サルコペニアとは?症状・セルフチェック方法から有効な予防法まで解説

サルコペニアとは、加齢によって全身の筋力や筋肉量が低下した状態のことです。「最近歩くのが遅くなってきたな」「ペットボトルの蓋がなかなか開けられない」といったお悩みはありませんか?ただの筋力低下だろうと思いがちですが、実はサルコペニアかもしれません。

本記事ではサルコペニアの症状やセルフチェック方法、治療や予防方法などを解説していきます。年齢を重ねても身体機能を維持するためにも、知っておきたい情報が満載です。

本記事は、5月6日時点の情報です。

サルコペニアとはどのような状態を指すの?

まず、サルコペニアとはどのような状態のことを指すのかをおさえておきましょう。また、サルコペニアは原因によって2つのタイプに分類されます。それぞれの要因や特徴についても解説いたします。

サルコペニアって?

筋肉の量や質が減少したり衰えたりした状態を、サルコペニアといいます。語源はギリシャ語で、「サルコ(筋肉)」と「ぺニア(喪失)」という言葉を組み合わせた造語です。

サルコペニアは高齢者に多く、75~79歳の男女のおよそ2割はサルコペニアに該当するといわれています。いわば老化現象にあたりますが、実は20~30歳頃にはすでに進行が始まり、生涯にわたって進行し続けるのです。

サルコペニアは加齢が主な原因です。年齢を重ねると、運動量の減少とともに成長ホルモンなどが減少します。加えてタンパク質が不足しがちになり、筋肉が作られる量よりも分解される量の方が増えてしまうのです。

何も意識せずに普通の生活を送っているだけでは、結果的に筋肉量が落ちてしまい、サルコペニアになりかねません。

サルコペニアは2つのタイプに分類される

次に、サルコペニアのタイプの特徴や要因について見てみましょう。

サルコペニアには、加齢による「一次性サルコペニア」と、加齢が原因でない「二次性サルコペニア」の2つのタイプに分類されます。二次性サルコペニアは、関連する要因によってさらに細分類されるため、それぞれの要因ごとの特徴をお伝えします。

一次性サルコペニア(加齢性サルコペニア)

一次性サルコペニアは、加齢のほかに明確な原因はありません。「加齢性サルコペニア」とも呼ばれています。

二次性サルコペニア

二次性サルコペニアは、加齢以外の要因をはらんでいるケースです。その要因ごとに、さらに3つに分類されます。

【二次性サルコペニアの分類】
  • 活動量に関連するサルコペニア
  • 疾病に関連するサルコペニア
  • 栄養に関連するサルコペニア

活動量に関するサルコペニアは、寝たきりや運動不足が要因となって筋肉量が減ることで起こります。デスクワークが中心で日頃の活動量が少ない方は、活動量が原因であるサルコペニアになってしまう可能性があるでしょう。

疾病に関するサルコペニアは、心疾患やがん、外傷など病気やケガが要因となって引き起こされます。

また、栄養に関するサルコペニアは、エネルギーやタンパク質不足などが原因となります。また、服用している薬の副作用によって、食欲不振を起こしている方も該当します。

二次性サルコペニアの場合、その原因を取り除くことで症状改善が見込めます。そのためにも、どのような原因でサルコペニアになってしまっているのかを把握しておくことが大切です。

若年層でもサルコペニアになる可能性がある!

サルコペニアは、加齢が主な原因とお伝えしました。だからといって、若い人がサルコペニアにならないというわけではありません。若年層でも病気や低活動、低栄養などが原因となり、二次性サルコペニアになる可能性があるのです。

サルコペニアは高齢者に多い傾向にありますが、年齢に関係なくリスクがあるということも頭に入れておきましょう。

サルコペニアの可能性がある症状

では、実際にどのような症状が現れるとサルコペニアの可能性があるのでしょうか。以下にリストアップしました。

【サルコペニアの可能性がある症状】

  • 転びやすくなる、頻繁につまずく
  • 歩くスピードが遅くなる、青信号の間に横断歩道を渡りきれない
  • 握力が低下してペットボトルのキャップが開けにくい
  • 短距離の移動や立っているだけでも疲れやすい
  • 手すりにつかまらないと階段を上がるのが困難 など

このような症状に心当たりがある方は要注意です。

「サルコペニアかも」と心配な場合は、次に紹介する方法でセルフチェックしてみましょう。

サルコペニアをセルフチェックするには

続いて、サルコペニアかどうかセルフチェックする方法を3つ紹介します。自宅で簡単に実践できるので、気になる方は試してみてください。

ふくらはぎでチェック!

