父は70歳が近いのですが、そのくらいの年齢で、自宅の設備などで見直した方がいいポイントはあるんでしょうか?
老後の暮らしというものがある。そのときに問題になってくるのが「住まい」だ。
年とともに体が衰えてくることを考えると、バリアフリーになっている方が安心だ。立地でいえば、近くに病院があったり、家族や親戚が近い距離に住んでいたりする方がいいかもしれない。
私には、北九州で一人暮らしをしている父がいる。幸い今はとても元気に過ごしているけれど、いつまで一人で暮らせるのか、もっと年を取ってからも今の家のままで問題なく過ごせるのか、気になるところだ。
老後の住まいについて考えるとき、どのようなポイントを押さえておくといいのか、父が住んでいる今の家はどうなのか。父と一緒に、高齢者住まいアドバイザーの資格を持ったプロに聞いてみたいと思う。
私の父はもうすぐ70歳。仕事を引退し、出身地である北九州のマンションで一人暮らしをしている。
転勤族だったこともあり、働いていた頃はずっと賃貸に住んでいたけれど、定年後にマンションを買った。しかも、内見をせずに買ったのだという。ずいぶん思い切ったことをしたものである。
私は東京に住んでいるし、父の近くには私の弟が住んでいるが、この先ずっと地元にいるかは分からない。
今はまだ元気な父だけれど、この先の老後を考えると、今のままでいいのだろうか。何か考えた方がいいような気がするけれど、何から考えていいか分からない。
そこで、高齢者住まいアドバイザーの資格を持つプロに相談することにした。息子としても父の住まいは心配なのだ。
内閣府認可の一般財団法人職業技能振興会が認定する資格。超高齢社会において必要とされる高齢者の住まいや選び方、介護保険や年金等の社会保障、介護離職防止について、その基礎知識を学び、仕事や地域活動に活かせる水準であるか評価を与える。
高齢者住まいアドバイザー検定とは今回相談したのは、「LIFULL介護 入居相談室」で相談員をしている宮崎洪(みやざきこう)さん。高齢者住宅に関するさまざまな知識を持つプロだ。
「LIFULL介護 入居相談室」では、私たちのように「何から相談すればいいか分からない」「親はまだ元気だけど、心配なことがある」という人からの相談も歓迎だという。
まずは現状の父の家について、どういうポイントを見ておくといいか聞いてみることにした。
父は70歳が近いのですが、そのくらいの年齢で、自宅の設備などで見直した方がいいポイントはあるんでしょうか?
高齢者の場合、一番怖いのは「転倒すること」なんですね。現役世代と比べると転倒の重みがかなり違ってきます。
なぜ「転倒」が一番怖いんですか?
私たちが介護施設の入居相談を受ける中で、入居が必要になる一番のきっかけが転倒なんです。それまで元気でも、転倒によって骨折して入院すると、どんどん体が動かなくなってしまうんですね。
なるほど……父さん、今の家で転倒したことはある?
今のところはしてない!
それはよかったです。家の中で見直すポイントでいうと、設備というほどではないですが「生活動線をスムーズにすること」は重要ですね。
また、転倒しそうになったら家具につかまることになると思うので、その「家具を固定しているかどうか」も大切です。
父さん、家具は固定している?
家具という家具はほとんどなくて、全部備え付けになってるね。全部壁につながってるような感じで。
逆に、つかまるところがない!
なるほど、家具にぶつかって転倒するということはなさそうですが、その代わりつかまりにくいかもしれませんね。
宮崎さん、父は、父は大丈夫ですか!
今のお部屋で、転んだ際の不安を感じる箇所がなければ、現状は基本的には大丈夫かなと。ただ、お風呂やお手洗いへの動線は行き来する頻度が多い分リスクが高いので、つかまるところあるかを確認されるのがいいと思います。
お風呂にはもともと手すりがついています。内見もせずに買ったんですが、たまたまバリアフリーで暮らしやすい家なんです。
よかった!
転倒を回避するために、一番簡単にできるのは家具の固定ですかね?
