2009年に開設した「ゆいま~る伊川谷」を皮切りに、日本全国で9つの介護施設やサービス付き高齢者向け住宅(略称、サ高住)などを展開している「ゆいま~る」シリーズ。
駅前再開発型、団地再生型、過疎地再生・環境共生型など、地域のさまざまな問題を解決するため、それぞれのエリアが抱える課題に即した高齢者住宅を住民と作りあげてきました。
今回、取材に伺った「ゆいま~る高島平」も、築45年の団地再生という課題を解決するべく、リノベーションしサービス付き高齢者向け住宅として生まれ変わらせたものです。

「ゆいま~る」シリーズを進める株式会社コミュニティネットは、高齢者住宅の企画・運営事業者でありながら、 “全国の町の地域プロデュース”にも取り組んでいます。なかでも“地方創生”の役割を担う本社管理部の早田(わさだ)比呂美さんに、お話を伺いました。


土地の取得や住民との対話を重ねた研究会から、暮らしの問題解決までが仕事


――「ゆいま~る」シリーズの設立の背景やこれまでの経緯を教えてください。

弊社の社長である高橋英與(ひでよ)は、30年ほど前から高齢者住宅を作ってまいりました。
もともと経営していた別の会社を後継者に譲ったのち、2009年に立ち上げたのが株式会社コミュニティネットです。同じ年に神戸のサービス付き高齢者向け住宅「ゆいま~る伊川谷」をオープンしました。ここは駅前再開発の地域要請によって建てられ、小規模多機能型居宅介護を併設し、敷地内の食堂と図書館を街に解放しています。伊川谷が「ゆいま~る」シリーズの出発点でした。

「ゆいま~る」シリーズは、今年9月に開設する愛知の「ゆいま~る大曽根」を含めると、全国で10のハウスを展開しています。北は北海道の「ゆいま~る厚沢部」、南は「ゆいま~る伊川谷」までです。
今回取材いただいた「ゆいま~る高島平」はサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)ですが、場所によっては住宅型有料老人ホームや介護付き有料老人ホームなど、さまざまな形態で運営しています。たとえば、「ゆいま~る厚沢部」は当初、サ高住を作る予定でしたが、厚沢部町の特別養護老人ホームの入居待機問題を解決するため、町から土地の貸与や補助金を受け、家賃2万円の介護付き有料老人ホームにシフトしました。

ほかには、空き地活用と医療・介護連携型の東京都多摩市の「ゆいま~る聖ヶ丘」と「ゆいま~る中沢」、駅前再開発型の東京都福生市の「ゆいま~る拝島」、そして今回取材いただいている団地再生型の「ゆいま~る高島平」や日野市の「ゆいま~る多摩平の森」などがあります。



――早田さんが実際に「ゆいま~る」シリーズで関わったものはありますか?

「ゆいま~る」シリーズで2番目に建てられた「ゆいま~る那須」です。弊社に入社して12年目になりますが、最初に関わった事業が那須でした。ここは首都圏からの移住を目論んだ過疎地再生・環境共生型のサ高住なのですが、土地を取得するタイミングから、那須で暮らすための議論を重ねていく研究会に1年間関わり、その後、入居希望の方々が集まり、「那須で100年コミュニティをつくる会」が発足されました。



――「ゆいま~る那須」は、首都圏に住む高齢者の移住を解決するハウスなんですね。

都心を離れて夫婦で地方に移住となると、元気なうちから移住をすることになります。ですので、那須は高齢者といっても70代前半の比較的お若い方が多いですね。
「ゆいま~る那須」は駅から離れており、周辺に買い物のできるお店がないので、入居者の方を買い物にお連れする運転手などの仕事を生み出して、買い物の仕組みを作っています。大自然のなかでゆったりとする暮らしなのですが、冬は当然雪も降ります。
自然のなかで暮らすには創意工夫が必要ですので、入居者の方たちと知恵を出し合いながら、常に生活しやすくなるように心がけています。それが楽しくもあり、大変なところでもあり……ですね。


 「ゆいま~る高島平」の事務所であるフロント正面

「ゆいま~る高島平」の事務所であるフロント正面



入居者同士の相互扶助で仕事を生み出し、孤立を防ぐ


――先ほど「ゆいま~る那須」のなかで、入居者の方の仕事を生み出すお話が出ましたが、その話をもう少し詳しく聞かせてください。

那須は「ゆいま~る」シリーズのなかでも、ほかのサ高住にはない取り組みがあります。先ほどお話しました通り、住民の買い物を助ける車の運転を入居者の方が行ったり、もともとお蕎麦屋さんを経営していた入居者の方が蕎麦打ちをして、ランチを振る舞ったりしています。