ふくらはぎは筋肉量減少の兆候が表れやすいため、ふくらはぎの太さで簡易的にサルコペニアの可能性をチェックします。

チェックの方法は「指輪っかテスト」と呼ばれ、ふくらはぎの筋肉量が体格と比較して適正かを確認できます。

※この方法は脂肪・むくみの要素が不確定なため、正確に筋肉量を測定することはできません。

【指輪っかテストの手順】

1. 椅子に座り、両足を床につける
2. ふくらはぎ(利き足でない方)の最も太い部分を、両手の親指と人差し指で輪っかを作って囲う
3. 指の輪っかがどのような状態かで評価する

なお、利き足がわからないときは、両足でチェックしてください。

指同士がつかずふくらはぎを囲めないくらいの太さがあると、サルコペニアの新規発症リスクは低いといえるでしょう。囲めない場合のリスクを1.0倍としたとき、ちょうど囲える太さは2.1倍に、隙間ができるくらい細いと3.4倍に上がります。

つまり、指で作った輪っかとふくらはぎとの隙間が大きいほど、筋肉量の減少や低栄養に注意しなければなりません。

片足立ちでチェック!

片足立ちでチェックする方法は、「開眼片脚立位テスト」と呼ばれています。片足で立っていられる時間で、サルコペニアの可能性を探ります。

【開眼片脚立位テストの手順】

1. 素足になり、滑りにくい床に立つ
2. 両手を腰に当てる
3. 片足を床から5cmほど上げ、そのままキープする

テストを行うときは、転倒時のリスクを考えて危険のない場所で行うようにしましょう。また転ばないよう、すぐに掴めるものが近くにあると安心です。

片足立ちは60秒を目標にキープしましょう。立っていられる時間が15秒未満の場合は注意してください。特に8秒に届かなかったら要注意。筋肉量が低下し、サルコペニアの可能性が高いと考えられます。

歩く速さでチェック!

サルコペニアの診断では、歩行速度が重視されます。歩行速度をチェックするには、6m以上のスペースを確保してください。

【歩行速度テストの手順】

1. スタート地点とゴール地点(6m)に印をつける
2. 中間の1m地点と5m地点にも印をつける
3. 1m地点から5m地点(4mの距離)を歩くのに要した時間を計る

1m地点から5m地点までの間(4m)の歩行速度を割り出します。0.8m/秒以下の場合はサルコペニアの可能性が高いといえます。

また、サルコペニアのひとつの判断材料として、青信号の間に横断歩道を渡れるかどうかが挙げられます。横断歩道の青信号の時間は、たいてい1m/秒の歩行速度で渡りきれるように設定されているため、間に合わないと歩行速度が低下していると判断できるためです。

しかし、横断歩道を使ったチェック方法は危険を伴います。安易に横断歩道で歩行速度を確かめるのではなく、あくまでひとつの目安と捉えておきましょう。

サルコペニアの判断基準は?

