嫌いな親の介護が降りかかったらどうなる?『毒親介護』著者・石川結貴さんに聞きました

普通の親でも介護をするのは大変なのに、自分を傷つけてきた憎き「毒親」の介護が降りかかったら、どれほどの困難が伴うのか? 

これまで数多くの家族問題を取材してきたジャーナリストの石川結貴さんが、「毒親」を介護する子ども側の苦悩や葛藤をリアルにつづった『毒親介護』(文藝春秋)を上梓。いわゆる「毒親」を持つ人だけではなく、介護に直面する子世代の間でも多くの共感を呼んでいます。

暴言や暴力の絶えない「明らかな毒親」から、一見「いい親」に見える「隠れ毒親」まで、様々なケースを見てきた石川さんに、その介護の生々しい実態と取材する中で見えてきた気づきを語ってもらいました。

今回のtayoriniなる人
石川結貴さん
石川結貴さん ジャーナリスト。家族・教育問題、児童虐待、青少年のインターネット利用などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに書籍の刊行、雑誌連載、テレビ出演、講演会などで幅広く活躍。著書に『スマホ廃人』(文春新書)、『ルポ 居所不明児童~消えた子どもたち』(ちくま書房)、『毒親介護』など多数。日本文藝家協会会員。

明らかな毒親よりも厄介なパターンとは?

――ご著書『毒親介護』の中では様々な介護のケースが描かれていましたが、どの方も壮絶な体験でしたね。

石川
いわゆる「毒親」と言われる親を介護している方に20人近く取材をしましたが、実はもっとショッキングな体験談もあって、本には書けなかった方もたくさんいました。これまで様々な親子のケースを取材してきて、「2つのパターン」があると感じましたね。

1つは長年、暴力や暴言が絶えないような、明らかに「毒親」と呼ばれるタイプで、子どもの側も親を嫌っているパターン。もう1つは、毒親だと思っていなかったけれども、いざ親が老いて介護が始まった時に「もしかしてうちの親は毒親かも……」と後から気づいたパターンです。実は後者のほうが厄介で、泥沼にハマっている人が多いんです。

――それはなぜでしょうか?

石川
明らかに毒親の場合はある種、わかりやすいと言いますか。子どもの側が「あの親と一緒に居たら自分がダメになるから、介護はできない」とさじを投げたとしても、周りの人から「確かにお父さん(お母さん)は昔から酷かったもんね」「一緒に居ないほうが身のためだよ」などと、理解を得られやすいんですね。

そうして一定の距離を置ける場合が多いのですが、後者は毒親という自覚がないので、そのまま同居や介護に踏み込んでしまい、「そういえばお母さんは昔から言葉にトゲがあったな」「いちいち私のやることに干渉してくる」など、一緒に過ごすうちにじわじわとダメージを負っていくんです。

――これは本人もはっきりと「毒親」と断言できない、グレーゾーンの領域ですね。

石川
おっしゃる通り、決して殴られたり、お酒を飲んで暴れたりするわけでもなく、言葉の端々にトゲがあるという類のものですから、「うちの親は毒親だ」と本人も言い切れません。

表向きにはいいお母さん、いいお父さんに見られることも多いので、周りから「あんなにいいお母さん(お父さん)なんだから、面倒見てあげなきゃね」などと言われてしまい、心の中にある親への不満や嫌悪感を余計に出せなくなってしまう……。

「拡大解釈している自分のほうが悪いのではないか?」「自分が多少我慢すればなんとかなる」と一人で抱え込んで、苦しい状態が続いてしまうのです。

―― 一見、「いい親」に見える「隠れ毒親」……確かに厄介ですね。でも、家族ならそうした親の性格もわかるでしょうし、理解してもらえそうですが。

兄弟姉妹でも親へのイメージや受け止め方は異なる

石川
いえいえ、家族ほど難しいものはありません。兄弟姉妹、それぞれの立場で親に対するイメージや受け止め方が異なる場合が多いですからね。例えば、今の高齢の方は男尊女卑が強い時代に育っているため、どちらかというと娘よりも、息子のほうを優遇したり、可愛がったりする傾向があります。

兄や弟にとっては子どもの頃から「優しくていい親」でも、姉や妹にとっては「きつい毒親」という場合もあり、そこに介護が絡んでくると家族間に軋轢が生じてきます。

――親の近くに住む家族と、遠方に住む家族の間でもお互いに思うところがありそうです。

石川
それは大いにありますね。近くに住んでいる家族に介護がのしかかり、「自分にばかり押しつけて……」と思う人はいるでしょう。でも、「相続は平等に分配」だったとしたら骨肉の争いになりかねません。

結局はいろんな事情はあるにせよ、家族の中で「一番優しくてまじめな人」が引き受けやすいです。優しくてまじめだからこそ、一生懸命面倒を見てしまう。その行為が報われればいいのですが、特に毒親の場合だと大して感謝もされず、きつく当たられたり、逆にどっぷりと精神的にも金銭的にも依存されたりして、消耗するばかりになってしまうのです。
 

介護は過去と家族関係がむき出しになる

――ご著書の中で、「介護は過去と家族関係がむき出しになる」とありましたが、まさにそうだなと感じました。

石川
介護をするまではお互いに離れて暮らしていたり、年に1回か2回、お盆と正月に会う程度だったりしますものね。家族の間でなんとなくわだかまりや問題があったとしても見過ごせるレベルだったものが、いざ親が老いて介護に突入すると親子、兄弟姉妹、夫婦間で一気にそれが噴出するわけです。

兄弟姉妹同士であれば、子どもの頃の記憶までさかのぼって、「あんたは昔から親にひいきされていたけど、私は厳しく言われてばかりでつらかった」とか。夫婦であれば、「本当はお義母さんのことがずっと苦手だった。一切、面倒は見たくない」とか。それまで心にフタをしていたものが介護をきっかけにバーンと開くんです。
 

――なんだか身につまされます(笑)。いざ介護に直面して困ったことにならないために、何か備えられることはありますか?

