質問

現在、母は認知症を患っていて老人ホームを探しています。
老人ホーム職員による虐待のニュース等を目にしますが、実際はどのくらい起こっているのでしょうか。
また、万が一そんなことがあったらどうすればいいでしょうか?

回答
山村 真子

残念ながら、近年介護職員による虐待の報告件数は年々増加傾向にあります。
しかし、これは単に「虐待が増えている」ということだけではなく、虐待に対して「施設側、そして家族側双方の意識が高まってきた」こと、そして「報告する体制が整ってきている」ことによる増加も含まれていると考えます。

虐待は、何よりご家族の「あれ?もしかして」という気づきが非常に重要です。
少しでも不安に感じたことがあれば、すぐに施設側へ確認することをお勧めいたします。 山村 真子(看護師 地方糖尿病療養指導士)

【目次】
  1. 介護職員による入居者の虐待の実態 
  2. 虐待の種類別の割合
  3. 虐待が起こってしまう背景
  4. 老人ホームでの虐待の実例
  5. 政府による対応
  6. 各施設による対応は?
  7. 虐待を防ぐために家族ができること、万一虐待に遭遇したときの対処法

介護職員による入居者の虐待の実態 


厚生労働省が毎年行っている調査では、介護施設での虐待件数は増加傾向にあります。
増加の背景には、「虐待の割合が増加している」ということだけではなく、施設数そのものが増加しており、施設入居者が増えていること、そして虐待に対する関心・意識が高まっているため、家族側が相談・通報する件数が増えていることも関連しています。
そのため、一概に「虐待との判断数が増加傾向なので、虐待も増加している」とは言い難い状態となっています。
もちろん、施設での虐待は許されるものではありません。
近年高齢者を狙った事件も増えている中、「虐待を防ぐための対策」が求められています。



虐待の種類別の割合


虐待と言われると、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?
政府や自治体では、虐待の内容をおおまかに以下の5つにわけています。

身体的虐待 暴力をふるうことで、身体に痛みを与える
心理的虐待 暴言をはく、あたかもいないように扱う、嫌がらせを行うなど、精神的に苦痛を与える
経済的虐待 本人の同意なく財産を一方的に管理し、経済的に拘束してしまう
性的虐待 本人の同意なく性的行為を行う、または強要する
介護、世話の放棄 介護が必要な高齢者を放置し、介護をしない。必要なサービスを受けさせない

身体的虐待は痣がある、新しい傷があるなど他者から見て発見しやすいですが、心理的虐待では、虐待を受けている方が一人で抱え込んでしまい、発見までに時間がかかってしまうケースも少なくありません。


虐待が起こってしまう背景

なぜ、施設で虐待が起こってしまうのでしょうか?
実際にいくつかの介護施設で働いた経験も含め、考えていきましょう。

職員の労働環境が悪い

介護施設で働く職員は、「お年寄りの役に立ちたい」と志高く入職してきます。
しかし、想像を超える激務、そして24時間のシフト制勤務に対し慢性的な疲労が重なります。
人は疲労が重なると、正常な判断がつきにくくなり、自分よりも弱い立場の人に自分の不満をぶつけやすくなってしまいます。
よって、施設に入所中の方に対して虐待をしてしまう職員が出てきます。

職員教育が行き届いていない

慢性的な人員不足から「介護業界は未経験」という方も、職員としてたくさん働いています。
いくら志は高くても、実際に専門的な指導 や教育を受けてから職員として働いているわけではないため、職員が自覚せずに虐待を行っているというケースもあります。
このケースは精神的虐待で特に多くみられます。


職場に対する不満が強い

「上司がなかなか下の意見を聞いてくれない」
「あの人だけいつもシフトが優遇されている」

など、職場に対して不満を持っている場合、その矛先は弱い立場の入居者に向けられます。
不満による精神的な不調を、虐待という形で一時的に解消してしまうのです。
本来ならば、たとえ一時的に虐待行為を行ってしまったとしても「自分は何をしているんだ」と我に返ることができます。
しかし、極度の精神的不調となってしまうと、振り返りすらしなくなってしまうため、どんどんエスカレートしてしまうのです。


老人ホームでの虐待の実例


ここで、私が実際に遭遇した「老人ホームでの虐待の実例」をいくつかご紹介しましょう


ケース1:気づかないまま入居者を傷つけてしまった「心理的虐待」


新しい入居者Aさんに対し、職員Bが担当になりました。
BはAさんに対し「おばあちゃん、今日からよろしくお願いしますね」と挨拶しました。
そのとき、入居者の表情が一瞬くもりましたが、Bは気が付くことができず、しばらくAさんを「おばあちゃん」と呼び続けていました。

