「今から知っておきたい親のこと」の第5回目は、「親の医療情報」です。
親の様子にちょっと気になることがあったとしても、親の病歴や、飲んでいる薬など、医療に関する情報を知らないと、状態を判断するのは難しいものです。
また、突然救急搬送されて入院すると、親の最近の健康状態や過去の病歴に関して、病院から聞かれることがあります。そんなときも、何も情報がなければ答えることができません。
これは筆者が認知症の父を介護していた時のことです。
父が何度かベッドから落ちてしまったり、キッチンですべったりしていたことがありました。本人は認知症もあったせいか、そんなことがあっても意外にケロッとしていて、痛がりもせずにまた普通に歩きだし、骨折もしていないようだったので、しばらく様子を見ることにしました。
どのくらいの日にちが経った頃でしょうか、父にぼーっとするなどの変化が見られるようになったので、慌ててかかりつけ医に連れて行くと、「この症状はいつからですか?」「ベッドから落ちたり、転んだりしたのはいつのことですか?」と質問されました。
しかし、私はとっさに答えられません。
最初に転んだのが2週間前のことだったのか、それとも1か月くらい前のことだったのか、正確にはわからなくなっていたのです。メモや記録を残しておけば、ちゃんと答えられたのにと、その時にとても反省しました。
筆者の場合は介護中でしたが、これは親が要介護状態でも、健康であっても同じことだと思います。
親と同居している人も、離れて暮らしている人も、親のちょっとした変化や気になることがあったら、その時にぜひメモや記録をしておくことをお勧めします。同時に、親が高齢になったら、なるべく早いうちから、親の持病や過去の病歴についても把握しておくようにしておきましょう。
知っておきたい親の医療情報は、大きく分けて2つです。
1つは現在の親の健康状態に関する情報、もう1つは親の過去の病気や怪我、いわゆる病歴(既往歴)です。現在と過去の2つの医療情報を今のうちからまとめておけば、いざという時にも慌てず、必要な情報を医療機関に提供できるため、適切な検査や治療につながりやすくなります。
また、親の医療情報をよく知っていると、インフォームド・コンセント(医療提供側の適切な説明と患者側の理解)が行われるとき、より良いものになると思います。
まず、現在の親の健康状態を知っておきましょう。高血圧や糖尿病などの持病があれば、それを確認します。
そして、病気の有無だけでなく、日常生活において不自由なことがないかを知ることが大切です。例えば、椅子から立ち上がることや歩行に困難はないか、耳が遠くなってはいないか、痛みがある箇所はどこかなどを知り、それらによって日々の生活の中で何か困っていることはないかを確認するのです。
その他、知っておきたいのは次の情報です。
東京都のデータによると、70代以上の高齢者でかかりつけ医を持っている割合は、男性が87%で、女性が86%と、男女ともに9割近くの人が、かかりつけ医を持っていることになります。そこで、親にかかりつけ医がいるかどうかを確認してみましょう。
親は、症状に変化がなくても薬を処方してもらうために、かかりつけ医を月に1度受診しているケースが多いと思います。もしも、かかりつけ医に会ったことがなければ、一度付き添いをして、親のかかりつけ医に挨拶しておくとよいでしょう。その際、最近気になることがあれば、直接医者に聞いてみてください。かかりつけ医のほうも、家族の存在を知ると安心してくれると思います。
親が比較的元気で、特に気になることもなく、通院もしていない場合は、親が受けている年に1回の検診の結果を聞きに行くときに、付き添うようにしておくと安心です。
なお、診察時間というのは短いことが多いため、気になる点があるときは、あらかじめメモにして持っていくようにしましょう。メモがあれば、医者からの質問にも正確に答えられて、医者に聞きたいことも忘れずに伝えることができて、有意義な診療を受けられます。
また、かかりつけ医は内科系が多いと思いますが、高齢者は整形外科や眼科など複数の医療機関にかかっているケースが多いので、かかりつけ医以外に通院している医療機関があれば、全部確認しておきましょう。
バイタルデータとは、ここでは体温、血圧、脈拍のことを指します。
普段からバイタルデータを測っている高齢者は比較的多いので、親に平均値を聞いておきましょう。入院時や新しい医療機関にかかったとき、平熱や普段の血圧がどのくらいの値なのかを伝えることができれば、適切な診療にもつながりやすくなります。
服用中の薬も知っておきたい情報です。
「おくすり手帳」を見る機会があれば、どんな薬を服用しているのかを親に確認しておきましょう。ただし、医者が処方する薬をそのまま服用しているだけという高齢者も多いので、親が薬の説明をよくできなくても、責めるような会話にならないよう気を付けてください。薬のことで気になる点があった時は、次の受診の際に付き添って、かかりつけ医に確認してみましょう。
また、処方薬はいつも同じ薬屋さんでもらっている高齢者が多いものです。「かかりつけの薬局」も併せて確認しておきましょう。薬の飲み方や飲み合わせなど、薬に関する問い合わせをしたい時も、かかりつけ薬局を知っていると安心です。
なお、病院で処方されている薬だけでなく、市販薬やサプリメント類を使用していれば、これらも知っておきたい情報です。
現在の健康状態を確認したら、次は過去の病歴です。
高齢者の「病歴」はとても重要です。なぜなら、多くの場合、現在の持病をいつから抱えているのか、過去の病気や怪我の完治度はどうかなどの過去の病歴がわかってこそ、現在の健康状態を判断できるからです。
また、親が子供の頃や若い頃にかかったことのある病気や怪我が、加齢に伴い再発したり、症状として影響が出ていたりするケースもあります。親の子供時代や独身時代の病気や怪我については、知っている子供のほうが少ないと思いますので、これも本人に確認しておくとよいでしょう。
イラスト/上原ゆかり
在宅介護の経験をもとにした『ケアダイアリー 介護する人のための手帳』を発表。 高齢者支援、介護、福祉に関連したテーマをメインに執筆活動を続ける。 東京都民生児童委員 小規模多機能型施設運営推進委員 ホームヘルパー2級
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