【はじめての方へ】脳血管疾患のリハビリはこれ!意欲を引き出すポイント
脳血管疾患とは脳血管の異常が原因で起こる脳・神経の病気の総称です。高齢になるほど発生率が高く、寝たきりになる原因疾患の1位にも挙げられています。
発症後数日を経過した段階(回復期)から主流となる治療法はリハビリです。脳血管疾患による半身麻痺、高次脳機能障害などの症状は、適切なリハビリを受けることで軽減させることができます。
そこで、臨床現場で治療にあたる理学療法士の視点で、発症後の回復過程とリハビリの大まかな流れ(自宅で行えるものを含む)、生活動作に役立つおすすめの便利グッズ、そしてご本人の意欲を支える3つのポイントをご紹介します。
脳血管疾患の原因と症状
脳血管疾患には、大きく分けて脳梗塞と脳出血があります。脳梗塞は脳の動脈が詰まり、血液の流れが悪くなることで起こります。脳出血は脳の細い動脈が破裂して脳内に出血することで起こります。
脳血管疾患の主な症状
- 意識障害
- 半身麻痺(痙縮:けいしゅく。筋肉のつっぱりを伴う)
- 感覚障害
- 高次脳機能障害(記憶障害、注意力障害など)
- 言語障害、嚥下障害
これらの症状は後遺症として残ることが多いといわれています。
脳血管疾患の原因から予防まで発症後の回復過程とリハビリの流れ
急性期(発症~数日)
脳内のむくみや血液の流れが改善することで症状が軽減していきます。この時期には、発症直後の治療・看護と並行して、病室での体位変換と良い姿勢(回復を後押しするための姿勢)の保持、関節の柔軟性を保つためのストレッチ、寝返りや座るといった基本的な動作の練習などのリハビリを行います。
回復期(発症数日~5、6ヵ月)
急性期の症状が落ち着いたこの時期には、リハビリ室などで集中的にリハビリが行われます。
回復期のリハビリ
- 麻痺の回復を促す運動
- 筋力強化運動、感覚障害へのアプローチ
- 立つ・歩くなどの基本的な動作の練習
- 日常生活動作(洗顔、着替え、食事、歯みがき、排せつ、入浴など)の練習
- 高次脳機能障害へのアプローチ
- 言語練習、嚥下練習
また、退院後の生活を想定して杖などの補助具の選定、手すりの設置や段差解消などの住環境調整を行います。その後の「生活期」では、生活環境や活動範囲・場面に合わせた動作の練習やストレッチなどの自己管理を行うことになります。
この時期は退院後であることが多いため、ご自宅でどんなリハビリを行えば良いかを理解し、さらなる回復につなげることが大切です。
では、自宅でどのようなリハビリを行うとよいかをみていきましょう。
生活期(退院後)に必要なリハビリ
生活環境や活動範囲・場面に合わせた動作の練習を行います。安全に行える動作を少しずつ増やし、活動範囲・場面を広げていきます。
一方、発症後5~6ヵ月が経つころは、麻痺の回復が得られにくくなる時期でもあります。加えて、手足の痙縮(けいしゅく:動かしにくい状態)が強くなると腕や手指が曲がる、足のつっぱりなどが生じやすく、動作の妨げになることがあります。
生活期以降、少しでも麻痺を回復させるには、痙縮を弱めて手足の柔軟性を保つためのストレッチとマッサージが重要になります。
しかし、痙縮は歩きすぎたり頑張りすぎるとかえって強まる傾向があるため、運動しすぎたり、頑張りすぎないように注意しましょう。
ご自宅で行える代表的なリハビリと注意点
麻痺の回復を促す運動は、その重症度によって異なります。ただし、自己管理として痙縮をやわらげて筋肉のつっぱりを軽減することの必要性は概ね共通しています。
ここでは、よく指導の対象となる代表的な手足のストレッチと器具を使って行うマッサージをご紹介します。
- ① 手指と手首のストレッチ
- ② 肘と肩のストレッチ
- ③ 足首とふくらはぎのストレッチ
- ④ 電気マッサージャーを使ったマッサージ
生活動作に役立つおすすめの便利グッズの具体例
現在は、生活動作に役立つさまざまな便利グッズ(※福祉用具も含む)があります。以下、おすすめの物をいくつかご紹介します。
- 自助箸:利き手ではない手でも使いやすいお箸
- 自助食器:すくいやすいお皿、滑りにくいお皿、大きな取っ手の付いたお椀・コップ
