【はじめての方へ】経鼻経管栄養の特徴と自宅介護の注意点
経鼻経管栄養は鼻の穴から胃まで管を入れ、そこから栄養をとる方法のことで、鼻腔経管(びくうけいかん)栄養と呼ばれることもあります。
食べ物を飲み込む力が衰えている人や病気などの影響で十分な栄養がとれていないと考えられる人、消化管の手術を行った人に対して実施されます。手術が不要のため入院中などに一時的に行うことも多く、口から食べる力が回復すればすぐに止めることができます。
ここでは経鼻経管栄養のメリット・デメリットや管理方法、起こりやすいトラブルや介護施設での受け入れについて解説します。
経鼻経管栄養の対象となる人は?よくある質問
経鼻経管栄養は、脳や神経の病気、口やのどの手術を受けた直後などで、食べ物を噛み砕いたり飲み込んだりする機能に障害がある一方、消化管の機能が正常な場合に行います。化学療法や放射線療法などで、口からの食事量が十分ではないときにも用いられます。
経鼻経管栄養は簡単に導入できる一方、そのために起こりやすいトラブルもあります。このため長期的には使用せず、経鼻経管栄養が4週間以上必要となる場合には胃ろうを検討します。
また消化管の機能が低下しているときには腸を休める必要があるため、中心静脈栄養法などの点滴による栄養法を選択します。
経鼻経管栄養に関するよくある質問
どのタイミングで管を入れるの?
経鼻経管栄養の管は、必要性が生じたときに挿入し、不必要に入れることはありません。誤嚥(ごえん)性肺炎を繰り返して入院したとき、脳や神経の病気を発症したとき、化学療法中などで必要な栄養が十分とれていないと判断されたときなどに挿入します。
本当に必要な栄養がとれる?
経鼻経管栄養の管は細く、一度にたくさんの量を注入することができません。そのため、使用する栄養剤は少量でも必要な栄養素やエネルギーを摂取できるように作られています。また、必要であれば栄養剤の注入回数を増やすことで対応します。
栄養はとれても空腹感は満たされない?
経鼻経管栄養は胃に栄養剤を注入することで血糖値が上昇して、空腹感は満たされます。しかし味わうことができないため、食事の満足感が下がることもあります。嚥下訓練を続けることで口からの食事を再開できる場合もあります。
喉が渇いたらどうする?
飲み込む力がある程度保たれている場合には、とろみ剤を使用するなどして水分を口からとることも可能です。歯磨きなどの口腔ケアは毎日実施し、口の中を潤します。ワセリンやグリセリン入りのうがい剤、口の中専用の保湿剤、白ゴマ油などを塗って、口の中の乾燥を防ぐこともあります。
外出はできる?
管を入れたままでも外出は可能です。外出中に栄養剤の注入も可能ですが、そうならないように注入時間を調整するとよいでしょう。
ヘルパーさん(介護職員)でも対応できるの?
栄養剤の注入は家族と医師のほか、看護師と一定の条件のもとで研修を受けた介護福祉士などの実施が認められています。研修を受けていない介護職員が対応することはできません。
経鼻経管栄養のメリットは?他の経管栄養とのちがい
口から食べることが難しいときには経鼻経管栄養のほか、胃ろうや腸ろう、中心静脈栄養を用いますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。
どの栄養法を選択するかは消化管の状態や使用する期間だけでなく、それぞれのメリット・デメリットも考慮したうえで医師が決定します。
メリット
- 手術がいらない
- 管の挿入が簡便
- すぐにやめられるので、一時的な栄養補給に適している
- 消化管の機能を維持できる
- 自宅での生活が可能
デメリット
- 何らかの理由で肺に管が誤って入ってしまい、肺に注入してしまうことがある
- 管の不快感がある
- 嚥下訓練がしづらい
- 誤って管を抜いてしまう事故が起こりやすい
- 1〜4週間ごとの管の交換が必要
- 見た目が気になる
※これらのデメリットで経鼻経管栄養が続けられない場合や長期的な栄養法が必要になった場合、ほかの栄養法を検討します。
その他の経管栄養法
胃ろう
手術によってお腹から胃まで小さな穴をあけて管を通し、栄養をとる方法。胃がんなどで胃を切除している場合などは、お腹から腸までの穴をあけて管を通す腸ろうを用います。
胃ろうは誤嚥予防のメリットも!ケアの方法と注意点末梢静脈栄養
一般的な点滴で栄養をとる方法のこと。長期間の使用はできず、在宅で行うことはほとんどありません。
中心静脈栄養
心臓近くの太い静脈に点滴をすることで栄養をとります。手術が必要ですが長期間行うことができ、在宅療養も可能です。
中心静脈栄養(IVH)の特徴|自宅介護の注意点まとめ在宅でのケア|経鼻経管栄養の手順
経鼻経管栄養は在宅で行うことも可能です。家族がケアできるよう、看護師から栄養剤の注入についてレクチャーを受けます。最初は戸惑うこともあると思いますが、焦らずにゆっくりで構いませんのでケアの方法を身につけていきましょう。
栄養剤の注入前に確認すること
- 口の中で管がとぐろを巻いていないか
- 呼吸が苦しそうではないか
- モニターがついている場合は酸素飽和度の低下が見られないか
- カテータチップ(栄養注入専用の注射器)などで吸引した時に胃の内容物が引けるか
- 胃の内容物が引けてこない場合は、管から少量の空気を注入するとポコポコと気泡音が聞こえるか
