介護保険の特定疾病、大脳皮質基底核変性症とは?
大脳皮質基底核変性症は脳の病気の一つで、介護保険の特定疾病です。体が動かしにくくなり、発症から5〜10年で寝たきりとなります。
ここでは大脳皮質基底核変性症の症状や治療法、リハビリテーション、ケアのポイントについて解説していきます。
大脳皮質基底核変性症とは
大脳皮質基底核変性症は、脳の大脳皮質と大脳基底核と呼ばれる部分に異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞が死んでしまうことで脳が萎縮(いしゅく:小さく縮むこと)する病気です。
なぜそのようなことが起こるのか、原因はわかっていません。
体が動かしづらくなるなどの症状が現れ、5~10年で寝たきりになります。その後の寿命は、患者の状態によって異なります。
10万人あたり2人程度と非常に稀なうえに、典型的な症状に乏しく、ピック病や進行性核上皮性麻痺などと区別するのが難しい病気です。40歳以降で発症しますが、発症のピークは60歳代と言われています。男女比はほぼ同じです。
大脳皮質基底核変性症は介護保険の特定疾病
大脳皮質基底核変性症は介護保険の特定疾病です。
本来は65歳以上でなければ介護保険サービスを利用することはできませんが、大脳皮質基底核変性症は申請することで、40歳以上65歳未満であっても介護保険サービスを利用することが可能です。
大脳皮質基底核変性症の症状
大脳皮質基底核変性症では、パーキンソン症状と大脳皮質症状という2種類の症状が同時に現れます。
このほか、不随意運動や認知機能障害などが見られることもあります。
- パーキンソン症状
- 大脳基底核に異常が起こることで生じる症状です。
筋肉がこわばる、動きが鈍くなる、体のバランスがとりづらくなるなどが見られます。 - 大脳皮質症状
- 大脳皮質の異常によって現れる症状です。
細かい作業ができない、自発的には行えるのに指示されるとできない、左手が意思と関係なく勝手に動く、または意思と反対の動作をしてしまうなどの症状があります。 - 不随意運動
- 意識していないのに体が動いてしまいます。体全体や手足などが捻れるように動いたり、筋肉がピクッと動いたりします。
- 認知機能障害
- 読む・書く・話す・聞くなどの言語機能が失われたり、物事を段取りよく行うことができなくなったりします。
また食事でお皿の左側だけ気がつかずに残す、歩いていて左側の物にぶつかるなど、意識しないと左側の物に気づかない半側空間無視が見られることもあります。
発症初期は左右どちらかに症状が強く出ることが多いという特徴があります。典型的な症状に乏しいですが、片方の腕が動かしづらくなって気づくことが多いです。
ゆっくりと進行してもう片方にも症状が現れ、発症から5〜10年で寝たきりになります。その後の寿命はその人の状態によって異なります。
大脳皮質基底核変性症の原因はわかっていない
大脳皮質基底核変性症では、脳の大脳皮質と大脳基底核に異常なタンパク質の蓄積が見られます。
そして、神経細胞が死んでしまうために大脳皮質と大脳基底核が萎縮してしまいます。その中でも特に思考や判断を司る前頭葉や、知覚・感覚を司る頭頂葉で強い萎縮が見られ、その影響でさまざまな症状が出現します。
なぜそのようなことが起こるのか原因はわかっていませんが、遺伝性はありません。また高血圧症や糖尿病などの他の病気とも直接の関係はありません。
ここまで、大脳皮質基底核変性症の原因を解説しました。ここからは検査についてみていきましょう。
大脳皮質基底核変性症の検査では脳の萎縮や血流の低下をチェック
検査では脳の萎縮や血流・代謝の低下を調べます。
脳の萎縮を見るために、CTやMRIが行われます。症状の現れ方に左右差が見られることが多いように、脳の萎縮でも左右差が見られることが多いです。
CTやMRIではっきりとした脳の萎縮が見られない場合でも、脳の血流や代謝を調べることで診断の助けになることがあります。
