<介護芸人>レギュラーが考える、芸人の仕事と介護――芸人は、距離感をつかむ仕事

「あかん、西川くんが気絶してもうたー!」
「あるある探検隊! あるある探検隊!」

――ある世代にとっては確実に聞き覚えのあるこのフレーズで一世を風靡した、お笑い芸人レギュラーさん。2人は今、全国の介護施設を回ってレクリエーションを披露したり、各地の介護関連イベントに登壇して講演を行ったりと、介護業界を盛り上げるべく活動しています。

2014年には介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を取得。さらにレクリエーション介護士2級の資格も取得し、2019年、そうした体験をつづった書籍『レギュラーの介護のこと知ってはります?』(竹書房)を出版しました。“介護芸人”として活躍する2人の経験、そして昨今話題になりがちな「不祥事を起こした芸能人が介護の現場に出向くこと」の是非についてもうかがいました。

今回のtayoriniなる人
レギュラー 松本康太(1979年5月16日生まれ、京都府出身)/西川晃啓(1979年8月11日生まれ、京都府出身)
レギュラー 松本康太(1979年5月16日生まれ、京都府出身)/西川晃啓(1979年8月11日生まれ、京都府出身) 1998年4月結成。2004年、「あるある探検隊」でブレイク。2014年に介護初任者資格を取得。次いで、レクリエーション介護士の資格も取得した。現在は介護関係の講演やイベントにも多数出演している。著書に『レギュラーの介護のこと知ってはります?』(竹書房)がある。

介護の資格をとっても、すぐに施設へ行けたわけではなかった

ーーレギュラーさんが介護のお仕事に興味を持ったのは、次長課長・河本準一さんがきっかけだったそうですね。

松本

そうですね、河本さんの生活保護費不正受給の一件があってから1年後くらいだったんで、2012年頃です。

西川

すごい思い出し方やな(笑)。

松本

河本さんは岡山県出身なので、岡山の児童養護施設や介護施設を回るボランティアをされていたんです。そこで「手伝ってくれへん?」と言われて、なんも仕事がない時期だったので行かせてもらってました。

河本さんはいろんな芸人を連れて行ってたんですよ。NON STYLE・井上(裕介)くんとか、とろサーモン・村田(秀亮)くんとか。その中で「まっちゃんが来たときは利用者さんが手拍子して笑ってくれたり、好かれるからちゃんと介護の勉強をしてみたら?」と言ってもらったのがきっかけのひとつになりました。

ーーその時はコンビでなく、松本さんおひとりだったんですか?

松本

そうです。そこでも河本さんに「せっかくだからコンビでやったほうがいいよ」と言われて、西川くんを誘いました。基礎知識がないとあかんな、ってことで一緒に資格の勉強を始めましたね。

それと、今から10年くらい前に(島田)紳助さんの番組企画で宮古島に1年くらい住んでたとき(TBS系『紳助社長のプロデュース大作戦!』2010〜2011年放送)、沖縄のおじい、おばあにすごく優しくしてもらったんです。

そのときに西川くんが「おじいちゃんおばあちゃんにめっちゃ助けられたから、何か恩返ししたい。この企画が終わって東京に帰っても、施設を回ってネタしたりしたいなぁ」って言ってたことも頭のどこかにありました。

西川

一緒に別の番組をやっていたディレクターさんにも「2人のキャラ的に『老人ホームの営業行ってきた』ってすごくイメージに合いますよ」って言ってもらった記憶があったんですよね。自分で言うのも変ですけど、お年寄りの方々に可愛がられる雰囲気があるんだろうなという自覚はありました。

ーーお二人は介助等をされているのではなく、介護施設を訪れて「あるある探検隊」や漫才を披露して、利用者の方々とレクリエーションを行っているんですよね。そのためにレクリエーション介護士という資格を取られています。

