技能実習生は「安い労働力」ではない!「監理団体」トレイディングケアの想い

愛知県は外国人技能実習生の受け入れが多く、その数は約3万8000人。全国トップの数字である。彼らの多くは農家や工場などで働いているが、2017年から技能実習の業種に「介護」が加わったことで、介護施設で働く技能実習生も徐々に増えてきている。

今回は、受け入れる側と働く側が互いに満足するために珍しい取り組みをしている管理団体があるらしいと聞き、いったいどんなことをしているのか、公益社団法人「トレイディングケア」に関わる方々に話を伺った。

古民家で技能実習生を受け入れている新美純子さん。

1.受け入れ――介護施設と外国人スタッフのマッチング

技能実習生の数は年々増加しており、現在は「介護」を含む82職種で過去最高の40万人以上の外国人が働いている。

製造業や建設関係の大企業は、海外の合弁企業などから人材を直接受け入れるケースもあるが、ほとんどの場合で日本側の窓口となっているのは「監理団体」(※)と呼ばれる組織だ。

【※監理団体とは】

技能実習生を海外から預かり、受け入れ側の企業と実習生がしっかりとした技能実習を行えるように第三者として監査やサポートを行う機関のこと。

<監理団体の主な役割>
●監理・指導
●技能実習制度の趣旨の周知
●監査・報告

新美純子さんが代表を務める公益社団法人「トレイディングケア」は、現在、全国に2800以上もあるという「監理団体」のひとつ。

「私はもともと看護師をしていたんですが、名古屋大学に社会人入学をしまして、そのときに※EPA(経済連携協定)で日本に来ていた多くのインドネシア人看護師と知り合いになって、インドネシアとの繋がりができたんです」

新美さんは、彼らを修論の研究対象とし、現地に足を運ぶうちに、想像していたより多くのインドネシア人が日本で働きたがっていることを知ったという。

「それで最初はEPAで日本に来たいという子たちの日本語の勉強をサポートしたりしていたのですが、そのうちに日本の介護施設からも『外国人のスタッフを受け入れたい』という相談を受けるようになりました」

折しも2017年11月から「介護」分野での技能実習生の受け入れが決まり、人手が足りない多くの施設で外国人スタッフの需要が高まることが予想された。

「じゃあ、『自分で受け入れをしてみよう』ということになったのですが、私としては単純な人材派遣をするつもりはなくて、技能実習生と受け入れ側で絶対にミスマッチが起こらないように何度も面接を行いますし、現地の送り出し機関とも協力して慎重に受け入れ先を決めていきます。それを煩わしいと言う人もいるかもしれませんが、日本が好きで日本に来てくれた子たちに悲しい思いは絶対にさせたくないですし、受け入れ側もがっかりさせたくないですから」

※現在、外国人が日本で介護スタッフとして働くには、以下の4つの在留資格が考えられる。それぞれ要件が違い、非常に複雑だ。

【EPA(介護)】=原則4年以内に「介護福祉士」の資格を取得することで、「介護」の在留資格に切り替え可能。家族帯同なし。

【技能実習(介護)】=在留期間は最長5年。更新不可。家族帯同なし。転職不可。

【特定技能(介護)】=在留期間は最長5年。更新不可。家族帯同なし。転職可能。

【介護】=「介護福祉士」の資格が必要。在留期間は最長5年。更新回数に制限なし。家族帯同あり。

インドネシアで送り出し機関を運営するソピアンさん。

2.送り出し――送り出す側と受け入れる側の信頼関係

「トレイディングケア」では、技能実習生を受け入れるたびに、送り出し機関(※)の担当者も一緒に来日してもらうという。

【※送り出し機関とは】

日本側の監理団体と契約を結び、実習生を日本に派遣する海外の団体や企業。
実習生の選抜や派遣前の日本語教育などをする。

「最初の2週間だけですけどね。僕が一緒に日本に行くことで実習生も親御さんも安心するでしょう」と教えてくれたのは、「Yuuki」という組織名の送り出し機関を運営しているソピアン・コマルディンさんだ。

もともとはEPAの介護スタッフとして岡山県で働いていたが、一旦帰国した2016年に新美さんと出会って、お互いすぐに「信頼できる人だ」と思った。

「Yuukiとは、勇気のこと。勇気を出して、みんなでがんばっていきましょう、という思いで送り出し機関を作ろうと思いました。インドネシアにもよくない送り出し機関はあって、騙されちゃう人もいるんですよ。お金だけ取られて、働けないとか。僕はきちんと仕事をしたいから、いまは新美さんとだけ仕事しています。これから、新美さん以外の監理団体とも仕事するかもしれないけど、ゆっくり慎重にしたいです」

机を拭いて食事の準備をするセプティアンさん。

 3.講習――古民家で学ぶ「日本」

受け入れが決まった技能実習生は、来日後、それぞれの職場で「実習」を始める前に原則的に2か月間、「講習」を受ける。よりスムーズな実習期間を送れるように、日本語や日本で生活する上での知識を学ぶのだ。

