介護レクの目的は何か?"一見、お遊戯"に隠された真の意図をレクの専門家養成講座で探った

食事や入浴の介助をはじめ、何かを“手伝ってもらう”ことが増えていく老後の生活。体に不調を抱えているわけだから、日常の生活動作の介助については、ある程度諦めがつくのかもしれない。

しかし、それでも“手伝ってもらう”ことに抵抗を感じるシーンは、きっとあるはずだ。たとえば“遊び”はどうだろう? 
今回は、介護現場における“遊び”の一種と考えられる「レクリエーション」のリアルを体験してみた。(撮影:大平信也)

老後を迎えると“遊び”すら一人で自由に楽しめなくなるのか?

広間に集まり、みんなで一緒に塗り絵や体操、合唱を“楽しむ”老人たち。介護の現場を伝えるテレビ番組などの映像に登場するお馴染みのシーン。いわゆる「レクリエーション」の時間だ。

老人ホームやデイサービスで過ごす生活を想像する際、筆者が不安というか“恐れ”すら抱いてしまうのが、このレクリエーションである。

文字通りイイ年をした大人が、なぜ塗り絵や合唱をしなければならないのか? しかも、みんなで一緒に。年下の職員さんたちに見守られながら……。

身体機能を維持するための運動や、頭の働きを活性化させる塗り絵のような活動が、老人に必要なのは理解できる。しかし、それは要するにリハビリであって、我々が考える“遊び”とは程遠い。最大限に譲歩しても、せいぜい児童向けの“お遊戯”だ。

結局のところ、歳を取ってしまうと“遊び”すら自由にできなくなる、ということなのか。もしくは実際に老後を迎えると、こうした誰かに手助けしてもらう“お遊戯”でも、結構楽しめてしまうものなのだろうか? 

そんな疑問を抱いていたところ、近年「レクリエーション介護士」なる資格制度が生まれており、注目を集めているという情報を得た。問い合わせてみたところ、ありがたいことに実技を含め、介護レクリエーションの基礎を学ぶ講座に参加させて頂けるという。

はたして、介護現場におけるレクリエーションの最前線は、どのようになっているのか。近い将来、介護レクリエーションを受ける立場として、その実態を体験してみた。

専門職も登場。時代とともに進化する介護レクリエーション

まずは「レクリエーション介護士」の概要について説明しておこう。

2014年9月にスタートしたこの資格制度は、介護現場や高齢者に関する基礎知識を学び、高齢者が日々の生活を充実して送れるように支援する人材の育成を目的としている。高齢者に喜ばれるレクリエーションの知識やスキルを身に付けることができ、2021年8月時点で3万2000人を超える資格取得者がいる人気の資格だ。

今回取材をしたのは、介護レクリエーションの基礎を学ぶ「2級」の資格を取得するための講座である。講座は2日間にわかれており、今回は実技が多い2日目の講座に参加させて頂いた。

実技に入る前の座学を受けた時点で、まずハッとさせられたのは、日頃“遊び”と同義で考えていた「レクリエーション」という言葉の本来の意味だった。レクリエーション介護士の認定機関である一般社団法人日本アクティブコミュニティ協会の公認講師、藤井寿和さんは、このように説明してくれた。

「一般的に『レクリエーション』という言葉は、娯楽や余暇といった意味で用いられることが多いかもしれません。しかし、それはあくまでも狭義の考え方といえます。『recreation』とは本来『re-creation』直訳すれば『再び創造する』という意味です。つまり介護の現場におけるレクリエーションとは『日々の生活の中に生きる喜びと楽しみを再び見出すための活動』と定義できます。わかりやすいところで言えば、わざわざ『食事レクリエーション』『入浴レクリエーション』と言わないだけで、本当は食事や入浴もレクリエーションの一種なのです」(藤井さん)


要するに、我々がレクリエーションと聞いてイメージする“遊び”は「生きる喜びと楽しみを再び見出すための活動」の、ごく一部に過ぎなかったのだ。

「もちろん娯楽やレジャーもレクリエーションに含まれます。これから体験していただく介護レクリエーションの実技は、端から見れば確かに“お遊戯”のような印象を持つかもしれません。しかしこの“お遊戯”には『生きる喜びと楽しみを再び見出す』目的を満たすため、単なる“お遊戯”に留まらない工夫や意味が込められているんです」(藤井さん)。

ちなみに、筆者のようにレクリエーションを退屈な“お遊戯”のように考えてしまう人が多いのには、介護現場の歴史が関係しているのだという。

「介護レクリエーションは、大きく『集団レク』『個別レク』そして食事や入浴のような『基礎生活レク』の3つに分類されます。このうち現在では、個々の希望に応じる『個別レク』が重視されていますが、施設や職員の数が少なかった時代は『集団レク』に頼らざるを得ませんでした。。また、レクリエーションを提供する側も、以前は「生きる喜びと楽しみを再び見出すための活動」の“支援”ではなく、“指導”という考えが主流でした。集団で行うレクリエーションを“指導”されるとなると、やっぱり楽しい感じはしないですよね? 今でも介護レクリエーションにネガティブな印象を持つ人が多いのは、そうした歴史も関係しているのではないでしょうか」(藤井さん)

“お遊戯”っぽいゲームに隠された真の意図、そして目的とは?

