進化する介護レク、遊びだけではないその内容とは?レクリエーション介護士養成講座を取材した

年齢を重ね体に不調が増えることで、いわゆる「自立」が難しくなる老後の生活。場合によっては“遊ぶ”ことすら1人ではままならなくなるかもしれない。その不安を象徴するのが、介護現場の「レクリエーション」である。

塗り絵や体操など、端からみれば幼稚園で行われている“お遊戯”と大差ないように思えるレクリエーションを、本当に楽しむことができるのか。そもそも、あのレクリエーションには、どんな意味があるのだろうか? 
後編の今回は、介護現場における「レクリエーション」のリアルを体験しつつ、今回は老後に備えて「レクリエーション」との付き合い方について考えてみた。(撮影:大平信也)

▼前編はこちら

2021/11/26

介護レクの目的は何か?"一見、お遊戯"に隠された真の意図をレクの専門家養成講座で探った

ポジティブなイメージがない介護レクリエーション。その実態は?

「塗り絵や体操など、やっていることが児童向けっぽい」「みんなで一緒に同じことをやらされるのが辛そう」「職員から子ども扱いされそうで嫌だ」「楽しくないことでもお付き合いする必要がありそう」……。老人ホームやデイサービスの現場で行われているレクリエーションへの一般的なイメージは、必ずしもポジティブなものではないはず。

とはいえ、そうしたイメージはあくまでもテレビ番組などの映像を観た範囲で抱く、いわば「他人事」でもある。実際に体験してみれば、イメージとは違う感想を持つかもしれない。

そんな仮説のもと取材をさせて頂いたのが、資格制度「レクリエーション介護士」の実技を交えた講座だ。

はたして介護現場で行われているレクリエーションとは、どのようなものなのだろうか。(「レクリエーション介護士」の概要については前回の記事をご参照ください)

工夫や意図が伝わらないレクリエーションは単なる“お遊戯”になってしまう

「レクリエーション介護士」の認定機関である一般社団法人日本アクティブコミュニティ協会の公認講師、藤井寿和さんによれば、介護現場におけるレクリエーションの定義は「日々の生活の中に生きる喜びと楽しみを再び見出すための活動」とのこと。

我々が“お遊戯”と捉えてしまいがちな遊びや体操の類も、それで楽しむこと自体が目的ではない。遊びを通じて、人それぞれ異なる「生きる喜びと楽しみ」につながる願望をくみ取り、それを実現させることが究極の目的なのだ。

「一見“お遊戯”のようにみえる遊びにも、願望をくみ取ったり、日常では出しにくくなっている感情を引き出したりなど『心を動かす』ための意図や工夫が込められているんです」(藤井さん)

確かに、前回の記事で体験した「ポチ袋」と「子ども銀行券」を使ったジャンケンゲームには、

  • 獲得した金額で何をしたいか考えてもらう(実現したい願望を引き出す)
  • 孫世代が喜ぶアニメなど流行の図柄を知ってもらう(若い世代とつながるきっかけを持つ)

といった工夫が凝らされていた。

しかし、ちょっとシニカルな見方をすれば、それはあくまでもレクリエーションを提供する側の意図であり、提供される側が実際に体験するのは、子ども銀行券を使ったジャンケンゲームに過ぎないともいえる。単なる“お遊戯”と受け取ってしまい、積極的に参加できない人も出てくるのではないだろうか。

「それは当然あると思います。『心を動かす』工夫が足りなかったり『なぜ、これを行うのか』という意図が伝わりにくかったりするレクリエーションは、単なる“お遊戯”に留まってしまうわけです」(藤井さん)

また藤井さんによれば、自分が「楽しくない」と思うレクリエーションに参加する必要は、まったくないのだという。

「介護現場のレクリエーションは、みんなで一緒に同じことをする『集団レク』の時代から、個々の意思を尊重する『個別レク』の時代へと変わりつつあります。施設側も複数のレクリエーションを提供することが多くなっていますから、自分にあったものを選べば良いわけです。極端にいえば、自分にあったレクリエーションを提供してくれる施設に移ることだって、現在の介護保険制度では容易にできます。その点で言えば、一般的なイメージとなっている『みんなと同じことをさせられる』という心配は、かなり減っているといえるでしょう」(藤井さん)

