外国人介護スタッフと受け入れ側が、互いに満足する職場とはー受け入れ全国1位の愛知を取材

愛知県は外国人技能実習生の受け入れが多く、その数は約3万8000人。全国トップの数字である。彼らの多くは農家や工場などで働いているが、2017年から技能実習の業種に「介護」が加わったことで、介護施設で働く技能実習生も徐々に増えてきている。

直近の平成30年度の調査によると、愛知県は「介護分野の有効求人倍率が6.19倍」と6.05倍の東京都を抜いてダントツの全国1位となっており、現場の人手不足はかなり深刻な状況だ(介護分野の全国平均は3.80倍。厚生労働省「職業安定業務統計」より)。

不足する労働力を外国人のスタッフが補っているという状況である。

ベトナム人とインドネシア人の技能実習生が働く介護施設があると聞いて、愛知県高浜市に向かった。

咄嗟の判断が必要な夜勤への意欲も高い。――ダオ・クエンさん

今回お邪魔した社会福祉法人「昭徳会」では、「特別養護老人ホーム」と「デイサービスセンター」が同一の建物内にあり、軽費老人ホームの「ケアハウス」が隣接している。特養の「高浜安立荘」は120人の入所者を55人の看護・介護スタッフで介護しており、そのうちの4人が外国人スタッフだ。

最初に話を聞いたダオ・クエンさん(26)はベトナム出身。働きはじめて7か月だという。

「ベトナムでは、医療系の短大を卒業して、薬剤師の資格をとりました。でも、ベトナムには薬剤師の仕事はそれほどたくさんなくて、日本で働きたいと思って、いまは、介護の仕事をしています。早く一人前になって、いまは日勤だけですが、夜勤でも働けるようになりたいです」

夜勤は、日勤と比べて、入浴介助やレクリエーションなどの業務量は少なくなるが、咄嗟の対応や判断を迫られることが増えるのでハードルは高い。

「でも、クエンさんは仕事を覚えるのも早くて、テキパキとしているし、とても優秀なので、すぐに夜勤もできるようになるはずです」と同僚の日本人スタッフも太鼓判を押す。「むしろ、『仕事を覚えるのも焦らず、ゆっくりでいいからね』って伝えています」

ベトナム人技能実習生のダオ・クエンさん。

同じくベトナム出身のチャン・チーさん(25)は、短大で看護を学んだ。

「介護の仕事は、覚えることがいっぱい。日本語も難しいですが、みなさん、やさしいですから、いつも『ここがわたしの家みたい』と感じます。入所者のおじいちゃん、おばあちゃんは、わたしの本当のおじいちゃん、おばあちゃんみたい。でも、ときどき、子どもみたい。だから、かわいい」

利用者と笑顔で話をするチャン・チーさん。「入居者のおじいちゃんおばあちゃんは、みんなカワイイです。」

 外国人スタッフを受け入れた結果。――特養施設長 中村範親さん

「彼らの働きぶりは予想以上です」と言うのは、特養とデイサービスセンターを併設した「高浜安立荘」の施設長・中村範親さんだ。

「介護の現場はいま人手不足で、私たちも技能実習制度に介護が加わる最初の段階で手を挙げていたのですが、手続きがなかなか進まなくて、クエンさんやチーさんが来てくれたのが去年(2019年)の7月ですね。事前に東京の監理団体で1か月間の研修して、こちらへ配属になりました」

「彼女たちは、もともとベトナムで看護師や薬剤師の勉強をしてきた人たちなので、基礎の勉強はできています。そこからさらに自立支援介護のための、『おむつを外すこと』だとか、『こまめに水分をとる』というようなことも現地で学んできているので、実際に働きはじめてからの飲み込みも早いです」

外国人スタッフを受け入れるにあたって、どのような心境だったのだろうか。

「最初は、迎える側としても『やっぱり翻訳機とか必要かな』なんて言ってたんです。でも、必要ありませんでした。もちろん、介護の現場は専門用語もありますし、ちょっとわからないようなときは易しい日本語に言い換えるなどして対応しています」

言語やコミュニケーションの壁は、伝える側の工夫で乗り越えることができた。さらに中村さんの予想外だったのは、彼女らが日本人のスタッフからだけでなく、入居者の皆さんからも評判がいいこと。

「働きぶりが実に気持ちいいんです。それから、事務所に入ってくるときもほかのスタッフに大きな声で笑顔であいさつをしてくれる。そんな単純なことも、日本人の職員のほうが、『あいさつはちゃんとせなあかんなぁ』って、反省させられてます(笑)」

特養で採用したベトナム人スタッフが非常に優秀だったことで、中村さんはデイサービスセンターでも技能実習生を迎えることにした。その結果、人員不足を緩和するという面だけではなく、日本人スタッフの仕事に対する意欲や、職場全体のコミュニケーション活性化など、さまざまな面でメリットとなった。

「ホントに評判いいですよ」と施設長の中村範親さん。

 楽しそうに働き、まわりの人々を笑顔にする。――ヘカ・メガリアさん

デイサービスセンターで採用されたのは、インドネシア出身のヘカ・メガリアさん(25)。

取材したのは、働きはじめてまだ5日目というタイミングだったが、すでに利用者と馴染んで、時には冗談を言いながら、笑顔で仕事をしていたのが印象的だった。

「日本で、一生懸命、介護の仕事を学びたいと考えています。そして、将来は、インドネシアに戻って、介護の仕事を、実施したいです。介護は、インドネシアでも必要になるからです。でも、日本で好きな人ができたら、日本人と結婚したい! 冗談です。いや、冗談ではないですよー(笑)」

