後縦靭帯骨化症の症状や治療法・受けられる支援
後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこつかしょう)は、背骨を繋ぐ後縦靭帯が骨になることで脊髄が圧迫され、しびれや手の動かしにくさ、歩行困難、排尿・排便の障害などがみられる病気です。
ここでは症状、治療法、受けられる支援について解説します。
後縦靭帯骨化症とは?
骨は、一つひとつの骨が靭帯(じんたい)によって繋がってできています。背骨の中には脊柱管(せきちゅうかん)という空洞があり、そのなかを脊髄(せきずい:神経の本幹)が通っています。
後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこつかしょう)は背骨をつなぐ靭帯のうち、後縦靭帯が骨になる病気です。その結果、脊柱管が狭くなって神経が圧迫され、さまざまな症状が現れます。
後縦靭帯骨化症の好発年齢は50歳前後です。また、頚椎(けいつい:首の骨)での靭帯の骨化は男性に多く、胸椎(きょうつい:背中の骨)は女性に多くみられます。
靭帯の骨化は平均して一般成人の3%の人にみられると言われていますが、その全ての人で症状が現れるわけではありません。
後縦靭帯骨化症は介護保険の特定疾病
通常、介護保険を利用したサービスは65歳以上でなければ受けることができません。
しかし、後縦靭帯骨化症は介護保険の特定疾病に指定されています。
そのため、65歳未満であっても条件を満たしていれば、介護保険サービスを利用することができます。
後縦靭帯骨化症は50歳前後で発症することが多い一方、進行すると介護が必要になることもあります。
介護をする家族の負担を軽減するためにも、積極的に利用しましょう。
後縦靭帯骨化症の症状
後縦靭帯骨化症の症状は大きく4つに分かれ、さまざまに組み合わさって現れることが多くあります。
また、他の病気でも似たような症状が現れるため、自分で判断せずに医師の診察を受けることが大切です。
首、肩の症状
首や肩甲骨の周りが痛み、首の動きが悪くなったり、肩が凝ったりします。
手、腕の症状
手や指、腕のしびれ感は、最も多くみられる症状です。ボタンの掛け外しがうまくできないなど、細かい作業が難しくなります。
症状が進行すると、力が入りにくくなる脱力症状がみられるようになります。
足の症状
足の指や裏のしびれ感、足全体のつっぱり感が出て、歩きにくくなります。症状が進むと脱力感が出ることもあります。
排尿・排便の異常
すぐに尿が出ない、頻尿、便秘などの症状がみられ、悪化すると尿が自力で出せなくなることもあります。
頚椎で靭帯の骨化がみられる場合は、首・肩の症状や手・腕の症状が比較的早期にみられます。
一方、胸椎の場合は腕や手のしびれはみられず、初期症状として足のしびれや歩行障害が現れることが多いです。
まれに排尿・排便の異常が早い段階で出現します。
後縦靭帯骨化症の原因はわかっていない
後縦靭帯骨化症の原因はわかっていませんが、遺伝的な素因に加えて、ホルモンの異常、糖尿病や肥満など、さまざまな要因が関係していると考えられています。
病気と関連する遺伝子が存在するため、患者さんの中には家族に同じ病気を持っている人が多く見られます。
しかし、関連遺伝子を持っているからといって、必ずこの病気を発症するわけではありません。
検査方法
後縦靭帯が骨化しているかは、レントゲン撮影で確認することができますが、初期の骨化を確認にはCTによる検査が有用です。
また、神経がどの程度圧迫されているかを確認するために、MRIを行うこともあります。
後縦靭帯骨化症の治療
後縦靭帯骨化症を根本的に治す治療はありません。そのため、骨化があっても症状がない場合は、定期的に受診して骨化が進行していないかを確認します。
症状が出ている場合は、その症状に合わせて治療を行います。主な症状が痛みやしびれなどの比較的軽症なときには手術以外の保存療法を行いますが、保存療法で効果が認められない場合は手術を行うことがあります。
また、歩行障害や排泄障害などがみられる重症な場合は、効果が認められた薬やリハビリテーションなどはありませんので、手術が唯一の治療法となります。
保存療法
- 薬物療法
- 薬を使い、症状を和らげる治療法です。痛みを取り除く消炎鎮痛薬、筋肉の緊張を和らげる筋弛緩薬や抗うつ薬、神経の機能を維持させるビタミン薬などを用います。
- 装具療法
- 装具を使って首を固定することで過度な動きを制限。神経への刺激を減らし、首や肩の痛みを和らげます。
手術
神経の圧迫を取り除くために行われる手術です。患者さんの状態に応じて、骨化した靭帯を取り除く、または脊柱管を広げる手術を行います。
手術を受ける明確な目安や基準はありませんが、一般的に、症状がない患者さんに予防的に手術を行うことはありません。
しかし、発症から長期間経過し、歩行障害などがみられるほど症状が進んでしまうと、手術による治療の効果が十分得られなくなってしまいます。
そのため、脊髄の圧迫による症状が徐々に進行している患者さんに対しては、早い段階で手術を検討したほうが良いとされています。
後縦靭帯骨化症は悪化させないことが大切
靭帯の骨化があっても症状がない場合や手術によって症状が改善した場合であっても、ある日突然症状が出現することもあります。
定期的に受診をして、悪化していないかを確認しましょう。
また、神経にわずかな力が加わったことをきっかけに、症状が出現・進行することも珍しくありません。
転倒したり首を後ろに反らせすぎないように注意して、悪化を防ぎましょう。
後縦靭帯骨化症で受けられる支援
後縦靭帯骨化症では、先ほどご紹介した介護保険サービス以外にも、いくつかの支援制度を利用することが可能です。
- 難病医療費助成制度
- 後縦靭帯骨化症で基準よりも症状が重い場合、難病医療費助成制度を利用することができます。
- 後縦靭帯骨化症の治療で払う医療費の上限が定められ、上限額に達した場合はそれ以上払う必要がありません。
- 障害者手帳・障害者年金
- 身体的な障害がある場合には障害者手帳を取得することができ、所得税や住民税の控除、公共交通機関などの割引などが受けられます。
- また条件を満たしていれば障害者年金の受け取りが可能です。
- リハビリの日数制限
- 国が定めるルールによって、整形外科の患者さんは医療保険を使ったリハビリテーションを、発症後150日までしか受けることができません。
- しかし、後縦靭帯骨化症はこの制限の対象から外れますので、リハビリを継続して行うことができます。
ほとんどの支援制度は、利用に医師の診断書や担当窓口への申請が必要です。まずはかかりつけ医やお住まいの市区町村の窓口に相談してみましょう。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:上野 正喜(医療法人社団慶泉会 町田慶泉病院 副院長)
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本専門医機構脊椎脊髄外科専門医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本骨粗鬆症学会認定医