早老症(ウェルナー症候群)の原因・症状・治療法

早老症は実年齢よりも早く老化の兆候が見られる病気の総称で、介護保険の特定疾病に指定されています。特にウェルナー症候群は日本人に多く見られる病気です。

ここでは主にウェルナー症候群の症状、経過、治療などについて解説します。

早老症とは?

早老症とは、いくつかの老化兆候が実際の年齢よりも早く見られる病気の総称です。

ウェルナー症候群、ハッチンソン・ギルト症候群、プロジェリアなど、およそ10の病気が含まれています。

特にウェルナー症候群は、全世界の報告数のうち約6割が日本人で、700~2,000人ほどの患者がいると言われています。

早老症は介護保険の特定疾病

通常、介護保険を利用したサービスは65歳以上で要支援・要介護の認定を受けていなければ利用できません。

しかし、早老症は介護保険の特定疾病に指定されているため、65歳未満であっても条件を満たしていれば、介護保険サービスを利用することができます。
早老症は思春期以降と早い段階から症状が出始め、進行すると介護が必要になることもあります。家族の負担を軽減するためにも、積極的に利用しましょう。

ここまで、早老症全般について解説してきました。ここからは特に日本人に患者が多いウェルナー症候群についてみていきましょう。
 

早老症(ウェルナー症候群)の症状は?

思春期をすぎ、20歳代から白髪、脱毛、両目の白内障が起こるようになります。また手足の筋肉や皮膚が痩せて硬くなり、実際の年齢よりも年老いて見られることが多くなります。

特定の症状が決まった臓器にはっきりと観察されることから、「部分的早老症候群」とも呼ばれています。例えばウェルナー症候群に認知症を伴うことはとても稀です。

「主要徴候(しゅようちょうこう)」とはウェルナー症候群に現れる症状のうち出現頻度が高いもので、診断の基準としても用いられています。 

主要徴候 (10歳以後、40歳までに出現)
主要徴候 具体的な症状の現れ方
早老性毛髪変化 白髪や禿頭などの毛髪の変化が見られます。
白内障(両側) 目の中でレンズの役割をしている水晶体が白く濁ること。
視力が低下します。
皮膚の萎縮・硬化(鶏眼や胼胝等)、
難治性潰瘍形成
皮膚が硬くなり、鶏眼(けいがん:魚の目)や胼胝(べんち:たこ)などができます。
さらに悪化して潰瘍(かいよう:皮膚が深くえぐれること)ができることがあります。
軟部組織の石灰化(アキレス腱等) アキレス腱などの組織にカルシウムが付着します。
ウェルナー症候群で特徴的に観察され、
軟エックス線撮影という検査で見つけることができます。
鳥様顔貌 口や鼻の周囲の皮膚が委縮(いしゅく:縮んで硬くなること)して、
細くとがった口や鼻になります。
音声の異常(かん高いしわがれ声) かん高くしわがれた、特徴的な声になります。

また主要徴候以外にも、次にあげるような症状が見られることがあります。

主要徴候以外の症状 具体的な症状の現れ方
糖、脂質代謝異常 血糖値やコレステロール値に異常がみられ、
糖尿病や脂質異常症などになりやすい状態です。
骨の変形などの異常
(骨粗しょう症等)
骨が脆くなり、骨折しやすくなります。
非上皮性腫瘍または甲状腺がん 悪性腫瘍。
ウェルナー症候群では上皮性腫瘍(いわゆる「がん」)よりも肉腫などの非上皮性腫瘍が多く、
寿命に大きな影響を与えます。
早期に現れる動脈硬化
(狭心症、心筋梗塞等)
血管が硬く、柔軟性がなくなって詰まりやすくなります。
原発性性腺機能低下 性ホルモンの働きが弱くなり、実年齢よりも早く更年期症状が現れることがあります。
ただし、ウェルナー症候群の患者の39%に子どもがいるという調査結果があります。
低身長および低体重 低身長や低体重はウェルナー症候群で最初に現れる徴候です。
平均身長は男性158cm、女性148.5cm。
平均体重は男性45.3kg、女性37.7kgという調査結果があります。