インドネシア人技能実習生のヘカ・メガリアさん。

よく笑うヘカさんが来てから、デイサービスセンターの雰囲気も明るくなったという。 

彼女の一日は、朝8時半に出勤して、トイレ掃除からはじまる。

「それから、カナさんと一緒に、利用者を、玄関で、お迎えます……、迎えます?」

ヘカさんの日本語能力試験のレベルはN4(※)。「基本的な日本語を理解できる」というレベルで、込み入った内容になると完全な形での意思疎通は難しいが、そのへんのことを一緒に働いている徳田加奈さんに伺った。お互いストレスに感じることはないのだろうか。

「正直に言うと、N3(※)のクエンさんたちよりまだ言葉が通じにくい部分はあります。でも、基本的なコミュニケーションは取れていると思うので、お互いに言葉を探りながら勉強していく感じですね。まだ5日目ですが、言葉もどんどん覚えてくれますし、何より楽しそうに仕事をしてくれるので、教え甲斐もありますよね」

日本語能力検定

N1:幅広い場面で使われる日本語を理解することができる。
N2:日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる。
N3;日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる。
N4:基本的な日本語を理解することができる。
N5:基本的な日本語をある程度理解することができる。
(日本語能力試験公式サイトより引用)

「Selamat datang」はインドネシア語で「ようこそ」

 目標は母国に介護施設を建てること。――イダ・イスマイルさん

もうひとり、インドネシアから来て、隣接するケアハウスで働きはじめたのがイダ・イスマイルさん(29)だ。働きはじめて5日だというのに、スタッフと利用者の名前はほとんど覚えたという。

「マツセさーん、いまからお風呂の時間ですねぇ。お着替えの準備しますか?」

「そうね、着替えの準備しなくちゃ」

「その前に写真を撮りましょう。マツセさん、向こう見てくださーい!」

「べっぴんさんに撮ってね」

「『べっぴんさん』とは何ですか?」

「べっぴんさんはね、美人のこと」

こんなやり取りがあって、廊下には笑い声が響く。

「利用者のおじいちゃんおばあちゃんはとても優しいです。いっぱいしゃべると楽しいです。もちろん、わたし、まだ、わからない日本語もある。わたしの日本語まだまだです」

彼女の目標は、お金を貯めて、インドネシアに老人介護施設を建てることだという。

「がんばって日本で働いて、施設を建てたいと考えています。まずは3年働いて、介護福祉士の試験に受かりたいので、いまから勉強をがんばって、合格したいです。それが私の目標です。がんばります」

介護福祉士の国家試験に合格すれば、在留資格は「技能実習」から「介護」に切り替わり、就労期間は5年だが、更新が可能になるので、実質的な永住資格となる。

利用者と言葉を交わすインドネシア出身のイダさん。

 冷静に成長を見守る。――ケアハウス施設長 鵜芦由未子さん

「イダさんは、ウチで受け入れた最初の外国人スタッフですが、本当に真面目で努力家です。スタッフや利用者の名前も単語カードに書いて、家でも覚えようとしてますし、職員から聞いたことも全部メモして……。わたしは『疲れちゃうから、がんばりすぎないでね』と言ってるんですが、本人は『楽しい』と言ってくれるので、まわりの雰囲気も明るくなってます」

ヘカさんもイダさんも、まずはインターネットで面談して、それぞれの施設長が現地まで赴いて面接をして、来日前にも何度も電話でやりとりをしていたそうだ。

「電話は週に1回、30分程度ですけどね。わたしたちも彼女に慣れるという意味で、顔を見ながら電話をしていました。だから、こっちに来たときにはすでにお互い知った仲で、彼女もどんどん仕事を覚えてくれて嬉しいんですけど、あまり過度な期待をしてもいけないなと思っています。成長を待ちながら、少しずつ介護のことも覚えてもらっていけばいいかなと考えています」

本人たちの意欲の高さと、受け入れ側の理解が上手く融和している現場だと感じた。

ケアハウスの施設長・鵜芦(うがや)由未子さん。

技能実習生に関するニュースの大半は、その制度の歪みや年間数千人におよぶ失踪者たちのことだ。本来は、日本で習得した技能を母国に移転・還元すると謳われているが、実際には、不当に安い賃金や劣悪な環境で働かされている技能実習生も多いからだ。

しかし、今回取材した彼女たちはみな笑顔で働いていた。それは、実習先の環境がよく、受け入れる側と働く側が互いに満足しているからだと思うが、実は、もうひとつ秘密がある。

その秘密のカギを握っているのは……、技能実習生を日本で受け入れている監理団体だ。後編では、監理団体としては全国でも非常に珍しい取り組みを行っている公益社団法人「トレイディングケア」の様子を紹介する。

(今回の取材は2月半ばに行われたものです)

撮影:鈴木暁彦(アトリエあふろ)

芹澤 健介
芹澤 健介

1973年、沖縄生まれ。茨城県育ち。横浜国立大学経済学部卒。 ライター、編集者、構成作家。NHK国際放送の番組制作などにも携わる。 長年、日本在住の外国人を取材するだけでなく、最新のがん治療法やスポーツなど、追いかけるジャンルは幅広い。

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