【はじめての方へ】失語症・構音障害の原因と症状、コミュニケーションのポイント

失語症・構音障害のリハビリ

失語症と構音障害は、脳血管疾患や脳にケガ(脳外傷)を負うことで生じる言葉の障害です。

言葉を「聞く」「話す」という点で障害が起こると、いま起きている症状を理解すること自体が難しく、ご本人、ご家族ともコミュニケーションに大変苦労されます。

しかし、症状を正しく理解して対処法が分かると、コミュニケーションは大きく変わることが多いものです。そこで、臨床現場で治療にあたる理学療法士として、聞く・話すなどの仕組みや失語症と構音障害の原因。認知症との違いやリハビリについて解説します。

「聞く・話す」の仕組み

そもそも言葉を「聞く・話す」とはどのようなメカニズムかご存じでしょうか。

「聞く」は耳で音を拾ったあと、脳の言語中枢でその音の内容を理解すること。

「話す」は内容を言語中枢で考えたのちに脳の運動中枢が体のそれぞれにどう動くかを命令します。その命令に従って肺から空気を押し出して喉や口で発音することです。

このメカニズムのうち、言語中枢がうまく働かなくなることで生じるのが失語症。運動中枢がうまく働かなくなることで生じるのが構音障害なのです。

失語症と構音障害、それぞれの特徴は

失語症の特徴

失語症は、主に脳血管疾患や脳のケガにより脳の言語中枢(右利きの場合は脳の左側にある)に障害が起こることで生じます。

大まかなイメージとしては「海外旅行にでかけているとき」のように、「違う言語のため相手の言葉が理解できない」、「こちらも言葉で伝えることができない」といった状態です。

失語症の主な症状

  1. 聞いた内容を理解することが難しい
  2. 考えている内容をうまく話せない
  3. 文字を読み取れない
  4. 書きたい文字を思い出せない
  5. 計算ができない

失語症の主な検査

標準失語症検査を行い、「聞く力、話す力、読む力、書く力、計算する力」など26項目をチェックします。

なお、脳血管疾患が原因で生じる失語症は、およそ12ヶ月で40%は改善するとされています。

また、軽症であれば発病後2週間、重症であれば10週間がもっとも回復するとされています。

構音障害の特徴

構音障害は、主に脳血管疾患や脳のケガ(脳外傷)により脳の運動中枢に障害が起こることで生じます。構音障害は「喉や口で言語音を作る筋肉の麻痺・機能低下」を起こしている状態です。

構音障害の主な症状

  1. 声が小さい、声が長く続かない(呼吸)
  2. ガラガラ声やかすれ声になる(発声)
  3. 発音が不明瞭になる。呂律がまわらなくなる(発音)

構音障害の主な検査

標準ディサースリア検査をおこない、「構音、発話明瞭度」などをチェックします。

【Point】失語症と認知症との違いとは?

  • 失語症があるとコミュニケーションをとることが難しくなり、認知症をわずらったものと勘違いされてしまうことがあります。

    しかし、失語症があっても判断力、人格・性格のような言語に関すること以外は保たれます。

    このことは、冒頭でご説明したように海外旅行に出かけているときのような状態を思い浮かべていただけると理解しやすいと思います。

代表的なリハビリ

失語症の主なリハビリ

言語の機能訓練

日常生活で必要性が高くて比較的簡単な課題から行い、聞く・話す・読む・書くなどの機能回復を促します。

実用コミュニケーション訓練

日常生活でよくある場面を想定して、言語やジェスチャーなどを通じて実用的なコミュニケーションを練習します。

環境調整

ご家族など周囲の方々に症状やコミュニケーションの取り方を説明し、ご本人が過ごしやすい環境を整えます。

構音障害の主なリハビリ

発声発語訓練

口の体操や発声・発語の練習を行います。

発話以外のコミュニケーションの練習

手話、書字、文字盤、コミュニケーションボード、コミュニケーション支援システムなど、症状に合わせたコミュニケーションの練習を行います。

このように、失語症、構音障害にはご自宅で行えるリハビリもあります。しかし、症状が多様で一概には言えない点もあるので、ぜひ医師やリハビリ専門職に聞いてみてください。 

