質問

認知症をもつ妻は紙類を集める癖があります。はじめは家の中の紙を集めてタンスにしまうだけでしたが、最近は外出先のトイレットペーパーや食堂の紙ナプキンまで持ち帰り部屋にため込んでいます。

第三者に指摘されると恥ずかしく、外出を控えるべきか悩んでいます。こういった症状を治すことはできますか?

回答
志寒 浩二

「紙類」を代表とした収集癖は認知症にみられる症状の一つです。収集癖により不安を解消するなどそれぞれの理由があります。まずは本人の行為を否定せず対応してみてください。

このページでは、収集癖の代表的な理由からその対応方法、収集物の処分や回収の際に注意しなければならないことを解説します。こうした症状が表れたときの参考にしてみてください。 志寒 浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者)

【目次】
  1. 収集癖が表れる理由
  2. 収集癖への対応方法
  3. 処分や回収は慎重に
  4. どうしても一方的な処分や回収をするときは

収集癖が表れる理由

一口に収集癖といっても、集める物や集める理由は十人十色。中には複数の理由が絡み合っていたり、長い時間をかけて複雑な形で行われている収集癖もあります。以下に収集癖の理由で代表的なものをあげていきます。

ものがあったことを忘れてしまい、集める

集めた物をどこかにしまい込んで忘れてしまい、使われずにたまり続けてしまうパターンです。また、既に十分にあることを忘れてまた集めてしまい、結果として使いきれないほど集まるパターンもあります。ご質問のような紙類が代表ですが、割りばしやレジ袋などもよくみられます。

もったいない性分で集める

使い捨ての物(例:割りばし、プラスチックスプーンなど)を再利用しようとして集めたり、ゴミやガラクタをリサイクルできると思って集めたりします。使用済みの尿取りパッドをまだ使えるとため込んだり、壊れた道具や家電をゴミ集積所から持ち帰ることもあります。

物を大事にすることは美徳であり、有効活用する自分は賢く正しいと思っていますが、再利用がおぼつかず、結局有効活用できずにたまり続けます。

不安を解消するために集める

一般的に、物はないよりたくさんあったほうが、不安は軽減されやすいのではないでしょうか。認知症の人でもそういう人は少なくなく、「なくなったら困る」「たくさんあれば安心」と集める場合があります。

代表的な例として、尿失禁がある人が、その不安から逃れるため、トイレットペーパーをたたんでポケットがパンパンに膨らむほど集めるという例があります。

代償行動として集める

代償行動とは、本来の欲求が叶えられそうにないので、代わりの「欲求を満足させる行動」をすることです。例えば、孤独で不安な人がぬいぐるみをたくさん集めることもあります。淋しさや自尊心を「物がたくさんあること」で満たそうとすることもあるでしょう。

>認知症の進行のしかた(発見のきっかけ)



収集癖への対応方法

集めることや、集めた物を否定しない

大前提として、本人の集める行為を否定したり、集めた物を不要だ、ゴミだなどと否定しないでください。たとえそれが不潔でいらない物に見えたとしても、ご本人にとっては必要だから集めているのです。否定されればかえって意固地になり、暴言、興奮など別の症状につながる場合もあります。

時には「たくさん集めましたね」などと、収集行為やコレクションに肯定的にかかわることが解決の糸口となることもあります。

集めた満足感を引き出す

集めた物をわかりやすく整理したり、成果を一目でわかるようにすると、収集へのこだわりが薄くなることがあります。これまで散在していた物を特定の場所に集めれば、「もう十分にある」と理解して収集しなくなることもあります。

既に特定の場所に集めているのなら、以下の例のようにそこを物で埋めておくと気持ちがおさまる場合もあります。


<例>

紙を特定の箱に集めてしまう → 箱を前もってみっちり満たしておく

紙をポケットに詰め込む → タオルハンカチをポケットいっぱいに入れておく


不安や孤独の解消に働きかける

代償行動としての収集癖である場合、収集癖が孤独や不安、認めてほしい気持ちの表れであることは、実に多いものです。

他に気持ちが満たされることも、熱中してやることもなく、不安や孤独が払拭されなければ、収集癖は消えることはないでしょう。ご本人が得意で自信の持てる、または好きな活動が見つかることで収集癖がおさまることがあります。

コミュニケーションを増やすことも、不安や孤独を解消してくれるでしょう。

収集方法・収集後の管理をよく観察する

物を集めるときの状況やパターン、集めた物をどこに保管しどう扱っているのか、よく観察してください。夜間など特定の時間しか集めていないこともあります。収集パターンがつかめれば対応も考えやすくなります

収集物を特定の場所に保管して時には見返すなど、大切にしている場合は、勝手に処分するのは厳禁です。しかし、集める行為だけが目的になり、集めた後特に注意を払っていない場合は処分に応じてもらえる可能性があります。



処分や回収は慎重に

集めた物が不衛生・危険だったり、他人の物でない限り、無理に処分や回収は行わないのが原則です。

勝手に処分されたことに気が付けば、もの盗られ妄想や被害妄想につながる可能性を生み、かえって収集や物へのこだわりを強めてしまいます。

また、自分のプライベートな環境が大きく変えられることは、認知症の進行に悪影響を与えかねません。処分や回収の必要がある場合は、本人と一緒に集めた物を「整理」するという名目で本人の許可を得て行うようにしましょう。

「整理」を依頼する人が収集を尊重してくれる好意的な人であれば、ご本人は集めた物が「汚いこと」や「他人の物であること」を受け入れて、処分や回収に素直に応じることもあるのです。



どうしても一方的な処分や回収をするときは

本人が処分や回収に納得しないが、腐敗する食べ物や汚れた物を集めている、他人の物を集めているなど、どうしても回収や処分をしなければならないときは、本人が普段気を配っていない場所から慎重に、少しずつ、様子を見ながら行ってください。大きく環境を変化させないように、代わりの物を用意するなどの工夫も必要です。

収集癖は珍しいことに思うかもしれませんが、多くの介護家族が悩む課題でもあるので、周囲の人や、介護・医療の専門家に相談するのも大切です。

収集癖の理由や解決方法は十人十色なため、他の家族の例がすぐに当てはまる訳ではないかもしれませんが、介護家族会や介護職・医療職の人に話せば、たくさんのヒントが得られることでしょう。

現在は介護者が一人で抱え込むことができる程度であっても、今後、他人の物を持ってきたり、収集物が家の外まであふれるようになると、介護者だけでは抱えきれない社会的なトラブルを引き起こします。

早い段階で悩みを抱え込むことをやめ、介護者が身近に仲間や理解者を増やすことが重要です。

>認知症による被害妄想への対応は?

編集:
編集工房まる株式会社

このQ&Aに回答した人

志寒 浩二
志寒 浩二(認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者)

認知症対応型共同生活介護ミニケアホームきみさんち 管理者
介護福祉士・介護支援専門員

現施設にて認知症介護に携わり10年目。すでに認知症をもつ人も、まだ認知症をもたない人も、全ての人が認知症とともに歩み、支え合う「おたがいさまの社会」を目指して奮闘中。