“ユニットケア”という言葉を聞いたことはありますか?

ユニットケアとは、自宅に近い居住環境で、入居者一人ひとりの個性や生活のリズムに沿い、他者との人間関係を築きながら日常生活を営めるよう介護を行う手法のこと。

この手法が普及する発端となったのは1994年。ある特別養護老人ホームの施設長が“数十人の高齢者が集団で食事を摂る光景”に疑問を抱き、少人数の入居者と一緒に食事を作って食べるという試みを始めました。その中で気づいたのは、「一緒に過ごす、ごく普通の家庭の食卓にこそ意味がある」ということ。

そこからさまざまな研究が行われ、ユニットケアが入居者に好影響を与えることが実証されていきました。



ユニットケアを行う老人ホームでは、入居者10人前後で1つのユニットを形成し、共同生活を行います。大きな特徴は、それぞれの個室のほか、入居者同士が交流できる共有リビングがあります。

特別養護老人ホームには、個室のない「多床室」、ユニットが設定されていない「従来型個室」、ユニットが設定されている「ユニット型個室」がありますが、厚生労働省は現在、多床室や従来型からユニット型への切り替えを進めています。

では、実際のユニット型特養ではどんな暮らしが営まれているのでしょうか。神奈川県横須賀市にある特別養護老人ホーム『さくらの里山科』施設長の若山三千夫さんに教えていただきました。

ユニットが自由に使える予算を持っているから、ユニットごとに個性が出る

施設長の若山さん【施設長の若山さん】

『さくらの里山科』のユニット内には、個室が10室、浴室が1つ、トイレが3つあり、真ん中に約17畳のリビングキッチンが設置されています。靴を脱ぎ履きするのはユニットの玄関。そこから先が入居者の自宅という位置づけです。

犬と暮らせる「ワンズユニット」の玄関【犬と暮らせる「ワンズユニット」の玄関】

若山さん:ユニット型の良さのひとつに、「プライバシーが二重に保護されていること」があります。たとえば普通の老人ホームでは、1フロアに50室ほどの個室があり、その中に入居者同士が交流できる談話室が設けられていることが多いですよね。でも、廊下は不特定多数の人が出入りする空間なので、自宅のリビングのようには寛げないでしょう。

それがユニット型の場合は、リビングは基本的にユニットの入居者と専任職員しか出入りしません。いわば、家族の空間なんです。だから安心して居られるんですよ。“

起床時間、消灯時間などは決まっていません。食事も2時間ほど幅があり、好きなときに食べることができます。ずっとリビングで過ごす人もいれば、個室でひとり読書に耽る人も。規則は少なく、自分のリズムで生活できるそう。

もちろん、「認知症を発症していて自分で生活リズムを保てない」という場合、「ユニット内の人ともっと親しくなりたいけど人見知りで話しかけられない」という場合は職員がサポートするとのこと。

ユニットのリビングでは、入居者数人が談笑していました【ユニットのリビングでは、入居者数人が談笑していました】

若山さん:職員は専属配置なので、よりきめ細やかにご入居者さまをサポートできるんです。ユニットに分かれていない場合、職員は数百名のご入居者さまの情報を把握しなければいけません。しかし、ユニット型の場合、職員は自分が担当する10名だけ見ればいいので、小さな変化にも気づきやすくなるのです。

それはご入居者さまにとっても同じです。数十人の職員が入れ替わり立ち替わりやってくるよりも、顔見知りの職員数人に介護されたほうが安心できるでしょう。お互いのことがよくわかっているので、より人間的な交流が生まれるんですよ。“

その言葉通り、『さくらの里山科』では、ユニットごとに多様なイベントが企画・実行されていて、そのレポートは競い合うようにブログに掲載されています。どのユニットもとても楽しそう。

スイカ割りにもぐら叩き、のど自慢にかき氷と盛りだくさんの夏祭り。浴衣を着てお祭り気分を味わっている【スイカ割りにもぐら叩き、のど自慢にかき氷と盛りだくさんの夏祭り。浴衣を着てお祭り気分を味わっている】

ユニットとして自由に使える予算を設定しているため、ユニットごとに個性が出るとのこと。職員も「次は何をしようかな?」とモチベーションが上がりそうですね。

あじさいの造花をつくり、入居者と一緒に飾り付け

【あじさいの造花をつくり、入居者と一緒に飾り付け】

誕生日は入居者の希望に合わせ、個室で祝うこともあれば、リビングで祝うことも

【誕生日は入居者の希望に合わせ、個室で祝うこともあれば、リビングで祝うことも】

厚生労働省では、「食事はユニット内で作るのが望ましい」と指導しています。しかし、現実的に職員の手間を考えると中々難しいもの。多くのユニット型特養では、厨房で作られた料理をユニット内のキッチンで配膳する形を取っています。そうした中、『さくらの里山科』では、ごはんとお味噌汁はユニット内で作っています。 

入居者に合わせてごはんをおにぎりにしたり、パンやパン粥に変更したり、というアレンジも行っているそう

【入居者に合わせてごはんをおにぎりにしたり、パンやパン粥に変更したり、というアレンジも行っているそう】

若山さん:全部の料理をユニット内でつくるのは無理でも、できるだけ家庭に近い形で提供したいと思っています。厨房から運ばれてきた料理も、お一人お一人に合わせて温めなおしたり盛りつけたりと手を加えているんですよ。

お元気な方にはご自身でごはんをよそってもらい、片付けもしてもらいます。そうすると限りなく家庭に近づくでしょう、みなさんいきいきされるんですよ。“

毎日は難しいものの、ユニット内のイベントとして料理やお菓子を作ることも。入居者が司令塔になったり、みんなで味見をしたり、とても盛り上がるのだとか。

料理をしながらだと会話が弾み、入居者も良い笑顔を見せてくれるそう【料理をしながらだと会話が弾み、入居者も良い笑顔を見せてくれるそう】

  夏バテ対策にフルーツ酢作り。自分たちで作ったものはより美味しそうですね【夏バテ対策にフルーツ酢作り。自分たちで作ったものはよりいっそう美味しそうですね】

料理は格好の生活リハビリになるそう。普通の暮らしを楽しみながら身体能力を維持・向上していくのですね。少人数のユニットだからこそできることではないでしょうか。

若山さん:有料老人ホームは特養とは比べ物にならないほど立派な施設や多様なサービスを提供しているところがほとんどですが、ユニットケアをしているところは多くありませんよね。それが私にはちょっと不思議なんです。ユニット型にすればもっと良くなるのに……と。それだけ良い効果があるんですよ。

ただ、厚労省は「1ユニットに職員1人」という人員配置で介護報酬を設定しているんですが、1ユニットに1人ではまともな介護はできません。そのため、ほとんどの特養では自費で職員を2人以上つけています。うちもそうですが、経営的にかなり厳しいところが多いですよ。そのあたりが改善されれば、ユニットケアは文句なしに素晴らしい介護手法になると思います。“

さくらの里山科:「ユニットケア」の取材を終えて

個室でプライバシーや自分のリズムを保ちつつ、共有のリビングでほかの入居者と交流できること。より家庭的な雰囲気の中で普通の暮らしを楽しめること。職員と入居者の距離が近く一人ひとりに合わせた介護やイベント企画ができること。それがユニットケアのメリットなのだということがわかりました。
『さくらの里山科』では、ユニット型ショートステイも行っています。ユニットケアに興味を持たれましたら、まずは短期間利用ができるショートステイから検討してみてはいかがでしょうか。