株式会社シニアライフカンパニーが運営する介護付き有料老人ホーム『フェリオ成城(東京都世田谷区)』では、自宅に近い居住環境のもと、入居者それぞれの個性や生活リズムを尊重しながら介護を行うユニットケアを採用しています。

厚生労働省が特別養護老人ホームに推奨しているユニットケアですが、有料老人ホームで採用しているところはまだそれほど多くありません。

なぜユニットケアに取り組むのか、どんな体制で運営しているのか、ホームマネージャーの山下健一さんに教えていただきました。

きめ細やかな介護を実現するためのユニットケア

ホームマネージャーの山下さん

【ホームマネージャーの山下さん】

――『フェリオ成城』がオープンした2008年頃、ユニットケアを採用している老人ホームは少なく、かなり珍しかったと思います。なぜこちらのホームではユニットケアを取り入れることにしたのですか?

山下さん:介護の質を高め、個別ケアを実現するためです。従来のように数十人のご入居者を複数のスタッフでお世話する形だと、どうしても個別性を保つのが難しい。集団を分け、スタッフが接する人数を絞ることで、ご入居者一人ひとりの情報や状況が把握しやすくなり、きめ細やかな介護ができると考えています。

――ユニットケアの体制を教えてください。

山下さん:8つのユニットがあり、1ユニットには5人から9人が入居しています。ユニット内にはそれぞれの個室のほか、共有のリビングダイニング、浴室、スタッフルームが設置されています。

ユニットは自立度の高いユニット、認知症の方のユニット、混在型のユニット、とご入居者の状態によって分けています。認知症の方が自立度の高いユニットへ行くと話が合わず孤立してしまう可能性がありますし、逆も然りです。そのため、ご入居の際に面談してご本人に合うユニットをおすすめしています。

毎日ユニットの入居者みんなで食卓を囲みます

【毎日ユニットの入居者みんなで食卓を囲みます】

――スタッフはどのように配置していますか?

山下さん:フロア担当制です。『フェリオ成城』には1フロアに2つのユニットがあるので、1人のスタッフが2ユニットのご入居者をお世話する形ですね。

ご入居者も、慣れたスタッフと接するので安心できるんですよ。

――ユニットごとにスタッフを配置するとなると、従来型の老人ホームよりも多くのスタッフが必要になるのではないでしょうか。

山下さん:そうですね。介護保険法では要介護者3名に介護・看護スタッフ1名をつけるように定められていますが、弊社では要介護者3名に2名のスタッフという手厚い人員配置を行っています。だからこそユニットケアが実現できるんです。

ただ、ユニットケアも万能ではありません。スタッフが分散するため、1人が入浴介助をしているときは、もう1人が残りのご入居者を全てお世話することになります。そのため、ものすごく忙しくなってしまう時間帯もあるんです。

また、スタッフが体調不良などで休んだとき、ほかのフロアを担当しているスタッフでは代わりに入ることができず、柔軟に対応できないという課題があります。

そのため、「正社員は数年で配置換えを行う」「パートタイマーのスタッフにはフロアを割り振らずフリーで動いてもらう」といった対策を取っています。

――ユニットケアならではのエピソードがあれば教えてください。

山下さん:スタッフから、「○○さんを外にお連れしたらきっと喜ぶんじゃないか」と声が挙がり、個別に外出行事を行うことがあります。また、「この日は人手が多い」と事前にわかっていると、スタッフが自主的に外出イベントを企画するんです

よみうりランドのイルミネーションを見に行ったり、世田谷美術館で絵画を鑑賞したり。スタッフとご入居者との間に良い関係が築けているからこそできることですね。

1階には入居者が描いた絵画が飾られていました

【1階には入居者が描いた絵画が飾られていました】

――ホームページに「ご家族専用ページ」を設定しているそうですね。

山下さん:はい。お食事はを何をどれくらい召し上がって、往診ではどんな結果が出て、といった客観的な介護記録を毎日つけており、ご家族様のみ閲覧できるようウェブで公開しています。遠方に住まわれているなどして、なかなか面会に来ることができないご家族から特に好評をいただいています。

お元気そうで安心されることもあれば、「最近食事を食べてないみたいですね」と心配して電話されることもあります。ご高齢の方は、数日、数週間で状態ががらりと変わってしまいます。遠方にいてもそうした変化を把握できていると、ご家族も覚悟ができるでしょう。

良いことも悪いことも含めて、ありのままをお伝えすることが重要だと考えています。

 日々の介護データをご家族だけにウェブで共有

【日々の介護データをご家族だけにウェブで共有】

――入居者同士の交流も盛んなのですか?

山下さん:はい、ご入居者同士が毎日顔を合わせるので、関係がつくりやすいんです。食事もユニットのリビングでとるので、家庭的な雰囲気ですね。ご年配の方は年上を立てるので、最年長の方が来るまで食べるのを待つこともあります。

窮屈そうな気もしてしまいますが、70代より上の世代の方にとってはそれが当たり前のことなのでしょうね。もちろん、そういうことが嫌であればご自分のペースで食べていただいて構いませんし、居室でお食事をとる方もいらっしゃいます。

山下さん:誕生日会もフロアごとに開くんですよ。厨房で大きなケーキを作って、みんなでバースデーソングを歌います。ご入居者が自主的に贈り物をすることもありますね。

ただ、良いことばかりではありません。関係が密な分、一度こじれてしまうと修復が難しいんです。食事の席を替えるなど、スタッフが介入することもあります。

でも、人間関係のトラブルって、社会で暮らしていたら当たり前にあることですよね。ご近所さんでも合う人合わない人はいる。そうした部分も含めて、自宅に近い環境下なんだと捉えています。

入居者同士の関係が密になるのがユニットケアの特徴

【入居者同士の関係が密になるのがユニットケアの特徴】

フェリオ成城の取材を終えて

ユニットケアのメリットもデメリットも、包み隠さず教えてくれた山下さん。デメリットも認識した上で、どう対応するかを考える姿勢はとても信頼できるなと感じました。

ユニットケアで楽しく充実した日々を送れる人もいれば、従来型の老人ホームのほうが気楽という人もいると思います。大事なのは自分に合うかどうか。ぜひ、入居前に見学して確かめてみてください。

(記事中の内容や施設に関する情報は2017年1月時点の情報です)