介護離職経験者が伝えたいこと。「介護は自分ファーストでいい」飯野さんが経験から得た、息切れしない介護

飯野三紀子

親友の介護をきっかけに、会社員としては離職し、フリーランスの専門職となった飯野三紀子さん。離職してからどのような経緯で現在の、キャリア・コンサルタントの仕事に至ったのでしょうか。また、どんな思いで現在の仕事をされているのかを、伺ってみました。

今回のtayoriniなる人
飯野三紀子さん
飯野三紀子さん 会社員として人材コンサルティングの営業をするかたわら、叔母、母親、親友の介護を経験。親友の死をきっかけに会社員を辞め、フリーランスに。その後、母の妹夫妻の介護も行った。現在は(社)介護離職防止対策促進機構理事をはじめ、ウェルリンク(株)で介護と心の相談室を立ち上げる。介護離職のコンサルタント、また産業カウンセラー、キャリア・コンサルタントとして活躍。54歳。

会社員を辞めた後、偶然のように仕事が舞い込んだ

――ご自身が介護離職してしまったときは、どんな心境でしたか?

飯野

次に行く会社の出社日を3か月も伸ばしてもらった末に、「やはり入社できない」と言うことになり、とても迷惑をかけました。人材業界は横のつながりも強いですし、きっとこのことはほかの会社に言っても聞こえてきてしまうことなので、私はもうこの業界には戻れない、という気持ちが強かったですね。仕事に対する喪失感は強かったです。

――その後、仕事面ではどういう展開に?

飯野

実は、それほど時間を置かず、知り合いから仕事の声がかかったんです。

私は人材業界の会社員でしたが、キャリア・コンサルタントと産業カウンセラーの資格を持っていたので、「キャリア・コンサルタントのスーパーバイザー(指導者)として、コンサルタントたちの教育担当をしてくれないか」と。

会社員としてではなく、週に1~2度、仕事をするという、フリーランスの形態でした。厚生労働省の事業としてスーパーバイザーを雇うので、「謝金は安い」と言われました。月に10万円以下だったと思います。もちろん、健康保険も年金もありません。

けれど、「もう人材関連の会社には勤められない」と思っていたのが、フリーランスとしてならやっていけるということがわかり、希望がわきました。

この仕事だけで暮らしていくのは難しいですが、貯金もありましたし、「二人を介護しながら働くにはちょうどいい」と思って、承諾しました。

――生活は苦しくならなかったのですか?

飯野

二人の介護が中心の生活はそれほどお金はかからないですし、それほど切実ではなかったです。夫は単身赴任、子どももいませんから、自由に動けたのも、「会社員に戻らなくていい」と思えた理由でした。

ただ、フリーランスで仕事を始めてから1年もしないうちに、親友は亡くなってしまって……。それはとてもつらかったですね。葬儀を含め、やることもたくさんありまして、そんな意味でも、動ける時間がたくさんあるフリーランスでいてよかったと思いました。

――今は、介護離職のアドバイザー、キャリア・コンサルタント、産業カウンセラーと、肩書をたくさん持ちながらフリーランスで数多くの仕事をこなしていますが、どのような経緯で仕事が確立していったのですか?

飯野

フリーランスで仕事をしていると、「あ、あの人フリーで働いているんだ、うちでも頼めるかな」と思ってくださる方がいるんですね。その後、ポツポツと「うちでもやってくれないか」と声がかかり、企業専属のキャリア・コンサルタントや産業カウンセラーの仕事が舞い込んできて。そのうち、介護離職対策の組織からも声がかかり理事を務めさせていただくなど、連鎖のように仕事をいただくことができまして。

最初にひとつ仕事をいただいたのは14年前でしたが、今では、ウィークデーはほぼ毎日、何かしらの仕事をしています。

「自分ファースト」で息長く介護をする

――その後、お母様のお姉さん夫妻の介護も経験し、並行してお母様の介護をするなど、仕事が忙しくなれば、介護との両立も大変だったのではないでしょうか。

飯野

叔母と叔父の介護は、いとこと協力してやっていましたし、同じ有料老人ホームに入ることになったので、そこに訪ねて行って、一緒に食事をしたり、困ったことを聞き出して解決したりするような感じで、負担感はそれほどなかったですね。介護する、ということにも慣れていましたから、気疲れもそれほどありませんでした。

ただ、母はずっと自宅で生活していますので、母の対処には、手をとられます。仕事をしていても電話がかかってくることも多いですし。デイサービスと訪問ヘルパーさんをお願いしていましたが、それだけでは満足できる仕事をするのはなかなか難しく、水曜日から日曜日までは、ショートステイ(介護施設に短期間入居する形態のサービス)を利用しています。

