介護の仕事の、伝わりづらい面白さ――”現役介護芸人”マッハスピード豪速球・坂巻さん インタビュー

東京のお笑いライブシーンで人気を博す、マッハスピード豪速球というコンビがいます。2019年には、ビートたけしさんが審査員長を務める「第19回ビートたけしのエンターテインメント賞」で演芸新人賞を受賞し、お笑いファンからの評価も集めています。

とはいえ現在もアルバイトをしながら生活中。ボケの坂巻さんは介護の仕事をして8年になり、その日常を「#介護芸人の日記」としてツイッターで発信中です。

なぜそのような発信を始めたのか。現役の介護スタッフとして現場で働く芸人さんに、その“おもしろさ”を聞きました。

今回のtayoriniなる人
坂巻裕哉(さかまきゆうや)
坂巻裕哉(さかまきゆうや) 1982年6月30日生まれ、岐阜県出身。マッハスピード豪速球のボケ。「1000円もらえるお笑いライブ」「40日間ネタ作り山籠もり」など独自の活動をコンビで行っている。

このおもしろさを、自分だけにとどめておくのはもったいない

ーー坂巻さんが働いているのはどんなところですか?

坂巻

宿泊もできるデイサービスのような施設で、夜勤を主にやってます。もともと介護に興味があったわけではなくて、先にやっている芸人の友達がいたんですよ。「芸人の仕事と時間が合うからいいと思うよ」って言われて、「たしかにな」と思って始めました。あんまり何も考えてなかったですね。

ーーそのわりにはだいぶ長く働いてらっしゃいますね。

坂巻

8年です。俺、こんなに長くやってたんですね。今自分で言っててびっくりしました。

ーー日々どんな仕事をしているんでしょうか。

坂巻

夜勤なので、夜の見守りとトイレ介助が多いです。朝になったら食事提供して介助して、お薬をあげてバイタル測って、お洗濯や掃除もしてます。朝の暇な時間には利用者さんと結構しゃべってます。

ーー仕事を始める前は介護に対してどんなイメージがありましたか?

坂巻

大変そうなイメージがあったんで、怖さはありましたね。ちょっと抵抗もあったかもしれないです。

ーーそれが結果としてこんなに長く続いているわけですね。

坂巻

そうなんですよ。実は、働いてる場所は3回変わってるんです。最初に働いていた施設が閉じることになっちゃって、「次は何をやろうかな」と思ったときに、やっぱり介護がいいな、と。わりと楽しいので、ほかの仕事は考えなかったですね。

ーー坂巻さんが思う介護の仕事の楽しさはどんなところですか?

坂巻

利用者さんを見ていると、おもしろいんですよね。これが、認知症の方を笑い者にしているようにとらえられるとツラいんですけど、見てたり話したりしてると笑っちゃうことがたくさんある。

ーー楽しかったエピソード、ぜひ教えてください。

坂巻

パジャマに着替えたのに、ベルト巻いてるおじいさんがいたんですよ。だから「ベルトいらないですよ?」って言ったら「あ、そうか」って言いながらベルトをゴミ箱に捨てたんです。「そこまでいらなくないよ!」ってツッコんだら本人も笑ってるんですよ。意味がわかってるのかはわからないですけど、そういうコミュニケーションのとり方はおもしろいですね。

ほかには、おばあさんがある日「猫がいる!」って騒いでて。そこに猫はいないんですけど、否定しちゃダメなので「そうだね、猫いるね」って答えてたんです。そこから「犬も来た」「犬も来たの? あ、本当だね」「いたち」「次はいたちかぁ〜」って話が続いたんで、ちょっとふざけて「馬もいるね!」って言ったら「うん、いる」と。さらにふざけて「象だ! 象も来た!」って言ったら「象はいない!!!」って即答されて、象はいないんだ……ってなりました(笑)。こういう話を自分の中だけにとどめておくのももったいないなと思って、ツイッターに書いてるんです。

ーー「#介護芸人の日記」ですね。

坂巻

こういうことを書いて、介護に対してマイナスイメージはつかないと思うんですよね。楽しさが伝わるかな、と思ってます。僕、もともとすごく好きなものとかずっと続けてる趣味がなくて、それが悩みだったんです。今って、芸人がネタとは別にもう一個武器を持っていたほうがいいって言われるじゃないですか。それで何か特技とか趣味をつくろうと思って無理やりいろいろやってみたんですけど、好きじゃないから続かないんですよ。それをマシンガンズの滝沢(秀一)さんに相談したら、「バイトそのまま書けばいいじゃん」って言われて、「あ、そうか」って。

自分のアイデアで革命を起こせるのが介護の仕事

ーー坂巻さんの「#介護芸人の日記」はやさしさとおかしみがあってとてもいいな、と思っていました。

坂巻

やっぱりみなさん人生の先輩方なので、そういうおもしろさもありますよ。認知症になると、今自分がどこにいるのかを理解されていない方が多いんですが、あるおじいさんに「船はいつ出ますかね?」って言われたんです。その方はずっと港で働いていて、昔の職場にいると思ってたんですね。だから「今日は欠航みたいなので、寝室で寝てください」って言うと寝てくれるんですよ。そういうのって、人生が見えるな、って。

ーー素敵ですね。世間では「自分で自分のことがわかるうちに死にたい」という人が多いと思うんです。要は認知症になるのが怖い、と。その気持ちはもちろんわかるんですが、「理性があるうちに死ぬのがベストだ」みたいな考え方もそれはそれで少し怖いと思うんです。変な質問ですが、坂巻さんはどう思いますか?

