入居者の生活状況を直感的に確認できるインターフェイス


今、社会の様々な分野でICTの活用が推進されています。介護業界にもその波は訪れているようです。介護付有料ホーム『グランフォレストときわ台』では、このたび健康見守り型クラウドサービス機器「ライフリズムナビ+Dr.」を導入しました。センサーによって入居者の状況を見守ることができるというこのシステム、介護現場ではどのように活用されているのでしょうか?


まさかの予兆を見える化する「ライフリズムナビ+Dr.」

 
入居者の生活状況を直感的に確認できるインターフェース

【入居者の生活状況を直感的に確認できるインターフェース】


「ライフリズムナビ+Dr.」は、入居者の健康状態や活動状況をモバイル端末でリアルタイムに確認できる見守りシステムです。

ドアやトイレ、ベッドに取り付けたセンサーから取得した入居者の睡眠状況や活動量、室内環境などの情報はスマホやパソコンから閲覧でき、異常時にはアラート通知も届きます。また、各種データは提携クリニックに送信され、毎月1回「健康レポート」が送られてくるところがなんともインターネット的です。監視カメラを用いずにセンサー感知によって生活状況を把握できる点は、プライバシーへの配慮にもつながります。

体動・人感・温湿度と3種類の非接触センサーを組み合わせて測定できる情報は、実に多岐に渡ります。たとえば睡眠時の詳細データでは、呼吸や心拍数をはじめ、無呼吸回数、睡眠震度、室温そしてトイレの回数などを知ることができます。そしてこれらの情報から、脱水症や熱中症、心筋梗塞や徘徊といった病気の予兆を早期発見しやすくなるそうです。


 

天井やドアに設置されたセンサーが入居者の動きをキャッチします
【天井やドアに設置されたセンサーが入居者の動きをキャッチします】

機能を知れば知るほど、なんだかテクノロジーの進化に目を見張るばかりですが、一方で介護業界はどちらかというとデジタル化が遅れている印象もあります。実際に導入した現場での活用方法は、とても気になるところです。

『グランフォレストときわ台』は、2016年11月にオープンした新しいホーム。新施設の立ち上げと同時に「ライフリズムナビ+Dr.」を導入し、介護現場の運用改善に取り組んできました。ホームを運営する株式会社フィルケアの向井昭一さんに、現時点での活用状況や課題について詳しくお話を伺いました。


 ICT でできることは任せて、人間がやるべきことに注力する

 
ICTを導入することにより介護現場の業務負荷が軽減できる、と向井さん

【ICTを導入することにより介護現場の業務負荷が軽減できる、と向井さん】


――ICTの導入にあたって、決め手となったのは何だったのでしょうか?

以前から、もっとご入居者とのコミュニケーションに時間をたっぷり使っていきたいとの思いがありました。『グランフォレストときわ台』では、食事時間を2時間と長めに設定したり、入浴を完全個別対応にしたりなど、はじめてのサービスにチャレンジすることになりました。そのため、機械ができることは機械にやってもらって、職員の業務負荷を軽減させようとの意図があったのです。


――実際に「ライフリズムナビ+Dr.」を導入してみて、まずは入居者の生活にどんないい影響がありましたか?

生活のサイクルとして「よく寝てよく食べよく動く」のが健康の秘訣だと言いますよね。「ライフリズムナビ+Dr.」の導入で一番効果があったなと感じるのは、この中の「よく寝る」部分です。睡眠状況を詳しく測れるようになったことで、これまでよりも快適な環境を提供できていると思います。

――たとえば、どういった形で改善ができたのでしょうか?

まず夜間の見回りの際、ご入居者を不用意に起こすことが減りましたね。夜間は2時間おきに見回りをするのですが、眠りの深いタイミングを避けてトイレ誘導ができるようになりました。全体的に眠りが浅い方は、日中にレクリエーションに参加してもらうなど、体を動かす提案も可能になりましたし、寝苦しい場合は温度管理を見直すことも簡単になりました。全部を目視で確認していた時と違って、ご入居者の状況を客観的に把握できるのはとても画期的だと感じています。


――職員の立場から見た場合、どのように介護の質の向上に貢献していますか?

一番はリスク管理がこれまで以上にきめ細やかになった点ですね。たとえば、夜間見守りの直後にご入居者が倒れたとしたら、以前ならどんなに早くても2時間後まで発見されることはなかったのです。「ライフリズムナビ+Dr.」は1分間の誤差はあるものの、緊急時にはアラートで知らせてくれますので、何か起こった時にすぐ駆けつけられるようになったことに大きなメリットを感じていますね。おかげで事故の規模を最小限にとどめ、適切な処置が行えるようになりました。

介護現場のデジタル化には職員の理解が必要

 
職員にICTの利便性を理解してもらうことが目下の課題とのことでした

【職員にICTの利便性を理解してもらうことが目下の課題とのことでした】

――介護業界は比較的業務のデジタル化が遅れているという印象を持っています。今回のシステム導入にあたって苦労した点はありますか?

大変なことはありましたね。大きく二つありまして、ひとつはシステムに対する信頼性。もうひとつは操作性に関して難しさがありました。


――具体的に教えてもらえますか?

信頼性の話は、これまで介護士が自分の経験に基づいて判断してきたことを、本当に機械が肩代わりできるのか?という部分。いくらシステムが素晴らしいと説いたところで、現場でその精度がいかほどかという検証なくしては信じるのは誰でも難しいものですよね。ですので、目視と並行してシステムを活用していく、といったところからスタートしました。


――現場の反応はいかがでしょうか?

精度に関してはほぼ検証できてはいます。ただ、現場の運用にどう落とし込んでいくかについては、今後も改善の余地があると思います。操作性については、やはり年配の職員が苦戦していますね。教育はしていますが、慣れるまで中々大変ですよね。


――導入に際して反発はなかったのですか?

ありました(笑)。新しいものを導入するときは、必ず現場から反対意見をもらいますね。今、『グランフォレストときわ台』では全職員がインカムを携行していますが、導入当時は大不評。「耳が痛い」「インカムの声がうるさくてご入居者の話が聞けない」といろいろ声が上がりました。ところが今となっては、情報のリアルタイム共有に欠かせないツールとなっています。

はじめは理屈でわからなくても、体験してみて徐々によさを実感してもらうのが大切かなと思っています。「ライフリズムナビ+Dr.」も使い方がわかってくれば、業務の軽減に役に立つと思うんですよね。時間はかかりますが、今は過渡期かなと。少しずつ浸透できればと考えています。

(記事中の内容や施設に関する情報は2017年7月時点の情報です)