「ゆいま~る多摩平の森」では、“ちょこっと仕事の会”というのがあります。1時間ワンコインのアルバイトのようなもので、「お散歩1時間付き合って」「病院の付き添いをお願いしたい」などの要望を、入居者同士の相互扶助で補っています。気持ちの負担を楽にするために、必ずお金が介在しています。また入居検討者の会も入居者の方に手伝っていただいていますので、スタッフはその間、別の仕事ができて助かっています。



――「ゆいま~る」グループの地域の医療連携や看取りの有無について教えてください。

コミュニティネットは、基本的に介護と医療に関してはその地域の方と連携しています。地域に介護事業者がうまく見つからなかった場合は自社で行うこともありますが、通常は既存の事業者と協力しながら進めています。医療は自社でクリニックなどを持っておりませんので、入居者の方に合った地域で一番良い医療をご提案させていただいています。

入居者の方には、人生をどうまっとうしたいかを書いていただく「ライフプラン」を、入居の後に出していただきます。その「ライフプラン」の内容は、将来、意志を表明できなくなったときなどに、サポートさせていただく指標としています。ハウスでのお看取りをさせていただくこともあります。共有スペースでお葬式や精進落としをされる方もいらっしゃいますし、「ゆいま~る那須」ですと、最期をお部屋で迎えられ、ご自身のお部屋のなかでお葬式をされた方もいらっしゃいました。一緒に生活をしていた皆さんが、一輪の花を持ってお見送りしていましたね。


 「ゆいま~る高島平」の事務所であるフロント内部

「ゆいま~る高島平」の事務所であるフロント内部



地方の人口減少を「移住」で解決したい


――そもそも、どうして“地方創生”に力を入れていらっしゃるのですか?

日本全体の課題として、都市部への人口一極集中があります。なかでも介護は、特に都市部で人材が不足しています。その一方で、地方は人口減少で過疎化しています。弊社は、都市部と地方の両方の課題解決として「移住」があると考えています。

今後人口がどんどん減少するなかで、日本の将来の課題解決には、地方の町で1つ成功モデルを作ることです。その成功事例を全国展開することで、少しずつ課題は解決していくのではないかと思っています。



――“地方創生”を行なうにあたって、一番難しい問題は何ですか?

地域包括ケアシステムを確立することでしょうか。これは弊社だけでなく、自治体や既存の事業者、医療関係者が1つにならないとできないものです。

また、完成度をどこに求めるかという問題もあり、一番難しいですね。まちづくりは、そこに住む地域の方が行なっていくものです。なので、できるだけ地域に住む個人や、現地のNPOなどの既存組織の力を活用させていただきたいと思っています。
実は今、私は北海道の上士幌町のまちづくりの担当をしていまして、過疎化する地域の問題と都心部からの移住の両方に取り組んでいます。



――また難しい問題を担当されていますね。

「ゆいま~る那須」は都心から近いため、比較的成功しているといえますが、縁もゆかりもない地方への高齢者移住に関する成功事例は、なかなかありません。

地方の高齢者も将来の不安があるなか、都心からどっと高齢者が来ることへの抵抗感がまったくないわけではありません。上士幌町は数十年後の存続をかけて、この事例での日本トップクラスを目指す一方で、住民の皆さんは日々の生活がゆったりしていればそれでいいと思われています。

町の目指すことも住民の皆さんが思われていることも、両方同時に進めていかなくてはいけない。8月をめどにまちづくり会社を設立するために、今は住民の皆さんや出資者の皆さんなどのヒアリングを現地で行っています。




日本全国で500か所の拠点を作りたい


――今回取材させていただいた「ゆいま~る高島平」は非常にお元気な方が多いのですが、平均年齢は80歳を超えています。これが数年後、入居者の認知症が進んでしまった場合、どのような策を取られますか?

基本的にどこのハウスも最期まで暮らせる仕組みを作っています。「ゆいま~る多摩平の森」はサ高住の隣に小規模多機能型居宅介護を併設しています。一番医療との連携で安定しているのが「ゆいま~る中沢」で、建物の1階部分に地元のクリニックが入っています。

ですので、入居者の方が希望をすれば、「ゆいま~る」グループ内のハウスに移り住むことも可能です。「ゆいま~る那須」はお若い方が多いので介護まで問題が進んでいませんが、将来の次の一手を考えて、既に地元で廃校になった小学校を押さえてあります。ここに介護のシステムを組み入れていこうとしています。



――コミュニティネットの今後の展望をお聞かせください。

コミュニティネットは、日本全国で500カ所の事業展開を目指しています。
ただ、私たちが行っている“手づくり型”のまちづくりの速度で進めていくと、なかなか達成できませんので、私たちのやり方を今後、“フランチャイズ展開”することを考えています。今、出資いただいている法人などと連携をしながら、徐々に500カ所に広げていけたらうれしいです。

(横山由希路+ノオト)