ある日、BがいつものようにAさんのケアをしていると突然、「あなたにおばあちゃんなんて呼ばれる筋合いはない!」と大声で怒鳴ってしまいました。
ホーム長は、Bが行っていたことは「心理的虐待に当たる」として、Bに厳重注意を行いました。
Aさんは結婚しておらず、ずっと一人で暮らしていました。
そのため、自分が「おばあちゃん」と呼ばれることに対し、精神的ショックを受けていました。
Bは「自分では親しみを込めていたつもりだった。虐待だとは思わなかった」とホーム長 に話したそうです。


ケース2:安易な身体拘束が招いた「身体的虐待」


Cさんは、重度の認知症があります。
入居の際、職員は「Cさんの安全が守れない恐れがあるので、ベッドに寝る際は拘束器具をつけさせていただきます」と通知し、直後からベッド上で身体拘束が始まりました。
ある日、家族が面会に来てみるとCさんの腹部には身体拘束の跡がくっきりとついていました。
驚いた家族が職員にどういうことか尋ねましたが、その職員は「拘束器具があるのにずっと起き上がろうとしているので、そうなった」と証言し、家族が外してほしいと依頼しても「転んでしまうので」と一方的に拒否をしました。
不信に思った家族が、他の職員にも相談をすると、すぐにCさんの拘束は外されました。
施設側では、「必要最小限の拘束を使用する」となっていましたが、その職員は「外すと他の業務が回らないから」と、本来拘束を外す時間も継続して拘束を行っていたことがわかりました。
運営部では「身体的虐待に当たる」として、該当職員を処分しました。


ケース1では、「介護を行う職員としての知識不足によって起こった心理的虐待」
ケース2では「業務に追われ、無自覚に行われていた身体的虐待」の例として、それぞれ紹介しました。

このように、「職員側は虐待だと思っていない」ケースが非常に多いため、厚生労働省が把握している件数の数倍は、実際には虐待が起こっている可能性があります。

政府による対応

平成28年2月に、老人ホームにて元職員による殺人事件が起こりました。

これを受けて、施設での高齢者虐待に対し、国は全国の知事に対し以下の4つを通知しています。

・「虐待についての相談窓口の設置、報告手順の標準化」

・「職員に対する研修と、虐待の早期発見への体制強化」

・「初期段階における迅速かつ適切な対応」

・「地域の実情に応じた体制整備の充実」

先ほどご紹介したケースでもお分かりいただけるとおり、虐待は「職員の自覚なく起こっている」場合があります。
そして、徐々に職員にとって「虐待が日常化」してしまい、虐待の程度が悪化してしまうことが考えられるのです。

そのため、「初期段階における迅速かつ適切な対応」が求められるようになっています。
また、「相談窓口の設置」により、施設側に虐待対策を任せるのではなく、自治体での対応を求めています。



各施設による対応は?


施設にとって、虐待は決して「他人事」ではありません。
「うちの施設では、虐待はありません!」と言い切ってしまっている施設は、むしろ虐待についての理解が浅く、対策をほとんどしていない可能性すらあります。
なぜなら、虐待は目に見えにくく、「職員は虐待がないと思っていても、利用者さんはそう思っていない可能性もある」からです。

誠意ある施設では、事件が起こる度に「なぜこういった虐待が起こったのか」を分析し、「施設内で虐待を起こさないために、どういった対策が必要なのか」について随時話し合いがもたれます。
そうして、職員間の中で「どういったことが虐待なのか」「利用者さんが安心して過ごせる環境を整えられているか」について情報を共有することで、虐待を防ぐ活動を行っています。



虐待を防ぐために家族ができること、万一虐待に遭遇したときの対処法


では、実際に自分の大切な家族が虐待に合わないために、家族として何ができるでしょうか?
一番は、「こまめに面会へ行き、職員へ声をかける」ことです。
虐待は、家族の目が届かないときに発生しやすくなります。
面会を通して利用者さんに不自然な痣やおびえた様子などはないかを確認することで、「虐待のきっかけ」に家族として気づきやすくなる、というメリットがあります。
また、職員へ声をかけることで、虐待のきっかけを作りにくくすることができます。
声かけをした際に違和感がある場合には、「職員の疲労が蓄積している」か、「家族の面会について快く思っていない可能性」があり、将来的に虐待につながる恐れもあります。
そういったときにはより注意して虐待の兆候はないか見るようにしましょう。

虐待を疑う家族が怖いのは、「虐待を疑う相談をしたことで、かえって状況が悪化してしまうのではないか」ということです。
そのため、利用者やその家族に対して「虐待を疑う場合のホットラインまたは相談窓口」が開設されており、ケアをしている職員に知られることなく相談することができる施設も増えてき

このQ&Aに回答した人

山村 真子
山村 真子(看護師 地方糖尿病療養指導士)

約10年の病棟・介護施設勤務を経て、現在は医療系ライターとして活動中。夫も医療業界に勤務し日々医療および介護問題と向き合っている。