松本

施設のスタッフの方がレクリエーションまで手がけようとすると、とても大変なんです。それこそ幼稚園で起きているのと同じ問題やと思うんですけど、普段のお仕事に加えてなんの出し物をやるか考えたり小道具の用意をしたり、時間外労働が増えてしまう。そこを外部に頼ることで少しでもスタッフの方の負担を減らそう、という考えから生まれてる資格です。

西川

この資格をつくられた大阪の会社さんが、僕らが介護職員の資格を取ったことをたまたま何かで知ってくださって、「もしよかったら一緒にやりませんか」と声をかけてくれたんです。

松本

そうやな。「介護施設に行って何か楽しい芸をやって話をして」ってイメージはしていたんですけど、介護初任者資格を取ってから1〜2年は何も前に進まなかったんです。吉本に「こういう活動をしたいです」と伝えても「前例がない」「利益になるかわからないから動けない」という感じになっていて。施設さんからも「利用者さんへの責任があるので、何をやるかわからん人が来るのはちょっと……」と断られたりしてました。

だからほんまに知り合いの人に声をかけてお願いして「じゃあ一度来てもらってもいいですよ」とボランティアで行かせてもらうところからのスタートでしたね。そのうち、そういう活動を記事で紹介してもらえるようになって、西川くんが言ったように介護レクリエーションをメインにしている会社さんと知り合って、という流れです。

西川

レクリエーションは「リ・クリエーション」であって、「リ・クリエイト」つまり「つくり直す」って概念です。介護業界でいうと、生きがいをつくり直そうということなんですね。老人ホームとかデイサービスにいる人らが、そこにいてはる時間でレクを通して新しく生きがいをつくれると、楽しく人間らしい生活をできるんじゃないか、って。そういう理念はいいな、と思っています。

「ジジイ」「ババア」はちゃんと距離を見定めてから

ーーレクリエーションをやるのと介助をやるのでは全然仕事の種類が違いますし、得意な人が外から来てその部分を担うのは合理的に感じます。

松本

僕らがレクをやるときは利用者さんだけじゃなくスタッフの方も集まってもらって、そのときだけは仕事のことを忘れて楽しんでもらえたら、と思っています。そうすると僕らが帰った後も「こうだったね、ああだったね」と回想法につなげられますし。

西川

僕たちはそんなにガッツリした漫才師じゃないんで、そこにいるすべての方を巻き込みながら1時間楽しんでもらいたい。

松本

スタッフの人も含めて、失敗しても笑いに変えられたら恥ずかしいことじゃないよ、という空間をつくるのが僕らのコンセプトです。やっているうちにわかってきたんですけど、僕ら自身が失敗してもいい感じの雰囲気やから観てもらえるのかな、と思います。

一言一句無駄な言葉を削ぎ落として全部完璧な芸をやって、というよりは2人で「あれ? 次なんやったっけ」みたいなことをしてるので。これが介護用語でいうところのアイスブレイク、観ている人の緊張してる心をほぐすのにつながっているんだと思います。

芸人という、距離感をつかむ仕事を20年もやってるので、そこは活きてますね。最初に距離感をちゃんと詰めて関係性がつくれていれば、相手をいじったりツッコんだりしても笑いにできる。

例えば、クイズで当てられた人が間違える。人前で間違えるって恥ずかしいじゃないですか。でも空気づくりさえできていればそこをいじってもバカにしてるようには取られない。

「そんなんでしたか!?」って僕らが言うてみんなが笑って、その方も笑ってくれる。そういうのは芸人やからできるのかなって思います。「ジジイ」「ババア」って言うときも全然ありますしね。もちろん、距離をちゃんと見定めてからですけど。

西川

会って5秒では言わないですからね(笑)。

人生の大先輩に、いきなりお遊戯みたいなこと言っても聞いてくれないから

ーーたしかに、相手の反応を見ながら短い時間で距離感を詰めたり内容を調整したりというのはライブや営業で培われる芸人さんの技術ですね。

松本

ただ、これはどの段階で起きてる伝達ミスなのかわからないんですけど、現場に行ってみたら事前に聞いていたのと全然違うことが多々あるんですよ! 介護レクの仕事をいただいたらどういう施設なのか、どれくらいの要介護度の方がいるのか、事前に確認するんですけど……。