私は、もう15年以上母親の介護を続けています。介護は、どれだけ時間がかかるか読めません。だから、無理なく「自分ファースト」にすることが大事だと思っています。
「土日は休みなんだから、介護できるでしょ。水曜から金曜にすればいいのに」という人がいますが、それじゃ、仕事と介護を両立したら、休みはゼロですか?と言いたいです。そんなことを15年続けていたら、私はとっくにつぶれています。

母がもう少し元気なときに、私は母にどんなふうに私に関わってもらいたいかを聞きました、すると、「困っていることは助けてほしいけれど、迷惑はかけたくない」というきっぱりとした答えが返ってきました。実際、母は自分の認知症を認めてさめざめと泣いたあと、自分でしっかりと認知症の進行を抑える薬を飲み、生活の工夫もしてきました。そういう母の気持ちも尊重すべきだと思います。

飯野三紀子

――なるほど、自己犠牲をひどくしてまで介護する必要はないのですね。

飯野

もちろんです。私と母はとても仲のいい親子です。その仲の良さを持続することが大切だと思うのです。介護で疲弊し、「なんで私がこんな目に遭うのか」と考えたり、「母のおかげで仕事ができない」などと不平を言い、私が母をうらみ、母が委縮するのは、違うと思います。

――適切な介護サービスの使い方をすれば、会社員でも介護ができるとも言えますね。

飯野

はい、そうです。私はたまたま会社員を辞めてしまいましたが、介護することになっても、会社員はやめないほうがいい。

日本はサラリーマンに手厚い国です。福利厚生、社会保障、社会的な信用、どれをとっても、日本は会社員のほうが優遇されていると思います。
さまざまな要件はあるものの、たとえば介護で大変なときに、1年で5日、半日単位で介護休暇を取ることや、93日以内の介護休業を3回に分けて取得できることなどが、法で決まっています。

しかし、私のようにフリーランスにはあてはまりません。今、母が股関節骨折して入院していますが、夕食介助の必要がありまして。仕事を夕刻以降に入れられないですし、入れた仕事をキャンセルすることもあって、収入減です。会社員時代の有給休暇のありがたみをひしひしと感じます。

家族、仕事、地域、医療などをマネジメントして両立する

――でも、会社員は介護に時間をかけにくいですし、仕事と介護を両立しにくいのは事実です。介護離職のアドバイザーとしてはどう提言されますか?

飯野

仕事と両立をする介護者は、4つのマネジメントが大事だと思っています。ひとつは、ファミリー・マネジメント。家族や親せきなどの意向の調整や、家族間だからこそのプレッシャーに負けないことです。早めに家族や親せきに協力者がいるか、どのような介護や看取りをしたいかなど、介護に関する家族会議を開いたほうがいいです。

――ふたつめは?

飯野

仕事のマネジメントです。特に大事なのは、「私は介護者です」と自己開示することです。上司や同僚の理解はとても大切。会社の制度の利用、テレワーク(会社外勤務)の活用なども考えてほしいですね。

――社会的な制度や地域のサービスも知っておくべきですよね。

飯野

はい、地域環境を知っておく、というのが3つ目です。町内会やボランティア、NPOなどのサービスについても調べておくといいです。介護保険サービスばかりが介護のサービスではありません。また、ご近所の方々に助けてもらうことも多いので、それまで近所づきあいをしてこなかったとしても、介護が始まったら近隣の方々に挨拶をすることも必要になってきますね。

そして4つ目は医療や介護の制度についてよく知っておくことです。私たちは40歳になると、介護保険料を支払うことになります。健康保険からの天引きで、「払っている」感覚はないかもしれませんが、きちんと意識し、「40歳になったら介護保険について興味を持つ」と決めて、調べておくことはとても重要ですよ。

――介護は長い目で見ることも大切ですね。

飯野

はい、「介護は、地域包括支援センターに相談してから、看取り、相続が終わるまで」というのが持論です。
介護される人はどんな介護をされたいのか、自分がどんな介護をしていくのか。それをよく考えて、疲弊しないで長く続けられる方策を考えていくべきですね。

飯野さんの著作が好評発売中。『仕事を辞めなくても大丈夫! 介護と仕事をじょうずに両立させる本』
三輪泉
三輪泉 フリーランス編集・ライター

女性誌や子ども関連雑誌・書籍の執筆を長年手がけ、現在も乳児や幼児のママ向けフリーペーパーで食育の連載を担当。生涯学習2級インストラクター(栄養と料理)。近年は介護・福祉・医療関連の記事、書籍編集も数多い。社会福祉士資格を取得し、成年後見人も務める。福祉住環境コーディネーター2級。

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