脳の血流低下は脳SPECT検査で、脳の代謝低下は脳PETと呼ばれる検査で調べていきます。
大脳皮質基底核変性症の治療のメインは症状軽減や進行予防
大脳皮質基底核変性症には根本治療がありません。
そのため、症状を軽減させることや進行を予防することが治療のメインとなります。
薬物療法
パーキンソン症状に対してはパーキンソン病の治療薬が効く場合があります。
また体のピクつきやつっぱりに対しては、抗てんかん薬を使用します。ボトックス注射をしたり、筋弛緩薬を脊髄の通っている穴に注射したりすることもあります。
リハビリテーション
大脳皮質基底核変性症では体が動かしづらくなるため、症状の軽減や進行の予防にはリハビリも重要です。
- 理学療法
- 体が固まらないようにストレッチをしたり、筋肉が落ちてしまわないようにトレーニングをしたりします。
また自分で姿勢を保って転倒を防ぐために、姿勢矯正や歩行練習を行います。 - 作業療法
- 動きがぎこちなく、細かな作業が難しくなるため、食事や着替えなどの日常生活動作に支障がでてきます。
できる限り自分自身で行えるように、工夫の仕方を学んだり、練習したりします。 - 言語療法
- 病状が進行すると飲み込みづらさがでてきます。
声を出したり、口を動かす運動をしたりして、スムーズに飲み込むための準備運動を行います。
この他、大脳皮質基底核変性症では飲み込みづらさによる誤嚥で肺炎を起こし、亡くなることもあります。そのため、胃ろうを造る手術を行うこともあります。
大脳皮質基底核変性症のケアのポイント
生活の質を保ち、亡くなるまでの時間を長く保つためには、生活環境を整えて合併症を防ぐことが大切です。
ここでは家族でできるケアのポイントを紹介します。
転倒予防
転倒による骨折は寝たきりの原因となります。床に物を置かない、手すりをつけるなどして、転倒を予防しましょう。
誤嚥防止
誤嚥による肺炎は命を落とすこともあります。飲み込みやすい形態に食事を変更して、誤嚥を防ぎましょう。リハビリを続けることも大切です。
また、場合によっては胃ろうを利用することが有効な場合もあります。
胃ろうを検討する場合は、ご本人、ご家族、医師でしっかりと話し合いましょう。
褥瘡予防
寝たきりになると褥瘡(じょくそう:床ずれ)を起こしやすくなります。
数時間おきに体の向きを変える、清拭や入浴などで体を清潔に保つ、しっかりと栄養を摂ることが予防には大切です。
家族だけで行うのは大変ですので、介護保険サービスを利用することも検討するとよいでしょう。
大脳皮質基底核変性症で利用できる支援
大脳皮質基底核変性症はゆっくりと進行し、経過の長い病気です。
経済的な負担を軽減するためにも、積極的に公的支援の利用を検討しましょう。
- 介護保険サービス
- 介護保険の特定疾病のため、40歳以上であれば申請することで介護保険サービスが利用できます。
- 身体障害者手帳
- 取得するとこで、障害者年金や特別障害者手当、税金の免除などの経済的な支援を受けられます。
また、公共交通機関や公共施設の割引などを受けることができます。 - 難病医療費助成制度
- 大脳皮質基底核変性症の治療にかかった医療費の一部を、公費で負担してもらえます。
公的支援を受けるためには申請が必要です。
まずはかかりつけ医やお住まいの自治体の担当窓口に相談してみましょう。
イラスト:坂田 優子
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:伊東 大介(慶應義塾大学医学部神経内科・准教授)
1967年生まれ。1992年、慶應義塾大学医学部卒業。
2006年より、慶應義塾大学医学部(内科学)専任講師。総合内科専門医、日本神経学会専門医、日本認知症学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本医師会認定産業医。
2012年、日本認知症学会学会賞受賞。