西川

例えば要介護度が高いのか低いのか、デイサービスなのかショートステイなのか、それによって全然違いますからね。たとえば会話ができる方が多いなら、利用者さんとコール・アンド・レスポンスというか、掛け合いのネタができますし。

松本

アセスメントっていうんですかね、利用者さんとおしゃべりしながら相手の情報を引き出して、そこに僕らがリアクションしたりツッコんだりして笑いに変えるんです。

だから事前に確認してるんですよ。でも「大丈夫です、会話できます」「ちゃんと盛り上がります」って聞いていても、「どうもー!」って出ていったらなんのリアクションもなくて「聞いてたんと違うなー!」って(笑)。そういうときはいろいろやってみて、会話形式があかんと思ったらリズムや歌系のクイズに切り替えたり。

今はもう「どうもー!」「レギュラーでーす!」って言ってるときの肌感でどうしたらいいか、だいたいわかります。西川くんにわざわざ合図を送らなくても「今日はこうしよう」って通じ合うよな。

西川

多分ねぇ、僕が気絶するまでに時間がかかってるときはあんまりやりたくない状況です。盛り上がってたら気絶までが早いんですね。出ていって拍手もなんもないとき、ほんまに気絶せんとこうかな! って(笑)。

松本

気絶イヤイヤ期や。そういうときはいきなりネタやっちゃうとびっくりされるんで、まずはアイスブレイク。「ここらへんは何が有名なんですか? あんまり来たことがないんです」ってところからコミュニケーションを取りながら始めます。これは「先生と生徒」の構図をつくるためにも有効なんですよ。

ーーどういうことでしょう?

松本

どうしても僕らが人の前に立ちますから、言葉尻は違っても「これやってください」って先生みたいな見え方になっちゃうんですね。

でも、利用者さんたちって人生の大先輩やないですか。働いて家族養って子ども育てきた人たちに対して、いきなり「グーしてください」「足トントンしましょう」ってお遊戯みたいなことをやっても全然聞いてはくれない。なんやったら怒り出す方もいました。だけど、「この地域、何が有名なんですか」って聞くと立場が逆転するんですよね。

利用者さんが先生になって、僕たちが教えてもらう生徒になる。そうやってどんどん聞いていくとたくさんしゃべってくれて、僕らもボケたりツッコんだり、向こうもふざけてくれるようになって関係性ができていくんです。そこから「次はこれをやりましょう」って言うと聞き入れてくれるんですよね。向こうが先生で僕らが生徒、っていう構図をいち早くつくることが大事なんだな、というのは学んだことです。

介護にはどうしても「いいことしてる」イメージがある

ーーやっぱりどこでも”ツカミ”が大事なんですね。ところで、私はお笑いライブによく行くのでレギュラーさんのネタも何度か生で観ているんですが、普段は介護のことはネタに取り入れてないですよね?

松本

基本的には入れてないですね。

西川

漫才やったり掛け合いしたり、2人のやってることは一緒なんですけどね。

松本

もっと自分たちの活動が知られていったら触れざるを得なくなると思うんですけど、今はまだ「介護」って言葉を急に出すとどうしても「いいことをしてる」ってイメージがついちゃうと思うんです。そうすると笑いからは遠ざかるんですよ。

やっぱり「この人、何をするんやろう」って期待感があってそこからの振り幅で笑いって生まれると思うんで、極力そういう場では「介護」って言葉は出さないようにしてます。

でも、舞台観てもらった人が僕たちの施設での介護レクリエーションを見たら「あんま変えてないやん」って言うと思います。しゃべり方もテンポも2人でのいじり合いも、入居者さん/お客さんへの接し方も、舞台上と何も変わらないので。

西川

そこのズレはそんなにないと思います。

松本

そこを僕たちも目指してる感じですね。ズレがないからこそ、介護を知らない人にも「介護の世界は間口が広いんですよ」「特技を活かして介護と接することはできるんですよ」って橋渡しになれたら、と思ってます。

ーー介護の現場に対しては「大変そう」というイメージが先行している部分があると思います。実際に介護施設を訪れてみて、印象が変わった経験はありますか?