(介護施設などでは看護師が実施します。介護職員は実施できません)
栄養剤の注入は毎日複数回行います。確実に行って、事故を防止しましょう。注入回数は医師の指示によりますが、ご本人に必要なエネルギー量、消化にかかる時間、生活スタイルを考慮し、その人にあった時間に設定します。
経鼻経管栄養で使用する栄養剤の種類は、「食品タイプ」と「医薬品タイプ」があります。
「医薬品タイプ」は医師の処方が必要で、「食品タイプ」(ドラッグストアなどで販売されている液体の栄養剤)はご本人や家族が購入します。どちらを用いるかは基本的に医師が判断します。
胃ろうや腸ろうのようにミキサー食を注入したり、半固形化栄養剤を使用することはありません。
栄養剤の注入方法
- ① 栄養剤はあらかじめ常温に戻しておきます。
- ② 姿勢を半座位(頭を45°程度上げて座った姿勢)に整えます。
- ③ 管が胃の中に入っているかをカテータチップで確認します。
(介護施設等では看護師が実施します。介護職員は実施できません) - ④ 栄養剤をイリゲーターと呼ばれる専用容器に移し替え、鼻の管と接続します。イリゲーターのクレンメ(ストッパー)をゆっくりと開けて、医師に指示された速度で注入します。
- ⑤ 栄養剤を入れ終わったら、内服薬を鼻の管から注入します。あらかじめ白湯などでの溶かしておきますが、薬の種類によってはこの方法が適さないこともあるので、あらかじめ薬剤師に相談しましょう
- ⑥ 全ての注入が終わったら、管に白湯を流して内部に残った栄養剤と薬剤を洗い流します。
(管の中が詰まってしまわないように、最後に管の内部を酢水で満たすこともあります。) - ⑦ 終了後の嘔吐や逆流を防止するため、30分から1時間は半座位を保ちます。
清潔ケア
経鼻経管栄養の管が入っていても入浴は可能です。水に濡れると固定テープが剥がれやすくなるので、顔を洗うときは濡れタオルを使って汚れを拭き取ります。
また口から食事をしていなくても口腔内は汚れ、肺炎の原因となることもあります。歯ブラシや専用スポンジなどを使って、毎日口の中をきれいにしましょう。
起こりやすいトラブル!その予防法
経鼻経管栄養で起こりやすいトラブルには、栄養剤の肺への誤注入と管の詰まり、管を固定している部分の皮膚トラブル、下痢などの消化器症状、管の自己抜去などがあります。
栄養剤の肺への誤注入
肺炎の原因や、窒息などの命に関わる事態を引き起こすこともあります。管の交換時や栄養剤の注入時には管が胃に入っていることを毎回確認して、誤注入を確実に防ぎましょう。介護施設などで実施する場合は、看護師が毎回確認します。
管の詰まり
栄養剤注入後には内服薬はしっかりと溶けたことを確認してから注入し、白湯を流して管の内部をきれいにます。管の内部を酢水で満たすと詰まりの防止になります。
詰まってしまったときは、医師、看護師に連絡して新しい管に交換してもらいましょう。
皮膚トラブル
管やテープで皮膚が荒れてしまうことがあります。赤み、腫れ、熱感、滲出(しんしゅつ)液、痛みがないかを毎日確認します。症状が出た場合は看護師や医師に相談しましょう。
予防のためには、同じ部分に管やテープがあたらないようにすることが大切です。定期的にテープを交換し、同じ位置に固定しないよう心がけます。
下痢などの消化器症状
経鼻経管栄養では下痢のほか、お腹の張りや悪心、嘔吐が起きやすくなります。注入速度や栄養剤の濃度、温度が原因となるため、医師の指示通りに注入します。それでもトラブルが続く場合は注入方法の変更が必要です。症状を記録に残し、医師に相談しましょう。
管の自己抜去
管を誤って抜いてしまうことを自己抜去といいます。経鼻経管栄養では鼻に不快感があるために起こりやすく、認知症の方の場合はとくに注意が必要です。
注入時以外は管が邪魔にならないようにヘアピンで髪に留めたり、テープ固定の方法を工夫して指が管に引っかからないようにしましょう。
介護施設を検討する際は「看護師常駐施設」を選ぶ
経鼻経管栄養が行えるのは家族と医師以外に、看護師と所定の研修を修了した介護福祉士などです。また管が抜けた場合の再挿入は、介護福祉士は実施できません。
実態としては24時間看護師が常駐していないと施設での受け入れは難しくなります。なかには訪問看護サービスを利用することで看護体制を強化して対応するところもありますが、数が少ないのが現状です。
また、胃ろうにすることで、入居先の選択肢を増やすことができます。
ご本人の状態次第では医師や言語聴覚士などと連携してリハビリを行うことで、口からの食事が可能となり、管を抜くことができる人もいます。
今後介護施設を利用する可能性があるか、口からの食事に戻すことができるか、主治医やケアマネジャーなど連携を取っている関係者としっかり話し合って、栄養法について検討してみてください。
経鼻栄養をしている方が介護施設を選ぶときのポイントは?
イラスト:坂田 優子
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:佐野 けさ美(日本在宅看護学会理事)
慈恵会看護専門学校卒業。国際医療福祉大学大学院保健医療学修士、社会福祉法人生活クラブ風の村顧問、東京大学工学系研究科化学システム工学専攻水流研究室