石川
うーん、備えですか……。いつか“その日”はやって来るだろうけど、多くの人がその部分に目を背けて、家族間でも話題にしないようにしているのではないでしょうか。

「親父もおふくろもなんとかやってるし、まぁ大丈夫だろう」と、先送りしているんじゃないかなと。介護ってある日突然降りかかりますから、その場になって臨機応変に対処していくのが現実的かなと思うんです。

ただ、今はどんな介護サービスがあるとか、どんな施設があるとか、インターネットでいくらでも情報は集められます。介護に関する情報を知識としてあらかじめ入れておくことも大切ですが、何をおいても「要介護認定の申請」ができないことには先に進めません。まずはそこがキモになるでしょう。
 

最初のハードルは、要介護認定の申請ができるか

――確かに申請できないとそもそも支援が受けられないですものね。

石川
そうなんです。介護が必要になった時に、誰が要介護認定の申請をするかというと、やはり子どもか配偶者になりますよね。本人が自ら役所の窓口に出向いて「申請します!」というのはほぼ難しいですから(笑)。

子どもの側から「親父もそろそろ介護、必要じゃない?」と促した時、「そうだね」と素直に了承する親はごくごく少数です。ほとんどの親は「自分は介護なんていらない」「まだまだ自分一人で大丈夫!」と抵抗するわけです。

家族関係がうまく行っている人なら、時間をかけて話し合えば理解してもらえますが、毒親の場合は話し合い自体が困難で申請ができない、あるいは申請できても訪問調査の日に逃げてしまうというケースがかなり多いのです。

――それではにっちもさっちも行きませんね。

石川
ただ、これは毒親ばかりとも言えません。認知症が入ってくるとやはり話がかみ合わなくなりますし、関係性が良好な親でも老いが進むと考えが頑なになったり、コミュニケーションがとりづらくなったりするものです。

「要介護認定を申請しようとしても拒まれてしまい、どうしたらいいのか……」という声を取材の中で何度も聞きまして。私自身も打開策を考えあぐねていた時、たまたま取材をさせてもらったお医者さんに「医療側からアプロ―チするといいですよ」と教えてもらったんです。その方法は、目からウロコでした。
 

医者からの言葉でプライドをくすぐる

――具体的にどうアプローチするのでしょうか?

石川
高齢者の多くは血圧が高かったりとか、どこも悪いところがなくてもインフルエンザの予防注射に行ったりとか、何かしら病院にかかりますよね。そのかかりつけのお医者さんに頼んで、介護サービスを勧めてもらうんです。

例えば、「〇〇さん、最近はこういうサービスがあってね。うちの患者さんは皆使っていて、『いい』って言うんですよ。〇〇さんも来月あたりから使ってみたらいかがですか?」と。すると、「先生が言うんだったら、使ってみます」と素直に答えてくれるらしいのです。
 

「先生」という立場の人から言われると説得力がありますし、プライドもくすぐられそうですね。

石川
そうなんです。昔ながらの価値観を持つ高齢の方は、病院の先生を「お医者さま」として一目置いているので、言葉がスッと入りやすいようなのです。今、訪問診療を専門に行う病院も全国各地で増えつつありますし、そうした先生たちは高齢者の心理に詳しいので、きっと上手にコミュニケーションをとりながら、促してくれるでしょう。

親がなかなか介護を受け入れてくれない時――。「医療側からのアプローチがある」ことを知っておくだけでも、介護者の心の負担も減っていくのではないでしょうか。

――なるほど。石川さんのお話はとても参考になります。

次回の後編では、毒親を含めて介護が必要になった時に、具体的にどんなアクションをしたらいいのか? また、どうしようもない毒親の場合、「捨てる」という選択肢もアリなのか? などについて石川さんにたっぷりと伺いました。ぜひ次回もご覧ください

毒親もそうでない親も、介護が楽になるヒントが満載の書籍
 
毒親介護
著者:石川結貴
出版社:文藝春秋
発売日:2019年11月20日
 

編集・ライター:伯耆原良子

撮影:佐々木睦

伯耆原良子
伯耆原良子 フリーライター・エッセイスト

人材ビジネスの営業や企画を経て、日経ホーム出版社(現・日経BP社)にて編集記者に。2001年に独立後、雑誌や書籍、Web等で執筆多数。企業のトップから学者、職人、芸能人まで1500人以上に人生ストーリーをインタビュー。働く人の心に寄り添いたいと産業カウンセラーやコーチングの資格も取得。12年に渡る、両親の遠距離介護・看取りの経験もある。介護を終え,夫とふたりで、東京・熱海の2拠点ライフを実践中!

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