そうですね、家具の固定が一番見直しやすく、取り急ぎの対策として効果的だと思います。数千円程度で対策できるので、手始めにチェックするのがいいと思います。
まぁ父の場合はその家具がないわけなので、ひとまず安心ですね! そもそも、部屋がきれいなのが不思議! 息子の私の家は汚いを極めているのに!
誰に似たんだか!
父の今の家は、近くに病院もあるし、スーパーも駅も歩ける範囲内にあって、高齢者が暮らす環境としてはよさそうだ。ただやはり、万が一転倒してしまったときが心配だ。
父は今一人暮らしなので、例えば転倒してしまったときなど、緊急時にどうすればいいか心配です。弟が近くに住んではいるんですが、仕事が忙しいらしく。私は忙しくないんですが、東京に住んでいるので。
そうなると、常に身に着けられて、ボタンを押すだけで通報できるようなデバイスがあればよいかと思います。
ボタンを押すと家族に連絡がいくものや、設定した電話番号に連絡がいくようなものなどがあります。
この前ケイ(地主さん)がくれた「Echo Show」は使えるかな?
たしかに、声で電話がかけられるね!
以前の記事では、地主さんが遠方で暮らすお父さんとコミュニケーションするために「Echo Show」を導入した様子をレポートしています。
以前の記事では、地主さんが遠方で暮らすお父さんとコミュニケーションするために「Echo Show」を導入した様子をレポートしています。
たまにLINEするくらいだった遠方の父67歳と僕。ITツール導入でコミュニケーションが劇的に変化したそれでも安心だと思います! 要は、転んでしまってすぐに身動きが取れない状況で「どの方法なら一番簡単に連絡できるか」を考えるといいんですね。
今は弟が父の近くに住んでいるけれど、将来地元を離れることもあるかもしれない。そうなったとき、父が引っ越す可能性についても考えてみた。
子どもたちが皆地元を離れたので、親が老後を見据えてそっちに引っ越す、みたいなケースは多いんですか?
そうですね、私たちが見てきた例だと、全体の40%くらいでしょうか。距離が近い方がゆくゆく介護施設に入る際の書類の手続きなどがスムーズだったりしますし、お子さんの側としても、遠い地元に通うよりも時間的・金銭的に楽ではあります。
親本人の希望としては、その地に住み続けたい人と、子どもがいる場所に移りたい人ではどちらが多いのでしょうか?
住み続けたいがほとんどですね。
愛着もありますしね。父さんは、東京に移住するっていうのはどう?
東京に住んでいたこともあるんだけど、東京は人が多くて疲れてしまって。たまに行くのはいいけど、住むのには抵抗があるね。あと、家賃なんかも高いだろうし。
そうだね。高齢者が東京で暮らす費用感って、地方と東京ではだいぶ差が生まれてくるものですか?
そうですね、特に家賃相場の違いがすごく壁になってきます。高齢者であることは関係なく、同じ設備を求めると少なくとも数万円の差があると思います。
高齢者だとそもそも家が借りにくいとかもありますか?
それもありますね。探し始めたけど断られてしまったので、サービス付き高齢者向け住宅(※略して「サ高住」。高齢者が、見守りや生活相談などの必要な支援を受けながら暮らせるバリアフリーの賃貸住宅)に移ることを検討する方もいます。
サ高住の費用相場や入居条件などについては、下記の記事でも詳しく解説しています。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは?費用や入居条件、他施設との違いやっぱりそうなると費用は高くなりますよね?
そうですね、サービス付きなので高くなります。
年を取ってから家を借りるのは大変ですね。
60歳を過ぎるとなかなか貸してくれないもん。それで今の家を購入したっていうのもあるよ。
そうだよね……。
ちなみに、サービス付き高齢者向け住宅のような、シニアに特化した住宅に住むメリット、デメリットはどういったものがあるんですか?
