昭和40年代、日本全国に作られたマンモス団地。なかでも東京都板橋区にある高島平団地は、都心にもっとも近いことから、開設当時には入居の応募が殺到しました。現在は若い夫婦向けの団地リノベーション企画でも注目を集めています。

高島平団地にある一棟に点在する空室を“サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)”としてバリアフリー改修したのが、「ゆいま~る高島平」です。特徴的なのは、どの部屋がサ高住なのかがまったくわからないところ。玄関から見ても、ベランダ側から見ても、傍目にはほかの部屋との違いはありません。

自分の人生をクリエイトしたい元気な入居者の方々を優しく見守るのが、ハウス長の冨田潤一さん。聞き上手、話し上手な冨田さんのお話から、「ゆいま~る高島平」での入居者の方々の暮らしぶりが見えてきました。




 “分散型サ高住”の「ゆいま~る高島平」とは


――南向きのベランダに、住民の皆さんが一斉に洗濯物や布団を干す光景は、圧巻です。その眺めで、高島平団地の一棟がとても大きいマンモス団地なんだと実感しました。「ゆいま~る高島平」が入る棟は全部で何戸、うちサ高住はどれくらいの数ですか?

「ゆいま~る高島平」が入っている棟は、高島平団地の2丁目26街区の2号棟です。この棟は121戸あるのですが、空室となった42戸をバラバラにサ高住として登録しています。


「ゆいま~る高島平」は2014年の12月1日に30戸でスタートしました。2016年4月1日に5戸増やし、今年の3月16日にさらに7戸増やし、お部屋をお借りするUR都市機構さんとは、トータルでサ高住50戸を目指す契約をしています。2丁目26街区2号棟以外にもサ高住を広げていきたい気持ちもありますが、団地の賃貸や分譲含め、耐震構造の工事が済んだ棟がまだ少ないのが現状です。ですので、どの棟にもサ高住を増やせるというわけではないんですね。


――「ゆいま~る高島平」は、なぜ高島平団地に作られることになったのですか?

実はUR都市機構さんの公募でした。「高島平団地を使って何かできることがありますか?」というお題ですね。弊社のコミュニティネットが応募し、採用されました。


「ゆいま~る高島平」開設2年前の2012年に、弊社の社員がこの団地に住み込み、地域のニーズ調査を行ないました。そのときに地域の方や「ゆいま~る高島平」の入居検討者が参加する「高島平団地で暮らし続けるしくみをつくる会」ができ、話し合いを重ねていました。その会合は、今でも続いています。2017年5月には、51回を迎えました。地域の住民の方や「ゆいま~る」の入居者の方も一緒になって、高島平で暮らし続けるための仕組みを話し合っています。



――“分散型サ高住”のメリットは、どんなところにありますか?

一般的にマンションで暮らすような“一人暮らし”感覚があるところではないでしょうか。外では子どもたちが遊んでいますし、隣にはもしかしたら若い夫婦が住んでいるかもしれない。ありふれた穏やかな一人暮らしでも、セコムさんの携帯型端末「マイドクタープラス」で安否確認や緊急時対応があり、スタッフの生活相談も気軽に受けられる。そんなところが一番のメリットだと思います。

はたから見ると、「ゆいま~る高島平」の入居者だということはわかりません。そのほか、事務所であるフロントが同じ棟にあるのではなく、隣の棟の1階に入っていることも、入居者の方には喜ばれています。スタッフから見張られてない感覚があるのだそうです。ただ毎朝10時に行なう確認端末を使った安否確認ができなかった方には、お電話をさせていただいたり、11時をめどにお部屋に伺ったり、夕方に巡回をしたりして、気になる方にはお声をかけさせていただくこともあります。


――「ゆいま~る高島平」は、UR都市機構から借り上げた住居をバリアフリーにして、さらに入居者の方にお貸ししていますが、具合が悪くなられた方はどこを頼れば良いのでしょう?

私たち「ゆいま~る高島平」のスタッフはケアマネジャーや介護福祉士の資格を持った者もおりますが、基本的には介護者としてではなく、入居者の方々の「生活コーディネーター」としての役割を担っています。ですので、医療については地域との連携で、地域包括センターが中心になります。


高島平団地は、住民の半数弱が65歳以上の高齢者で、非常に高齢化が進んでいるためか、周辺には訪問介護のサービスやデイサービスがたくさんあります。向かいの棟の1階には、訪問診療を行う内田診療所が入っています。入居者の方は我々が持つ情報のなかから、自分に合った情報を選んで生活していただいています。


「ゆいま~る高島平」は、まだ看取りの事例がないのですが、この街には看取りを専門にされている先生もいらっしゃいます。あと5年、10年経てば、入居者の方でも看取りが増えるだろうと予測して、準備をしております。


 撮影:丸田歩

撮影:丸田歩



宣伝の仕事も介護の仕事も、共通するのは人と接すること


――冨田さんが介護の道に入られたきっかけは?

