピック病の症状と言えます。勝手に知らない人の家に上がるなど、常識では考えられない行為や他人の迷惑になる行為などを取る「異常行動」もその1つです。

ほかにも、同じ時間に同じコースで散歩をするなど、同じ動きを繰り返す「常同行動」もみられます。認知症の方に多い徘徊とは違い、ピック病の帯同行動では迷子になるケースは多くありません。

そして注意しておきたいのが、反社会的な行動です。善悪の判断がつかず、盗み食いや万引き、痴漢などの行動を取ってしまう可能性もあります。自制力が低くなることから、一方的にまくしたてたり人の話を聞かなかったりという症状につながるケースもあるのです。

1つの物事を継続できなくなる

日常的な動作や仕事中のタスクなど、これまでできていた物事ができなくなることがあります。

もしできても、時間がかかったり間違いが多かったりすることもあるでしょう。注意力も低下するため、ぼーっとする時間も多くなるかもしれません。また周囲の影響を受けやすくなり、食事中や会話中に別のことを始める症状もあります。

食の好みや食べ方が変わる

ピック病になると、食事に関しても変化が見られるケースがあります。これまでなんでも食べていたのに急に偏食になる、他の人も食べることはわかっているはずなのに用意したものを全て食べつくしてしまうなどの変化が見られます。

さらに急に甘いものや濃い味付けを好むようになる場合も。料理をしている方がピック病になると、ずっと同じものを作り続けるケースもあります。

自発性が低下する

周囲に関心を持たなくなったり、物事への感情移入ができなくなったり、自分の意志で何かをすることが減ったりといった、自発性の低下も見られます。自発性が低下することはうつ病の代表的な症状でもあるので、うつ病と間違われることも少なくありません。

自発性の低下以外にこれまで挙げてきたような症状が出ている場合には、ピック病の可能性を考えてみましょう。

ピック病の原因はストレス?アルコール?

ピック病は前頭葉や側頭葉の萎縮によって発病しますが、萎縮の原因とされているタンパク質の変質がどうして起こるのかはまだ解明されていないのが現状です。

また、ストレスはアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の発症原因に関連するとの指摘があります。ピック病を含む前頭側頭型認知症の原因については、現在のところ定かではありません。

アルコールはピック病発症の直接的な原因とはされていませんが、アルコール依存症は早期発症型認知症において重大な危険因子と言われています。早期に認知症を発症した方の半数以上がアルコールを飲み過ぎていたとの研究結果も、危険因子である裏付けと言えるでしょう。

アルコールを常に大量摂取していることが原因となって起こるアルコール性認知症は、ピック病と症状が酷似しているため、どちらか判断が難しい場合もあるとされます。

アルコール性認知症とピック病の関係

ピック病の方がアルコールを多量に摂取している場合、アルコール性認知症と間違われることがあります。アルコール性認知症を発症すると、思うままに行動して問題行動に発展することも多く見られます。さらに脳の萎縮も認められるなど、ピック病と似ている点が多いことが間違われる理由です。

アルコール性認知症では、もの忘れや周りの状況がわからなくなるなどの症状も見られるため、そういった症状から総合的に判断するようにしましょう。自分では判断が難しいと感じたら、病院などに相談してくださいね。

前頭側頭型認知症(ピック病)とは?|症状と経過、ケアのポイント

ピック病患者の寿命は?

ピック病の方の寿命は平均して6~10年程度と考えられます。しかし進行は個人差があるため、10年以内に亡くなる方もおられますが、それ以上長生きされる方もいますので一概には言えません。進行が早い場合は、数年で亡くなるケースもあります。

ピック病自体の認知度が低く診断を受けるまでに時間がかかるケースや、発症になかなか気がつかないケースも多くあります。そのため、気がついたときには進行していたという場合もあるようです。

ピック病は治る?向き合い方について

ピック病は現段階で根本的な治療ができる薬が存在しないため、ピック病自体を直すことはできません。

また、アルツハイマー型認知症のように進行を遅らせる薬の開発も進んでおらず、進行を遅らせる有効な手段も見つかっていないのが現状です。そのため、現時点では起きている症状を軽減する治療を行い、上手に向き合っていくことが重要になります。

