【はじめての方へ】睡眠時無呼吸症候群|就寝中に呼吸が止まる病気
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、寝ているあいだに何度も呼吸が止まったり、浅くなったりする病気で、ほとんどの場合で激しいいびきを伴います。日中も眠気を感じ、集中力が低下して事故の原因となることも。
また高血圧症を合併しやすく、脳卒中や心筋梗塞、糖尿病との関連も指摘されています。ここでは症状、検査、治療法について解説します。予防法もご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
夜間だけじゃない!日中も症状が現れる人も
睡眠時無呼吸症候群は「7時間の睡眠のあいだに無呼吸が30回以上、または1時間の睡眠中あたり5回以上の無呼吸がみられた場合」と定義されています。
「無呼吸」とは10秒以上息が止まることを指します。夜間に呼吸が止まることで、昼夜問わずさまざまな症状が現れます。
夜間の症状
無呼吸のほかに、多くの人で激しいいびきがみられます。突然いびきが止まり、しばらくして爆発するような大きないびきを再開するということが、繰り返し起こります。いびきや無呼吸を自覚する人もいますが、家族に指摘されて初めて気づく人も。
このほか、夜中に目が覚める、頻回にトイレに行きたくなる、激しい寝返りなどがみられます。
日中の症状
起床時の頭痛や日中の眠気があらわれます。集中力の低下や全身倦怠感につながり、不注意による交通事故を引き起こすこともあります。中には眠気などの自覚症状を感じないまま過ごしている重症の人もおり、治療後に初めて症状があったことに気づくことも。
このほか、生活習慣病との関連が指摘されています。高血圧症を併発しやすく、とくに薬物治療に反応が悪い「治療抵抗性の高血圧症」では8割に睡眠時無呼吸症候群を合併しています。
さらに心筋梗塞や脳卒中などのリスクも高くなります。また糖尿病のリスクをあげることも知られていて、健康的な生活を長く続けていくためにも、睡眠時無呼吸症候群はしっかりと治療をすることが大切です。
原因は空気の通り道が狭まる、または脳の命令の伝達障害
睡眠時無呼吸症候群は原因によって閉塞性と中枢性の2種類に分けられますが、そのほとんどを閉塞性が占めています。
閉塞性
閉塞性の主な原因は、気道(のどの空気の通り道)が狭くなることです。肥満や扁桃が大きい、生まれつきあごが小さいなどが関係します。アジア人は欧米人に比べ顔立ちが細く奥行きが短めであるため、とくに太っていなくても無呼吸を起こしやすいのが特徴です。
これに加えて、睡眠中は筋肉の緊張がほぐれ、さらに気道を確保しづらくなることも一因です。また、ホルモンバランスに変化が起こる閉経後の女性にも起こりやすいといわれています。
これらの原因が重なることで、寝ているときに呼吸が止まったり、浅くなったりします。大きないびきは狭くなった気道を空気が通り抜けるときに起こる現象で、閉塞性ではほぼみられます。
必要以上に高さのある枕を使うことも気道を狭くしてしまうため、注意が必要です。
中枢性
中枢性の原因は、呼吸を司る脳の指令がうまく働かなくなることです。脳梗塞や脳出血などの脳血管障害や心臓疾患でみられ、とくに心不全との関連が強いといわれています。
診断方法|夜間の呼吸状態を検査する
十分に寝ているはずなのに日中に眠気を感じたり、家族から大きないびきを指摘されたことがある場合は、医療機関を受診しましょう。
睡眠時無呼吸症候群は呼吸器内科だけでなく、さまざまな診療科で診療しています。専門外来を設けているところもありますので、医療機関のホームページで確認するとよいでしょう。
診断には、ポリソムノグラフィ(PSG)による検査を行います。一泊入院をして、睡眠中の呼吸や睡眠・覚醒の状態、心電図、血液中の酸素濃度などを調べます。自宅で行う簡易型検査もあります。
PSG検査ができる施設は限られているため、最初に簡易検査でSASの可能性があるかどうかをスクリーニングすることが多く、重症例はこの検査のみで確定する場合もあります。
簡易検査で疑わしい場合の確定診断にはポリソムノグラフィが必要です。検査の結果、次の条件に当てはまる場合を睡眠時無呼吸症候群と診断します。
睡眠時無呼吸症候群の診断基準
- 睡眠中の1時間あたりに出現する無呼吸・低呼吸の回数が5回以上で、かつ日中に傾眠などの症状を伴う場合
- 日中に傾眠などの症状がなくても、睡眠中の1時間あたりに出現する無呼吸・低呼吸の回数が15回以上の場合
ここまで、睡眠時無呼吸症候群の症状や検査について解説しました。ここからは治療法についてみていきましょう。
治療法は原因によって異なる