メリットは、サ高住であれば「常に誰かが近くにいて見守ってくれる」状態になることです。
例えば「高い位置にある電球を替えてほしい」といった生活の中でのちょっとした困りごとを相談できる「生活相談サービス」や、スタッフが定期的に様子を見てくれたり、部屋に設置したセンサーで見守ってくれたりする「安否確認サービス」などが利用できます。
サ高住で受けられる「安否確認サービス」「生活相談サービス」とはどんなものか、下記の記事でも詳しく解説しています。
サービス付き高齢者向け住宅の「サービス」ってなに?デメリットは、例えば食事の時間や場所が決まっているなど生活の自由度が減ることと、やはり費用ですね。物件によりますが、普通の賃貸に比べて月に4〜5万円ほどは上乗せされます。
それが一番のネックだと思うよ。年取ったら年金暮らしだしね。
まぁ費用については、いざとなったら家族で相談しよう。地主家の場合は、弟が9、僕が1ということで負担すればどうにかなるね!
不公平過ぎない???
ちなみに高齢者向けの住宅を検討するタイミングってありますか?
目安として、一つ目は「転倒が続いたとき」、二つ目は「お手洗いを失敗してしまったとき」と考えています。前者は体のサイン、後者は脳のサインといえますね。
介護施設入居を考えるタイミングについては、下記の記事でも紹介しています。
在宅介護の限界はどこ?専門家が判断する「老人ホームの入居どき」を解説しますなるほど!
あと、環境の問題でいうと、高齢者にとっては田舎に住むのか都会に住むのか、どちらがいいのか気になります。
個人的には、ある程度都会の方がおすすめかな、と思っています。
年を重ねたときに「簡単に移動できなくなる」という問題がありまして。一般論として高齢で車の運転が難しくなってからは、バスや電車で移動することになります。本数の問題を考えたとき、都会の方がいいのかなと。
そうなると、今の父の家は全てをクリアしていますね。家はたまたまバリアフリー、徒歩圏内にスーパーも大きな病院もある。
そうですね!
そういう家を買いました! 内見しなかったので、運がよかっただけですが!
逆にすごいな!
父はひとまずは、今の家で暮らすのがベストな選択といえそうだ。とはいえ年齢を考えると、何かあったときのサポートについては考えておきたい。
父は今一人暮らしなんですが、そういう場合に利用できる外部のサポートとかはあったりするんですかね?
あります。お父さんは今、要介護認定は受けられてないですよね?
ないです。
要介護認定を受けていたら、訪問介護などのいろいろなサービスが受けられます。
ただ、要介護認定を受けていなくても利用できるサービスもあるんです。
内容は自治体によりますが、例えば1食数百円ほどでお弁当を届けてくれる配食のサービスなんかもあって、食事のサポートに加えて安否確認の代わりにもなるんですよ。
なるほど!
食事の用意は今のところ自分でできるから、当面は自分でやろうかな。でもいずれできなくなったら、そういうサービスを使うことも考えないといけないね。この先どうなるか分からないから、こういう話を知っておくのは大事だと思うよ。
すごく正しい考え方と思います! 介護施設に入られたとしても「できることはご自身でやっていただく」というスタンスは変わらないんです。
お父さんの場合、お食事の用意をご自身でされているのは、とてもすばらしいです。高齢になって転倒される方の少し前の予兆として「若い頃やっていたことを面倒になってやらなくなる」というのがよくあるんです。お父さんの場合はそれがなく、ご自身でやりたいなと思っておられるので、ぜひ継続していただきたいです。
将来的には、どこかのタイミングで父が今住んでいるマンションを手放す可能性もある。その際に知っておいた方がいいことについても聞いてみた。
父が住んでいるマンションを将来的に手放すことを考えたときに、やっておいた方がいいことはありますか?
一つは「家族信託」です。将来もしご本人が認知症と判断されてしまうと、売却が簡単にはできなくなってしまうんです。家族信託とは「今のうちに、この家のことはこの家族に引き継ぐと決めておく」ためのものです。
家族信託の利用方法や費用相場については、下記の記事でも詳しく解説しています。
家族信託とは?費用や契約方法、成年後見人との違いそう聞くと、家族信託をやらない手はないように思うんですが、どうなんですか?
お金がかかるんですよ。「この人にお願いします」って口頭のやり取りだけじゃダメなので、正式な書類を専門家に作ってもらわなければいけない。それに数十万とか、財産によっては数百万とかかかる場合もあります。
財産によって変わるんですね……! ちなみに、家族信託をやらないとどうなるんですか?