このような座学の時間を経て、介護レクリエーションの“実技”を体験する時間となった。通常の講座でも実技の時間を重視しているのは、介護レクリエーションを提供する側として「提供される側」の気持ちを理解する必要があるからだという。

さて、単なる“お遊戯”に留まらない工夫や意味が込められている介護レクリエーションとは、どのようなものなのだろうか?

最初に体験したのは、主に初対面同士で行うレクリエーションとして適切な「ポチ袋」を使ったジャンケンゲームだ。

用意されたのは無地、伝統柄、最近のアニメ柄などさまざまな種類のポチ袋。ここから各自、好みの柄を5枚選ぶところからゲームが始まった。

「それでは、5名が総当たりとなるようにジャンケンを行い、勝った人は相手のポチ袋を1枚獲得してください」(藤井さん)

要するにポチ袋をやり取りする簡単な勝負事だ。ジャンケンをするだけなので、初対面の相手とも比較的気軽に接することができるし、なんとなく現金のやり取りをしているかのような感覚も得られる。

とはいえ、これが面白いかといえば正直微妙なところ。しかし嫌なことは何もないので、とりあえず言われたままにジャンケンを続けていくという感覚だ。

総当たりが終われば、手持ちのポチ袋の枚数に優劣がでる。筆者の手元に残ったのは2枚。もっとも多く獲得した人とは数枚の差が出たが、これも悔しいかと聞かれれば少し苦笑してみせる程度の感想しか持てない。

「ジャンケンが済んだら、ポチ袋を開いて中身を確認してみましょう」(藤井さん)

筆者の手元に残った2枚のポチ袋には、合計6000円分の子ども銀行券が入っていた。ちなみに、この金額は5名中最下位。1位は「tayorini」の担当編集者が獲得した3万3,000円だった。子ども銀行券とはいえ、具体的な数字が出てくると、やはり多少の悔しさや羨ましさが出てくる。

ポチ袋という時点で、金額が絡むのはある程度想定内だったが、ここで想定を超える“ハプニング”が発生した。なんと、担当編集者が獲得したポチ袋には、1枚だけ本物の現金1,000円が入っていたのだ。

それまで、筆者と同様に「大人の対応」でゲームを楽しんでいるように見えた参加者の間に、明らかな動揺が広がった。教えておいてくれれば、もっと真剣にジャンケンしたのに!

「残念ながら現金を差し上げるわけにはいかないのですが、ここで皆さんに質問をしたいと思います。仮に獲得した金額がリアルなもので、自由に使って構わないとするなら、そのお金で何をしたいですか?」(藤井さん)

本物の現金が混入されていたこともあり、わりと真剣に「お金を使ってしたいこと」のイメージが湧いてくる。実際、参加者から「しばらく会っていない友達を誘って呑みに行きたい」「普段は行けない高めのエステに行きたい」「サッカーのユニフォームを購入したい」など、具体的な回答が出た。そして、ここでゲームは終了となった。

高齢者の「心」を動かし、秘めた願望を実現する支援がレクリエーションの要

開始当初は正直退屈な印象があった。しかし、現金が登場したり「お金を使ってしたいこと」を考えたりしたことで「まぁまぁ楽しかったな。もう一回戦行うなら現金を獲得してみたい」と前向きな感想を持つことができた。参加者同士が直接会話をしなくて良いこともあり、確かに初対面同士で行うレクリエーションとして好適のようだ。

しかし、このレクリエーションの目的は、初対面同士が打ち解けあうきっかけをつくること(アイスブレイク)だけではないのだという。

「このレクリエーションで特に重要なのは『お金を使って何がしたいか』を聞き取るパートにあります。たとえば、参加者の中に『しばらく会っていない友達を誘って呑みに行きたい』という回答がありました。この答えは、本音の願望である可能性があります。つまり、回答した人にとって『友達と呑みに行く』という行動が、生きる喜びと楽しみにつながるレクリエーションの本体と考えられるわけです」(藤井さん)

人間、いくつになっても「したいこと」があるのは当然のこと。しかし、高齢になると体に不調が増え、誰かの助けを借りなければ行動できないようになる。すると「迷惑をかけたくない」「(助けを求めることで)自尊心を傷つけたくない」といった理由から「したいこと」を心の底にしまい込むようになってしまう。
そんな我慢している願望を自然と引き出すきっかけをつくるのが、介護レクリエーションの大きな目的のひとつだという。