症状を軽減するにはどのような方法があるのか、またピック病の方とどのように向き合っていけば良いのか、ポイントをまとめていきましょう。

向精神薬を使用する

症状に合わせて、向精神薬などを使用する治療を行う場合があります。

例えば、盗みぐせや食べ物ではないものを口に入れてしまうなどの異常行動が見られる場合には、ドーパミンを抑制する効果がある薬が処方されます。無気力や落ち込む状態が続くなどうつ状態になっている場合には、興奮性を高める薬が処方され、症状の軽減につなげているのです。

1日の流れをルーティン化する

ピック病の症状の1つとして挙げた帯同行動を利用してケアを行う「ルーティン化療法」も、ピック病を治療する方法の1つです。ルーティン化療法では、今ある帯同行動の中で習慣づけられてしまっている悪い行動を、良い行動へ変えられるよう導いていきます。

毎日散歩することをルーティンに組みこむ、万引きの症状が出始めたらルーティン化する前に介入し、良い行動パターンに導くなどの治療を行います。

またルーティンがある程度決まっているのであれば、立ち寄ることが多い場所には声をかけておく、万引きの症状が出ているのであれば料金を前払いしておくなどの対策も取れるでしょう。行動のパターンを止めたり変更したりすると精神的なストレスにつながってしまうため、注意してください。

周囲にピック病であることを周知する

周囲の方、特にピック病の方と関わる機会が多い方には、ピック病であることを周知しておきましょう。ピック病は人格が変わったり万引きをしたりと、ほかの認知症では見られないような症状が多く見られます。

病気だからといってすべてが許されるわけではありません。しかし、どのような症状があるか知っておいてもらうだけでも、迷惑をかけてしまったときの気持ちが変わってくるのではないでしょうか。介護を行う家族などの心的負担を軽減させるためにも、周囲への周知は大切です。

介護サービスや施設を利用する

介護が必要となっても、家族だけでするのではなく介護サービスや介護施設の利用も検討してみましょう。ピック病の方と接すると感情が乱れて辛くあたられる場合も多く、介護者の負担は大きくなります。自宅への訪問介護や通所介護のほか、老人ホームなどの施設を利用することで負担を軽減できます。

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暴言や暴力に悩んだときには?

もしも暴言や暴力に悩んだときは、見守る姿勢を持つようにしましょう。暴言や暴力は認知症の方に多く現れる症状ですが、特に本能のまま行動しやすいピック病では、起こりやすい症状だと言われています。

何か行動を起こしたときに引き止めてしまうと、丁寧に対応しても行動を妨害されたことで、暴言や暴力が出るかもしれません。無理に行動を止めるのではなく、危険なことをしないように見守ってあげてください。

また帯同行動による散歩など、危険につながらない行動であればそのまま散歩に行かせてあげるといった対応も良いでしょう。

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ピック病患者が施設を決めるときのポイント

ピック病の方を介護施設に入居させたい場合には、いくつか押さえておきたいポイントがあります。詳しく見ていきましょう。

どの種類の介護施設を選ぶか

介護施設にはいくつかの種類があるため、どの種類を選ぶかは大切なポイントです。介護施設の中には通常65歳以上でないと入居できない施設もありますが、要介護認定が受けられれば入居できる場合もあります。

日常生活に支援が必要な方向けの要介護認定も、同じく65歳以上から申請できるものです。しかしピック病は、心身の機能が大幅に低下する原因を引き起こす病気として定義される「特定疾病」にあたるため、40歳以上であれば申請できます。

入居には要介護度以外にも条件が設けられているため、事前に確認が必要です。それではどのような介護施設があるのか、大まかな種類に分けてご紹介していきましょう。

要介護認定とは?認定基準や認定を受ける流れ、サービスの利用方法を紹介

特養(特別養護老人ホーム)

要介護認定を受けている方が入居できるのが特養(特別養護老人ホーム)  です。基本的に要介護度3以上でなければ入居できませんが、特例で要介護1、2でも入居できる可能性があります。

特養は生活支援から介護サービスまで、サービスの幅の広さが特徴と言えるでしょう。寝たきりの方など介護度が高い場合でも入居できる上、終身利用が可能で、料金は所得により変わり比較的安価に入居することができます。

一方で、料金の安さから入居を希望する方が多く、大都市圏など地域によっては入居待ちの状態になってしまうことも少なくありません。

特別養護老人ホーム(特養)の特徴と入居条件とは?

