全国で介護サービスを展開するSOMPOケアが、2022年11月に運営をスタートさせた「SOMPO流 子ども食堂」。前編の櫻井さんへのインタビューでは、職員の働きがいの向上と入居する方々の活力向上、そして地域活性が大きなねらいだと伺いました。
介護大手、SOMPOケアが全国の事業所で「子ども食堂」を展開。多世代交流に力を入れるワケとは
実際に、現場ではどのように行われているのでしょうか。東京・板橋区にある介護付き有料老人ホーム「SOMPOケア ラヴィーレ高島平」で行われた、子ども食堂開催当日の模様をお伝えするとともに、現場で指揮をとる上席ホーム長の下川原さんに、このプロジェクトへの思いを伺いました。
梅雨時にもかかわらず、気持ちよい晴天に恵まれた6月24日の土曜日。今日は、東京・板橋区にある「SOMPOケア ラヴィーレ高島平」にて、毎月第4土曜日に開催している「子ども食堂」の日です。
朝から子どもたちが来るのを心待ちにしていた入居者の方々が、次々と玄関ロビーに集まってお出迎え。早めに来場した子どもたちと風船ボールを投げ合って、しばし楽しい触れ合いタイムです。キャッキャッと、にぎやかな笑い声がロビー中に広がりました。
12時半からいよいよお待ちかねのランチタイム。続々と参加者の親子が集まり、全部で10名の子どもたちと4名の保護者の方が参加しました。
陽の光が差し込む明るい食堂に移動し、子どもたちと入居者の皆さんが一緒に食卓につきます。
今日の子ども食堂のメニューは、子どもたちも大好きなハンバーグ。おいしそうな食事を目の前に、皆で「せーの!」で「いただきます」のごあいさつ。和やかにランチタイムがスタートしました。
子どもたちがおいしそうにハンバーグを頬張る姿をほほえましく見つめる入居者の皆さん。
「ボク、おはし使えるよ!」と、小さな男の子が元気な声で発言すると、「あら、上手に食べられるのねぇ」「がんばってるわね」と、入居者さんたちが目を細めながらほめ言葉を投げかけます。男の子もほめられて満足気です。
食べ終わる頃になると、入居者のお一人から、子どもたちにデザートの差し入れが。毎回、子ども食堂のために食後のフルーツを準備してくれるそうです。
この日はシャインマスカットとみかんが振る舞われ、子どもたちも親御さんも大喜び。「ありがとうございます!」の御礼の言葉に、差し入れされたご本人もうれしそうな表情を浮かべていました。
ハンバーグも食後のフルーツも、皆ペロリと完食。「ごちそうさま」のあいさつをして、後片付けに入ります。厨房まで食器を下げて、調理をしてくれた職員の方に御礼を伝えることも、子どもたちにとってはよい学びになるようです。
食後は参加者の親子や入居者さんで一緒になって楽しむレクリエーションの時間です。今回は、スペシャル企画としてダンス教室が行われました。
インストラクターを務めるのは、ダンサーとして様々な舞台で活躍してきた経験のある、佐藤真樹さん。SOMPOケア広報部のチームリーダーでもあります。
同社の有料老人ホームで介護の仕事をしてきた経験を活かして、高齢の方も座りながら踊れる、やさしいダンスを考案してくれたそうです。
この日は星野源さん作詞作曲の『異世界混合大舞踏会(feat. おばけ)』に乗せて踊ることに。子ども達に人気の映画『ゴーストブック おばけずかん』(2022年公開)の主題歌だったこともあり、何人かの子どもたちが「この曲、知ってる~!」と、手を挙げていました。
準備運動のストレッチの後、佐藤先生の振り付けを見ながら、サビの部分の動きを一つひとつ覚えていきます。
軽快なリズムに合わせて、一生懸命「おばけダンス」を覚える子どもたちと入居者の皆さん。職員さんたちも加わって、ますます盛り上がります。
最後に全員で一斉に「おばけダンス」を踊り終わると、不思議と達成感と一体感が! 「皆さん、上手に踊れましたね!」と、佐藤先生からの大拍手に、フロア全体が笑顔で満ちあふれました。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、名残惜しくもお別れタイム。皆で玄関ロビーに集まって、子どもたちによるお菓子のつかみ取り大会です。