以前は、音楽業界で20年以上働いておりまして、主に宣伝の仕事をしていました。不況といわれる音楽業界で働いて、第二の人生をふと考えたときに、自分の資質は何なのかなあと思いましてね。宣伝の業務が多かったものですから、対人関係の仕事、何か人のためにする仕事ならば、自分には合っているなと。50歳を過ぎましたけれども、人のために何かしたいという思いを抱きながら、2016年2月にコミュニティネットに入社しました。


――コミュニティネットさんに入社されて1年ちょっとということですが、「ゆいま~る高島平」のハウス長になるまでの経緯を教えてください。

昨年2月に入社してから、最初の1カ月は本社での研修でした。その後、「ゆいま~る高島平」と同じ団地再生型である「ゆいま~る多摩平の森」での実地研修を行ないました。多摩平では、「ゆいま~るのハウスとは何ぞや」という初歩からのスタートでしたね。「ゆいま~る高島平」に来たのは、昨年の5月末。そこから前任者と引き継ぎをして、7月1日よりハウス長となりました。


 

入居者参加型で暮らしの知恵もイベントも考える


――先ほど、「高島平団地で暮らし続けるしくみをつくる会」に入居者の方も地域の住民の方も参加されているお話が出ましたが、入居者の方だけの会合もありますか?

2つあります。まず1つ目が、「ゆいま~る高島平」の運営懇談会を2カ月に1度開いています。我々が入居者の方々に提案や相談をしたり、また入居者の方からもご意見をいただいたりしながら、各ハウスなりのベストなルールを作っていこうというものです。


「ゆいま~る高島平」の事務所であるフロントが空いている13~15時の間は、地域の人にも自由に解放しようというルールなども運営懇談会に図って決めました。地域にフロントを解放したおかげか、団地の子どもたちが夏場は冷房が効いているので、涼みに来ていますね。あと、スタッフが甲斐甲斐しくお手伝いはしませんよという意味で、珈琲や紅茶代はセルフサービスで50円いただいています。


もう1つの会合は、「住みやすいゆいま~る」。1カ月に1回開催しています。これも入居者主導です。ゴキブリが出た、どう対処したら良いだろうとか。そんな生活レベルのお困りごとを話しあう会合になっています。そういえば、会合で1つ思い出しました。



――何を思い出しましたか?

まだオープンから2年半なのですが、もう入居者の方から高島平団地の自治会の役員が2人も出ています。2人とも女性なのですが、よくお受けいただいたなという印象ですね。我々スタッフは、入居者の方にも横の連携を求めます。自治会に入ることはお金がかかることなので無理にとは言いませんが、基本的に入ることをオススメしています。入居者の方が自発的に地域とつながっていかれるので、スタッフも仕事がやりやすく、とても助かっています。


――自治会の役員が入居者の方から2人も出ているのは、すごいですね……。イベントも入居者の方が作られていますか?

スタッフと入居者の方のアイディア半々ですね。フロントで行う昔の名画のDVD鑑賞会、団地の住民の方がやられているジャズバンドのライブなどはスタッフ主導です。「お抹茶の会」は、入居者の方にお茶の先生がいらして、その方の主導で開いていただきました。昨年の夏は、「スイカをまるごと食べる会」がありましたね。入居者の方は皆さんひとり暮らしが多いので、スイカ1個を丸々買えないという生活の些細な理由から生まれたものでした。




 

入居希望者の方に「ウチを選んでください」とは決して言わない


――「ゆいま~る高島平」の良さは、自由度の高い暮らしです。一方で、入居者の方の期待値が高すぎて、「本当はもっとサービスがあると思っていたのに」などの意見はありませんでしたか?

開設当初はありましたね。私たちは「生活コーディネーター」なので、介護者ではなく、この街全体をクリエイトするのが仕事です。ですので、入居者の方との意見の相違が出てくるのは、「我々は介護のサービス提供者ではない」という認識の差になるかと思います。

説明が不十分だった部分は当然お詫びをし、改善をしながら、2年半運営をしてまいりました。ですので、今は見学会で「ほかの高齢者住宅もちゃんとご覧になって選んでください」とくれぐれも念押ししてお話をさせていただいているので、以前のようなトラブルはなくなりましたね。



――ちなみに、入居者の方の平均年齢はおいくつですか。

60代から90歳の方までいらっしゃいまして、平均で80歳以上です。現在お住まいの方は38名で、女性が31名、男性が7名です。



――今日お見かけした方々は、皆さん80歳前後ですか! やはり女性は元気ですか?

元気です(笑)。アクティブですよ、女性は。それでも皆さん、ちょっとずつ体調は変化していらっしゃるんです。ですので、あと3年、5年すれば、看取りも含めていろんな話が出てくると思います。そのためにも我々スタッフが、地域との連携をもっともっと頑張って深めておく必要がありますね。


(横山由希路+ノオト)