“遊ぶ”だけがレクリエーションではない、という発見

自分にあった“遊び”を選べる介護レクリエーションの例として体験させて頂いたのが、牛乳パックを使った「パズル」と「ジェンガ」だ。

使用するのは、市販の牛乳パックをスライスした切れ端。まずは、この切れ端を組み合わせて、手裏剣や鍋敷きのような形を作るよう促される。

前回行ったジャンケンゲームとは違い、ひとりで行う工作なので、コミュニケーションに負担を感じる人でも黙々と楽しむことができる。

手先を使う作業なので、頭の働きを活性化させるのにも良さそうだ。

一方のジェンガは、どちらかといえば競争型の遊び。制限時間内で、牛乳パックの切れ端を高く積み上げた人が「勝ち」となる。

黙々とした手作業が好きな筆者としては、かなり楽しいレクリエーションだった。しかし、一方でやっぱり気になったのが牛乳パックの切れ端を使っていること。見た目上の“お遊戯感”が否めないのだが、これにもいくつかの理由があるのだという。

「崩れたときに大きな音が出ないから心臓に負担がかからないなど、木製のジェンガに比べ、安全性が高いんです。安全性が高いということは、高齢者だけで遊べるメリットもあります。実際、面会に来たお孫さんや家族と一緒に遊ぶオモチャとして重宝されているんですよ」(藤井さん)

確かに、崩れてしまったときの衝撃は比較的マイルド。ちなみに、こうした遊びには普段出さないような声が思わず出てしまうことで、発声のリハビリになるメリットもあるのだとか。

「牛乳パックの切れ端を使うことの意味は他にもあります。実は、この切れ端を作ったのは介護士ではなく、介護を受ける高齢者の方々なんです。つまり、牛乳パックの切れ端で遊ぶのはNGだけど、遊び道具を提供することには進んで参加したいと考える方が一定数いるんですね。そうした方にとっては『人のために役立つことをする』行為が『生きる喜びと楽しみ』を生むレクリエーションになるわけです」(藤井さん)

“遊び”に参加することだけがレクリエーションではない!

これは、かなりハッとする指摘だ。確かに「生きる喜びと楽しみ」が生まれる行為であれば、娯楽である必要はない。そもそも人によっては、働くこと自体が娯楽に近い感覚を得る場合もあるだろう。

「牛乳パックを使った遊びと似たものでは『ドミノ倒し』も人気ですね。これも、牌を切り出す人、色を付ける人、ドミノ倒しの仕掛けを考える人というように、全員の好みや特性に応じ複数の立場から構成されるレクリエーションになります。この場合、道具の制作を含めたレクリエーションのプランニングから、全員で参加できるのが良いところなんです。牌の制作に立候補した人が、実は現役時代は工場で働いていたことや、仕掛けを考える人が元・設計士さんだったことがわかった……なんてこともあります。それまで自分のことを話すのが苦手だった人から、自然と“人物史”が引き出せるのもメリットのひとつといえるかもしれません」(藤井さん)

体に不調を抱えることで、他者とのコミュニケーションにも消極的になりがちな高齢者。彼らから「生きる喜びと楽しみ」につながる情報を得るきっかけとしての機能を持っているかどうかが、良い介護レクリエーションの条件とのこと。その好例となるのが、最後に体験させて頂いた「思い出しカード」だ。

自分の知識を「教えてあげる」ことも立派なレクリエーションになる

名前とビジュアルから、だいたい想像できると思うが「思い出しカード」とは、昔の日用品や風景の写真が印刷されたカードのセットだ。カードを見ながら昔のことを思い出してもらい、会話を弾ませるきっかけを提供することが目的だという。