一人ひとり、箱に手を入れてお菓子をつかめるだけつかみます。親御さんたちもたくさんお菓子をつかもうと、張り切って参加していました。
最後に入居者のお一人から、子どもたちに学習ノートのプレゼント。思わぬ贈り物に、子どもたちの顔がほころんでいます。
「また来月も来てね!」「楽しみに待ってるよ!」と、入居者の皆さんが温かいまなざしで子どもたちをいつまでも見送っている姿が印象的でした。
「SOMPOケア ラヴィーレ高島平」では、今年4月に着任した上席ホーム長の下川原 恵さんの旗振りのもと、子ども食堂を本格スタート。
地域の児童館や小学校、地域包括支援センターに足を運び、積極的に周知を図ったところ、この数カ月で少しずつ地域での認知度が高まり、参加者も増えていると言います。
毎回、最も力を入れて取り組んでいるのが、レクリエーションなどの企画。同社では、入居者一人ひとりの自分らしさを尊重する「カスタムメイドケア」という考え方を取り入れており、その方の好きなものや昔からの趣味などを日々の会話から引き出しているそう。
「ご入居者さまの好みを把握した上で、例えば『〇〇さんと△△さんは、お習字が得意なので、次回のレクに取り入れられないか?』などと職員同士で話し合い、企画内容を決めるようにしています」(下川原さん)
子どもはもちろん、入居者の皆さんもワクワクできるような企画を取り入れていく。世代を超えて楽しめるのが、“SOMPO流”の子ども食堂の特徴と言えるかもしれません。
一方、今回のダンス教室は、子ども食堂プロジェクトを推進する、東京本部の支援グループからの提案だったそう。
この企画を提案した、東京地域事業推進課リーダーの早川 慎一郎さんは、「広報部の佐藤がダンスが得意だと知っていたので、上席ホーム長の下川原に話を持ちかけ、実現に至りました。こうして子ども食堂の活動を通じて、社員の活躍の場や、部門を超えた社員同士の交流が増えていることも、社内の活気につながっていると思います」と、付け加えます。
午後はお昼寝をする入居者さんが多いそうですが、今日は子どもたちと触れ合えることもあって、居住スペースからたくさんの方がフロアに集まったそう。
「ご入居者さまの生き生きした姿を見るのが、職員にとっては一番の喜びなんですよね。普段はシャイで、『これがやりたい!』となかなか言えない職員も、小さな声で『来月の子ども食堂の日も出勤させてください』と希望を言ってくれるようになりました。子ども食堂が職員たちにやりがいをもたらしてくれていることは間違いありません」(下川原さん)
子ども食堂の活動は、地域交流にも好影響をもたらしています。板橋区の各地域では、町会・自治会をはじめ、地域のNPOやボランティア団体、社会福祉法人などで構成される協議体「支え合い会議」があり、見守り活動や居場所づくりなど、地域の支え合いの仕組みについて話し合っています。
大手介護事業者のSOMPOケアが子ども食堂を始めたことで、地域をけん引する団体や組織にも興味を持ってもらうことができ、そうした会合にも声をかけてもらえるようになったと言います。
「地域を盛り上げる一員として加われるようになったことは、大変うれしいことです。今後は子ども食堂の活動を軸に、地域の発展や問題解決にも貢献していきたいと考えています」(下川原さん)
日経ホーム出版社(現・日経BP社)にて編集記者を経験した後、2001年に独立。企業のトップから学者、職人、芸能人まで1500人以上に人生ストーリーをインタビュー。働く人の悩みに寄り添いたいと産業カウンセラーやコーチングの資格も取得。12年に渡る、両親の遠距離介護・看取りの経験もある。介護を終え、夫とふたりで、東京・熱海の2拠点ライフを実践中。自分らしい【生き方】と【死に方】を探求して発信。
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