「ウチは、その2か月のために、空き家になっていた古民家を借りているんですが、そこで共同生活をしながら、布団の上げ下げから、ふすまの開け方の作法などの細かいところまで、日本の暮らしを学んでいけるように配慮しています。介護施設でお年寄りと会話するときでも、絶対にこういう古民家で暮らした経験は役に立つはずですし、空き家に人が住むことで地域の活性化にも貢献していると自負しています」

こうして彼らはゴミの出し方や買い物の仕方なども学んでいくのだが、新美さんは料理の味付けにも気を使っているという。

「いきなり『日本食に慣れてね』と言っても慣れるものではありません。ですから、最初はインドネシア風の味付けのおかずを出しながら、徐々に日本食の割合を多くしていくんです」

「いま、欲しいものは、なんですか?」

 4.教育――監理団体としてできること

昼食を挟んで日本語の授業が行われる。日本語教師の加藤理恵さんは、「2か月の間にずいぶん日本語も上達しますよ」と言う。

「中にはまだ高校を出たばかりの子もいますから、最初はみんなおとなしいですが、慣れてくるにしたがって、言葉を覚えるスピードも早くなりますよね。ですから、2か月後にまた見に来てもらうと、見違えるように成長しててビックリすると思います」

トレイディングケアでは、常勤の日本語教師を配し、きっちりと2か月間のカリキュラムを組んでいるが、すべての監理団体が同じような「講習」をしているわけではない。なぜなら「講習」を充実させればさせるほど当然、手間もコストもかかるからだ。

「手を抜こうと思えば抜けるんでしょうけど、私は手を抜きたくない」と新美さん。「技能実習生というと、安い賃金で都合のいいように雇われて、失踪しちゃう子が多いという報道も多いんですが、私は、日本の技術と文化を習得してもらって、インドネシアに帰国したときに母国の発展に役立つような人材になってほしいので監理団体としてできることを一生懸命やっていくつもりです」

机を拭いて食事の準備をするセプティアンさん。

 5.共同生活――エンタメ・カルチャーから日本語を学ぶ

取材した当日は、インドネシアから来日した技能実習生たち10人が共同生活を始めたところだった。その中のひとり、セプティアン・ヌルサディさん(26)は、インドネシア第3の都市・バンドンで会計士をしていたが、「人のためになる仕事がしたい」と考えているときに介護の技能実習で日本に行く道があることを知ったそうだ。

「高校生の頃にサムライや戦国武将のゲームをしていて、日本の文化に興味を持ちました。一番好きな武将はノブナガ・オダ。だから、いつか(信長が天下統一の拠点とした)岐阜城にも行ってみたいです」

セプティアンさんは、N4(※)だというが、ずいぶんと流暢な日本語を話す。

「乃木坂46にも会いたいから日本語、一生懸命勉強しましたよ(笑)。それは冗談ですが、日本語は高校生のときからもう10年くらい勉強してる」

ほかの9人は彼ほどペラペラと日本語を話せるわけではないが、それでも基本的な日常会話なら充分に話すことができる。

※N4:「基本的な日本語を理解することができる」という日本語能力検定のランク。

「ほとんど毎日来ちゃう」というバディの大舌さん(写真中央)。

 6.見守り――実習生を支える小学生から90代までの「バディ」という存在

新美さんがすごいのは、監理団体として丁寧な仕事をしているだけでなく、地域の人たちを巻き込んで外国人の受け入れを進めているところだ。

「バディという地域のボランティアの人たちに実習生の見守り役をお願いして、一緒に料理をしたり、食事をしたり、買い物をしたり、ときには生活の相談にも乗ってもらってるんです」(新美さん)
 

バディのひとり、大舌弘美さんは「お世話をするというか、逆にこっちが癒されているんですよ」と言う。「私はいままで外国の人とこんなに親しくしたことはありませんでしたけど、どの子も本当に純粋でカワイイの。謙虚で真面目で明るくてね。癒される。だから毎日のように会いにきて癒されてます」

近所の子どもたちもバディさんに。こたつでトランプ。

現在、バディは、小学生から90代まで総勢20数名。ときには一緒に散歩に行ったり、地域の集会に参加したり、それぞれのペースで技能実習生たちを支えている。

「技能実習生を“安い労働力”と捉えていると、そのうち日本には誰も来てくれなくなってしまうと思います。一緒に働く人材なんです。ウチは本来はインドネシアからの技能実習生を受け入れる監理団体ですが、古民家には介護施設で働いているベトナム人の子や近所で声をかけた子たちも遊びにきてくれます。そうやって、地域が交わっていくのがひとつの理想だと考えています」(新美さん)

(今回の取材は2月半ばに行われたものです)

撮影:鈴木暁彦(アトリエあふろ)

芹澤 健介
芹澤 健介

1973年、沖縄生まれ。茨城県育ち。横浜国立大学経済学部卒。 ライター、編集者、構成作家。NHK国際放送の番組制作などにも携わる。 長年、日本在住の外国人を取材するだけでなく、最新のがん治療法やスポーツなど、追いかけるジャンルは幅広い。

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