カードを使用する人の年齢層を考慮し、昭和25年~35年くらいの時代に即した事物が扱われている。筆者が当事者のように盛り上がることはなかったものの、それでも「赤電話」を知らない20代の受講者に、使い方や公衆電話にまつわる思い出をつい語りだしてしまった。「思い出しカード」の効果は、まさに絶大。
カードを見ながら、当時の思い出トークで盛り上がるお年寄りたちの姿が目に浮かぶようである。

「『思い出しカード』のメリットは、会話のきっかけを提供するのはもちろんのこと、当時を知らない世代に対し、自分の知見を自然な形で『教える』ことができる点にあります。今も、思わず赤電話の使い方を教えていましたが、知っている人が知らない人に教える行為もまたレクリエーションの一種といえるんですね。もちろん、昔のことを知らない世代にとっても、知識が増える一種の楽しみがあります。私はさまざまな経歴を持つ高齢者を『知恵の図書館』と考えていて、それを上手に利用することで、高齢者と我々の双方に大きなメリットを生むと考えているんです」(藤井さん)

この「思い出しカード」にも、他のレクリエーションと同様に、高齢者の願望を引き出し、より本質的なレクリエーションを実現させる効果が期待できるらしい。たとえば施設内に閉じこもりがちだった女性が、若い頃の美容院の風景を見ることでオシャレに対する意欲を思い出し、美容院に通う元気を取り戻した事例があったという。

時代とともに進化する介護レクリエーション。その未来は明るいのかも

「みんなと一緒に遊ばなければならない」「内容が幼稚にみえる」「楽しくなくても付き合わなければいけない」など、介護レクリエーションに抱いていたネガティブなイメージ。しかし、そうしたイメージは既に過去のものとなりつつあることが、今回の体験を通じて理解できた。「自分が楽しいと思えることを自分のペースで楽しめばOK。嫌ならやらなければいい」というスタンスで良いなら、老後のレクリエーションにも安心して付き合うことができそうだ。

「以前に比べ介護施設の数が増えたことで競争原理が働き、サービスの質が向上している点もこれからの介護の現場におけるレクリエーションを考える上で、明るい材料と考えられます。『レクリエーション介護士』という資格制度が生まれたのは、そうした背景に加え、高齢者のQOL向上が大きな課題となっているからです。介護の現場というと、老人ホームやデイサービスをイメージする方が多いかもしれませんが、実際には地域や家庭も含まれます。レクリエーション介護士の資格取得者の中には、そのスキルを地域や家庭で役立てることを目的とする方も増えています。その点でも介護レクリエーションの未来は明るいといえるのではないでしょうか」(藤井さん)。

ちなみに、当然のことながら、介護レクリエーションの内容もまた常に進化を続けているとのこと。たとえば「思い出しカード」の内容も、数十年先にはけん玉からファミコンというように、利用者の年代にあわせて更新されていくだろうという。

「昔とは違って、今は誰もが知っている歌が減っているわけですから、歌を歌うレクリエーションについても、工夫をする必要が出てくるかもしれません。とはいえ、時代が変わっても『生きる喜びと楽しみを再び見出すための活動』という介護レクリエーションの目的は変わりません。その点でも、安心して老後の“遊び”と付き合って頂ければと思います」(藤井さん)。

はたして自分が老後を迎えたときには、どのようなレクリエーションが待ち受けているのだろうか。今回の体験を通じ、それを考えることが楽しくなってきたような気がする。

今回お話を伺ったのは
一般社団法人 日本アクティブコミュニティ協会  公認講師 藤井 寿和(ふじい ひさかず)さん
一般社団法人 日本アクティブコミュニティ協会  公認講師 藤井 寿和(ふじい ひさかず)さん 静岡県西伊豆生まれ。24歳まで陸上自衛官を経験後、介護の仕事に転身。20代で医療法人の事業部統括マネージャーに就任した後、35歳で独立。スタッフや設備の優劣を問わず良好な施設運営ができる「いつでもどこでも誰でもメソッド」を軸に、年間100日を超える出張活動を全国で展開中。
石井敏郎
石井敏郎

1970年生まれ。編集者・ライター・愛犬家。

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