「閉塞性」と「中枢性」で治療法が異なります。基本的にはどちらも症状が出ないようにコントロールする治療を行いますが、残念ながら根本的な治療法はまだ存在しません。
閉塞性の場合
肥満によるのど周辺の脂肪が原因となっている場合、まずは医師から減量を勧められます。甲状腺機能低下症などの病気が原因の場合は、その病気の治療を実施。また、生活習慣を整えることで睡眠中の無呼吸を予防します。具体的には横向きで寝る、就寝前の禁酒、禁煙を行います。
無呼吸の重症度でCPAP療法かマウスピース装着を選択し、さらにこれらでは治療が困難な場合には、手術などを実施することもあります。
CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)
睡眠中のみ装着する呼吸装置で、現在最もよく行われている治療法です。鼻に装着したマスクから常に空気を送り込むことで圧をかけ続け、気道が閉じることを防ぎます。重症者の場合でも高い治療効果があります。
マウスピース
就寝時に口の中に装着。下あごをできるだけ前に出した状態で固定して、のどを広げることで気道を確保します。歯やあごの状態に合わせたマウスピースを作る必要があるため、睡眠時無呼吸症候群の診察経験が豊富な歯科医に制作を依頼します(保険適応あり)。
CPAPと比べて毎晩の装着が簡単にでき、軽量のため手軽に続けやすい一方、重症の場合には十分な効果が得られないこともあります。
手術による治療
生まれつき口腔内が狭い、扁桃が大きい、あごが小さいなどが原因となっている場合は、手術で原因を取り除くことがあります。この病気のすべての人で手術が行えるわけではなく、耳鼻科や口腔外科の医師とも連携しながら手術による治療が妥当かを判断していきます。
中枢性の場合
原因となっている脳梗塞や脳出血、心不全などに対して薬物療法を行います。心不全が原因の場合は、食事療法や運動療法などの心臓リハビリテーションも効果的です。
加えて、夜間の在宅酸素療法やCPAPなどを行うこともあります。
睡眠時無呼吸症候群の治療法についてみてきました。ここからは予防法についてご紹介します。
予防は生活習慣を改善すること
睡眠時無呼吸症候群の予防には、気道が狭くならないように肥満を防ぐことが大切です。また、脳梗塞や心不全などの睡眠時無呼吸症候群を引き起こす病気も予防しましょう。
これからご紹介する予防法は、軽症の睡眠時無呼吸症候群であれば、これらだけでも効果が出る可能性があります。
肥満
肥満は、身長と体重から求めたBMI(体格指数)で判断します。BMIは体重(kg)を身長(m)の二乗で割った値。25以上を肥満と定義しています。BMIが25を上回る場合は、食生活や運動習慣を見直しましょう。
適度な運動
肥満だけでなく、多くの生活習慣病や脳梗塞、心不全予防にも効果があります。早めの散歩や水中ウォーキングなどの運動を30分以上、週3日以上行うとよいでしょう。運動習慣のない人は短時間の散歩やヨガ、ストレッチ体操などがおすすめです。
就寝前の飲酒を控える
お酒を飲むとのどやあご周りの筋肉の力が抜けるため、気道を維持しづらくなります。睡眠前の飲酒は控えめにして、ふらつくほどは飲まないようにしましょう。
就寝時の姿勢
仰向けで寝ると舌が喉に落ちやすくなり、気道が狭くなります。抱き枕を使用して横向きで寝る方法も効果的です。
また高い枕を使うことで、さらに呼吸がしづらい姿勢になります。自分にあった高さの枕をつくるため、オーダーメイドサービスを利用するのも良いでしょう。
禁煙
喫煙はのど周辺に炎症を起こし、気道を狭くします。また脳梗塞や心不全など、睡眠時無呼吸症候群を引き起こす病気の原因にもなります。禁煙外来を利用するなどして、禁煙を目指しましょう。禁煙外来は一定の条件を満たせば、保険適用となります。
減塩
脳梗塞や心不全などの予防に減塩は効果的です。汁物や麺類ばかり食べないようにする、調味料を「かける」から「つける」に変更する、酢や香辛料を使うなどして、塩分を控えましょう。
睡眠時無呼吸症候群の予防には生活習慣の見直しが大切です。出来るところから一つずつ取り組んでいきましょう。
イラスト:坂田優子
この記事の制作者
著者:矢込 香織(看護師/ライター)
大学卒業後、看護師として大学病院やクリニックに勤務。その後、メディカル系情報配信会社にて執筆・編集に携わる。現在は産婦人科クリニックで看護師として勤務をするかたわら、一般生活者のヘルスリテラシー向上のための情報発信を行っている。
監修者:茂木 孝(呼吸ケアクリニック東京・所長)
東京医療学院大学客員教授
日本内科学会認定総合内科専門医
日本呼吸器学会専門医・指導医
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会代議員
呼吸ケア指導士