自立支援介護に力を入れ、数々の実績を出している介護付有料老人ホーム『ウェルケアガーデン馬事公苑(東京都世田谷区)』。支配人の橋本宗久さんに、成果が出る理由や介護への想いを伺いました。

高校生の頃から介護の仕事がしたかった

——まずは、介護業界に入るまでの経歴を教えてください。

橋本さん:20代の頃はファミリーレストランの店長を務め、29歳の時にコントラクトフードサービス(給食会社)に入社しました。そこで介護施設の食事を提供するサービスが始まり、責任者として全国の施設を担当したんです。

外から介護業界を見ているうちに、次第に「中に入って携わりたい」と考えるようになり、49歳のときに老人ホーム運営会社へ転職しました。

——なぜ介護に携わりたいと感じたのですか?

橋本さん:実は、高校生の頃から介護に興味がありまして、恩師の勧めで大学では福祉を学びました。さまざまな事情が重なり卒業後はフード業界の道に進みましたが、間接的に介護施設と関わるようになってカルチャーショックを受けたんです。

素晴らしい老人ホームもありましたが、中には決して褒められる環境ではない老人ホームもあり、スタッフの方からはさまざまな愚痴や不満を聞きました。思い描いていた介護の世界とあまりにも違うことに戸惑い、「自分にできることがないだろうか」と介護の世界に飛び込むことを決めました。

地位も名誉も年収も捨ててゼロから始めるわけですから勇気がいりましたが、サラリーマン生活の最後に、ずっとやりたかったことに挑戦したいと思ったんです。

就任から一年で、入居者数が30名から80名に

——『ウェルケアガーデン馬事公苑』の支配人になったのはいつですか?

橋本さん:2014年です。他社で老人ホームの立ち上げや業績の立て直しを経験した後、縁があってサンケイビルウェルケアに支配人として入社しました。当時、『ウェルケアガーデン馬事公苑』はオープンから一年ほどで、入居者数は30名弱程でしたが、年度末にはほぼ満室にして、それ以降はずっと80名前後と満室に近い状態を維持しています。

——それはすごいですね。どんな工夫をされたのですか?

橋本さん:当時はご入居者を一つのフロアに集めてケアのサービスを提供していました。スタッフ全員で担当していたのですが、責任の所在が曖昧で、真面目な人に仕事が集中するといった傾向にあり、仕事に対する責任感に格差がありました。

そこで、フロアを分けて担当者を決めたところ、一人ひとりが強く責任感を持って仕事に取り組むようになったんです。

更に、本社も「自立支援介護技術の底上げを図ろう」と介護主任を派遣してくれたため、基礎固めができました。教育が整う、スタッフが育つ、評判を聞いてご入居者が増える。そうした良い循環が生まれ、現在まで続いています。

現状維持ではなく、現状よりもっと良くなることを目指して

——『ウェルケアガーデン馬事公苑』の特長を教えてください。

橋本さん:多くの老人ホームは入居時の身体レベルを維持しようとしますが、当社は「昨日より今日を元気に、今日より明日を元気に」とご入居者を元気にしようと努力しています。ではどうやってそれを実現するか。「水分・食事・排泄・運動」という自立支援介護の基本ケアをしっかりと実施すること。

データに残し、できていることとできていないことを確認すること。徹底してこれに取り組んでいます。実際に、当ホームにご入居されて一週間ほどで改善傾向が現れはじめる方もいらっしゃいます。

一人で外出できるようになったり、一人でトイレに行けるようになったり、認知症の症状が軽くなったりと、さまざまな成功事例が生まれています。

——素晴らしいですね。支配人として仕事をする中で、印象に残っている出来事があれば教えてください。

橋本さん:たくさんありすぎて選べません。たとえば、うちから病院へ入院されたご入居者のご家族から、「本人も病院で死にたくないと言っているし、私たちも病院で死なせたくありません。1日でも良いから戻ることはできませんか」と相談されたことがありました。

住み慣れた場所に戻り安心されたのでしょう、退院して翌日に穏やかな顔でお亡くなりになりました。ご自宅のように思い入れを感じていただいたことが嬉しくて、強く印象に残っています。

また、ある方のお通夜に出席したところ、お別れで棺をのぞくとご入居者と私が一緒に写っている写真が入っていました。ご家族の方によると、その写真をとても気に入ってくださっていたそうです。いくら写りがよくても、もしホームや私に対して不満を持っていたら棺には入れてくれませんよね。「まさかあの世まで一緒に写真を持っていってもらえるとは……」と、涙が出そうになりました。

それからもうひとつ。ご入居者のご葬儀のときに、ホームでの生活をまとめた写真集を義理の娘さんにお渡ししたところ、ハッとした顔をされたんです。「お義母さん、こんなにいい顔で笑っている」「幸せだったんだ」と。

実は、私たちはその方からよくお叱りの電話を受けていたんです。どこかに「本当は家族で見るべきなのに、老人ホームに入れてしまった」という後ろめたさがあり、「どうか満足してほしい」という想いがクレームにつながっていたのでしょう。ご入居者が充実した暮らしを送っていたことを知り、最後にようやく認めてくださいました。

私たちももちろん報われた気持ちになりましたが、何より良かったと思うのはご家族の肩の荷を下ろせたことです。「この仕事をしていてよかった」と感じた瞬間でした。

——入居者が亡くなったときにホームの評価がわかるのですね。

橋本さん:ええ。ご入居者が亡くなられるときに、「このホームに入ってよかった」と思っていただくことを目標としています。介護というのは中々評価されるのが難しい仕事です。

「ここでの暮らしが楽しい、いまが一番充実している」とおっしゃっていたことを、ご本人が亡くなられた後にご家族から教えていただいたりするのですが、生前はなかなかそうした言葉を聞くことがありません。

ですから、そういったお言葉をいただいたときは必ずスタッフに伝えるようにしています。「今まで取り組んできたことは正しかったんだよ、満足されていたんだよ」と。それによって、スタッフも自信をつけることができますから。

——逆に、課題に感じていることはありますか?

橋本さん:接遇ですね。スタッフがどんなに真剣に自立支援介護に取り組んでいても、その成果が見えるのは少し先になります。ご入居者がスタッフを評価するのは、気持ち良い挨拶や明るい笑顔といった接遇によるところが大きいです。

しかし、介護スタッフはケアを、看護スタッフは医療を第一に考えるので、「サービス」という視点は抜けてしまいがちです。そうすると、スタッフはケアや医療をどんなに頑張っても評価されないという事態になってしまいます。当社のサービス面は介護業界の中で考えると良いほうに位置していると思いますが、サービス業界の中ではまだまだだと認識しています。

技術と接遇の両輪が回るようになると、より満足度の高い老人ホームになるでしょう。本社もこうした意識を持っていて、研修プログラムを組むなど全社的に取り組んでいます。一朝一夕に実現できるものではありませんが、根気強く挑戦していきたいと考えています。

——最後に、老人ホームへの入居を考えている方へのメッセージをお願いします。

橋本さん:老人ホームを選ぶ際は、経営母体がしっかりしているかどうかを確認することをおすすめします。老人ホームというのはすぐに収益が上がる事業ではありません。収益が上がらず別の運営会社に売却された場合、サービス内容が低下することもあります。

どんなに吟味して選んでも、途中で中身が変わってしまっては元も子もありません。ですから、安定した経営が望める企業であることを最低条件にするべきだと考えます。その上で、ご本人がどんな暮らしを送りたいのか、ご家族はご本人にどうなっていただきたいのかを考え、合うホームを探していただけたら、と思います。

(記事中の内容や施設に関する情報は2017年5月時点の情報です)