「『友達と呑みに行く』という願望がわかれば、そこから『友達と連絡を取る』『呑みに行く約束をする』『お店を決める』『出かけるために身だしなみを整える』『外出するための体力を取り戻す』といった行動を、強制ではなく自発的に促すことができます。自分のためとはいえ、目的がはっきりしないリハビリは誰でも面倒なものです。しかし、友達と呑みに行くという目的が明確にあれば、リハビリにもやりがいが出てきますよね」(藤井さん)

講師の藤井さんによれば、実際に似た事例があったそうだ。それまで外出を嫌っていた入居者に、『友達と外食をしたい』という願望があることが判明。その目的を達成するための介護プランを立てた結果、元気を取り戻したのだという。

「全体的に考えれば、ここまでを含めた流れすべてが『介護レクリエーション』ということになります。最初に行ったポチ袋を使ったゲームは、レクリエーションを実現するための入り口ともいえるわけですね」(藤井さん)

レクリエーションを提供する側も楽しめる工夫をすることが大切

簡単な遊びをすることだけが目的ではなく、遊びを通じて個人個人の「生きる喜びと楽しみ」につながる行動を探り、促すことが要になる介護レクリエーション。ポチ袋を使ったゲームの場合には「したいこと」を聞き出す以外にも、ちょっとした“工夫”があるという。

「ひとつは、ポチ袋のバリエーションですね。あえて最近流行しているアニメ柄を混ぜているのは、本来ならポチ袋を渡す相手となるお孫さんとのコミュニケーションを考えてのことです。たとえば『ワンピース』や『鬼滅の刃』といった作品のポチ袋を渡せば、それが好きなお孫さんなら『自分の好みを知っていてくれる』という好印象につながります。会話がはずみ、会いに来てくれる頻度が増えるかもしれません。また、トレンドを知ることが『現代を生きている』という感覚を得るきっかけになる可能性もありますよね。お年寄りだからといって『昔っぽい柄が好みですよね?』といった気の回し方は、必ずしも相手にとって親切になりません。こうしたことも、レクリエーションを提供する側として知っておくべきでしょう」(藤井さん)

ちなみに、ひとつのポチ袋にだけ現金を入れておいたのには、意外な理由があるのだとか。

「現金が混じることでリアルな感覚が生まれる効果もありますが、実はこれってレクリエーションを提供する側にとっての“遊び”にもなっているんです。ポチ袋を用意する側は、どれに現金が入っているかを知っているわけです。なので、誰が現金入りのポチ袋を持っているのか、それが誰に渡っていったのかという経緯を眺める楽しみが生まれます。また、現金が入っていることがわかった瞬間、参加者の皆さんがどんな顔をするんだろう? という想像も楽しいですよね。これって結構重要なことで、提供する側も一緒に楽しめるような工夫があれば、レクリエーションがより盛り上がるんです。高齢の方々を相手にするため、生真面目になってしまう介護士も多いので、こういう工夫も大切だと思います」(藤井さん)。

理屈はわかっても、やはり抜けない“お遊戯”感覚。その原因はどこに?

ジャンケンでポチ袋をやり取りするという、シンプルなレクリエーション。しかし、提供する側がこれだけたくさんの意義を持ち、工夫していたとは、まったく予想していないことだった。実際に体験をするまで、単なる“お遊戯”なんて考えていたのが恥ずかしい……という反省も確かにあるのだが。

その一方で、レクリエーションを提供される側として、完全に疑問や不安が解消されたわけではないのも、また事実。今回は意義や目的を知っているから納得して楽しめたが、講師の解説がない状態でポチ袋のゲームをすれば、やっぱり“お遊戯”っぽいと感じてしまうのではないだろうか? これは、他の介護レクリエーションでも同様では、と思えるのだが。

この点については、あらためて別ジャンルの介護レクリエーションを体験し、その上で感じた疑問を、まとめて講師にぶつけてみることにしよう。気になる方は、次の記事「嫌でも参加しなければダメ? 介護レクリエーションと付き合うコツを専門家に聞いた」もあわせてご参照願いたい。

2021/12/20

進化する介護レク、遊びだけではないその内容とは?レクリエーション介護士養成講座を取材した

今回お話を伺ったのは
一般社団法人 日本アクティブコミュニティ協会  公認講師 藤井 寿和(ふじい ひさかず)さん
一般社団法人 日本アクティブコミュニティ協会  公認講師 藤井 寿和(ふじい ひさかず)さん 静岡県西伊豆生まれ。24歳まで陸上自衛官を経験後、介護の仕事に転身。20代で医療法人の事業部統括マネージャーに就任した後、35歳で独立。スタッフや設備の優劣を問わず良好な施設運営ができる「いつでもどこでも誰でもメソッド」を軸に、年間100日を超える出張活動を全国で展開中。
石井敏郎
石井敏郎

1970年生まれ。編集者・ライター・愛犬家。

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