松本

言うても僕たちは1時間くらいお邪魔させてもらってるだけで、介助などの大変なところをやっているわけではないので偉そうなことは言えないんですけど、見てて思うのは、スタッフさんと利用者さんで良い関係性ができていることが多いんだな、と。利用者さんはスタッフさんや介護士さんに頼りっきりなのかと思っていたんですけど、そんなことなかったです。施設の中にもムードメーカーの方がいたり、利用者さんとスタッフさんが先輩・後輩みたいになってたり。

西川

それと、利用者さんって意外とおしゃべりやな、というのはありますね。1聞くと15返ってくるんで面白いです。今まで経験したことをしゃべりたい気持ちがあるんですよね。だから何か質問したらあっちゃこっちゃで一気にうわーっと喋り始めたり、無口な人は無口な人でたまにぼそっと会心の一撃出してきたり。

ーーそのように数年にわたって介護の現場にかかわっているお二人に聞きたいのですが、ここ数年、何か不祥事を起こして謹慎になった芸能人が介護ボランティアに行くケースがありますよね。それこそ冒頭で出た河本さんの話も近いと思いますが、そうした動きに対して「介護を“禊”の場にするな」という批判もあります。これについてはどう思いますか?

松本

やらないよりはやったほうがいいと思います。いろいろ失敗して人に迷惑かけて「何かせなあかん」と思って社会奉仕をするのって、自分が失敗したことを認めて新しい一歩を踏み出そうという前進の表れやと思うんですよね。

そこで何かしらの施設に行くとき、めっちゃ不安やないですか。「僕みたいなもんが失礼かな」って少なからず考えるやろうし、どういうふうに見られるかもわからへんし。「でもそんなん言ってられない、できることは何があんねやろ」って模索してやってはると思う。

宮迫(博之)さんが養護施設に行ってはったんですけど、宮迫さんが来て何かをすることで子どもたちがめちゃくちゃ喜んではしゃいでて。すごい元気になるパワーを与えられる人なんやな、っていうのがわかるんです。そういう活動をする人は、いっそ全部生配信したらいいと思うんですけどね。

「禊に使うな」って気持ちもわかります。でも失敗を犯した人が実際に現場に行ってやってる姿を見たら、とてもじゃないですけどそんなこと言えないですから。

西川

そうですね。それでいうと、僕らも誤解を受けたことがあるんですよ。本を出したときに、『爆報!THEフライデー』(TBS系)で取り上げてもらったんで、爆笑問題さんにお礼でご挨拶に行ったんです。ちょうど闇営業騒動の直後だったんで、太田さんに「あれ? お前らもなんか不祥事あったっけ?」って言われました(笑)。僕ら闇営業関係ないし、禊でやってるわけでもないのに。

松本

闇営業問題で名前が出たのが、よりによってHGさん、天津・木村くん、ムーディ勝山とかだったもんで。「レギュラーもいたよな?」「いや、それたぶんガリットチュウさんです」。

西川

一発屋芸人が全員闇営業行ってる、みたいな誤解が生じてました(笑)。

松本

逆にあの頃は、介護のイベント出たらツカミにさせてもらってましたね。「僕らは禊じゃないんです〜」「芸能界でスベりすぎたっていう罪の禊は必要ですけど」って(笑)。

過去の介護×芸人インタビューはこちら

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斎藤岬(さいとう・みさき)
斎藤岬(さいとう・みさき)

1986年、神奈川県生まれ。編集者、ライター。月刊誌「サイゾー」編集部を経て、フリーランスに。編集書籍に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』「HiGH&LOW THE FAN BOOK」など。

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