ここまでで、サルコペニアのセルフチェック方法を紹介しましたが、具体的にどういった基準で判断されるのでしょうか。サルコペニアの判断には、筋力・身体機能・骨格筋量の3点に基準が設けられています。

判断基準
判断項目 男性 女性
筋力(握力) 28kg未満 18kg未満
身体機能(歩行速度) 1.0m/秒未満

骨格筋量

(DXA法またはBIA法)

・DXA法:7.0kg/平方メートル未満

・BIA法:7.0kg/平方メートル未満

・DXA法:5.4kg/平方メートル未満

・BIA法:5.7kg/平方メートル未満

筋力は、握力を測定して判断します。

身体機能は、歩行速度テストのほか、5回椅子立ち上がりテスト、またはSPPB(バランステスト、歩行テスト、椅子立ち上がりテスト)の結果でも判断可能です。

骨格筋量は、X線の利用(DXA法)や身体の組織の電気抵抗値(BIA法)によって筋肉量を割り出します。ただし、これらの方法は皮下脂肪・むくみの要素が不確定なため、医療機関でしか測定できません。あくまで簡易的目安としてふくらはぎの最も太い部分のサイズを測るとわかりやすいでしょう。

サルコペニアの症例抽出基準では、ふくらはぎの太さが男性34cm未満、女性33cm未満に設定されています。セルフチェックや判断基準では当てはまるかどうかわからない場合は、医療機関の受診してみましょう。

サルコペニアの治療・予防は?

ここからは、サルコペニアの治療と予防について紹介していきます。

サルコペニアは、薬による治療が有効ではないとされているため、主に、食事面と運動面を見直すことで、治療や予防の効果が期待できるでしょう。

しかしながら、睡眠不足や強いストレス、過度の飲酒や喫煙の習慣があっては治療や予防がうまくいきません。食事面や運動面に重点を置きながらも、生活習慣全体を整えることが第一歩です。

このことを頭に入れつつ、具体的にどうすれば良いか見てみましょう。

栄養バランスの良い食事を積極的に摂る

栄養バランスが整っている食事を積極的に摂ることで、症状の改善や予防に役立ちます。身体を動かすためには、エネルギーの他にもタンパク質やビタミン、ミネラル、鉄分、食物繊維などさまざまな栄養素をバランス良く摂らなければなりません。

タンパク質を意識して摂ろう

特に重要なのが、タンパク質。タンパク質は筋肉を作るうえで、欠かせない栄養素です。1日の摂取目安は、体重1kgあたりおよそ1.2~1.5gとなっています。例えば、体重が50kgの方は、1日60~75gのタンパク質を摂取するのが望ましいでしょう。

また、タンパク質は1回の食事で1日分の全量を摂取するのではなく、3回の食事で均等に摂れるように心掛けてください。

ただし、疾患をお持ちの方は、タンパク質の摂取を制限しなければならない場合があります。自己判断でタンパク質の摂取量を増減するのではなく、かかりつけ医に相談して進めるようにしましょう。

タンパク質が多く含まれる食品

タンパク質が多く含まれている食品は、以下になります。

【タンパク質を多く含む食品】
  • 肉類(鶏ささみ、豚ロース、牛もも など)
  • 魚介類(いわしの丸干し、しらす干し、カツオ、マグロ など)
  • 卵類(鶏卵、うずらの卵 など)
  • 乳製品(プロセスチーズ、低脂肪乳 など)
  • 豆類(油揚げ、ひきわり納豆、がんもどき など)

食事のメニューを考える際は、これらの食材を取り入れてみましょう。

とはいえ、「肉類は硬くて食べるのが大変」「食欲がなくてあまり食べられない」とお悩みの方もいるかもしれません。そんなときは、プロテインが含まれている栄養補助食品を利用するのもひとつの手です。

プロテインは、粉末状で水や牛乳に溶かして飲むタイプや、ゼリー状になっているタイプなどが販売されています。飲み物やゼリーなら、食欲がないときでも気軽にタンパク質を摂りやすいです。

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適度に身体を動かす

サルコペニアの治療や予防には、食事だけでなく適度な運動も重要です。

日常生活を送るのに、家事をしたり歩いたりする方も多いでしょう。しかし、いつもと同じ生活を繰り返すのでは筋肉を鍛えられません。ただ歩くだけでも、「速度を上げて歩く」「歩幅を大きくする」など負荷を高めてみましょう。意識的に身体を動かすことで、より効果的な筋力強化が望めます。

では、次から筋肉量アップにおすすめのトレーニングを3つ紹介します。運動のコツは、反動を利用するのではなく、ゆっくり時間をかけて行うこと。動作は1回(往復)10秒を目安に動かしてみてください。ゆっくり行うことで、短時間かつ効率的なトレーニングが叶います。