- ペットボトルオープナー:握力が弱くてもペットボトルのふたを開けられるグッズ
- 柄の長いブラシ、長い(あるいは輪っか状の)ボディタオル:背中や麻痺のない側の腕を洗うグッズ
- 片手用つめ切り:麻痺のない側の手のつめを自分で切るためのつめ切り
- シャワーチェアー※:お風呂場で安全に腰かけて体を洗うための椅子
- 据え置き型の手すり※:ベッドやソファーからの立ち上り動作や歩行を安定させるための手すり
- 手すり付き足台※:玄関の上がりかまちなどの段差の昇降を安定させるための手すり
※公的介護保険の対象となります。
ご本人の意欲を支える3つのポイント
脳血管疾患はさまざまな後遺症を残し、長期間の療養生活を強いられることも多いため、ご家族は驚いたり戸惑ったり、じれったく感じてしまったりすることが多いかも知れません。それは病気を発症されたご本人であればなおさらだと思います。
そこで、ご本人の意欲を支えるポイントを3つご紹介します。
①ご本人の「良いところ」「できること」に着目する
後遺症をもつということ、そしてこれまで当たり前にできていた生活動作ができなくなるということは、ご本人にとって非常に大きな喪失体験であると思います。そのため、どうしても「悪いところ」「できないこと」ばかりに目が向いてしまうものです。
そばにいるご家族には、どうか「良いところ」「できること」を見つけて、これ寄り添い、小さなことでもともに喜んであげて欲しいと思います。
②ご家族が「リハビリの先生」になりすぎないようにする
ご本人を支えたい、より良い回復につなげてあげたいという想いから、ご家族が「もっとリハビリをしないと」「ちゃんと歩いて」とリハビリの先生のようになってしまうことがあります。
長期間の療養生活には、リハビリと同じくらい「心が安らぐ場所・存在」が大事です。リハビリの先生は専門家に任せて、ご家族にはこの心が安らぐ場所・存在でいていただきたいと思います。
③役割や日常を失わないようにする
喪失体験を経て、病気を発症される前の家庭や地域での「役割」を失ったり、一緒に買い物に行く、趣味を楽しむ、家族の時間をともに過ごすなどの「日常」をあきらめてしまったりする方が多くいらっしゃいます。もちろん、これまでの役割や日常をそのまま継続することは難しいかもしれません。
しかし、生きるうえで「役割」や「日常」はとても大切です。これらを失わないように、あるいは無理のない範囲で続けられるように、できることからはじめてみて欲しいと思います。
もちろんこれらは、ご本人やご家族に心のゆとりがないと難しいかもしれません。そんなときは、どうかお一人で抱え込まないでください。担当のケアマネジャーや医療福祉専門職とよく相談し、ご本人の意欲を引き出す工夫について助言を得るとよいでしょう。
また、介護保険サービスなどの社会資源をうまく活用し、ご本人・ご家族の心身の負担を軽減していただきたいと思います。
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「再起を誓う大きなきっかけは家族や友人の存在」と多くの患者さんから教えていただきました。後遺症をもち、長期間の療養生活を続けるなかで、一人で頑張り続けるのはとても難しいことだと思います。
ここでご紹介した情報が皆さんの抱える不安を少しでも軽減し、そしてご本人やご家族の意欲を支える一助となれたとしたら、臨床現場で治療にあたる理学療法士としてとても嬉しく思います。
イラスト:安里 南美
この記事の制作者
著者:安藤 岳彦(介護老人保健施設ひまわりの里 リハビリテーション部長)
認定理学療法士(地域理学療法、健康増進・参加)、中級障がい者スポーツ指導員
1999年秋田大学医学部付属医療技術短期大学部理学療法学科を卒業。
医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院に勤務。介護老人保健施設ライフプラザ鶴巻、医療法人篠原湘南クリニッククローバーホスピタル、医療法人社団佑樹会・介護老人保健施設めぐみの里の開設を経て、現職。療養・生活に寄り添うリハビリ専門職として、日々の業務に従事しています。