【はじめての方へ】腸ろうのメリット・デメリット|胃ろうとの違いとその手順

腸ろうはお腹に小さな穴を開けて小腸までカテーテル(管)を通し、そこから栄養をとる方法です。対象となるのは脳や神経、顔やのどの病気で口から栄養をとることが難しい人や、誤嚥(ごえん)による肺炎を繰り返している人です。

通常は胃にカテーテルを通す胃ろうをつくることが多いのですが、胃がんなど何らかの理由で胃ろうにできない場合に腸ろうをつくることがあります。また、嚥下訓練を行えば口からの食事が可能になることもあります。

今回は腸ろうのメリット・デメリットや胃ろうとの違い、管理方法や介護施設での受け入れについて解説します。
 

腸ろうのメリット・デメリット、胃ろうとの違い

口から栄養をとることが難しいときには胃ろう・腸ろうのほか、点滴や、鼻から栄養チューブを入れる経鼻経管栄養を利用することがあります。消化管の機能を維持するために、可能な限り点滴以外の方法を選択します。

短期間の場合は経鼻経管栄養を、4週間以上の場合には胃ろうを選ぶことが多いですが、胃ろうをつくれない場合にはこの腸ろうをつくります。

ここでは他の栄養法と比べたときの腸ろうのメリット・デメリットや、胃ろうとの違いをみていきましょう。

メリット

  • のどの刺激が少ないため、口からの食事も一緒に行える
  • 誤嚥性肺炎を予防できる
  • 洋服で隠れるため、生活が制限されない
  • 経鼻経管栄養と比べて、誤って管を抜く事故がおこりにくい
  • 必要な栄養を確保しやすい

デメリット

  • 腸ろう周辺の皮膚トラブル(後述)が起こりやすい
  • 定期的に医師による腸ろうカテーテルの交換が必要
  • 誤って抜いてしまうと一晩で穴が塞がってしまうこともあり、再手術が必要になる

胃ろうとのちがい

  • 逆流が少ない
  • 腸ろうカテーテル交換には受診が必要
  • カテーテルが細長いために詰まりやすい
  • 下痢や血糖値の急激な変動を起こしやすい
  • ご家族と同じ食事を用いることはできない
胃ろうについて詳しく見る 経鼻経管栄養について詳しく見る

腸ろうは4種類!それぞれの特徴とちがい

腸ろうカテーテルは、腸の中に入れる部分の形状と皮膚の外側に出る部分の形状が、それぞれ2種類あります。それぞれの特徴を考慮して、ご本人にあったものを選びます。

腸の内部の形状による分類

バルーン型

蒸留水を使用して腸の中で風船を膨らませ、カテーテルが腸から抜けないように固定します。挿入時の負担が少なく、交換時も水を抜くだけで簡単に交換ができることがメリットです。

一方、水が蒸発して風船が縮むと自然に抜けてしまうため、定期的に水の量を確認する必要があり、たまに風船が破裂することがあります。1〜2ヶ月に1度の交換が必要です。

バンパー型

カテーテルが抜けないようにするためのストッパーがついています。初めて腸ろうを作ったときに多く使われます。半年に1度受診して、専門医に交換してもらいます。交換時に痛みや違和感を感じたり、出血を伴う場合があります。

皮膚の外側の形状による分類

ボタン型

ボタン型は出っ張りが少ないため目立たず動作の邪魔になりませんが、栄養剤を注入するときにはボタンを開けて栄養チューブを接続するため、チューブ型よりも手間がかかります。

一方、誤ってカテーテルを抜いてしまうことが少ない、カテーテル汚染が少ない、逆流防止装置あるなどのメリットがあり、在宅ではよくみられます。

チューブ型

栄養チューブを使用せずに、直接腸ろうカテーテルに栄養剤を注入します。体外にチューブが飛び出ているため、引っ張って抜いてしまうリスクや、カテーテル内部が汚れやすいというデメリットがあります。

在宅介護での腸ろうケア

腸ろうで用いる栄養剤は大きく医薬品と食品の2種類に分かれ、利用者の状態でどちらを使うかを検討します。

医薬品は医療保険が適用され、医師の処方が必要です。一方、食品は医療保険の適用にはなりません。ドラッグストアや通販などで購入できます。菌の繁殖を防ぐため、栄養剤は冷暗所や冷蔵庫に保管し、使用前には常温に戻して注入します。

栄養剤の種類
医薬品 食品
保険適用 あり なし
医師の指示 必要 必要
医師の処方 必要 不要
(ドラッグストアや通販などで購入)
注入時間 1回あたり1〜2時間  ・ミキサー食
・市販半固形化栄養剤
・流動食+半固形化剤
半固形化栄養剤を使用すれば、1回あたり5〜15分に短縮が可能
そのほか 漏れによる皮膚トラブル、下痢、嘔吐、高血糖などが起こりやすい 半固形化栄養剤は種類が少ない