ご家族が心がけるべきこと

ご家族や周囲の方々には、「何とか言葉を取り戻せないものか」という焦りや不安があるかと思います。そのため、「もっとこうした方がいいんじゃないか?」「こうすべきでは?」とアドバイスしがちです。

しかし、身近な方々が訓練を行うことでかえってご本人を傷つけてしまうこともあります。ここで大切なのは訓練よりも対処法を知っていただくこと。

ご家族に心がけていただきたい対処法についてご紹介します。

失語症・構音障害のケアのポイント

寄り添い、共感する

失語症は“見えない障害”であるため、症状が理解されにくいものです。一番つらいのは“伝わらないもどかしい想い”に苦しむご本人です。

その気持ちに寄り添い、共感してもらえることが、ご本人にとって一番の心の支えになります。

「はい」「いいえ」で答えられる質問をする

言葉を選んで話すことは、失語症のある人にとっては難しいものです。

そのため、「はい」「いいえ」で答えられる質問をすると答えやすくなることが多いです。

ご本人の生活に合った「絵カード」を作る

うまく伝わらないことが続くと、関係性を保つために愛想や笑顔で対応することが多くなり、コミュニケーションをあきらめ、内向的になってしまうことが多くあります。

そのため、ご本人が望む「こと・もの」をわざわざ言葉で求めなくても良い環境を整えることが大切です。

例えば、コミュニケーションのストレスを軽減する一つの方法として、飲み物・食べ物の絵、頭痛・腹痛などの体調を表した絵、入浴・睡眠などの生活行為の絵など、ご本人の生活に合った絵カードを作るのも一案です。

ノンバーバール・コミュニケーションを活かす

言葉以外の方法でとるコミュニケーションを「ノンバーバール・コミュニケーション」といいます。

人はコミュニケーションをとるとき、受け取る情報のほとんどをジェスチャー、視線、表情などの視覚情報や口調、声のトーンなどの聴覚情報から得ており、言語そのものから得られる情報はわずか7%といわれています。

つまり、言葉以外の方法による情報の方が多い、ということです。

ぜひ、これらをよく観察してみてください。少しずつですが理解できるようになると思います。

言葉以外の世界を大切にする

言葉がすべてではなく、言葉以外の世界を豊かに過ごすことも大切です。

歌が好きな人は歌をうたう(音楽を流すと歌いやすい)、絵を描くことが好きな人は絵を描くなど、言葉ではない楽しみを一緒に見つけて笑顔の時間を増やしましょう。

専門職に相談する

失語症のリハビリは目に見えて成果を感じにくいため、続けていくことに大変な苦労を感じるものです。

こういった場合はリハビリ専門職に相談し、経過の確認(検査・評価)をしてもらいましょう。

専門職の視点で、改善された点やリハビリや生活する上で適切な助言を受けることで、ご本人、ご家族ともに支えになることが多々あります。

*****

失語症と構音障害は、脳血管疾患や脳に怪我を負うことで生じる言葉の障害です。これらは理解すること自体が難しく、対処の仕方も慣れないため、ご本人、ご家族ともコミュニケーションに大変苦労されます。

しかし、症状を正しく理解し、対処法が分かると、コミュニケーションは大きく変わることが多いものです。

ここでは、これまでの臨床経験からご家族にぜひ知っておいていただきたい情報をご紹介しました。

皆さんのより良いコミュニケーションと、ご本人らしい生活・人生を過ごすための一助となれば嬉しいです。

イラスト:安里 南美

この記事の制作者

安藤 岳彦

著者:安藤 岳彦(介護老人保健施設ひまわりの里 リハビリテーション部長)

認定理学療法士(地域理学療法、健康増進・参加)、中級障がい者スポーツ指導員
1999年秋田大学医学部付属医療技術短期大学部理学療法学科を卒業。
医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院に勤務。介護老人保健施設ライフプラザ鶴巻、医療法人篠原湘南クリニッククローバーホスピタル、医療法人社団佑樹会・介護老人保健施設めぐみの里の開設を経て、現職。療養・生活に寄り添うリハビリ専門職として、日々の業務に従事しています。

所属先介護老人保健施設ひまわりの里

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