介護保険の特定疾病、変形性股関節症とは?
変形性股関節症は、軟骨が摩耗することで股関節の骨が変形し、痛みや歩きづらさなどの症状が現れる病気です。進行しやすい病気のため、早期の受診と診断が大切です。
一定の条件を満たすと、40歳以上65歳未満でも介護保険サービスが利用できます。
ここでは変形性股関節症の症状や原因、治療法や利用できるサービスについて紹介します。
変形性股関節症とは?
変形性股関節症は、軟骨の摩耗で股関節の骨が変形し、痛みや歩きにくさなどの症状が出現する病気です。
最初の頃は軟骨が減ることで関節の隙間が狭くなったり、軟骨のすぐ下の骨が硬くなったりします。
進行すると骨が変形して、棘のような出っ張り(骨棘:こっきょく)や骨の中に空洞(骨嚢胞:こつのうほう)が見られるようになり、最終的には軟骨がなくなってしまいます。軟骨の摩耗が進んで骨の変形が起こる前に診断を受けることが大切です。
日本での有病率は1.0〜4.3%と言われ、男性よりも女性に多くみられます。40〜50歳で発症する人が多いです。
条件を満たせば介護保険サービスの利用が可能
変形性股関節症のうち、両方の股関節に著しい変形が見られるものは介護保険の特定疾病となっています。
その条件を満たせば、40歳以上65歳未満であっても介護保険サービスを利用することができます。
介護保険の申請を検討している場合には、条件を満たすかどうかをかかりつけ医に確認しましょう。
変形性股関節症の症状
最初は立ち上がりや歩き始めに、足の付け根や太ももの外側に痛みを感じるようになります。
軟骨の摩耗や関節の変形が進むと痛みが強くなり、長時間の歩行や立ちっぱなしが辛く、階段の登り下りに手すりが必要となります。また、安静時や夜間にも痛むようになります。
さらに進行すると動かせる範囲が小さくなるため、足の爪を切る、靴下を履く、正座をすることが難しくなり、活動の幅が狭まって生活に支障が出てくるようになります。
関節の変形が進むと、両足の長さに差が生じることもあります。
原因は幼少期にあることが多い
変形性股関節症は、大きく2つの種類に分けられます。
単純に使い過ぎや経年的な変化によりすり減った「一次性変形性股関節症」と、すり減りやすくなる原因があったことで通常より早くすり減ってしまった「二次性変形性股関節症」です。
一次性の原因は、加齢、重量物作業や肥満などです。二次性の原因は、臼蓋形成不全や大腿骨頭壊死、リウマチ、外傷、感染、腫瘍などです。
日本では二次性が多く、その原因のほとんどは臼蓋形成不全です。
臼蓋形成不全は、骨盤にある、太ももの骨を受け止める屋根の部分が浅くなる病気です。そして臼蓋形成不全の原因の多くが、赤ちゃんのときに発症する股関節が脱臼する病気「先天性股関節脱臼」によるものです。
ここまで、変形性股関節症の症状や原因について解説しました。ここからは治療法や検査について見ていきましょう。
進行すると手術が必要になることも
変形性股関節症の治療は大きく、手術以外の保存療法と手術による治療の2つに分けられます。
- 保存療法
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鎮痛剤を使用して痛みを和らげながら、関節への負担を軽減するためのリハビリを行います。
リハビリでは、関節の動きを良くしたり、筋力アップを目指して筋力トレーニングや水中運動、有酸素運動を行ったりします。肥満の場合は体重を減らすことで関節の負担を減らし、痛みを和らげることが可能です。
また、歩行時に杖を使うことでも関節の負担を減らすことができ、安定性も増すため、歩行時のバランスが取りやすくなるメリットもあります。
- 手術療法
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年齢と進行具合を考慮して手術を行うこともあります。
臼蓋形成不全が原因で、年齢が若く、軟骨の摩耗がそこまで進んでいなければ、骨盤や太ももの骨の位置を調整することで関節のかぶりをよくする「骨切り術」を行うことが多いです。一方、患者が高齢で変形が進んでいる場合には、股関節を人工のものに入れ替える「人工股関節全置換術」を行います。
人工関節には耐用年数があるため、15-20年ほどで入れ替えが必要になることがあります。また、脱臼を起こすことがあるため、日常生活での脚の位置に注意しなければなりません。
変形性股関節症の検査や診断
変形性股関節症が疑われる場合、まずは診察で関節をどの程度動かすことができるのかを確認します。
また幼少期に股関節の病気を患っていなかったか、股関節を酷使する仕事についていなかったかなどもチェックします。
加えて、レントゲン撮影で関節の様子を確認します。関節の幅は狭くなっていないか、骨棘や骨の中に空洞ができていないかを知ることができます。
CTやMRIを撮ることで、関節の変形具合などをより具体的に観察することができます。そのため、必要に応じてCTやMRIを撮影します。
変形性股関節症で利用できる公的サービス
変形性股関節症は進行していく病気です。経済的な負担を減らすために、公的支援の利用を検討するとよいでしょう。
- 介護保険の特定疾病
- 変形性股関節症のうち、両方の股関節に著しい変形が見られる場合は40歳以上65歳未満であっても介護保険サービスを利用できます。
まずは条件を満たすか、かかりつけ医に相談してみましょう。 - 身体障害者手帳の取得
- 変形性股関節症では、身体障害者手帳を取得することができます。
取得することで税金の控除・免除や公共施設・公共交通機関の割引を受けることができます。 - 自立支援医療(更生医療)
- 身体障害者手帳を取得していれば、障害の程度を軽くする、取り除く、進行を防ぐために受けた手術などの費用について、助成を受けることができます。
助成を受けられる障害や治療内容などが決められていて、場合によっては制度の対象となるかの判定を受ける必要があります。 - 障害年金
- 障害などによって生活や仕事に支障が出ている場合に受け取ることができる年金です。
受給を受けるためには、障害の程度などについて審査を受ける必要があります。
受給を検討する場合には、加入している年金の担当窓口やかかりつけ医に相談しましょう。
イラスト:坂田 優子
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:上野 正喜(医療法人社団慶泉会 町田慶泉病院 副院長)
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本専門医機構脊椎脊髄外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本骨粗鬆症学会認定医