自宅で生活を送る場合はごご家族が栄養剤の注入を行います。退院前に看護師から注入の指導を受けますが、退院後に困ったことがあれば、訪問看護師など身近な医療者に相談しましょう。

<栄養剤の注入方法>

  • ① 注入前に手を清潔に洗い、栄養剤は一般的には常温ですが、冬場などで栄養剤が低温の場合は人肌程度に温めておきます
  • ② 逆流を防ぐために姿勢を整えて、座った状態、あるいはベッドの上半身を上げます
  • ③ ボタン型の場合は栄養チューブを接続します
  • ④ 液体の流動食の場合はイリゲーターという専用の容器に栄養剤を移し、イリゲーターと栄養チューブを接続します。

    下痢や血糖値の急激な変動を防ぐために、ポンプ機械を用いて医師の指示通り栄養剤を滴下させます。半固形化栄養剤の場合は加圧バッグを使用して自動で注入します

    トラブルが起きたときにすぐ対応できるように、注入中は付き添うか、適切に観察を行います。
  • ⑤ 栄養剤の滴下が終了したら、内服薬は水に溶き、カテータチップ(専用の注射器)を用いて栄養チューブに注入します
  • ⑥ 全ての注入が終了したら、白湯を流して栄養カテーテルの内部に残った栄養剤を洗い流します。腸ろうカテーテルは詰まりやすいため、カテーテル内部を酢酸水で満たして注入を終了することもあります

腸ろうは皮膚トラブルが起こりやすいといわれています。そのまま入浴することができるので、皮膚の状態を毎日観察するとともに、清潔を保ってトラブルを防ぎましょう。

起こりやすい皮膚トラブルと対処方法
起こりやすい皮膚トラブル 対処方法
腸ろうの皮膚への埋没 カテーテルのストッパーと皮膚の間には1〜1.5cmの間隔があり、カテーテルが滑らかに回転、上下できる状態が正常です。
週に一度はカテーテルを回転させて、埋没を防ぎましょう。
不良肉芽(ふりょうにくげ) カテーテルがあたる場所に、赤く柔らかい組織(肉芽:にくげ)ができることがあります。
肉芽が小さく出血していなければ様子をみますが、悪化した場合は医師の診察が必要です。
カテーテルと皮膚の間にスポンジを置くなどして、皮膚に圧がかからないようにしましょう。
カテーテル周辺の皮膚の感染 毎日皮膚を観察し、発赤、腫脹、熱感、発疹、滲出液(しんしゅつえき)がみられたら医師に相談します。
漏れた栄養剤による皮膚の荒れは感染を引き起こす原因となるので、こまめに拭き取るなどして清潔を保ちましょう。

また、もっとも気を付けたいトラブルは、腸ろうカテーテルを誤って抜いてしまうこと。カテーテルが抜けると手術でつくった穴は、一晩程度で塞がってしまいます。緊急時の連絡先を日頃から確認し、抜けてしまった場合はすぐに連絡しましょう。

さらにご本人がカテーテルに触れないように服や腹帯で隠して、誤って抜いてしまわないように予防することも大切です。
 

介護施設でのケア

腸ろうのケアができるのは、ご家族と医師以外では看護師と研修を受けた介護職員(認定特定業務従事者)のみです。そのようなスタッフが24時間常駐している施設などは、受け入れの相談が可能です。

しかし、腸ろうは胃ろうに比べて栄養剤の注入に時間がかかるため、受け入れが難しい施設も少なくありません。入居や在宅療養を検討する場合は、まずはかかりつけ医やケアマネジャーに相談し、対応できる施設を探すと良いでしょう。

施設に入った場合、通常の食事はとらないため食費はかかりませんが、使用した栄養剤は実費負担となるため注意が必要です。

食事は毎日のことなので安全に留意し、介護サービスの利用も検討しながら、その人らしい生活が継続できるよう支援していきましょう。

老人ホームで受けられる医療行為(医療的ケア)

イラスト:坂田 優子

この記事の制作者

矢込 香織

著者:矢込 香織(看護師/ライター)

大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。

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noteKaori Yagome*看護師

Twitter@KaoriYagome

佐野 けさ美

監修者:佐野 けさ美(日本在宅看護学会理事)

慈恵会看護専門学校卒業。国際医療福祉大学大学院保健医療学修士、社会福祉法人生活クラブ風の村顧問、東京大学工学系研究科化学システム工学専攻水流研究室

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