有料老人ホーム

有料老人ホームは主に「介護付き」と「住宅型」の2種類があります。介護付きは基本的に要介護認定を受けた方が入居できる施設です。住宅型は介護認定のない自立した高齢者も入居することができます。

入居の年齢を65歳以上としている施設でも、特定疾病と認められていれば入居できます。有料老人ホームは新規参入が増えており、特養に比べて入居までの待機期間が短いことや、選択肢が多いことが特徴です。

さらに、多くの施設では看護・介護や生活支援サービスだけでなく、リハビリやイベント、レクリエーションなどを提供しています。

有料老人ホームとは?介護付・住宅型・健康型の特徴と費用

グループホーム

グループホームは、身の回りのサポートが必要な状態を指す要介護度のうち、「要支援2以上」で、原則として「65歳以上の認知症の方」が対象となる介護施設です。

定員9名の少人数で生活するアットホームな施設です。施設によっては要介護度が重くなったり、特に医療依存度が高くなったりすると退去となる場合があるため、注意が必要です。

グループホームとは|費用相場やサービス内容

サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)

生活に不安を抱えるものの自立している方や、要介護度が低い方が入居できる施設がサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)です。賃貸物件ですが建物はバリアフリー構造で、介護系の資格を持つ相談員に生活相談ができます。介護サービスを受ける場合は別途介護サービス利用契約が必要です。

物件によってサービス内容や価格が大きく異なります。また、認知症の症状があると入居できない場合や退去しなければならないこともあるため確認しておきましょう。

サービス付き高齢者向け住宅とは?老人ホームとの違い

認知症の介護に対応しているか

認知症介護の対応だけでなく、ピック病特有の対応が可能かどうかも確認しておきたいポイントです。

若い年齢での発症が多い分、力が強く危険な行動を取る可能性もあり、ピック病のケアは通常の認知症の方よりも難しいとされています。そのため、施設が認知症対応可能であったとしても、ピック症であることを必ず事前に伝えるようにしましょう。

本人に入居の意志があるか

家族が施設に入居してほしいと思っていても、本人は入居したくないという場合もあるため、事前に入居したいかどうか確認しておきましょう。いきなり施設の見学に行くのはハードルが高いと感じた場合には、まずは自宅で資料などを一緒に見てみるのがおすすめです。

【専門家が回答】老人ホームを嫌がる親を入居させたい。どうしたらいいの?

入居費用が予算内か

いくら良い施設があったとしても、入居費用が予算を超えていては入居することが得策だとは言えません。長い期間入居する可能性も考えた上で、経済的に余裕を持てる額の施設を選ぶようにしましょう。

老人ホームはいくらかかる?料金を種類ごとに比較

施設のケア方針に共感しているか

施設のケア方針がどのようなものか確認し、方針に共感できるかどうかも大切なポイント。

ピック病の場合、暴言や暴力がある場合も多いため、暴言や暴力が原因となって退去したケースがあるのかなどをたずねてみるのも良いでしょう。退去の理由やどのように退去したかを聞くことで、施設やケアの方針がわかってきます。

終末期の医療的ケアや看取りの有無

施設で最期を迎えたいと考える場合には、終末期のケアや看取りに関する部分も見ておきましょう。医療的ケアや看取りと言えば病院というイメージも強いと思いますが、現在では施設でも行っている場合があります。事前に確認しておくと安心です。

【専門家が回答】老人ホームの終末期|看取りとターミナルケアの違いは?

まとめ

ピック病は若い年代で発症することが多く、ほかの認知症とは異なる症状が出るために認知症だと思われないケースも多くあります。ご自身も周囲の方も、ピック病がどのような症状の認知症なのかをお互いに理解しておくことが大切です。もしもケアに限界を感じたようであれば、施設の利用も考えてみましょう。

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この記事の制作者

堀 ひとみ

監修者:堀 ひとみ(株式会社HSKAI代表取締役)

一般社団法人ナラティブアプローチ協会代表理事
1999年より介護職の養成スクールを運営し現在に至る。
介護保険サービス事業を運営(介護付き有料老人ホーム、認知症高齢者共同生活介護(グループホーム)、デイサービス等)
著書に「究極の介護って何?(2020年)」「こんな老人ホームに親を入れたいと思われる老人ホームのつくり方(2021年)」など。

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