坂巻

「自分が将来認知症になったりして、何もわかんなくなっちゃうのが怖い」と考える人がいるけど、それはどうなのか、って話ですよね。うーん、そうですね……そうなっちゃうのはしょうがないですからね。認知症は病気ですけど、人間として自然な流れのような気がするんですよね。大人になるにつれていろんなことを覚えて知識が増えて、やがていろんなことを忘れていって最期を迎える。その過程の一部分だと思ってるんで、自分がボケるかもしれないっていうことに対しては、俺は怖くないですね。人として自然な流れだと思ってます。

ーー「人間の過程の一部分に過ぎない」という考え方、いいですね。介護のお仕事は「大変そう」というイメージが先行していると思いますが、そうとらえられることについてはどう考えていますか?

坂巻

俺も以前はそういうイメージを持っていたし、それはまぁしょうがないなと思います。実際に中に入ってやってみないとわからないだろうな、と。介護の仕事をしていると言うとよく「うんちとか触るの?」って聞かれますけど、1日で慣れましたしね。あれは慣れるのめっちゃ早いですよ。いつまでも「いやだ〜」とか言ってる人、見たことないですから。

ーーでは実際に「しんどいな」と思うのはどんな場面ですか?

坂巻

たとえば車椅子からトイレに移動させるとき、体格の大きい方だと力がいりますし、大変だな、と。男でもそうなので、女性はもっと大変だろうなと思います。あとはやっぱり、しょうがないことですが、帰宅願望が強い方の対応は大変ですね。そういうときはとにかく話します。介護って安心させる仕事でもあるので、「ずっとここにいるわけじゃないから安心してくださいね」って話したり、お茶をあげて「まぁまぁ」ってなだめたり。

ーー逆に、今の仕事をしていていちばん嬉しかった出来事はなんですか?

坂巻

食事が終わっても「メシはまだか」って言う人がいらっしゃって、「さっき食べたよ」って言うとすごい不機嫌になっちゃってたんです。そういう状態を「不穏(穏やかな状態でないこと)」と呼ぶんですけど、スタッフでいろいろ解決策を考えた結果、あるとき「食べ終わった後も食器を下げずに置いておく」っていう方法を思いつきました。食器があると、自分がごはんを食べたってわかるじゃないですか。これは効果があったんですけど、今度は食器が片付かないって問題が出てきた(笑)。

それでまた考えていたときに、俺が思いついたのが、食べたごはんの感想を本人に書いてもらって、その紙を置いておく作戦です。これが見事成功して、全部きれいに解決したんですよ! このときはすごくうれしかったですね。この問題は結構悩んでいる人が多いと思うので、ぜひやってみてほしいです。自分で書いた紙を「ほら」って見せると「そうかそうか」ってなりますから。これは革命なんですよ、実は。

ーー介護職に対して、そういうふうに同僚と一緒に協力しながら作戦を考えて働く楽しさがあるイメージはないかもしれないです。

坂巻

ないでしょうね。「なんかいい方法ないかな〜」って考えてるときも楽しいですよ。だからこそ、ひとりでご家族をみている方は大変ですよね。誰かと一緒にやっていれば、そういう相談もできるけど。

ーー自分の家族に介護が必要になったときはどうしようか、考えていますか?

坂巻

もし施設を利用することになったら良いところを選びたいと思いますが、せっかく介護経験があるのでできれば一緒に暮らせたら、と考えてます。

――さらに年をとって、自分が介護が必要になったらどうしますか?

坂巻

今のところ結婚もしてないので、入りたいですね! 働いてる身として、施設に入ることには抵抗はないです。介護してもらうなら、穏やかで優しい人がいいですね。ウチの相方(ガン太さん)みたいにキツい人はちょっと(笑)。

ーー相方さんは介護が向いてないんですね(笑)。じゃあ坂巻さんはもともと人の話を聞いたり、なだめたりするのが得意な性格だったんでしょうか。

坂巻

そうだと思います。馬鹿よ貴方はの新道(竜巳)さんと『ゴミラジオ』というYouTube番組をやってるんですけど、そこでも興奮する新道さんをなだめる役ですからね。「そういうこと言ったらダメだと思いますよ〜」って。あれはほぼ介護です。

撮影:八木虎造

斎藤岬(さいとう・みさき)
斎藤岬(さいとう・みさき)

1986年、神奈川県生まれ。編集者、ライター。月刊誌「サイゾー」編集部を経て、フリーランスに。編集書籍に「HiGH&LOW THE FAN BOOK」『DEATH MATCH EXTREME BOOK 戦々狂兇』など。

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