無理せず心地良い疲労感が得られたところでストップしましょう。1日5分程度、日替わりで違うトレーニングに挑戦してみてください。

ハーフスクワット

ハーフスクワットのやり方
1. 足を肩幅に広げて立つ
2. 手を腰に当てる
3. 膝を曲げ、直角になるところまで腰を落とす
4. 膝を戻す
5. 膝が伸び切らないところでストップし、繰り返す
ポイント
・膝を戻す際、伸ばしきらずまだ少し曲がっている状態を意識しましょう。
・膝を曲げた時、膝が足の指先より前に出ないように気をつけましょう。

ももあげ

ももあげのやり方
1. 椅子の横に真っ直ぐ立つ
2. 椅子の背もたれに片手を添える
3. 片足のももを高く持ち上げる
4. ももを下ろす
5. 下ろした足を床につけずにストップし、繰り返す
ポイント
・手を添えて身体を支えられるものであれば、椅子でなくても構いません。
・ももを下ろす際、足を床につけないことを意識しましょう。

かかとの上げ下げ

かかとの上げ下げのやり方
1. 椅子の後ろに真っ直ぐ立つ
2. 椅子の背もたれに両手を添える
3. かかとを高く持ち上げる
4. かかとを下す
5. 下ろしたかかとを床につけずにストップし、繰り返す
ポイント
・手を添えて身体を支えられるものであれば、椅子でなくても構いません。
・かかとを下ろす際、床につけないことを意識しましょう。

フレイルやロコモとの違い

サルコペニアと似ている症状として、フレイルやロコモが引き合いに出されます。混同しやすいのですが、それぞれの違いを把握しておきましょう。

サルコペニアとフレイルの違い

筋肉量の減少や質の低下と共に身体機能の低下が見られる症状がサルコペニアです。対してフレイルは、身体機能の低下だけでなく社会的な問題や精神的な問題が重なり、健康を害しやすくなっている虚弱状態を指します。サルコペニアよりも広範囲の要素が絡み、要介護の前段階ともされています。

ちなみに、社会的問題の原因は閉じこもりや独居、経済的困窮など、精神的問題の原因は認知機能の衰えによって精神が不安定になってしまうことなどが挙げられます。加齢により、これらのストレスに対する耐性が弱くなると、フレイルが引き起こされるといわれています。

【もっと詳しく】フレイルとは何かを知って、介護予防

サルコペニアとロコモの違い

ロコモ(ロコモティブシンドローム)は、移動するための運動器の障害による移動能力が衰えた状態を指します。立ったり、歩いたりといった運動に必要な身体の仕組み、すなわち骨や筋肉、神経などに障害をきたし、移動が困難になってしまうのです。ロコモは、サルコペニアの要因のひとつになります。

運動器の障害の原因は、骨折や骨粗鬆症、柔軟性の低下、関節の可動域制限など多岐にわたります。ロコモが進行すると、将来的に介護が必要になってしまう可能性があるのです。

【知って予防】ロコモティブシンドロームとは?

まとめ

今回は、サルコペニアについて解説してきました。サルコペニアは高齢の方に多いですが、年齢に関係なく若い方でも起こり得る症状です。身体機能の衰えが気になる際は、目立った症状がなくとも、栄養バランスの良い食事や身体を鍛える運動で、サルコペニアを予防しましょう。

サルコペニアの予防と治療法についてはこちらをチェック

この記事の制作者

堀 ひとみ

監修者:堀 ひとみ(株式会社HSKAI代表取締役)

一般社団法人ナラティブアプローチ協会代表理事
1999年より介護職の養成スクールを運営し現在に至る。
介護保険サービス事業を運営(介護付き有料老人ホーム、認知症高齢者共同生活介護(グループホーム)、デイサービス等)
著書に「究極の介護って何?(2020年)」「こんな老人ホームに親を入れたいと思われる老人ホームのつくり方(2021年)」など。

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