資産をお持ちのご本人が認知症になり、管理や売却ができなくなった場合は、強制的に「成年後見制度」を使うことになり、家族信託をする場合よりも不自由になりがちです。誰を後見人にするのかは公平・中立な立場で裁判所が決めるのですが、司法書士や弁護士、行政書士などの第三者が選ばれるケースもあります。
成年後見制度については、下記の記事でも詳しく解説しています。
成年後見制度とは?法定後見・任意後見の違いや手続きの流れその制度もお金がかかるわけですよね?
はい、しかも、家族信託よりもっとかかるんです。家族信託だと「この家族にお任せします、書類を作るのでその費用を払います」っていうその一回で基本的には終わりなんです。
一方で成年後見制度の場合は、裁判所が決めた後見人にご本人が亡くなるまで毎月報酬を払う必要があります。最近は制度の見直しの話も出ていますが、少なくとも現状は、制度に従わなければなりません。
家族信託については、費用を無料で見積もってくれる業者さんもあるので、話だけでも聞いておくといいと思います。
地主家で家族信託する場合は、おそらく私と弟のどちらかになると思います。一般的に、兄弟間でもめることはないんですかね?
あると思いますが、家族信託をせずに問題を先延ばしにした方が、後々もっともめると思います。
お父さんがお元気なうちなら、お父さんの意思も聞けるので、もめる要素は減るのかなと思いますよ。
最近、横溝正史にハマっているんですが、遺産でめちゃくちゃもめるんですよね。『犬神家の一族』もそうだし『八つ墓村』もそうですよね。
あそこまでいくともはや面白いって思えますけど、リアルな世界でもめるのは大変なので、家族信託はやっていた方がいいと思いますね。
そうですね、金田一耕助が謎を解かなくていい状態にしたいと思います。
そもそもそんなに財産がない!
苗字は地主でお金持ちっぽいのに!
ここまでの話をふまえて、今のうちに考えておいた方がいいことや、確認しておいた方がいいことをまとめてみた。
1については、地主家の場合は幸い全てクリアしていた。2については、これから家族で考えていきたいところだ。
こういう話ってなかなかしにくいけど、話し合っておくことは大切ですよね。
そうですね。お父さんがどうされたいか、ざっくりでいいから聞いておくことが大切だと思います。
話さないで転倒したり認知症になったりすると、本人に聞くチャンスがないまま、お子さんたちが決めなきゃいけなくなるんです。そうなるとお子さんとしても「勝手に決めてしまった」という罪悪感が生まれてしまいます。
実際、このようなお話をしていないケースは多いですか?
そうですね。私たちにお電話をくださる方の中ではよくあります。
フランクに聞く方法みたいなのはありますか?
例えば「テレビを見ながらニュースの内容と絡めて話す」とかですね。「こういう老人ホームのニュースをやっていたけど、見た?」とか。それを入り口に話す感じですかね。
あとは、お孫さんがいらっしゃる場合、お孫さんの将来の話を入り口にすることもできると思います。
「孫は将来東京に出たいらしいけど、父さんはどうする? 今の家に住み続ける?」みたいな感じですね。孫の話をされると、祖父母としては考えざるを得なくなりそうですね。
そうですね!
父さんはどう、こういう話?
お父さんはそんなに抵抗はないから、気軽に話してくれた方がいいよ。自分の体の自由が利かなくなったら誰かを頼ることがどうしても必要になってくるだろうし。そのための話なんだから、遠慮なく話してほしい。
いい父!
***
話は簡単で、親に「元気なうちにどうしたいか希望を聞いておく」ことだ。そして、悩むことや分からないことは、専門家に相談すればいい。
いつか、ではなく、今のうちにやっておくことが大切なのだ。もっとも、いつか掃除しようと思って部屋が荒れている私が言うのはなんだけど、そういうことなのだ。
「LIFULL介護 入居相談室」では、専属の相談員が介護施設入居に関する相談を電話で受け付けています。親の介護施設の入居に関する悩みや分からないことはもちろん「親が元気なうちからの気になりごと」についても相談いただけます。ささいなことでも、ぜひお気軽にお電話ください。
老人ホーム探しのお悩みは LIFULL 介護入居相談室 にお任せください!編集:はてな編集部
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