これに「血族結婚」を入れた7項目は、ウェルナー症候群の「その他の徴候と所見」と言われ、診断する際に重要な指標のひとつとなります。

このように、ウェルナー症候群では糖尿病、脂質異常症、悪性腫瘍、骨粗しょう症などの病気を併発する人も多く、これまでは多くの人が心筋梗塞や悪性腫瘍などで40歳代半ばで亡くなっていました。しかし最近の研究では、寿命が10年以上伸びていることが明らかになりました。


 

早老症(ウェルナー症候群)の原因

早老症の原因は、遺伝子の異常です。ウェルナー症候群ではWRNと呼ばれる、DNAの修復を担う遺伝子で異常が見られることがわかっています。

この遺伝子は親から子どもへ遺伝します。ただし、遺伝子は父親と母親から一つずつもらいますが、その両方に異常がなければウェルナー症候群は発症しません。

そのため、患者の子どもも病気を発症する割合は200〜400人にひとり以下と言われています。
 

ウェルナー症候群の診断

主要徴候以外の症状として紹介した6項目に「血縁結婚」を入れた7項目を、ウェルナー症候群の「その他の徴候と所見」と言います。

ウェルナー症候群の診断には主要徴候とその他の徴候と所見、それに原因となるWRN遺伝子の変異の有無を確認します。ただし、遺伝子検査が行える施設には限りがあるため、診断には必ずしも遺伝子検査は求められていません。

確定
主要徴候の全てが見られる場合。または3つ以上の主要徴候に加えて遺伝子変異が見られる場合には確定診断となります。
疑い
早老性毛髪変化と両側の白内障があり、加えて他の主要徴候やその他の徴候・所見から2項目以上当てはまる場合はウェルナー症候群疑いと診断されます。

早老症(ウェルナー症候群)の治療

早老症には根本的な治療法がありません。ウェルナー症候群の場合、皮膚トラブルへの対処療法や合併症の治療が行われます。

皮膚に潰瘍ができてしまったときは、消毒、保湿、保護などの対処療法を行います。ただし悪化した場合には、他の部位から皮膚を移植する手術を実施することもあります。

悪性腫瘍、白内障、脂質異常症、糖尿病などの合併症の治療は、一般の患者と同様の治療を行なっていきます。ウェルナー症候群に合併する糖尿病については、治療効果が高い治療薬が報告されています。
 

日常生活での注意点

早老症には根本的な治療法がないため、合併症を早期に発見して治療することが大切です。定期的に医療機関を受診して、悪性腫瘍がないか、動脈硬化などが悪化していないかをしっかりとチェックしましょう。

また皮膚の潰瘍は治りが悪く、特に足の傷は生活の質を低下しかねません。アキレス腱、かかと、肘などは傷を作りやすいところなので、なるべく保護するとともに、魚の目、たこ、傷ができていないかを毎日確認しましょう。
 

早老症を疑うときは専門医療機関へ

早老症は患者数が少ないため、多くの医療機関で診断・治療ができません。そのため、早老症を疑うときには大学病院など、専門機関の受診が有効です。また診断を受けた場合には、専門機関でしっかりと遺伝カウンセリングを受けることが大切です。

まずはかかりつけ医に相談して、紹介状を準備してから受診しましょう。

イラスト:坂田 優子
 

この記事の制作者

矢込 香織

著者:矢込 香織(看護師/ライター)

大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。

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noteKaori Yagome*看護師

Twitter@KaoriYagome

竹本 稔

監修者:竹本 稔(国際医療福祉大学成田病院 糖尿病・代謝・内分泌内科部長)

スウェーデン国立イエテボリ大学、スウェーデン国立カロリンスカ医科学研究所に研究留学。
帰国後は千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学にて診療、教育、研究に従事。
同大准教授を経て2017年4月から現職。
国際医療福祉大学医学部糖尿病・代謝・内分泌内科学の主任教授も務める。
専門は糖尿病、代謝、老年病。

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